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悪女イザベラ
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「川ですか……」
マーガレットの部屋にて。ギルバートが額に手を当て俯いた。
「そう。あの女……イザベラは川遊びに誘ってきますの。そこで事件が起きますのよ」
「お嬢様はなんでいつもいつも、直前で話すんですかね。予めわかっていることでしょうに」
「イザベラのことは、なるべく思い出したく無かったんですのよ……。ナタリー様の事件が大きすぎましたし。その後も何かと別の話が優先していたでしょう?」
起こるのは兄妹喧嘩であるから、事件自体は小物なのだ。事前に作戦を練るのを忘れていた。
「イザベラが溺れますのよ。それで、わたくしのせいにされるのよ。蛇を投げたとかって言いがかりをつけられて……」
「また冤罪掛けられてるじゃないですか」
「今回のは人が死ぬ訳でもないし、イザベラのやつが溺れなければ済む話なのよ。見張っていればいいのだから簡単でしょう?」
「簡単に言いますね」
「何よ。なにか不満?」
「……ついて来なきゃよかったって思ってます」
「どうしてよ? 手伝ってくれるでしょう?」
「何かあっても、俺助けに入れませんよ」
「足に怪我をしているもの。わかっているわよ。それでもノロマなイザベラを止めるくらいは出来ると思うわ、貴方なら」
「足は平気です。今朝も早くから、鍛え直してやるとジーク様の剣技の相手をさせられました」
「いないと思ったら……! 怪我人になんてことさせますのよあのクソ兄!」
「大丈夫ですよ。あの人弱いので、ちょうど良かったです」
「いっそ痛快だわね」
ギルバートが思いのほか舐め腐った発言をしたので、マーガレットは笑ってしまう。
「じゃあなによ。事前説明がなかったこと、怒ってますの? 助けてよ」
「俺、泳げないので。水場でお役に立てません」
「えっ? 嘘でしょう?」
「いえ……」
「カナヅチなの? ギルが?」
「そう言ってるじゃないですか」
「うっそぉ……」
マーガレットは笑いをこらえきれず、肩を震わせた。
泳げない人間は珍しくもなんともないが、ギルバートが泳げないことはツボに入ってしまったのだ。
「……そんなにおかしいですか」
ギルバートは頭を掻きながら決まりが悪そうにする。
「泳ぐのなんて、私にもできますのよ?」
「お嬢様にできて俺にはできないことなんていくらでもあるでしょう」
「だって、ギルって昔から猿みたいで……。子供の頃なんて、街で見かけた軽業師に弟子入りするんだとついて行きそうになったりしていたのに……」
「随分昔の話をしますね……。軽業師は、泳げなくてもなれるじゃないですか」
「そう言えば貴方、雨も嫌いでしたわね。水が苦手なの?」
雨の日は来なかったし出てこない
「濡れるのって煩わしいじゃないですか。あんまり好きじゃないので避けていたから、泳ぎ方とか知らないんですよね」
「サンノールのご実家の方には、大きな川がありますわよね? ご兄弟も泳げませんの?」
「まぁ農業地帯なので。俺だけですよ泳げないのは」
「わたくし、案外ギルのことを知らないわね」
「それはお嬢様が俺に興味を持たなかったからです」
「そんなことなくてよ?」
「そうでしょうか」
「だってわたくし、ギルのこと多分……」
マーガレットは子供の頃のことを思い起こす。ギルバートの訪問する日はなんだかんだ楽しみにしていたし、実際楽しかったと思う。
思い起こせば、淡い初恋だったのではと思う。あの、拒絶された日に悲しくて、押し込めたけれど。
「……いえ。確かにあまり興味を持っていなかったかもしれませんわね」
マーガレットは結局のところ、あの日のギルバートが何を思っていたのかや、その後の人生はどう過ごしていたのかも知らないのだ。
自分の話ばかりして、彼のことを知ろうとしていなかったのだろう。
知らなくても、一緒にいられると思っていたし、一度別れを経験した今でも思っている。
「まぁとにかく、イザベラを監視して証言をしてくれるだけでも良いの。証拠が突きつけられれば、尚良しよ」
「それだけで済むことを願いますよ」
兄の婚約者を殺しかけたという不名誉。それによる不審。実の兄に信じて貰えないというのは、それなりの理由があると捉えられる。
嫌がらせでとんでもない目に遭ったのだ。
ベタ惚れの婚約者がどんな人間であるのか、逆に知らしめてやりたいところであるが、さてどうするか――。
***
「ルークラフト家の皆様、ご機嫌麗しゅう」
イザベラ・アストリーが自慢の高く可愛らしい声で挨拶をする。
小柄でふんわりとした髪。常に口角が上がった笑顔。大きな目はいつも潤んでいるようで、下から見上げてくる。
背が高めで高圧的に見下ろすようなマーガレットとは、対局の位置にいる女性だ。
「イザベラ、遠いところよく来てくれたね」
「いえ。その、ジーク様にお会いしたかったので……」
舌っ足らずな喋り方とモジモジとした仕草でイザベラは言う。ある種の男心をがっちりと掴むあざといやり口である。
つまり、ぶりっ子なのだ。
家柄の良い令嬢が、いい歳をして用事のような仕草、恥ずかしくないのかしらとマーガレットは毎回思うし、態度にも出てしまう。
家族の前で平成を保とうとして、全然保てず口の端をむずむず動かしている兄を横目で見てため息をつく。口元がにやけそうなのがバレバレだ。
「マーガレット様。お久しぶりですわ。去年はあまりお話させて下さらなかったけれど、此度こそ、たくさん仲良くしましょうねっ」
馴れ馴れしく両手を握ってくる。要はマーガレットが仲良くしてくれないけれど、それでもめげない健気な自分の演出である。頑張っても笑顔がひきつるマーガレット。
「あらぁ? 見慣れない従者の方ね?」
男と見るとチェックしなければ気が済まないのか、ギルバートを目ざとく見つけるイザベラ。
「ええ。彼は、わたくしの! 従者ですわ。ギルバート・フォーブスと申しますの」
「あら! そうなのぉ? マーガレット様の?」
マーガレットはギルバートを自分のものだとあえて強めに主張する。さっそくイザベラの目の色が変わる。乗ってきたのだ。
「あら、マーガレット様の? わたくし、ジーク様と婚約しております、イザベラと申しますわ。以後、お見知り置きを!」
キャピ、と音が聞こえてきそうなほど高い声と、満面の笑み。従者風情が大国の侯爵令嬢に直接こんな態度を取られたら、並の従者なら一発で落ちるかもしれない。けれど、相手はマーガレット自慢のギルバートである。イザベラなんかよりもずっと可愛いハンナと踊っても頬ひとつ染めない男だ。絶対にイザベラのぶりっ子になんか惑わされない自信がある。いや、ギルバートの好みは知らないけれど、きっと。たぶん。あんな見え透いた猫撫で声なんかに。
……よくよく考えたらギルバートの女性の趣味すら知らないマーガレットは、途端に不安になる。案外好きだったらどうしよう、と。
――しかし、心配は無用であった。
ギルバートは、一言も発することなく、視線すら合わさず臣下の礼を事務的に行ったのみである。
イザベラの方はめげずに上目遣いで覗き込んでいたが、やがてつまらなそうに下がって行った。
満点よ!とマーガレットは褒めたくなった。
「随分と、愛想の無い従者ですけれど、マーガレット様といらっしゃるせいかしらね?」
さも無邪気に言うイザベラ。明らかにマーガレットが怖いからとか、楽しくないからとか、そんな意味を込められていると思うのだが、しっかりと躾られていると言う意味だと言い逃れも可能である。
こう言った時に言い返して、マーガレットの言いがかりだと何度兄と喧嘩になったことか。
***
「ねぇ、わたくしね。メイガス・リバーに行ってみたいのです」
出た。とマーガレットは思った。家族団欒のティータイムに混じり、お願いポーズでイザベラは言った。ちなみに父は仕事が忙しいので不在である。
メイガス・リバーは魔女伝説の語られる川である。鬱蒼とした森も近く、流れも急なところがあり、ホラースポットのようになっているが、同時に人気の観光地でもある。今にも落ちそうで落ちない、高い吊り橋も有名である。
川沿いに生える木は幹が黒く葉が実らず、グネグネと不気味に曲がりくねっている。昼でもお化けが出てきそうな場所である。
「あそこはゴーストが出るとの噂もあるんだぞ。イザベラはそんな場所に興味があるのか?」
マーガレットは知っている。ジークフリードはお化けが怖いのだ。夜更けにトイレに行くのにも、執事を呼び出していたものだ。
「だってぇ、ジーク様がいれば怖くありませんもの」
「そ、そうか。可愛いやつだな」
するりと腕を組まれて、ジークフリードは頬を染める。
「ねぇ、マーガレット様もデイジー様も、一緒に行きましょうよぉ」
2人で勝手に行けばいいのに、イザベラはマーガレット達姉妹まで巻き込んでくる。
「うーむ……。そうだな、たまには皆で出かけるのも悪くないかもしれん」
マーガレットは白けた顔で兄を見る。普段ならイザベラと2人きりでデートをしたいと言うのだろう。だが場所が場所である。怖いのだろう。メイガス・リバーが。
「イヤですぅ。デイジーは行きたくありません!」
「あらぁ。デイジー様にはまだお早いかしら?」
幼いデイジーも、イザベラのことを嫌っている。プイ、とそっぽを向いて、取り付く島もない。幼さを理由にこの対応が取れるならどんなに良いか。とマーガレットはいつも思う。
イザベラは女には好かれない。母だけは可愛がっている素振りを見せているが、内心はどうなのだろうか。
「行ってきたらいいじゃないマーガレット。仲良くなれるわよ」
少なくとも、ニコニコ顔でこれである。マーガレットに味方はいない。
「マーガレット。どうせ夏休みで暇があるだろう。遠方よりの客人を案内するのは長女の義務でもあるぞ。それとも、メイガス・リバーが怖いのか?」
理不尽な理屈である。自分の婚約者なのだから、自分一人で案内すればいいのだ。怖いのは自分の方じゃないか。どうせ護衛も連れていくのだから、怖いこともないだろうに。
しかし、断るという選択肢もマーガレットにはない。
前回は挑発に乗ってついて行ったが、今回はやり込めたい気持ちもある。それに、気になることも。
イザベラはカイロスの人間である。取るに足らない事件だが、何か作為はあったのか。確かめなければならない。
「仕方ないですわね。ご一緒いたしますわ、ギルも連れて」
後ろ髪をかき上げて、マーガレットは承諾をした。
マーガレットの部屋にて。ギルバートが額に手を当て俯いた。
「そう。あの女……イザベラは川遊びに誘ってきますの。そこで事件が起きますのよ」
「お嬢様はなんでいつもいつも、直前で話すんですかね。予めわかっていることでしょうに」
「イザベラのことは、なるべく思い出したく無かったんですのよ……。ナタリー様の事件が大きすぎましたし。その後も何かと別の話が優先していたでしょう?」
起こるのは兄妹喧嘩であるから、事件自体は小物なのだ。事前に作戦を練るのを忘れていた。
「イザベラが溺れますのよ。それで、わたくしのせいにされるのよ。蛇を投げたとかって言いがかりをつけられて……」
「また冤罪掛けられてるじゃないですか」
「今回のは人が死ぬ訳でもないし、イザベラのやつが溺れなければ済む話なのよ。見張っていればいいのだから簡単でしょう?」
「簡単に言いますね」
「何よ。なにか不満?」
「……ついて来なきゃよかったって思ってます」
「どうしてよ? 手伝ってくれるでしょう?」
「何かあっても、俺助けに入れませんよ」
「足に怪我をしているもの。わかっているわよ。それでもノロマなイザベラを止めるくらいは出来ると思うわ、貴方なら」
「足は平気です。今朝も早くから、鍛え直してやるとジーク様の剣技の相手をさせられました」
「いないと思ったら……! 怪我人になんてことさせますのよあのクソ兄!」
「大丈夫ですよ。あの人弱いので、ちょうど良かったです」
「いっそ痛快だわね」
ギルバートが思いのほか舐め腐った発言をしたので、マーガレットは笑ってしまう。
「じゃあなによ。事前説明がなかったこと、怒ってますの? 助けてよ」
「俺、泳げないので。水場でお役に立てません」
「えっ? 嘘でしょう?」
「いえ……」
「カナヅチなの? ギルが?」
「そう言ってるじゃないですか」
「うっそぉ……」
マーガレットは笑いをこらえきれず、肩を震わせた。
泳げない人間は珍しくもなんともないが、ギルバートが泳げないことはツボに入ってしまったのだ。
「……そんなにおかしいですか」
ギルバートは頭を掻きながら決まりが悪そうにする。
「泳ぐのなんて、私にもできますのよ?」
「お嬢様にできて俺にはできないことなんていくらでもあるでしょう」
「だって、ギルって昔から猿みたいで……。子供の頃なんて、街で見かけた軽業師に弟子入りするんだとついて行きそうになったりしていたのに……」
「随分昔の話をしますね……。軽業師は、泳げなくてもなれるじゃないですか」
「そう言えば貴方、雨も嫌いでしたわね。水が苦手なの?」
雨の日は来なかったし出てこない
「濡れるのって煩わしいじゃないですか。あんまり好きじゃないので避けていたから、泳ぎ方とか知らないんですよね」
「サンノールのご実家の方には、大きな川がありますわよね? ご兄弟も泳げませんの?」
「まぁ農業地帯なので。俺だけですよ泳げないのは」
「わたくし、案外ギルのことを知らないわね」
「それはお嬢様が俺に興味を持たなかったからです」
「そんなことなくてよ?」
「そうでしょうか」
「だってわたくし、ギルのこと多分……」
マーガレットは子供の頃のことを思い起こす。ギルバートの訪問する日はなんだかんだ楽しみにしていたし、実際楽しかったと思う。
思い起こせば、淡い初恋だったのではと思う。あの、拒絶された日に悲しくて、押し込めたけれど。
「……いえ。確かにあまり興味を持っていなかったかもしれませんわね」
マーガレットは結局のところ、あの日のギルバートが何を思っていたのかや、その後の人生はどう過ごしていたのかも知らないのだ。
自分の話ばかりして、彼のことを知ろうとしていなかったのだろう。
知らなくても、一緒にいられると思っていたし、一度別れを経験した今でも思っている。
「まぁとにかく、イザベラを監視して証言をしてくれるだけでも良いの。証拠が突きつけられれば、尚良しよ」
「それだけで済むことを願いますよ」
兄の婚約者を殺しかけたという不名誉。それによる不審。実の兄に信じて貰えないというのは、それなりの理由があると捉えられる。
嫌がらせでとんでもない目に遭ったのだ。
ベタ惚れの婚約者がどんな人間であるのか、逆に知らしめてやりたいところであるが、さてどうするか――。
***
「ルークラフト家の皆様、ご機嫌麗しゅう」
イザベラ・アストリーが自慢の高く可愛らしい声で挨拶をする。
小柄でふんわりとした髪。常に口角が上がった笑顔。大きな目はいつも潤んでいるようで、下から見上げてくる。
背が高めで高圧的に見下ろすようなマーガレットとは、対局の位置にいる女性だ。
「イザベラ、遠いところよく来てくれたね」
「いえ。その、ジーク様にお会いしたかったので……」
舌っ足らずな喋り方とモジモジとした仕草でイザベラは言う。ある種の男心をがっちりと掴むあざといやり口である。
つまり、ぶりっ子なのだ。
家柄の良い令嬢が、いい歳をして用事のような仕草、恥ずかしくないのかしらとマーガレットは毎回思うし、態度にも出てしまう。
家族の前で平成を保とうとして、全然保てず口の端をむずむず動かしている兄を横目で見てため息をつく。口元がにやけそうなのがバレバレだ。
「マーガレット様。お久しぶりですわ。去年はあまりお話させて下さらなかったけれど、此度こそ、たくさん仲良くしましょうねっ」
馴れ馴れしく両手を握ってくる。要はマーガレットが仲良くしてくれないけれど、それでもめげない健気な自分の演出である。頑張っても笑顔がひきつるマーガレット。
「あらぁ? 見慣れない従者の方ね?」
男と見るとチェックしなければ気が済まないのか、ギルバートを目ざとく見つけるイザベラ。
「ええ。彼は、わたくしの! 従者ですわ。ギルバート・フォーブスと申しますの」
「あら! そうなのぉ? マーガレット様の?」
マーガレットはギルバートを自分のものだとあえて強めに主張する。さっそくイザベラの目の色が変わる。乗ってきたのだ。
「あら、マーガレット様の? わたくし、ジーク様と婚約しております、イザベラと申しますわ。以後、お見知り置きを!」
キャピ、と音が聞こえてきそうなほど高い声と、満面の笑み。従者風情が大国の侯爵令嬢に直接こんな態度を取られたら、並の従者なら一発で落ちるかもしれない。けれど、相手はマーガレット自慢のギルバートである。イザベラなんかよりもずっと可愛いハンナと踊っても頬ひとつ染めない男だ。絶対にイザベラのぶりっ子になんか惑わされない自信がある。いや、ギルバートの好みは知らないけれど、きっと。たぶん。あんな見え透いた猫撫で声なんかに。
……よくよく考えたらギルバートの女性の趣味すら知らないマーガレットは、途端に不安になる。案外好きだったらどうしよう、と。
――しかし、心配は無用であった。
ギルバートは、一言も発することなく、視線すら合わさず臣下の礼を事務的に行ったのみである。
イザベラの方はめげずに上目遣いで覗き込んでいたが、やがてつまらなそうに下がって行った。
満点よ!とマーガレットは褒めたくなった。
「随分と、愛想の無い従者ですけれど、マーガレット様といらっしゃるせいかしらね?」
さも無邪気に言うイザベラ。明らかにマーガレットが怖いからとか、楽しくないからとか、そんな意味を込められていると思うのだが、しっかりと躾られていると言う意味だと言い逃れも可能である。
こう言った時に言い返して、マーガレットの言いがかりだと何度兄と喧嘩になったことか。
***
「ねぇ、わたくしね。メイガス・リバーに行ってみたいのです」
出た。とマーガレットは思った。家族団欒のティータイムに混じり、お願いポーズでイザベラは言った。ちなみに父は仕事が忙しいので不在である。
メイガス・リバーは魔女伝説の語られる川である。鬱蒼とした森も近く、流れも急なところがあり、ホラースポットのようになっているが、同時に人気の観光地でもある。今にも落ちそうで落ちない、高い吊り橋も有名である。
川沿いに生える木は幹が黒く葉が実らず、グネグネと不気味に曲がりくねっている。昼でもお化けが出てきそうな場所である。
「あそこはゴーストが出るとの噂もあるんだぞ。イザベラはそんな場所に興味があるのか?」
マーガレットは知っている。ジークフリードはお化けが怖いのだ。夜更けにトイレに行くのにも、執事を呼び出していたものだ。
「だってぇ、ジーク様がいれば怖くありませんもの」
「そ、そうか。可愛いやつだな」
するりと腕を組まれて、ジークフリードは頬を染める。
「ねぇ、マーガレット様もデイジー様も、一緒に行きましょうよぉ」
2人で勝手に行けばいいのに、イザベラはマーガレット達姉妹まで巻き込んでくる。
「うーむ……。そうだな、たまには皆で出かけるのも悪くないかもしれん」
マーガレットは白けた顔で兄を見る。普段ならイザベラと2人きりでデートをしたいと言うのだろう。だが場所が場所である。怖いのだろう。メイガス・リバーが。
「イヤですぅ。デイジーは行きたくありません!」
「あらぁ。デイジー様にはまだお早いかしら?」
幼いデイジーも、イザベラのことを嫌っている。プイ、とそっぽを向いて、取り付く島もない。幼さを理由にこの対応が取れるならどんなに良いか。とマーガレットはいつも思う。
イザベラは女には好かれない。母だけは可愛がっている素振りを見せているが、内心はどうなのだろうか。
「行ってきたらいいじゃないマーガレット。仲良くなれるわよ」
少なくとも、ニコニコ顔でこれである。マーガレットに味方はいない。
「マーガレット。どうせ夏休みで暇があるだろう。遠方よりの客人を案内するのは長女の義務でもあるぞ。それとも、メイガス・リバーが怖いのか?」
理不尽な理屈である。自分の婚約者なのだから、自分一人で案内すればいいのだ。怖いのは自分の方じゃないか。どうせ護衛も連れていくのだから、怖いこともないだろうに。
しかし、断るという選択肢もマーガレットにはない。
前回は挑発に乗ってついて行ったが、今回はやり込めたい気持ちもある。それに、気になることも。
イザベラはカイロスの人間である。取るに足らない事件だが、何か作為はあったのか。確かめなければならない。
「仕方ないですわね。ご一緒いたしますわ、ギルも連れて」
後ろ髪をかき上げて、マーガレットは承諾をした。
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