探偵令嬢の華麗なる再始動〈リスタート〉

無軸キリ

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怪盗シャーマナイト

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 あの事件から数日。

 授業中もその後も、マーガレットは上の空になることが多くなった。

 怪盗に再び会えるだろうか。そればかり考えてしまう。

 彼はおそらく、この学園の生徒だ。明らかに若い男であったのは間違いない。生徒の間で噂されている、怪談話の内容まで知っていたのだから。

 彼は満月の夜に現れるが、それ以外の夜も姿を見せないわけじゃない。街で義賊のような活動をしていて、むしろそれが目的のようだった。

 既に今回も、一度彼が現れたとの噂話を耳にした。どこかの商会が狙われたが未遂に終わったとか何とか。前回よりは派手な活動は今のところないようだ。

(会わなくちゃ、彼に)

 会えるかは分からないけど、ここで悩んでいても会えないのだ。まずは会って話をしなければ。彼の狙いも何も分からない。マーガレットは、再び寮を抜け出す準備をしていた。こんな時のため、変装のための町娘の服も買ってあるのだ。

 けれど学園から夜抜け出すのは簡単ではなかった。元々難しいところを、事件が起きて更に厳戒態勢になっているのだ。

 せめて隠し通路をもう少し調べられればと、マーガレットは考える。城の隠し通路であったのならば、外に出られる道があるはずだ。

(可能性が高いのは王族の寝室よね、というかそこに無かったら隠し通路の意味は無いし……問題は元々寝室だった場所はどこかって話で……。一般生徒が出入りできる場所なのかしら? もし教員専用のエリアだったりしたら……)

「マーガレット?」

 とんでもなくキラキラした綺麗な顔が、目の前にあった。アレクサンダーがいつの間にかマーガレットの顔を覗き込んでいたのである。

 思わず、ガタリと音を立てて仰け反ってしまう。

「……その反応は割と傷つくなぁ」

 眉を下げるアレクサンダー。周りの黄色い声が届かないほど考えに没頭していたマーガレットは不意打ちの美形につい顔が赤くなる。

 アレクサンダーの後方ではギルバートが笑いをこらえるように口元に手をやっていた。

 ノアが近づいた時は警戒して怒ってくれたのに、相手がアレクサンダーともなるとこれである。

 それどころか、ハンナやアマンダ達までが愉快そうにこちらを眺めている始末である。

「て、適切な距離を保っていただかないと! 心臓に悪いんですから、殿下のお顔は!」

「そうか。それは失礼した」

 アレクサンダーは満足したように、にこやかな笑みを見せる。その顔もキラキラしていて、前の時間軸のマーガレットならば、それはそれは誇らしく受け入れただろうが、今のマーガレットはそれどころでは無いのだ。

「そ、それで。わざわざ女子クラスまでなんの御用ですの?」

 仕切り直すように後ろ髪をかきあげながら、マーガレットは照れを取り繕った。腹が立つのでギルバートの方は見ないことにする。

「借り切った部屋があるから、ダンスの練習でもどうかと思ってね。僕や君はともかく、ハンナは不慣れだろう?」

「あぁ。それは……有難いですわね」

 提案に、素直に頷くマーガレット。ダンスについてはハンナも心配をしていたので、マーガレットが男性パートを覚えて教えてあげるべきかなどと考えているところだった。

 正直、ギルバートもリードできるほどダンスが上手いイメージがないのだ。少なくともマーガレットは見たことがない。

「ハンナを壁の花になんてしておいたら、たくさんの殿方に誘われてしまいますもの。ギルも頑張らなくてはいけないわ」

「壁の花の方が守りやすくて楽なんですが」

「私もその方が気が楽です」

 妙なところで息がピッタリの2人である。

「ハンナはともかく……ギルは論外よ。貴方、女の子に恥をかかせるつもりなの?」

「……わかってますよ。言ってみただけです」

 ギルバートは大層面倒そうにそっぽを向いた。

「ギルバート様は、マーガレット様と踊りたいのではなくって? 拗ねてらっしゃるように見えるわ」

 アマンダがマーガレットにこそりと耳打ちする。

「それはあり得ませんわ。ギルはダンスが嫌いなだけですのよ」

「何をコソコソ話してるんだ? 時間は限られているんだ。行くぞ」

 アレクサンダーが呆れたように言った。


***


 アレクサンダーに案内された部屋は三階の中央部で、かなりの広さがあった。バルコニーから中庭も眺められる。

「この部屋って……」

 目立つ位置にはピアノが置かれ、端の方に小ぶりなテーブルなどが置かれているだけで、寝台があるわけではない。しかし、壁紙や天井の模様や装飾は見事だし、この部屋は明らかに特別製である。

 そう、王族が暮らす部屋に丁度良い立地なのである。

 入口付近にはライナスが控え、他にも何人かの従者がバルコニー付近やらテーブル付近についている。ピアノの奏者も既に準備万端である。さすが一国の王太子と言ったところか。

「元は王妃が使っていた部屋らしいよ」

 アレクサンダーの答えに、マーガレットは内心ガッツポーズをした。探していた部屋が舞い込んでくるなんて、これはもう運命ではあるまいか。ダンスの練習をしながら、隠し通路へのギミックを探すことが出来るのだ。

「やる気が出てきましたわ! 殿下、踊りましょう。ワルツが良いわ!」

 マーガレットは嬉しくなってアレクサンダーに手を差し出す。アレクサンダーの方も笑って手を取った。

「良いよ。ハンナ達はまずは見ててくれ」

 流れるようにダンスが始まる。曲がりなりにも公爵令嬢のマーガレットは、それなりにダンスが得意である。王太子の腕前は更に上を行くので、なかなかキレの良いダンスを披露する。

「マーガレット様、素敵ですね……!」

 ハンナが両手を組んですっかり見とれている。

「ルークラフトのお嬢様ですからね」

 ギルバートは目を細めた。

「殿下! 次はハンナと踊って頂戴な」

「そうだな。おいで、ハンナ」

 曲が終わると、そのままパートナーの交換を促す。アレクサンダーは優しくハンナの方へ手を差し出す。おずおずと手を取ったハンナは、手とり足とり、アレクサンダーとマーガレットにステップを習うことになる。

「ハンナ、君はなかなか筋がいいな」

 合わせるのも上手いアレクサンダーのお陰もあってか、ハンナは少しずつコツをつかんできた様子。それを見て今度はギルバートに向き直るマーガレット。

「ギルも、踊るわよ」

「はいはい」

 面倒臭そうにマーガレットの手を取るギルバート。ハンナ程の初心者ではないせいか、少しは形になるようだ。

「何よ。ハンナをリードするくらいはできそうじゃない」

「まぁ、簡単な曲なら少しは」

「まぁいいわ。次はハンナと踊れるかしらね」

 ちら、とアレクサンダーとハンナを見ると、それなりに踊れている様子。やっぱりお似合いだわ、とつい笑みが漏れる。余裕のあるアレクサンダーと一生懸命なハンナは物語の一幕のよう。

「……お嬢様」

 ギルバートが突然ぐい、とマーガレットを引き寄せる。

「ふぇ。な、何よ急に」

「さっきから余所見が多いですが、何か企んでます?」

「別に。殿下とハンナがお似合いだと眺めていただけよ……」

「それだけとは思えませんね。目線が部屋の端に行くので」

「すっ……素敵なお部屋だと思って……」

 ギルバートは妙に感が良い。マーガレットの下手な言い訳に、思い切り疑いの目を向けていた。隠し通路を探していることは秘密にしたいマーガレットは、何とか誤魔化したかった。

 やがて曲の終わりに助けられたので、すかさずギルバートから離れる。

「マーガレット、少し休憩しないか?」

 ギルバートとハンナを組ませると、アレクサンダーが小さなテーブルを指し示す。王太子付きの従者がティータイムの準備をしていた。

「ずっと君と、ゆっくり話がしたかったんだ。入学してから何かと慌ただしかったし……」

「そうね、事件ばかりで落ち着く暇もないわ」

 「本当にね」

 苦笑しながら二人で席に着く。

 とは言え、少なくとも今回の事件が起きなかった時間軸に、アレクサンダーとゆっくり話した覚えもない。前回の彼は既にハンナばかりを気にかけていて、マーガレットは大いに嫉妬したものだった。

「ハンナ、可愛いでしょう?」

 マーガレットは踊るハンナに目を向けて、アレクサンダーに言う。今回は嫉妬心の欠片もない。

「そうだね。可憐な見た目の割に芯が強くて、素敵な子だと思うよ」

「そうでしょう? 心優しいし、頭もいいし、とっても癒されますのよ……あの子……」

「だろうね」

 興奮気味に推すマーガレットに、ニコニコと笑顔を向けるアレクサンダー。

「君の次に、魅力的な子だよ」

「……え?」

「忘れてないよね? 僕は、君に婚約を申し込んでいるんだけど」

 吸い込まれるような青い瞳に見つめられて、マーガレットの心臓は高鳴ってしまった。


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