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怪盗シャーマナイト
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隠し部屋の中には地下通路への階段があった。ご丁寧にも置かれていたランタンを持ち上げて、シャーマナイトが灯りをつける。青い光が灯った。真っ暗な階段の先は全てを照らすことはないが、狭い通路を行くには十分でもあった。
「……地下室がありますの?」
シャーマナイトの後ろから覗き込むマーガレット。
「そうみたいだね。或いは……地下通路」
「地下通路?」
「学園の建物が、古城を改築して造られていることは知っているか?」
「そうらしいですわね」
学校の創立の歴史なんてものに書いてあった気がしなくもないが、マーガレットはあまり興味がなかった。大きな規模の建物がそんなふうに再利用されることは珍しい話でもない。
「この島には血腥い歴史がある。色々な国がこの島を狙って、城は戦火に巻き込まれ続けたという。こういう城には隠し通路が付き物だ」
「それは聞いたことがありますわ。このお城で命を落としたお姫様の幽霊が出るんですのよ」
他にも誰もいないはずの場所で灯る青白い光だとか、異次元に続く扉だとか、怪談話は豊富である。女生徒はそういう話が大好きなので、かっこいい男子の噂話や恋の話の次に盛り上がるネタである。
「――本当に居るのかも知れないね」
シャーマナイトは階段の方を示す。
「ゆ、幽霊が、ですの?」
科学の時代の人生を体験し、病棟という夜には不気味さ漂う暮らしも慣れていたメグは、結構なリアリストであった。幽霊の類は信じていないので、夜の学園も恐れず探索することができるのだ。
――だが、もしかしたらこの世界には存在するのかも知れない。
そう考えると途端に怖くなってしまう。
「ほら、これ」
シャーマナイトはランタンを持ち上げる。
「……誰もいないはずの場所で灯る青白い光。幽霊の正体だと言うんですの?」
ガスコンロのような仕組みなのかカラーキャンドルのような感じなのか、青い火の灯るランタンのようである。メグとしては、この世界の文明レベルがまだ把握出来ない。マーガレットだってそんなこと気にして生きてきていない。
「さぁ。おいでマーガレット」
白い手袋をした手が差し出される。マーガレットは迷いなくその手を取った。
***
2人は階段を下りていく。ちょうど1階分程度だろうか。さほど深い地下というわけでもなさそうだ。
基本的には一本道であったが、時折分かれ道が現れたり、階段があったり、迷路のようになる。
「貴方、先程から迷いなく進みますけれど、行先がわかっておりますの?」
マーガレットは不安になって尋ねる。既に1人では帰れないかもしれない。
「多分ね。もう校舎の下にいるはずだから」
「もうちょっと自信を持ったお返事が欲しかったですわ」
「俺は君と一緒に一生ここで迷ってしまっても構わないからね」
「相変わらず適当なこと言う男ですわね……」
「相変わらず?」
「なんでもありませんわ」
「あ、この階段を上るかな。手を」
そう言って階段を上る前に手を差し出す。それなりに育ちの良さそうな、紳士的な所作である。
マーガレットの失言はさほど気に留めない様子。何を考えているのかよくわからないのも、何かと適当なところも前と変わりないようだ。
階段を上がった先は何も無い部屋だった。いや、部屋と言うよりは隙間である。
「ここ、なんですの?」
薄暗くてよくわからない。マーガレットが壁に手をつくと、その部分がガコ、と動いた。
「ひゃ」
びっくりして手を引くと、壁が動き、そして目の前に、部屋が現れる。シャーマナイトがランタンで中を照らすと、壁に老人の肖像画がならぶ、豪華な部屋だった。
だが妙な匂いがする。マーガレットが良く見ようとすると、白い手袋の手が視界を塞いだ。だが一足遅く、その隙間から見えてしまった。
――青白い火に照らされ、ドス黒い血に塗れた、人間の姿。
「――――っ!」
マーガレットは口を押さえ、声にならない悲鳴をあげた。
「これは……もう冷たくなっているな」
シャーマナイトが屈んでそれに触れた。仰向けに倒れ、虚ろな目を見開く男の死体。腹部に刃物を突き立てられている。
「なぜですの……? どうして、ここに、彼が、こんなことに」
マーガレットは混乱してへたりと座り込む。それは見覚えのある顔であった。
船上で捕らえられ、本国に送られたはずの、副学長の変わり果てた姿。
シャーマナイトはマーガレットの姿と死体を交互に見て、チ、と軽く舌打ちをした。
「――君は、早く立ち去った方がいい。何も見なかったことにして。……立てるか?」
力の入らないマーガレットを支えるように手を添える。何とか立ち上がって、ふらつく足で促されるまま階段をおりる。
――その後はどうやって戻ったのか覚えていない。おそらく隠し通路の別ルートで女子寮まで戻ってきたのだろう。
音を立てないように自室のドアを開けると、変わらず寝ているハンナの姿が目に入った。
起こさぬように支度を整え、マーガレットもベッドに入るが、眠りにつけるわけがない。
――こんな事件は、知らない。
死ななかったはずの人物が死んだ。その恐ろしさに震えが止まらない。
(それに、あの方……)
怪盗シャーマナイト。以前の彼には感じなかった既視感が、マーガレットの頭を駆け巡って仕方がない。髪の色も、髪質もまるで違うし、仮面をつけているから顔はわからない。声色も少し違う気がするし、何より立ち振る舞いや話し方がまるで違う。
けれど、似ているのだ。マーガレットのよく知る人物に。
(でも、そんなわけないですわ。だって彼は……)
――夜の大冒険は、マーガレットの波乱の幕開けでもあった。
「……地下室がありますの?」
シャーマナイトの後ろから覗き込むマーガレット。
「そうみたいだね。或いは……地下通路」
「地下通路?」
「学園の建物が、古城を改築して造られていることは知っているか?」
「そうらしいですわね」
学校の創立の歴史なんてものに書いてあった気がしなくもないが、マーガレットはあまり興味がなかった。大きな規模の建物がそんなふうに再利用されることは珍しい話でもない。
「この島には血腥い歴史がある。色々な国がこの島を狙って、城は戦火に巻き込まれ続けたという。こういう城には隠し通路が付き物だ」
「それは聞いたことがありますわ。このお城で命を落としたお姫様の幽霊が出るんですのよ」
他にも誰もいないはずの場所で灯る青白い光だとか、異次元に続く扉だとか、怪談話は豊富である。女生徒はそういう話が大好きなので、かっこいい男子の噂話や恋の話の次に盛り上がるネタである。
「――本当に居るのかも知れないね」
シャーマナイトは階段の方を示す。
「ゆ、幽霊が、ですの?」
科学の時代の人生を体験し、病棟という夜には不気味さ漂う暮らしも慣れていたメグは、結構なリアリストであった。幽霊の類は信じていないので、夜の学園も恐れず探索することができるのだ。
――だが、もしかしたらこの世界には存在するのかも知れない。
そう考えると途端に怖くなってしまう。
「ほら、これ」
シャーマナイトはランタンを持ち上げる。
「……誰もいないはずの場所で灯る青白い光。幽霊の正体だと言うんですの?」
ガスコンロのような仕組みなのかカラーキャンドルのような感じなのか、青い火の灯るランタンのようである。メグとしては、この世界の文明レベルがまだ把握出来ない。マーガレットだってそんなこと気にして生きてきていない。
「さぁ。おいでマーガレット」
白い手袋をした手が差し出される。マーガレットは迷いなくその手を取った。
***
2人は階段を下りていく。ちょうど1階分程度だろうか。さほど深い地下というわけでもなさそうだ。
基本的には一本道であったが、時折分かれ道が現れたり、階段があったり、迷路のようになる。
「貴方、先程から迷いなく進みますけれど、行先がわかっておりますの?」
マーガレットは不安になって尋ねる。既に1人では帰れないかもしれない。
「多分ね。もう校舎の下にいるはずだから」
「もうちょっと自信を持ったお返事が欲しかったですわ」
「俺は君と一緒に一生ここで迷ってしまっても構わないからね」
「相変わらず適当なこと言う男ですわね……」
「相変わらず?」
「なんでもありませんわ」
「あ、この階段を上るかな。手を」
そう言って階段を上る前に手を差し出す。それなりに育ちの良さそうな、紳士的な所作である。
マーガレットの失言はさほど気に留めない様子。何を考えているのかよくわからないのも、何かと適当なところも前と変わりないようだ。
階段を上がった先は何も無い部屋だった。いや、部屋と言うよりは隙間である。
「ここ、なんですの?」
薄暗くてよくわからない。マーガレットが壁に手をつくと、その部分がガコ、と動いた。
「ひゃ」
びっくりして手を引くと、壁が動き、そして目の前に、部屋が現れる。シャーマナイトがランタンで中を照らすと、壁に老人の肖像画がならぶ、豪華な部屋だった。
だが妙な匂いがする。マーガレットが良く見ようとすると、白い手袋の手が視界を塞いだ。だが一足遅く、その隙間から見えてしまった。
――青白い火に照らされ、ドス黒い血に塗れた、人間の姿。
「――――っ!」
マーガレットは口を押さえ、声にならない悲鳴をあげた。
「これは……もう冷たくなっているな」
シャーマナイトが屈んでそれに触れた。仰向けに倒れ、虚ろな目を見開く男の死体。腹部に刃物を突き立てられている。
「なぜですの……? どうして、ここに、彼が、こんなことに」
マーガレットは混乱してへたりと座り込む。それは見覚えのある顔であった。
船上で捕らえられ、本国に送られたはずの、副学長の変わり果てた姿。
シャーマナイトはマーガレットの姿と死体を交互に見て、チ、と軽く舌打ちをした。
「――君は、早く立ち去った方がいい。何も見なかったことにして。……立てるか?」
力の入らないマーガレットを支えるように手を添える。何とか立ち上がって、ふらつく足で促されるまま階段をおりる。
――その後はどうやって戻ったのか覚えていない。おそらく隠し通路の別ルートで女子寮まで戻ってきたのだろう。
音を立てないように自室のドアを開けると、変わらず寝ているハンナの姿が目に入った。
起こさぬように支度を整え、マーガレットもベッドに入るが、眠りにつけるわけがない。
――こんな事件は、知らない。
死ななかったはずの人物が死んだ。その恐ろしさに震えが止まらない。
(それに、あの方……)
怪盗シャーマナイト。以前の彼には感じなかった既視感が、マーガレットの頭を駆け巡って仕方がない。髪の色も、髪質もまるで違うし、仮面をつけているから顔はわからない。声色も少し違う気がするし、何より立ち振る舞いや話し方がまるで違う。
けれど、似ているのだ。マーガレットのよく知る人物に。
(でも、そんなわけないですわ。だって彼は……)
――夜の大冒険は、マーガレットの波乱の幕開けでもあった。
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