探偵令嬢の華麗なる再始動〈リスタート〉

無軸キリ

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 結局のところ、あとはギルバートの証言、それから火薬の調査結果がないとこれ以上は何も分からないということで、その場は終わることになった。

 だがアレクサンダーがマーガレットに話があるということで、ライナスとハンナに席を外してもらった。

 2人きりにされたので、途端にマーガレットは気まずくなる。舞踏会が無事終わったら、婚約を申し込むと言っていたことを思い出したのだ。

「まず、舞踏会は無事に終わらなかったから、あの話は残念ながら延期だな」

「そ、そうよね……」

「まぁ今の君から良い返事が貰えるとも思わなかったけど」

 頬杖をついて、半目で口の端だけ上げながら見つめてくるアレクサンダー。色気はもの凄いが、やはり気まずい。

「この際だから、単刀直入に聞こうか」

「な、なんですの?」

 眼光鋭く、真剣な目線を向けられて戸惑うマーガレット。

「やはり君は、ギルと恋仲なのか?」

「えっ! ……ち、違いますわ!」

 思わずブンブンと首を振る。顔を真っ赤にしながら。

「けど、ああも“わたくしのギル”を強調されるとね……」

「あ……あれは、勢いで。アレクだって、ライナス様が見下されたら、言ってやりたくもなるでしょう?」

「分からなくも無いが……」

「僕のライナスを舐めるな。と、思ったことは一度もないのかしら?」

「いや……あるな。何度思ったか分からないくらい。ある」

 アレクサンダーは考え込んでから、澱みなく頷く。

「でしょう? アレクとわたくしは、従者に恵まれておりますの。これを共有できる相手は、中々おりませんわよ?」

 思わず互いに笑い合う。

 アレクサンダーとこうして腹を割った話をするのは、前世も含めて初めてかもしれないとマーガレットは思う。

「あー……いや、でも、しかしだな」

 コホン、と咳払いをひとつして、アレクサンダーは仕切り直す。些か言い難そうに。

「……ギルと夜中に、会っているのだろう? 頻繁に」

「えっ……なぜそんな話に!?」

 マーガレットは驚いて顔をひきつらせた。度々寮を抜け出しているのがバレているのか。まさかあの、借りた鍵の部屋から見られでもしていたのか。

 最も、会っている相手は違うけれども。

「ほら慌てているじゃないか。ギルが毎晩のように寮を抜け出しているのはわかっているんだよ」

「…………ギルが?」

「まさか、本当に知らないのか……?」

 ポカンと口を開けるマーガレットを見て、しまったとばかりに口を押さえるアレクサンダー。

「……てっきり、君に関係しているとばかり。すまない。告げ口のようになってしまった。忘れてくれ……と、言うのも無理があるが……」

 一生の不覚、とばかりに声が沈んでいくアレクサンダー。公正な彼は、本人のいないところでの失言をかなり恥じているのだ。ゴリ押しで無理やり聞き出したマーガレットとは正反対である。

「さっきも言いましたけれど、ギルは昔から夜が苦手なんですの。ですから、にわかには信じられませんわ」

「それは俺もおかしいと思ったが、君の誤魔化しかとばかり」

「あっ。何よ。わたくしのこと、やっぱり信じてないじゃない!」

「うっ。……いや、そういうわけでは」

 マーガレットがアレクサンダーの鼻先に指を突きつける。さすがの王太子もタジタジである。

「……なんてね。うふふ。その顔に免じて許してあげますわ」

 マーガレットは満足気に笑った。アレクサンダーは呆気に取られた顔をしてから、すぐに少年のような顔で笑った。とても嬉しそうに。

 それはそれは破壊力抜群の笑顔である。

「やっと、その顔を僕にも向けてくれたな」

「へっ? どういう事ですの?」

「君は、僕に対して壁を作っている気がしてね。なにか嫌われているのだろうかと、不安になっていたんだ」

 マーガレットはギクリ、と心臓が痛くなった。やはり気づかれていたのか。

「ほかの友人たちよりも一歩引かれている感じがして、結構寂しかったんだ。僕は君のことを……その、とても、好ましく思っていたし、仲良くなりたかったからね。身分のことや、婚約のこともあるからある程度弁えるのは仕方がないと自分に言い聞かせていたんだけど、それでもね」

「わたくしは、貴方をずっと……傷つけていたかしら」

「いや。情けないところを見せた。すまない」

「違うの。謝らなくてはいけないのは、わたくしなんですの。貴方はずっと正しかっただけ。わたくしが人を顧みず、わがままで、何一つ信用に値するようなことをしてこなかった癖して、信じて貰えなかったと逆恨みをして、勝手に貴方を怖がったりして」

「メグ? 一体何の話だ?」

「それなのに、貴方を信じなかったのはわたくしの方なのに。アレクはわたくしを、信じてると言ってくれましたわね。わたくしね、びっくりしましたの。あの一言だけで。あんなに単純に。嬉しくて。貴方のあの言葉が、ずっと欲しかったのね、こんなにも」

 溢れ出る感情をそのまま言葉に乗せたせいで、アレクサンダーからすればかなり支離滅裂なことを言っているだろう。

 いつの間にかボロボロと涙も流れて、自分の為に慌てるアレクサンダーの綺麗な顔も霞んでいた。

「アレク。ごめんね。ごめんなさい。……わたくしの話、聞いてくださる? とっても荒唐無稽で、滑稽なお話なんですけれど」

「うん。もちろん聞くよ。だからもう、泣かないで。謝らなくていいから」

 アレクサンダーがマーガレットの涙の一雫を、指先ですくい取る。

「ありがとう。少し長くなるし、貴方には辛いこともあるお話ですの。覚悟して聞いてくださいね」

 マーガレットはようやく、この世で2人目の秘密の共有相手を見つけたのだった。
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