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「と、言うわけで。改めてあの時起こったことについて、お話がしたいんですの」
アレクサンダーを含めて、ダンスの練習部屋に籠る3人。ライナスはドアの外で待機している。
「ナタリー姫のご遺体は、既に本国に送られたそうだ。正直調べたいこともあったが、まぁ難しい話だな」
「いくらクロノスの王太子といえど、他国のお姫様のご遺体まではどうにもなりませんものね。ところで、調べたいことはなんでしたの?」
「あれが本当にナタリーだったのか、だよ」
「やはり、アレクもそれを疑っておりまして? わたくしもそこは気になりましたの」
「大人たちも疑ってましたよ。本当に直前まで踊っていたのかと、何度も確認されましたから」
「ハンナの力が通じなかったこともあるし、あれがナタリー姫なのかというのはかなり疑わしいな」
「そもそも、顔の無い死体なんてすり替えと決まっておりますわよ」
「まぁ僕たちが調べたところで、ナタリー姫の特徴はわからないんだが」
「お嬢様ならすぐわかるんですけどね。爪の形とか、髪質とか、ホクロの位置とか」
「え。それなんか怖いわよ」
マーガレットも口にあてる指の確度でギルバートを判断しているのだが、棚上げである。
「あの時無様に崩れ落ちてた副会長でしたら何かわかったのかしら?」
「やけに辛辣ですね」
「君たち、本当に恋仲でなないのか?」
「有り得ませんよ。ご安心を」
マーガレットが答えるより先に、即答するギルバート。
「ま、まぁとにかく。あれが偽装死体であるならば、ナタリー姫はどこへ消えたのかという話になる訳だが」
アレクサンダーが仕切り直す。
「あの死体の出処もね」
「ギル、直前のナタリー姫の様子はどんな感じだったんだ?」
「あの姫様はかなり怪しいですよ。あの曲が始まった途端に、グイグイ引っ張られたんです。警戒しているはずのシャンデリアの下に」
「それって……わざとシャンデリアの下に行ったということですの? ……ギルが、道連れになるところでしたの?」
実感するとわなわなと怒りがわいてくるマーガレット。
「さすがに俺もシャンデリアは警戒してたので、何とか生きてますが」
「許せないわ……わたくしのギルを!」
「はいはい。俺は生きてますから、おさえてください」
今にも暴れだしそうな様子のマーガレットを無感情に宥めるギルバート。
「メグが意外と激しい性格をしているのは昨日知ったが……。なんというか、ギルもギルだな」
「どういう意味でしょう」
心外とばかりに問うギルバート。
「いいコンビだよ全く」
「呆れましたの?」
「いや、益々好きになった」
アレクサンダーはマーガレットに向かってニコリと笑う。
「アレク、貴方はそろそろご自覚なさいね? ご自分の言葉と笑顔の破壊力を……」
「良かったですね、お嬢様」
「いや待て、そろそろ話が脱線しすぎだろう」
「そうね。はしゃぎ過ぎたわ。楽しくて、浮かれてしまっているのよ」
「はは。そんなに楽しいのか?」
「だって、今までギルとしか話せなかったことを、アレクとも話せるようになったのよ。楽しいに決まってるわ。魔女だと疑われないために品行方正で真面目な令嬢を演じるのは、結構ストレスが溜まるものよ?」
「品行方正で真面目な令嬢を演じていたのは初耳なんですが」
「ギル。君は2人だけの秘密の方が良かったんじゃないか?」
アレクサンダーがギルバートに耳打ちする。
「いえ。俺も楽しいですよ。本当に。……お嬢様をよろしくお願いします」
ギルバートはニヤリと、含みのある笑い方をした。
「ちょっと。なに男同士でコソコソ話しておりますの? 話を戻しますわよ。ええっと……」
「爆発音が聞こえた時は、まだナタリー姫は目の前にいたのか?」
「いました。爆発に動揺することなく笑っていて、こう、多分スカートの中から銃を取りだして」
「ナタリー様は武器を持ち込んでいたの!?」
「……確かに、他の生徒はともかく、ナタリー姫のスカートの中までは確認していないだろうな。地位もあるが、彼女は狙われている被害者本人だし」
「わたくしは侍女にボディーチェックされましたわよ。まだ疑われていたってことかしら」
「ハンナさんも調べられたそうですよ。当然俺も、多分カイロスの兵士に」
「そうなのか? 僕は調べられていないのだが」
「つまり、王族はノーチェックだったわけですわね。それで? ナタリー様は銃をどうしたの?」
「真上に向けて、発砲しました」
「真上って……まさかシャンデリアですの?」
「なので、突き飛ばしました。その時それが、生きているナタリー姫様だったかどうかはわかりません。なにしろ、慌てていたので」
「成程。なんというか、印象としては……雑だな」
「確かに綿密な計画と言うよりは、ゴリ押しって感じですわね」
「銃の話は調べた者からも聞いていないが」
「そうですね。姫様と一緒に消えたんだと思います」
「しかし、そんな事が可能なのか? 本人が消えて、代わりに死体が現れるなどと。まだあれがナタリー姫の死体だと言う方がわかる気もしてしまうが」
「それに関しては、わたくし一つ心当たりがありますのよ」
「心当たり?」
「学園長室で、副学長が見つかった件ですわ」
「あの事件? 確かに無関係とは思えないタイミングの事件だったが……。あれは確か。……そうか」
急に別の事件の話をされて、さすがのアレクサンダーもしばし考え込む。
「副学長の死体は、島外から一晩で現れたのだったな」
「それですわ。死体は、急に現れることが可能なのかも知れません」
「あの事件でも司祭が消えているが……関係があるのか?」
「そこはなんとも言えませんけれど……。あれはどう考えても、トリックではなく超常的な力が働いていたとしか思えませんの」
「そうなると、今回の状況だけで見れば、姫様と死体を入れ替えた……ということになりますね」
「ハンナのように、加護を授かっている人物の仕業か?」
「そうなりますわよね」
「そうなると、術者が誰かという話になりますが。まず怪しいのは姫様本人ですね」
「そうですわね。現にギルを巻き込んで殺そうとしているもの」
「それ以外の人物となると、特定はかなり難しくなりますが……自分と死体を入れ替えるのではなく、任意の人間と死体を入れ替えるのなら、もっと上手いやり方もあった気がしますけどね」
「そうだな。まずはナタリー姫の線で調査しよう。姫と副学長が入れ替わったのなら、少なくとも数日間は彼女は島から消えていたはずだ。それから……脱獄の手引きをした協力者が、クロノスにもいることになる」
「そうですわね。組織的に動いていると思いますわ」
「それと、前回メグが体験した事件との相違点をもう少し詳しく確認したいのだが」
「まず、曲の順番がおかしいですわ。あの曲は舞踏会のクライマックスで使っていましたから、二曲目で流れるなんて。そして、爆発騒動もありませんでしたから……」
「爆発は混乱に乗じて発砲するための陽動だったかもしれないな。現にナタリー姫が銃を出したと証言しているものは今の所出てきていない」
「速攻で勝負を仕掛けた感じがありますわね。少なくともアレクとわたくしが入場する前は、火薬の臭いはなかったと思いますの」
「そうだな。していたらライナスが気づかないわけがない。調べさせる前に騒動が起きたことも考えると、早めたことに間違いないな」
「前回、姫様のパートナーは巻き込まれていないんですよね?」
「ええ。怪我人は出ましたが、被害者は真下にいたナタリー様だけでしたわ。ですから、時限式の罠を疑っておりましたの。ナタリー様が都合良くあの位置に、となると難しいかと思いましたけれど、自作自演ならば仕掛けも可能だったかもしれませんわ」
「成程な。今回は怪盗のカードのせいでシャンデリアが疑われて、仕掛けもできなかったと言うわけか。だから君たちはやたらとシャンデリアを調べていたんだな」
「そうなんですの。……考えれば考えるほど怪しいですわよね、ナタリー様」
「そうだな。そうと決まれば早速、彼女の周りを洗ってみるか。すぐに調べさせよう」
「待ってください。もう一つ、今回考慮したい疑問があります」
立ち上がるアレクサンダーを引き止めるように、ギルバートが発言をする。
「お嬢様以外にも転生者がいる可能性があります」
アレクサンダーを含めて、ダンスの練習部屋に籠る3人。ライナスはドアの外で待機している。
「ナタリー姫のご遺体は、既に本国に送られたそうだ。正直調べたいこともあったが、まぁ難しい話だな」
「いくらクロノスの王太子といえど、他国のお姫様のご遺体まではどうにもなりませんものね。ところで、調べたいことはなんでしたの?」
「あれが本当にナタリーだったのか、だよ」
「やはり、アレクもそれを疑っておりまして? わたくしもそこは気になりましたの」
「大人たちも疑ってましたよ。本当に直前まで踊っていたのかと、何度も確認されましたから」
「ハンナの力が通じなかったこともあるし、あれがナタリー姫なのかというのはかなり疑わしいな」
「そもそも、顔の無い死体なんてすり替えと決まっておりますわよ」
「まぁ僕たちが調べたところで、ナタリー姫の特徴はわからないんだが」
「お嬢様ならすぐわかるんですけどね。爪の形とか、髪質とか、ホクロの位置とか」
「え。それなんか怖いわよ」
マーガレットも口にあてる指の確度でギルバートを判断しているのだが、棚上げである。
「あの時無様に崩れ落ちてた副会長でしたら何かわかったのかしら?」
「やけに辛辣ですね」
「君たち、本当に恋仲でなないのか?」
「有り得ませんよ。ご安心を」
マーガレットが答えるより先に、即答するギルバート。
「ま、まぁとにかく。あれが偽装死体であるならば、ナタリー姫はどこへ消えたのかという話になる訳だが」
アレクサンダーが仕切り直す。
「あの死体の出処もね」
「ギル、直前のナタリー姫の様子はどんな感じだったんだ?」
「あの姫様はかなり怪しいですよ。あの曲が始まった途端に、グイグイ引っ張られたんです。警戒しているはずのシャンデリアの下に」
「それって……わざとシャンデリアの下に行ったということですの? ……ギルが、道連れになるところでしたの?」
実感するとわなわなと怒りがわいてくるマーガレット。
「さすがに俺もシャンデリアは警戒してたので、何とか生きてますが」
「許せないわ……わたくしのギルを!」
「はいはい。俺は生きてますから、おさえてください」
今にも暴れだしそうな様子のマーガレットを無感情に宥めるギルバート。
「メグが意外と激しい性格をしているのは昨日知ったが……。なんというか、ギルもギルだな」
「どういう意味でしょう」
心外とばかりに問うギルバート。
「いいコンビだよ全く」
「呆れましたの?」
「いや、益々好きになった」
アレクサンダーはマーガレットに向かってニコリと笑う。
「アレク、貴方はそろそろご自覚なさいね? ご自分の言葉と笑顔の破壊力を……」
「良かったですね、お嬢様」
「いや待て、そろそろ話が脱線しすぎだろう」
「そうね。はしゃぎ過ぎたわ。楽しくて、浮かれてしまっているのよ」
「はは。そんなに楽しいのか?」
「だって、今までギルとしか話せなかったことを、アレクとも話せるようになったのよ。楽しいに決まってるわ。魔女だと疑われないために品行方正で真面目な令嬢を演じるのは、結構ストレスが溜まるものよ?」
「品行方正で真面目な令嬢を演じていたのは初耳なんですが」
「ギル。君は2人だけの秘密の方が良かったんじゃないか?」
アレクサンダーがギルバートに耳打ちする。
「いえ。俺も楽しいですよ。本当に。……お嬢様をよろしくお願いします」
ギルバートはニヤリと、含みのある笑い方をした。
「ちょっと。なに男同士でコソコソ話しておりますの? 話を戻しますわよ。ええっと……」
「爆発音が聞こえた時は、まだナタリー姫は目の前にいたのか?」
「いました。爆発に動揺することなく笑っていて、こう、多分スカートの中から銃を取りだして」
「ナタリー様は武器を持ち込んでいたの!?」
「……確かに、他の生徒はともかく、ナタリー姫のスカートの中までは確認していないだろうな。地位もあるが、彼女は狙われている被害者本人だし」
「わたくしは侍女にボディーチェックされましたわよ。まだ疑われていたってことかしら」
「ハンナさんも調べられたそうですよ。当然俺も、多分カイロスの兵士に」
「そうなのか? 僕は調べられていないのだが」
「つまり、王族はノーチェックだったわけですわね。それで? ナタリー様は銃をどうしたの?」
「真上に向けて、発砲しました」
「真上って……まさかシャンデリアですの?」
「なので、突き飛ばしました。その時それが、生きているナタリー姫様だったかどうかはわかりません。なにしろ、慌てていたので」
「成程。なんというか、印象としては……雑だな」
「確かに綿密な計画と言うよりは、ゴリ押しって感じですわね」
「銃の話は調べた者からも聞いていないが」
「そうですね。姫様と一緒に消えたんだと思います」
「しかし、そんな事が可能なのか? 本人が消えて、代わりに死体が現れるなどと。まだあれがナタリー姫の死体だと言う方がわかる気もしてしまうが」
「それに関しては、わたくし一つ心当たりがありますのよ」
「心当たり?」
「学園長室で、副学長が見つかった件ですわ」
「あの事件? 確かに無関係とは思えないタイミングの事件だったが……。あれは確か。……そうか」
急に別の事件の話をされて、さすがのアレクサンダーもしばし考え込む。
「副学長の死体は、島外から一晩で現れたのだったな」
「それですわ。死体は、急に現れることが可能なのかも知れません」
「あの事件でも司祭が消えているが……関係があるのか?」
「そこはなんとも言えませんけれど……。あれはどう考えても、トリックではなく超常的な力が働いていたとしか思えませんの」
「そうなると、今回の状況だけで見れば、姫様と死体を入れ替えた……ということになりますね」
「ハンナのように、加護を授かっている人物の仕業か?」
「そうなりますわよね」
「そうなると、術者が誰かという話になりますが。まず怪しいのは姫様本人ですね」
「そうですわね。現にギルを巻き込んで殺そうとしているもの」
「それ以外の人物となると、特定はかなり難しくなりますが……自分と死体を入れ替えるのではなく、任意の人間と死体を入れ替えるのなら、もっと上手いやり方もあった気がしますけどね」
「そうだな。まずはナタリー姫の線で調査しよう。姫と副学長が入れ替わったのなら、少なくとも数日間は彼女は島から消えていたはずだ。それから……脱獄の手引きをした協力者が、クロノスにもいることになる」
「そうですわね。組織的に動いていると思いますわ」
「それと、前回メグが体験した事件との相違点をもう少し詳しく確認したいのだが」
「まず、曲の順番がおかしいですわ。あの曲は舞踏会のクライマックスで使っていましたから、二曲目で流れるなんて。そして、爆発騒動もありませんでしたから……」
「爆発は混乱に乗じて発砲するための陽動だったかもしれないな。現にナタリー姫が銃を出したと証言しているものは今の所出てきていない」
「速攻で勝負を仕掛けた感じがありますわね。少なくともアレクとわたくしが入場する前は、火薬の臭いはなかったと思いますの」
「そうだな。していたらライナスが気づかないわけがない。調べさせる前に騒動が起きたことも考えると、早めたことに間違いないな」
「前回、姫様のパートナーは巻き込まれていないんですよね?」
「ええ。怪我人は出ましたが、被害者は真下にいたナタリー様だけでしたわ。ですから、時限式の罠を疑っておりましたの。ナタリー様が都合良くあの位置に、となると難しいかと思いましたけれど、自作自演ならば仕掛けも可能だったかもしれませんわ」
「成程な。今回は怪盗のカードのせいでシャンデリアが疑われて、仕掛けもできなかったと言うわけか。だから君たちはやたらとシャンデリアを調べていたんだな」
「そうなんですの。……考えれば考えるほど怪しいですわよね、ナタリー様」
「そうだな。そうと決まれば早速、彼女の周りを洗ってみるか。すぐに調べさせよう」
「待ってください。もう一つ、今回考慮したい疑問があります」
立ち上がるアレクサンダーを引き止めるように、ギルバートが発言をする。
「お嬢様以外にも転生者がいる可能性があります」
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