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「それで、転生者の心当たりというのは誰なんだ?」
「……もしかして、ハンナかしら?」
「そうです」
「どういうことだ?」
「わたくし、マーガレットでは無い人生も送ったと言ったわよね。その時に、ハンナらしき女の子に会っていますの。確証はありませんけれど、ハンナを知れば知るほど、同じ子に思えてきていますわ」
「しかし。もしそうではればなぜ、マーガレットに打ち明けないんだ?」
「わかりませんわ。それに、ハンナは明らかに何も知らなそうで……。嘘や隠し事をしているとも思えませんし、あまり考えないようにしてましたの」
「ハンナさんの不可解な点は他にもあります。まず、本の記述が足りません。俺は現物を読んではいませんが、力の代償のことを書いてないわけですよね。作中、力を使っているのに一人称視点でそれを省く事情はなんでしょうか」
「嫌なことは書きたくなかった、とか?」
「それから、現在の本人との矛盾点もあります。お嬢様が繰り返し語るので俺でも覚えてしまった話ですが、蘇生の力が発覚したエピソード」
「ハンナの修道院がある村にある、恐ろしい主が住むという湖に落ちてしまった子を、危険を顧みずハンナが救いましたの」
「その話、ハンナさんにもしましたか?」
「したわよ何度も」
「どんな反応を?」
「照れてましたわ。それは可愛らしく」
「お嬢様は以前にハンナさんを虐めていた負い目があるのと、初めてできた女の友人フィルターで目が曇ってますね」
「なによ。どういうこと?」
「俺もその話、聞いてみたんですが。どうも歯切れが悪くて。湖の広さとか、主はどんな姿をしているかとか、助けた子供の年齢性別など、あまり覚えていないとはぐらかされました」
「確かに、そこまで突っ込んだ話はしませんでしたけれど……。本にもそこまでは記述されていませんでしたし」
「ハンナの性格からして、助けた子供の性別すら覚えていないというのは、たしかに少し違和感があるな。いくら子供の頃の話とはいえ」
「なので俺は、ハンナさんのいた修道院の村を調べてみたんですよ。そうしたら、ないんです。村に湖が。昔はあったとか、そういうこともどうやらなくて」
「え?」
「ハンナが嘘をついているというのか?」
「でも……なぜそんな嘘をつく必要がありますの? 本の記述まで嘘ということなんですの?」
「ハンナさんって力が発覚してから今まで、さほど噂になることも無く修道院で暮らしていたんですよね。学園に招かれるまで。なのに本には、度々力を使う描写があると」
「ありますわね」
「確かに、僕ですら彼女に初めて会ったのは学園へ向かう船だったな」
「加護を受けた者が、王宮に招かれたこともないなんておかしいですわね」
「司教預りの事柄は、国王も介入が面倒なんだよ」
「こうなってくるとハンナさんの修道院も怪しいですよね」
「……そろそろ、ハンナの代償を知っておきたいところね」
「そこが関係しているかもしれませんね。俺は以前尋ねて教えて貰えなかったので、仲の良いお嬢様が聞いてみたらいいですよ」
「そうね……」
マーガレットは、チラ、とギルバートを見た。
「なんです?」
今なら、ハンナはギルバートにこそ秘密を打ち明けるのでは、と、何となく思ったが、結局言うのはやめた。
***
「ギル。君はなぜ嘘をついたんだ?」
足を引きずるギルバートの歩調に合わせながら男子寮に戻る途中。アレクサンダーが声をかけた。
ライナスは少し離れてついてきている。
「嘘とは」
「とぼけるな。夜の話だ」
「そう言えば、殿下は夜更けに俺を訪ねてきたことがあったそうですね」
「君のルームメイトのセオドアが招き入れてくれたが、君は確かに不在だった」
「実際大したものじゃないので、お嬢様に言わないでくれるなら、教えますよ。どうせセオドアには知られていますし。今日の夜、俺の部屋に来てください。王太子を呼び付けるなんて、不敬ではありますがご勘弁を」
「それはもちろん構わないが、良いのか?」
「はい。今日のお嬢様は、髪にリボンをつけていたので」
「メグのリボンが関係あるのか?」
「関係ないです」
「……なんだそれは。君は案外、謎めいているな」
「なにしろ、本来ここにいないはずの人間なので」
「その世界線では僕も来年には死んでいるさ。君はその時、何をしてたんだろうな」
「想像はつきますけど……ろくなもんじゃないですよ、きっと」
***
「……お話します。それが皆様のお役に立つのなら」
部屋に戻ったあと、断られる覚悟をしつつハンナに尋ねたマーガレットであったが、少しの沈黙の後、頷いてくれたので胸をなでおろした。
「言いたくは無いでしょうに。本当にありがとう」
「その、代わりに一つだけ私のお願いを聞いて貰えるなら、嬉しいのですが……。ダメならいいんです」
「なんですの? なんでも聞きますわ!」
「ナタリー姫様がギル様に言った言葉の意味が、気になってしまっていて……」
「あぁ。ハンナはその場で聞いてたのだものね。それは気になりますわよ。でも、わたくしから言うのは違うと思いますので、ギルに判断を委ねるわ。それでよろしくて?」
「ええ。もちろんです」
ハンナはにっこりと笑った。
「……もしかして、ハンナかしら?」
「そうです」
「どういうことだ?」
「わたくし、マーガレットでは無い人生も送ったと言ったわよね。その時に、ハンナらしき女の子に会っていますの。確証はありませんけれど、ハンナを知れば知るほど、同じ子に思えてきていますわ」
「しかし。もしそうではればなぜ、マーガレットに打ち明けないんだ?」
「わかりませんわ。それに、ハンナは明らかに何も知らなそうで……。嘘や隠し事をしているとも思えませんし、あまり考えないようにしてましたの」
「ハンナさんの不可解な点は他にもあります。まず、本の記述が足りません。俺は現物を読んではいませんが、力の代償のことを書いてないわけですよね。作中、力を使っているのに一人称視点でそれを省く事情はなんでしょうか」
「嫌なことは書きたくなかった、とか?」
「それから、現在の本人との矛盾点もあります。お嬢様が繰り返し語るので俺でも覚えてしまった話ですが、蘇生の力が発覚したエピソード」
「ハンナの修道院がある村にある、恐ろしい主が住むという湖に落ちてしまった子を、危険を顧みずハンナが救いましたの」
「その話、ハンナさんにもしましたか?」
「したわよ何度も」
「どんな反応を?」
「照れてましたわ。それは可愛らしく」
「お嬢様は以前にハンナさんを虐めていた負い目があるのと、初めてできた女の友人フィルターで目が曇ってますね」
「なによ。どういうこと?」
「俺もその話、聞いてみたんですが。どうも歯切れが悪くて。湖の広さとか、主はどんな姿をしているかとか、助けた子供の年齢性別など、あまり覚えていないとはぐらかされました」
「確かに、そこまで突っ込んだ話はしませんでしたけれど……。本にもそこまでは記述されていませんでしたし」
「ハンナの性格からして、助けた子供の性別すら覚えていないというのは、たしかに少し違和感があるな。いくら子供の頃の話とはいえ」
「なので俺は、ハンナさんのいた修道院の村を調べてみたんですよ。そうしたら、ないんです。村に湖が。昔はあったとか、そういうこともどうやらなくて」
「え?」
「ハンナが嘘をついているというのか?」
「でも……なぜそんな嘘をつく必要がありますの? 本の記述まで嘘ということなんですの?」
「ハンナさんって力が発覚してから今まで、さほど噂になることも無く修道院で暮らしていたんですよね。学園に招かれるまで。なのに本には、度々力を使う描写があると」
「ありますわね」
「確かに、僕ですら彼女に初めて会ったのは学園へ向かう船だったな」
「加護を受けた者が、王宮に招かれたこともないなんておかしいですわね」
「司教預りの事柄は、国王も介入が面倒なんだよ」
「こうなってくるとハンナさんの修道院も怪しいですよね」
「……そろそろ、ハンナの代償を知っておきたいところね」
「そこが関係しているかもしれませんね。俺は以前尋ねて教えて貰えなかったので、仲の良いお嬢様が聞いてみたらいいですよ」
「そうね……」
マーガレットは、チラ、とギルバートを見た。
「なんです?」
今なら、ハンナはギルバートにこそ秘密を打ち明けるのでは、と、何となく思ったが、結局言うのはやめた。
***
「ギル。君はなぜ嘘をついたんだ?」
足を引きずるギルバートの歩調に合わせながら男子寮に戻る途中。アレクサンダーが声をかけた。
ライナスは少し離れてついてきている。
「嘘とは」
「とぼけるな。夜の話だ」
「そう言えば、殿下は夜更けに俺を訪ねてきたことがあったそうですね」
「君のルームメイトのセオドアが招き入れてくれたが、君は確かに不在だった」
「実際大したものじゃないので、お嬢様に言わないでくれるなら、教えますよ。どうせセオドアには知られていますし。今日の夜、俺の部屋に来てください。王太子を呼び付けるなんて、不敬ではありますがご勘弁を」
「それはもちろん構わないが、良いのか?」
「はい。今日のお嬢様は、髪にリボンをつけていたので」
「メグのリボンが関係あるのか?」
「関係ないです」
「……なんだそれは。君は案外、謎めいているな」
「なにしろ、本来ここにいないはずの人間なので」
「その世界線では僕も来年には死んでいるさ。君はその時、何をしてたんだろうな」
「想像はつきますけど……ろくなもんじゃないですよ、きっと」
***
「……お話します。それが皆様のお役に立つのなら」
部屋に戻ったあと、断られる覚悟をしつつハンナに尋ねたマーガレットであったが、少しの沈黙の後、頷いてくれたので胸をなでおろした。
「言いたくは無いでしょうに。本当にありがとう」
「その、代わりに一つだけ私のお願いを聞いて貰えるなら、嬉しいのですが……。ダメならいいんです」
「なんですの? なんでも聞きますわ!」
「ナタリー姫様がギル様に言った言葉の意味が、気になってしまっていて……」
「あぁ。ハンナはその場で聞いてたのだものね。それは気になりますわよ。でも、わたくしから言うのは違うと思いますので、ギルに判断を委ねるわ。それでよろしくて?」
「ええ。もちろんです」
ハンナはにっこりと笑った。
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