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レッドラップ商会
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「レッドラップは今、クロノスとカイロス、どちらに付くかで揺れているんだ。姉妹国でも、水面下では常に冷戦状態でね。ただ、カイロス側の女王が、仕掛け始めているという情報があって」
怪盗は黙って話を聞いていた。ペラペラとこんな話をして良いものなのか。益々胡散臭いと思いながら。
「ただ、その仕掛け方がねぇ、気に入らないと言うか。なにか隠されてるのは確実なんだけど。でもお爺様はカイロス側につく気満々なんだよね。君の実家の事件も、お察しの通りうちの商会が噛んでいるはずだよ。多分カイロス公国からの依頼を受けて」
「……随分とあっさり認めたものだな」
「だって俺はあの時まだ子供だし、関わってないもん。怒んないでよ」
「……聞くが、今もフォーブスは狙われているか?」
「君はともかく、家族は平気だと思うけど」
「根拠は?」
「狙われたのが、銀髪の子供だったから」
怪盗は怪訝な顔をする。
「あの時、沢山いる子供たちの中で誰がそうなのかわからなかったみたいなんだよね。まさか、毎日髪を染めさせているなんて、思ってなかったって。君のお母様は用心深いねぇ。それがなかったら君だけ狙って始末することも出来ただろうけど、流石に片っ端から狙うのもってね。フォーブス家は貧乏だけど、民からの信頼はそれなりだし、1人いなくなっただけでも大事にはなるだろう?」
サラリと恐ろしいことを言うノア。
「それで、一家をまるごと没落させればいいってなったみたいなんだけど。小賢しいお嬢様と、フォーブスの子供に邪魔をされて。しかもその子供はルークラフトに引き込まれたってさ。なら恐らくその子供がそうだろうから、様子を見ることになったわけ」
母のいいつけを守らなければ、どこかで誘拐されて殺されていたかもしれないということ。そして同時に、自分一人のために家族全員が巻き込まれたという事実。
自分はフォーブスの呪いであることを証明された気がして、気分が沈む。
マーガレットがギルバートを引き込んだ理由は、呪いとは関係ない。それだけが心の拠り所である。
「……ルークラフトに引き込まれたらそいつらにとってなんだと言うんだ?」
「マーガレットお嬢様は、あの時既に目をつけられていたのさ。だから君のことも監視しやすくなるだろう? いつでも始末できるような取るに足らない子供だし、まずはそれでいいだろうって」
怪盗は沈黙した。舐められているのは好都合ではある。だが。
「どう? 君の知りたいことを洗いざらい話したよ? これでも信用出来ない?」
「子供を始末すると簡単に言うお前を信用しろというのか?」
「それは商会の意思じゃなくて、依頼主の方だってば。殺しはお手軽だけど不利益になりやすいんだ。商会としては歓迎しないさ」
ノアは拗ねたように口をとがらせてそう言った。
「で、ここからが俺の本題なんだけど」
仕切り直すように座り直し、テーブルに肘をつく。
「お爺様は老い先短いから、最後のひと仕事がしたくて焦ってる。カイロス公国がクロノス王国を乗っ取れば、裏で全てを牛耳ることも可能だ、と。耄碌して口車に乗せられているのさ。混乱に乗じて戦争でも起きれば、商人は儲かるわけだしね」
「しかし、勝算はあるのだろう」
現に前回は思惑通り、王太子は死んだのだ。勝ち馬に乗った感じはある。
「そう。でも気に入らないよね。長期的に見れば、クロノス王国が磐石でいた方が、商売は伸びるはずだよ。なにしろ次期国王は、あの完璧な王太子殿下じゃんか。俺、学園に来てアレクサンダー殿下と話してみたらさぁ、この人の治世で商売してみたいなーと単純に思ったんだよね」
意外な発言である。とらえどころがない男だが、人の好みで考えることもあるのかと。
「もっともカイロスにとっては、あの王太子がまだ子供のうちに、って感じなんだろうけど」
「ならば何故、お嬢……いや。マーガレットを貶めようとした? お前、彼女を魔女にしたがっていたよな?」
「だってさぁ。俺はまだ決め兼ねてるから。お爺様につくか、反旗を翻して乗っ取ってみるか。俺だって勝算がないなら動けない」
ノアは首を振りながら、両手の手のひらを上に向ける。
「お前の言う勝算とはなんだ」
「だから、君だよ。君たち。何か企んでるだろ? 君たちが協力してくれるなら、俺はそっちに舵を切ろうかなって」
「それを信用しろと?」
「別に、信用する必要も無いと思うけど? このままなら俺はお爺様について、君たちの邪魔をするだけだし。ここで俺の提案に乗ると言うだけで、俺は君たちの利益になる行動をするわけでさ」
「内側に入り込んで瓦解させるのは、常套手段だろう」
「まぁ、そういうのも楽しいんだけど」
「……まず俺を利用したいなら、もっと簡単な方法があるだろう? 俺は弱味を握られているのだから、正体をバラすと言えばいい」
「そうだけどさぁ。俺は君が処刑台に連れていかれるのはもったいないと思ってるし。それにさぁ、脅したらよくないでしょ、ほらこっちはできれば信頼、して欲しいわけだからねぇ」
実に軽い口調でへらへらと、世間話のように語る。
「……まぁ、口で言っても信用できないよね。メリットを提示するよ」
そう言ってトン、とテーブルを指で叩く。
「一緒に人身売買、潰さない?」
「それが俺にとってのメリットか?」
「だって君もムカついてるでしょ? 歓楽街で生まれた子供がさぁ、教会に預けられたかと思ったら、本人の意思に関係なくお金で売り買いされて」
「……お前は売り払うタイプじゃないのか」
「そんなわけないじゃーん。同じ仕事を共に達成する。これってさ、信頼感を得る最良の方法だよねぇ。血判状でも書く?」
「そんなもので信じられるか」
「なんなら君はそれっぽい動きをするだけでもいいよ。爺様の手前、俺は公には動けないから。やった事、怪盗のせいにできるだけでも結構ありがたいし」
「それこそ俺に罪をなすり付けるつもりじゃないのか……。お前はなんのリスクを負うんだ?」
「じゃあ。俺も命をかけようか」
あっさりとそう言う。
そして、一枚の紙を差し出してくる。
「俺が調べた人身売買のリストの1部ね。主に赤ん坊から推定12歳くらいの子供を抜き出してあるんだけど」
それはずらりと名前がリストになっていて、所々メモ書きなどがある。かなり真剣に作ったものだと言うのが伺えるが、どうなんだと怪盗はチラリとノアを見た。
その視線を知ってか知らずか、ノアはさらに紙を指で指し示す。
「んで、右の方にある名前が、買ったやつ売ったやつね」
怪盗はリストをじっくりと眺める。
「子供の名前の空欄は?」
売買に関する記述はみっちりと書き込まれているのに、所々の空欄が気になった。
「あ、それね。名前がわからない子たち」
「わからない? こんなに詳細に調べているのにか?」
「名前をさ、つけてもらってたかどうかすら分からない子がいるんだよね。そんな子が金で売られてるって、貴族の君にはどう映る?」
回答は絶句した。自分の家は貧乏とはいえ貴族の家門である。多くは無いが使用人もいて、どんなに不作でも飢え死ぬ心配はない。
「恐らく、出来ることは少ない。が――」
以前も自分は、助けになれていたのだろうか。
「潰してやりたいな」
「でしょ。そうこなくっちゃね」
ノアはニコリと笑う。口車に乗せられた気もするが、一先ずそれは考えないことにした。
「じゃあそうと決まればさっそくやろうか」
ノアは楽しそうに立ち上がり、部屋の隅の棚を漁りだした。
「早速?」
「うん。すぐ準備するから、リストから助ける子選んでて」
「本気か?」
怪盗はリストとノアを交互に見た。彼はどこか楽しそうにマントやら銀色の毛束を取り出し、身につけていく。
「じゃじゃーん!!」
全てを身につけ、振り返った姿。
銀色の髪に異国の狐面。そして黒の外套。
今の己の姿と似た格好となった、ノア・レッドラップ。怪盗は思わず立ち上がる。
「……ふざけているのか?」
「マジメだって。命かけるって言ったじゃん? あ、ちょっと模様違うね、お面。この赤い線ね、クマドリって言うらしいよ。知ってた? っていうかなんで狐の仮面? 好きなの? キツネ」
「狐は……好きですが」
矢継ぎ早の質問に頭が追いつかず、つい素が出る怪盗……もとい、ギルバート。
「あぁ、やっとギル君が出てきたね。ねぇそれ別人格とかじゃないんでしょ? ずっと声変えてるの疲れない? 結構演技派だよねぇ、ノリノリでやってんのそれ?」
「うるっせぇんですよマジで……」
ギルバートはため息をついた。
「それより、何のつもりですかその変装は」
「俺も一緒にやるよ、怪盗シャーマナイト」
「は?」
「影武者ってやつ。俺もこれで共犯になるから。ね。捕まったら俺も処刑間違いなし。でしょ?」
「だから、信用しろと?」
「忍び込む家も、やり方も君が考えていいよ。俺は何も仕込んでいないから」
ギルバートは考える。確かにリストの家全てに罠を張っているとは考えにくい。しかし油断した頃にどこかで、ということは十分考えられる。
しかし、そこまでして怪盗を捕まえるメリットがあるとも思えない。捕まえたいのならば、今この瞬間だって構わないだろう。
「撹乱もできるし、シフト制にもできるし、合理的でしょ」
「合理的なのかトリッキーなのか、俺にはよく分からなくなりましたよ……」
「まぁ物は試しに。ちょっくら人助け、行ってみようよ」
ノアはかなり軽い調子でそう言った。
「……今からですか?」
「そう」
ギルバートは迷った。
性分として強引に物事を進められる方が楽なことと、ノアを試したい気持ちが後押しをしてくる。何より、子供を効率よく助けられるし、彼がマーガレットの味方となりうるならば、それは絶対にその方が良いのだ。
油断はできないが、それでも。
「わかりました。でも、忍び込む家と、やり口はあなたも決めてください」
「え、いいの?」
「情報はあなたの方が持っているんですから、やるならそれが一番、合理的でしょう」
ギルバートは賭けに乗る方を選んだ。
ここに、2人の怪盗が誕生したのである。
怪盗は黙って話を聞いていた。ペラペラとこんな話をして良いものなのか。益々胡散臭いと思いながら。
「ただ、その仕掛け方がねぇ、気に入らないと言うか。なにか隠されてるのは確実なんだけど。でもお爺様はカイロス側につく気満々なんだよね。君の実家の事件も、お察しの通りうちの商会が噛んでいるはずだよ。多分カイロス公国からの依頼を受けて」
「……随分とあっさり認めたものだな」
「だって俺はあの時まだ子供だし、関わってないもん。怒んないでよ」
「……聞くが、今もフォーブスは狙われているか?」
「君はともかく、家族は平気だと思うけど」
「根拠は?」
「狙われたのが、銀髪の子供だったから」
怪盗は怪訝な顔をする。
「あの時、沢山いる子供たちの中で誰がそうなのかわからなかったみたいなんだよね。まさか、毎日髪を染めさせているなんて、思ってなかったって。君のお母様は用心深いねぇ。それがなかったら君だけ狙って始末することも出来ただろうけど、流石に片っ端から狙うのもってね。フォーブス家は貧乏だけど、民からの信頼はそれなりだし、1人いなくなっただけでも大事にはなるだろう?」
サラリと恐ろしいことを言うノア。
「それで、一家をまるごと没落させればいいってなったみたいなんだけど。小賢しいお嬢様と、フォーブスの子供に邪魔をされて。しかもその子供はルークラフトに引き込まれたってさ。なら恐らくその子供がそうだろうから、様子を見ることになったわけ」
母のいいつけを守らなければ、どこかで誘拐されて殺されていたかもしれないということ。そして同時に、自分一人のために家族全員が巻き込まれたという事実。
自分はフォーブスの呪いであることを証明された気がして、気分が沈む。
マーガレットがギルバートを引き込んだ理由は、呪いとは関係ない。それだけが心の拠り所である。
「……ルークラフトに引き込まれたらそいつらにとってなんだと言うんだ?」
「マーガレットお嬢様は、あの時既に目をつけられていたのさ。だから君のことも監視しやすくなるだろう? いつでも始末できるような取るに足らない子供だし、まずはそれでいいだろうって」
怪盗は沈黙した。舐められているのは好都合ではある。だが。
「どう? 君の知りたいことを洗いざらい話したよ? これでも信用出来ない?」
「子供を始末すると簡単に言うお前を信用しろというのか?」
「それは商会の意思じゃなくて、依頼主の方だってば。殺しはお手軽だけど不利益になりやすいんだ。商会としては歓迎しないさ」
ノアは拗ねたように口をとがらせてそう言った。
「で、ここからが俺の本題なんだけど」
仕切り直すように座り直し、テーブルに肘をつく。
「お爺様は老い先短いから、最後のひと仕事がしたくて焦ってる。カイロス公国がクロノス王国を乗っ取れば、裏で全てを牛耳ることも可能だ、と。耄碌して口車に乗せられているのさ。混乱に乗じて戦争でも起きれば、商人は儲かるわけだしね」
「しかし、勝算はあるのだろう」
現に前回は思惑通り、王太子は死んだのだ。勝ち馬に乗った感じはある。
「そう。でも気に入らないよね。長期的に見れば、クロノス王国が磐石でいた方が、商売は伸びるはずだよ。なにしろ次期国王は、あの完璧な王太子殿下じゃんか。俺、学園に来てアレクサンダー殿下と話してみたらさぁ、この人の治世で商売してみたいなーと単純に思ったんだよね」
意外な発言である。とらえどころがない男だが、人の好みで考えることもあるのかと。
「もっともカイロスにとっては、あの王太子がまだ子供のうちに、って感じなんだろうけど」
「ならば何故、お嬢……いや。マーガレットを貶めようとした? お前、彼女を魔女にしたがっていたよな?」
「だってさぁ。俺はまだ決め兼ねてるから。お爺様につくか、反旗を翻して乗っ取ってみるか。俺だって勝算がないなら動けない」
ノアは首を振りながら、両手の手のひらを上に向ける。
「お前の言う勝算とはなんだ」
「だから、君だよ。君たち。何か企んでるだろ? 君たちが協力してくれるなら、俺はそっちに舵を切ろうかなって」
「それを信用しろと?」
「別に、信用する必要も無いと思うけど? このままなら俺はお爺様について、君たちの邪魔をするだけだし。ここで俺の提案に乗ると言うだけで、俺は君たちの利益になる行動をするわけでさ」
「内側に入り込んで瓦解させるのは、常套手段だろう」
「まぁ、そういうのも楽しいんだけど」
「……まず俺を利用したいなら、もっと簡単な方法があるだろう? 俺は弱味を握られているのだから、正体をバラすと言えばいい」
「そうだけどさぁ。俺は君が処刑台に連れていかれるのはもったいないと思ってるし。それにさぁ、脅したらよくないでしょ、ほらこっちはできれば信頼、して欲しいわけだからねぇ」
実に軽い口調でへらへらと、世間話のように語る。
「……まぁ、口で言っても信用できないよね。メリットを提示するよ」
そう言ってトン、とテーブルを指で叩く。
「一緒に人身売買、潰さない?」
「それが俺にとってのメリットか?」
「だって君もムカついてるでしょ? 歓楽街で生まれた子供がさぁ、教会に預けられたかと思ったら、本人の意思に関係なくお金で売り買いされて」
「……お前は売り払うタイプじゃないのか」
「そんなわけないじゃーん。同じ仕事を共に達成する。これってさ、信頼感を得る最良の方法だよねぇ。血判状でも書く?」
「そんなもので信じられるか」
「なんなら君はそれっぽい動きをするだけでもいいよ。爺様の手前、俺は公には動けないから。やった事、怪盗のせいにできるだけでも結構ありがたいし」
「それこそ俺に罪をなすり付けるつもりじゃないのか……。お前はなんのリスクを負うんだ?」
「じゃあ。俺も命をかけようか」
あっさりとそう言う。
そして、一枚の紙を差し出してくる。
「俺が調べた人身売買のリストの1部ね。主に赤ん坊から推定12歳くらいの子供を抜き出してあるんだけど」
それはずらりと名前がリストになっていて、所々メモ書きなどがある。かなり真剣に作ったものだと言うのが伺えるが、どうなんだと怪盗はチラリとノアを見た。
その視線を知ってか知らずか、ノアはさらに紙を指で指し示す。
「んで、右の方にある名前が、買ったやつ売ったやつね」
怪盗はリストをじっくりと眺める。
「子供の名前の空欄は?」
売買に関する記述はみっちりと書き込まれているのに、所々の空欄が気になった。
「あ、それね。名前がわからない子たち」
「わからない? こんなに詳細に調べているのにか?」
「名前をさ、つけてもらってたかどうかすら分からない子がいるんだよね。そんな子が金で売られてるって、貴族の君にはどう映る?」
回答は絶句した。自分の家は貧乏とはいえ貴族の家門である。多くは無いが使用人もいて、どんなに不作でも飢え死ぬ心配はない。
「恐らく、出来ることは少ない。が――」
以前も自分は、助けになれていたのだろうか。
「潰してやりたいな」
「でしょ。そうこなくっちゃね」
ノアはニコリと笑う。口車に乗せられた気もするが、一先ずそれは考えないことにした。
「じゃあそうと決まればさっそくやろうか」
ノアは楽しそうに立ち上がり、部屋の隅の棚を漁りだした。
「早速?」
「うん。すぐ準備するから、リストから助ける子選んでて」
「本気か?」
怪盗はリストとノアを交互に見た。彼はどこか楽しそうにマントやら銀色の毛束を取り出し、身につけていく。
「じゃじゃーん!!」
全てを身につけ、振り返った姿。
銀色の髪に異国の狐面。そして黒の外套。
今の己の姿と似た格好となった、ノア・レッドラップ。怪盗は思わず立ち上がる。
「……ふざけているのか?」
「マジメだって。命かけるって言ったじゃん? あ、ちょっと模様違うね、お面。この赤い線ね、クマドリって言うらしいよ。知ってた? っていうかなんで狐の仮面? 好きなの? キツネ」
「狐は……好きですが」
矢継ぎ早の質問に頭が追いつかず、つい素が出る怪盗……もとい、ギルバート。
「あぁ、やっとギル君が出てきたね。ねぇそれ別人格とかじゃないんでしょ? ずっと声変えてるの疲れない? 結構演技派だよねぇ、ノリノリでやってんのそれ?」
「うるっせぇんですよマジで……」
ギルバートはため息をついた。
「それより、何のつもりですかその変装は」
「俺も一緒にやるよ、怪盗シャーマナイト」
「は?」
「影武者ってやつ。俺もこれで共犯になるから。ね。捕まったら俺も処刑間違いなし。でしょ?」
「だから、信用しろと?」
「忍び込む家も、やり方も君が考えていいよ。俺は何も仕込んでいないから」
ギルバートは考える。確かにリストの家全てに罠を張っているとは考えにくい。しかし油断した頃にどこかで、ということは十分考えられる。
しかし、そこまでして怪盗を捕まえるメリットがあるとも思えない。捕まえたいのならば、今この瞬間だって構わないだろう。
「撹乱もできるし、シフト制にもできるし、合理的でしょ」
「合理的なのかトリッキーなのか、俺にはよく分からなくなりましたよ……」
「まぁ物は試しに。ちょっくら人助け、行ってみようよ」
ノアはかなり軽い調子でそう言った。
「……今からですか?」
「そう」
ギルバートは迷った。
性分として強引に物事を進められる方が楽なことと、ノアを試したい気持ちが後押しをしてくる。何より、子供を効率よく助けられるし、彼がマーガレットの味方となりうるならば、それは絶対にその方が良いのだ。
油断はできないが、それでも。
「わかりました。でも、忍び込む家と、やり口はあなたも決めてください」
「え、いいの?」
「情報はあなたの方が持っているんですから、やるならそれが一番、合理的でしょう」
ギルバートは賭けに乗る方を選んだ。
ここに、2人の怪盗が誕生したのである。
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