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シャンデリアと舞踏会
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「明日については、万策尽きたわね。……そろそろ、事情を話すべきかしら。そうしたら舞踏会も中止にできたかもしれないし……」
「事情って、つまりお嬢様の転生ってやつですか」
「どうしたって巻き込まれるハンナには話してもいいかもって思わないでもないのよ。相談できる相手は多い方が良いし」
ギルバートも流石にハンナを信用してはいるだろう。そう思っての提案であったが、当の本人は難色を示す。
「うーん……俺は反対ですね。まずハンナさんに関しては、本人の意思があまり読めないところと、彼女の力の周りに取り巻く人間が気になります。後見人の司祭がアレだった以上、他にも何かしらあるでしょう」
「それって、ハンナの身が常に危なくない?」
「逆に利用されているうちは安全と言えるのでは」
「冷たい奴ね、貴方」
「でも、ハンナさんって隠し事が上手くなさそうじゃないですか。俺が代償のことを聞いてみた時は、明らかな動揺をしてましたし。秘密を知っていると何か周りに悟られるかも。あとは善良そうなので、騙されやすそうですね」
褒めているのか貶しているのか、結構辛辣なことも言う。もっともギルバートの場合、ここまで言う方が逆に好意的に見ていると言っていい。
「確かに、それだと余計にハンナが危険になるのかもね……」
「利点と欠点を考慮して、それでも話したいなら止めません。話せばお嬢様の心も少し軽くなるかと」
「……考えておくわ」
「俺としては、話すなら王太子殿下かと思います」
「……うん、それも考えない訳では無いけれど」
「迷う事ありますかね? 王太子殿下なら、今のお嬢様が言うことは信じると思います。それに、隠し事は恐らく俺やお嬢様よりも上手くやれるでしょう。さらに言えば、あの権力はかなり役に立ちます」
「アレクを利用しろっていうの?」
「そうです」
「これ以上、アレクと距離を詰めたくないのですけれど……」
「まだ王子とハンナさんをくっつけようとしてるんですか。始まってない他人の恋路に構ってる場合ですかね」
ギルバートが呆れたように言う。半分図星をつかれて、狼狽えるマーガレット。
「うっ。……それだけではないわ。外堀が埋められそうで嫌なのよ」
「お嬢様は、王家に嫁ぐのが嫌なんですか?」
「それも少し嫌ですけれど……」
「なんです? 王太子殿下に信用できない部分があったりしますかね」
「今は、ないけれど……」
「だったら」
「怖いのよ」
ギルバートの言葉を遮って、マーガレットが捲し立てる。
「アレクは優しくて良い人よ。でも、いざと言う時は人を切り捨てる非情さがありますの。国王となるべく育てられている立場ですもの、当然よね。真面目なアレクは自分の感情を優先させることは絶対にありませんわ。……別の人生を経験してきたなんて、それこそ魔女みたいな話でしょう? たしかに今、彼との関係は良好なものですけれど、この先、わたくしが疑われるような事件がまた起きたとして……本当に、掛け値なしで信じてくれるかしら? 状況証拠の全てが、わたくしを犯人だと示していても?」
「それは、」
「ギルなら」
再びギルバートの言葉を遮る。
「貴方なら、どれだけ疑わしくても、絶対にわたくしを信じてくれるわ。ギルだけなの。安心して信じられるのは。これは本当よ」
もちろん前世で信じてくれた怪盗も信頼はしている。けれど彼自身のことは素性すら知らない。マーガレットが一番信じられるのは、やはりギルバートなのである。
「お嬢様は……」
言いかけてから黙り込むギルバート。
「何よ?」
「いえ、なんでもありません」
「言いかけたなら言いなさいよ」
「いや……なんと言ったらいいか」
ギルバートは困ったように頭をかいた。
彼のよくする仕草であるが怪盗はしない。
「煮え切らないわね」
「俺は死んだことがないので、お嬢様の苦しみを理解するのは難しいですが」
「当たり前よ。ギルを死なせるものですか」
「……やっぱりちょっと、言語化するのが難しいです」
ギルバートは考え込む時、口元に手を持っていく。彼はよく考え込むので、何度も見た仕草である。
指の位置、角度、その形全てがやはり彼と同じだ。似ているのではなく、同じなのである。
「……何よそれ」
マーガレットはギルバートの前髪に手を伸ばす。少しゴワゴワした、濃い灰色のくせっ毛。昔から変わらない髪質である。この髪を真っ直ぐにして、色を抜くのは立花メグのいた世界でも、美容院に行かないと無理だろう。頻繁に変えるなど以ての外である。
そのまま少しかき分けて、目の周りの皮膚に触れる。やはり触れても、綺麗なものだ。しかし。
「……何してるんですかね、これ」
ギルバートは拒否はしないが不可解そうに眉をひそめた。
「貴方、特殊メイクとか出来たりするのかしら?」
「は? 何ですそれ?」
「さすがに無理があるわよね……」
マーガレットは怪盗の火傷にも少し触らせてもらったことがある。特殊メイクに詳しい訳では無いが、あれが偽物だとは思えなかった。
「ギル。貴方わたくしに、隠し事はない?」
「ありますよ」
「あるの!?」
なんの躊躇いもない即答である。
「お嬢様にだってあるでしょう。何も無い方が変ですよ」
「そ、それは……。でもとても気になるわ。ギルの分際で、私に隠し事なんて生意気よ」
「でも、言えないから隠し事なので」
「うぅ……いつか暴いてやるわ」
「それは勘弁して欲しいですね」
ギルバートの隠し事は大いに不満だが、それを暴くのは少し楽しみに感じる探偵マーガレットであった。
「事情って、つまりお嬢様の転生ってやつですか」
「どうしたって巻き込まれるハンナには話してもいいかもって思わないでもないのよ。相談できる相手は多い方が良いし」
ギルバートも流石にハンナを信用してはいるだろう。そう思っての提案であったが、当の本人は難色を示す。
「うーん……俺は反対ですね。まずハンナさんに関しては、本人の意思があまり読めないところと、彼女の力の周りに取り巻く人間が気になります。後見人の司祭がアレだった以上、他にも何かしらあるでしょう」
「それって、ハンナの身が常に危なくない?」
「逆に利用されているうちは安全と言えるのでは」
「冷たい奴ね、貴方」
「でも、ハンナさんって隠し事が上手くなさそうじゃないですか。俺が代償のことを聞いてみた時は、明らかな動揺をしてましたし。秘密を知っていると何か周りに悟られるかも。あとは善良そうなので、騙されやすそうですね」
褒めているのか貶しているのか、結構辛辣なことも言う。もっともギルバートの場合、ここまで言う方が逆に好意的に見ていると言っていい。
「確かに、それだと余計にハンナが危険になるのかもね……」
「利点と欠点を考慮して、それでも話したいなら止めません。話せばお嬢様の心も少し軽くなるかと」
「……考えておくわ」
「俺としては、話すなら王太子殿下かと思います」
「……うん、それも考えない訳では無いけれど」
「迷う事ありますかね? 王太子殿下なら、今のお嬢様が言うことは信じると思います。それに、隠し事は恐らく俺やお嬢様よりも上手くやれるでしょう。さらに言えば、あの権力はかなり役に立ちます」
「アレクを利用しろっていうの?」
「そうです」
「これ以上、アレクと距離を詰めたくないのですけれど……」
「まだ王子とハンナさんをくっつけようとしてるんですか。始まってない他人の恋路に構ってる場合ですかね」
ギルバートが呆れたように言う。半分図星をつかれて、狼狽えるマーガレット。
「うっ。……それだけではないわ。外堀が埋められそうで嫌なのよ」
「お嬢様は、王家に嫁ぐのが嫌なんですか?」
「それも少し嫌ですけれど……」
「なんです? 王太子殿下に信用できない部分があったりしますかね」
「今は、ないけれど……」
「だったら」
「怖いのよ」
ギルバートの言葉を遮って、マーガレットが捲し立てる。
「アレクは優しくて良い人よ。でも、いざと言う時は人を切り捨てる非情さがありますの。国王となるべく育てられている立場ですもの、当然よね。真面目なアレクは自分の感情を優先させることは絶対にありませんわ。……別の人生を経験してきたなんて、それこそ魔女みたいな話でしょう? たしかに今、彼との関係は良好なものですけれど、この先、わたくしが疑われるような事件がまた起きたとして……本当に、掛け値なしで信じてくれるかしら? 状況証拠の全てが、わたくしを犯人だと示していても?」
「それは、」
「ギルなら」
再びギルバートの言葉を遮る。
「貴方なら、どれだけ疑わしくても、絶対にわたくしを信じてくれるわ。ギルだけなの。安心して信じられるのは。これは本当よ」
もちろん前世で信じてくれた怪盗も信頼はしている。けれど彼自身のことは素性すら知らない。マーガレットが一番信じられるのは、やはりギルバートなのである。
「お嬢様は……」
言いかけてから黙り込むギルバート。
「何よ?」
「いえ、なんでもありません」
「言いかけたなら言いなさいよ」
「いや……なんと言ったらいいか」
ギルバートは困ったように頭をかいた。
彼のよくする仕草であるが怪盗はしない。
「煮え切らないわね」
「俺は死んだことがないので、お嬢様の苦しみを理解するのは難しいですが」
「当たり前よ。ギルを死なせるものですか」
「……やっぱりちょっと、言語化するのが難しいです」
ギルバートは考え込む時、口元に手を持っていく。彼はよく考え込むので、何度も見た仕草である。
指の位置、角度、その形全てがやはり彼と同じだ。似ているのではなく、同じなのである。
「……何よそれ」
マーガレットはギルバートの前髪に手を伸ばす。少しゴワゴワした、濃い灰色のくせっ毛。昔から変わらない髪質である。この髪を真っ直ぐにして、色を抜くのは立花メグのいた世界でも、美容院に行かないと無理だろう。頻繁に変えるなど以ての外である。
そのまま少しかき分けて、目の周りの皮膚に触れる。やはり触れても、綺麗なものだ。しかし。
「……何してるんですかね、これ」
ギルバートは拒否はしないが不可解そうに眉をひそめた。
「貴方、特殊メイクとか出来たりするのかしら?」
「は? 何ですそれ?」
「さすがに無理があるわよね……」
マーガレットは怪盗の火傷にも少し触らせてもらったことがある。特殊メイクに詳しい訳では無いが、あれが偽物だとは思えなかった。
「ギル。貴方わたくしに、隠し事はない?」
「ありますよ」
「あるの!?」
なんの躊躇いもない即答である。
「お嬢様にだってあるでしょう。何も無い方が変ですよ」
「そ、それは……。でもとても気になるわ。ギルの分際で、私に隠し事なんて生意気よ」
「でも、言えないから隠し事なので」
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ギルバートの隠し事は大いに不満だが、それを暴くのは少し楽しみに感じる探偵マーガレットであった。
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