探偵令嬢の華麗なる再始動〈リスタート〉

無軸キリ

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ルークラフト家の兄妹

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 マーガレットは強引にイザベラ幽閉の間へ案内させると、ずんずんと足音を立てて向かっていく。

「お兄様! ここでしたのね!」

「マーガレット、怪我は平気なのか」

 部屋の前に立っていたのは警備兵とジークフリードであった。疲れきった顔であるがマーガレットを一目見て心配する程度には正気らしい。マーガレットと同じアメジスト色の目も、今はどこが暗く陰っている。

「わたくしは大丈夫です。けれどギルは平気じゃありませんでしたわ。あの丈夫な子が寝込むほどよ」

「そうだな……。すまなかった。命に別状な無いと聞いてほっとしたよ」

「そんな事があったらわたくし自らがイザベラ様を八つ裂きにしておりますわ」

「冗談に聞こえないし、この状況で冗談を言うのも違うだろう……」

 はぁ、とジークフリードはため息をつく。時間が経っているせいか、案外冷静ではいるらしい。

「わたくし、イザベラ様と2人でお話をしたいのですが」

「駄目だ。危険だろう。護衛をつけても同じ部屋には入れられない」

「お話するくらいいいでしょう」

「お前を殺しかけた相手だぞ」

「では、こんな監禁ではなく、牢に閉じ込めて頂戴」

 マーガレットは仕方なく強気に出る。イザベラには悪いが、いっそ鉄格子越しであれば2人で話すことも可能かもしれないり

「それは……俺だってそうしたいが」

「なによ。わたくしを殺しかけた相手を、客間に閉じ込めているだけ?」

「相手は姉妹国カイロスの侯爵家だぞ」

「あら。こちらはクロノスの公爵家よ。下手に出ることなんかないわ。お兄様がそうしないなら、わたくしがお父様に申し上げてまいります」

「待て。わかった。お父上は裁判準備に入られるのでお忙しい」

「もう、準備にはいられていますの?」

「当然だ。ただ、実際に動くのは現場の検証などが十分に済んでからだ。相手が相手だしな。それに、王宮の方でもなにか事件があったらしく、こっちの件は少し待つようにと言われているようだ」

「……王宮で事件? 何がありましたの?」

「さて。それは聞かされていない」

 その言葉に不安がよぎる。夏休みにそんな話は聞いたことがない。アレクサンダーの方でも、何かあったのだろうか。

 だが、今のマーガレットにできることがない。運命を知っている彼が上手く立ち回っていると信じるしかないだろう。

「では、この件を進めるまでにどのくらいかかりますの?」

「もう日が暮れているからな。あらかた検証は終わっているだろう。明日の朝一番には動き出すさ。心配するな」

 ジークフリードはマーガレットの頭に手を置く。妹を案ずるような、こんな仕草はいつぶりだろうか。

 しかし、とんだ勘違いである。マーガレットは焦っている。あまりにも色々あって、ギルバートと話し込みすぎた。

 裁判準備が本格的に始まれば、止めるのは難しいだろう。

「では、イザベラ様を拘束して。それなら、2人でお話してもよろしいでしょう?」

「お前、随分と物騒なことを言うな。駄目に決まっているだろう」

「では、お兄様もご一緒に」

「……百歩譲っても、護衛を伴わなければ駄目だ」

「では、お兄様が信用する、口の固い者を」

「お前、なにか企んでいるのか?」

「何もありませんわ。でも、誰かイザベラ様のお話を、きちんと聞いたのかしら?」

「聞くわけが無い。自分のせいでは無いと、高笑いををしながら喚くような狂人のっ……言葉に、誰が耳を貸せると言うんだ!」

 ジークフリードは壁を殴った。行き場の無い怒りや、愛した女性の変貌を受け入れられないのだろう。

「イザベラ様は、無実を主張しておられますのね?」

 マーガレットは冷静に聞き返す。

「そうだ。俺の目の前であんなことを仕出かしながら、図々しくも……! 俺は見ていた! お前を突き落とす時、あいつは笑っていたんだぞ! 落ちて流れていくお前を見ても!! あんな……あんな女だと知っていれば、俺は……!」

「お兄様! その、状況の説明は、お兄様がしたのね?」

 聞く耳持たずに興奮していくジークフリードをマーガレットも大きな声で止める。

「そうだ。お前もギルも落ちたのだから、見ていたのは俺だけだ! あの時、イザベラは笑いながらお前を落としたこと……俺が言わなければ……俺がっ……」

 ジークフリードは吐き出すように言う。

「……お兄様の器の小ささにはがっかりですわ」

 そして、ヤレヤレとばかりに両の手のひらを上に向けて首を振る。

「愛した女性の話すら聞けない方が、このルークラフト領を束ねることなどできるのかしら? わたくし、不安でなりませんわよ」

「何だと!? 妹の分際で生意気な口を」

 マーガレットは口角を上げる。

「お兄様には今、わたくしの顔がどんな風に見えますかしら?」

「なんだ、急に」

「いいからお答えになって」

「生意気に挑発しているように見える」

「そうよね。でもわたくし、最大限の憐憫を向けて笑っておりますの」

「なんだと……!? いつも俺を馬鹿にして」

「それですわ。お兄様は、わたくしがいつだってお兄様を馬鹿にして、小生意気にほくそ笑んでると思ってらっしゃるわよね?」

「だってそうじゃないか」

「わたくし、特に笑顔は誤解を受けやすいんですの。なにか企んでいるだとか、怖いだとか。気が強くて、小賢しくみえるのよ」

 マーガレットは己の目尻を指さして言う。

「事実そうだろう」

「わたくしだって、優しく微笑んでいることはありますのよ! それをいつだって誤解されるから、そんな振る舞いにもなるのよ!」

 思えば家族にも、使用人にも、学友にも。そんなふうに扱われてきた。

 魔女だと罵られた時だって、以下にもやりそうな悪女顔だと散々言われたのだ。そしてそれは、裁判にだってしっかり影響した。

「お兄様。人は、愉快でなくても笑ってしまうことはありますのよ」

「なにを、」

「お兄様がよく言ってらしたでしょう? イザベラ様はいつでも愛らしい微笑みを絶やさない、と」

「それは……でも、あんな時にまで」

「あんな時だからこそ、ですわ。お兄様、今貴方は、自分がしっかりしなければと目が曇っておられますわ。愛するイザベラ様のことをよく思い出して。イザベラ様は、どんな時に笑いますの?」

「それは、いつも……。俺の前ではほとんど」

「……お兄様は先に怖がるから気づいておりませんのね。イザベラ様は、蛇を見ても笑っておりましたわ」

「……何が言いたいんだ?」

「イザベラ様は、恐怖を感じた時も、笑うんですのよ」

「………イザベラが、怖がっていた?」

「怖いからわたくしに手を握ってと頼みましたわ。その後落ちたのを見たら、さらに怖くなります。普段イザベラ様に甘いお兄様に捕らえられて、誰にも話を聞いて貰えなかったら?」

「それで、恐怖で狂ったように笑っていたとでも……?」

 ジークフリードは明らかに狼狽えた顔をした。

「真意は分かりませんわ。だから確かめないと。ただの悪戯だったかもしれませんのよ」

「そんなことがあるわけが無い。あれは作為的なものだ」

「何か知っていますの?」

「まだ捜査段階の情報だが、お前の落ちた足元の板は、予め外されていたらしい。イザベラは、あの板だけを飛び越えただろう?」

「……なら、余計におかしいのではなくて? イザベラ様は、ずっとわたくし達と共にいましたわ」

「お前こそ目が曇っていないか? そんなもの、自ら細工するわけが無いだろう。誰かに依頼すればいいことだ」

「それはそうですけれど……。そんな依頼をした証拠があるんですの?」

「ある」

「えっ!?」

 内心、無いと決めつけていたマーガレットは驚いて声を上げる。

「実行犯を捕えたんだ」







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