探偵令嬢の華麗なる再始動〈リスタート〉

無軸キリ

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怪盗シャーマナイト

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「……マーガレット様? 授業、終わりましたよ」

「え? ……あぁハンナ。そうね、ボーッとしてましたわ」

 一先ず混乱が片付いたのか、授業は再開された。しかしマーガレットはずっと上の空であった。あの後ギルバートはどこか不機嫌なまま、それでも魔女の文献を調べるのを手伝ってくれた。結局学園の図書館では大した情報は得られずじまいであったので、そのまま解散となった。

「あんな事があったんですもの。心配ですよね……」

「そうね。それはその通りなんですけれども……」

「他にも心配事があるんですか? 私、相談に乗りますよ」

 ニコリとハンナは笑う。こんな状況でも他人に気を遣える本当に良い子である。悩み事のひとつはハンナのことでもあるけれど、こんな顔をされたら切り出せない。

「ギルバート様のことですか? その。舞踏会のことは……ごめんなさい」

「何を謝るんですの? むしろハンナは勝手にパートナーを決められた被害者ですわよ」

「いえ! 私なんてその申し出がなければ相手がいなかったでしょうし」

「そうかしら? ハンナは可愛いもの。密かに狙っている男はきっとたくさんいますわよ」

「そんなわけないですよ」

 あっさりハンナは否定するが、ハンナへ熱の篭った視線を向ける男子たちを、マーガレットは知っている。こんな子がモテないわけがないのだ。

「わたくしが男子でしたら、ハンナに申し込みますもの。ギルは幸せ者ですわ。役得ですわよ」

「ふふ。マーガレット様と踊るのはとても楽しそう」

「なぁに? 舞踏会のお話ですかしら?」

 妙に色気のある声が、会話に加わる。アマンダ・アップルガース男爵令嬢だ。コケティッシュな魅力のあるクラスメイトで、マーガレットとハンナの友達である。

「マーガレット様はやっぱり、王子殿下と踊られるんですよね!」

 威勢の良い声で混ざってきたのはルシア・ラザフォード辺境伯令嬢。豪胆でサバサバした所のあるクラスメイト。

 やはりマーガレットとハンナの友達である。

 マーガレットは今生、平民であるハンナと、貧乏男爵家のギルバートと言った人物と行動を共にすることが多い。故に高位の身でありながら身分を気にしないと思われているようだ。

 身分を気にする者の中には以前よりも距離を置かれている気がするが、代わりにこう言った奔放なタイプの友人ができた。以前は互いに快く思っていなかった人物であったが、仲良くなってみると中々面白い。

 アマンダは男爵家ながらに商才のある父の元で育ち、位の高い貴族家よりもむしろ裕福な暮らしをしている。その家風ゆえか、血筋よりも才能を尊び、自由恋愛を推奨しているらしい。

 ルシアの方は、何かと隣接した国といさかいの起こりやすい辺境を任されている家で育っているせいか、女ながらに戦闘的な剣やら馬術を嗜み、豪胆な娘である。やはりその家風では強き男を求めているのだとか。

 以前のマーガレットは、アマンダのような娘のことははしたない女と軽蔑していたし、ルシアの方もガサツで淑女らしからぬと軽んじていた。

 だが仲良くなってみて、そして日本の平民としての生き方を体験してみて、それは大きな間違いだと気づく。

 家風に沿った男を求めているものの、彼女らはかなり自由であり、そして恋愛偏差値が高い、尊敬すべき友人たちであると。

「あらまぁ~、ハンナちゃんったらギルバート君がパートナーになったのねぇ」

 頬に手を当てて、にんまりと笑うアマンダ。

「へぇ。ふたりがそういう関係になっていたのは意外だねぇ」

 ルシアの方も興味津々である。

「違います! ちょっと事情がありまして……詳しくは、言えないんですが」

「そうなの? でもチャンスじゃないかな! 彼は気迫にかけるけどなかなか強い」

「でもぉ、マーガレット様はそれでよろしくって?」

「なんですの? わたくしは別に……」 

「だってぇ、ギルバート君って、マーガレット様の愛人候補でしょお?」

 鼻にかかった様な声でそう言いながら、アマンダはすりすりと、マーガレットの髪の先を弄ぶ。

「なっ! 何を言いますの!? そんな、破廉恥な」

「あらぁ? 将来は王妃ですもの。愛人のひとりやふたり、今から見繕ってもよろしいと思いますわよ?」

「そんなこと……!」

「こらこらアマンダ、マーガレット様をからかい過ぎだよ」

 真っ赤になってしまったマーガレットからアマンダを引き剥がしながら、ルシアが助けに入る。しかし、マーガレットがほっとしたのもつかの間、ルシアはマーガレットの近くにイスを寄せ、座り込む。

「でも、そろそろ聞いてみたいと思ってたんですよね。マーガレット様、実際はどうなんですか? 貴女の心にあるのはどちらの殿方なのか。アレクサンダー殿下か、ギルバートか」

「どちらって……そういうのは」

「ご安心なさって。絶対に人には言わないわ。殿下のお耳に入ったら、スキャンダルになりますものね」

 ルシアと反対側に、アマンダが回り込む。この2人は奔放なところはあるが、立場はわきまえている。安易に噂話を吹聴したりはしないだろう。そういう部分では信用はしているのだが、だからと言ってすぐ答えられるものではない。

「ハンナ、助けて」

 マーガレットは懇願するが、ハンナは困った顔で、しかし目をキラキラさせて、

「マーガレット様ごめんなさい。私も知りたいです!」無慈悲にもそう言った。

 女子の恋バナの的にされたら、そう逃げられるものではないのだ。

「さぁ、遠慮なくお答えになって。貴女の想うお方は、どなたなのかしら?」

「そ、そんなの……」

 ギルバートに決まっている。口に出したことはないが、多分ずっと前からそうなのだ。アレクサンダーがハンナのものだと思わなくとも、きっとそれは、変わらないのだ。

「ハンナとギルがパートナーなのは、嫌ではありませんのよ。でも、こう、少しだけ……胸が痛みますの」

「それは、恋ですわねぇ」

「恋だね」

「ですね!」

 3人とも頷きながら、興味津々に聞いている。マーガレットは恥ずかしくなって、俯いてスカートの裾をいじるしかない。

「想い合う2人に立ちはだかる婚約者は国の王子……ロマンチックですわねぇ」

 ほう、と息を吐きながらうっとりするアマンダ。

「そんなんじゃありませんわよ。政略結婚ですし、正式に婚約もしておりませんし、殿下の方も特にそういうお気持ちはないと思いますわ。それに、ギルだって……」

 マーガレットは言い淀んだ。あの時――ノアを牽制して以来、そんな素振りは見せては来ない。やはり追い払うための効率的な方弁だったに過ぎないのではないか。しかしそれならば、きちんと否定しないのはなぜなのか。考え出すとキリがないので意図的に放置している問題だ。

「ギルが何を考えているのかよくわかりませんのよ。特に、近頃は……」

「マーガレット様のことしか考えていないように見えますよ?」

 ハンナがニコニコしながら、事もなげに言う。

「なぁんだ。やっぱりそうなの? 惚気るわねぇ」

「ち、違いますわよ! そう見えるのはきっと、わたくしの家が、ギルの学費を援助しているからであって」

「へぇ。お父上公認という訳ですね! やるなぁ彼」

「いえそれは、むしろわたくしが我儘を言って無理やりと言いますか」

「あら! やっぱり愛人候補ですわね?」

「あぁ、もう! からかわないでくださいまし!」

 ギルバートを無理やり連れてきた理由が言えないものだから、このやり手2人に良いようにからかわれるマーガレット。ハンナすら微笑ましく眺めているのだから分が悪い。

「とにかく、わたくしの我儘によって学園に通えていることに、あれでわたくしに忠義を感じているのだと思いますわ」

「あぁ。なんだか確かに、吠えない忠犬って感じがしますね!」

 ルシアが納得したように手を打つ。

  吠えない忠犬。マーガレットはその言葉を反芻し、思わず吹き出す。

「言い得て妙ですわね……!」

 ついつい灰色でボサボサの犬の姿を想像する。彼にもシッポがあれば、もっと分かりやすいのにと思わずにいられないマーガレットであった。


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