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39 リリイの真実その3
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俺はリリイに尋ねる。
「それで、不死者となって最初の記憶は何だ?」
「気付いたら、不死者の襲来を教えるために、ゼベシュに向かって走っていました」
不死者となってから、しばらくの間、無意識に未練のまま走っていたのだろう。
「ゼベシュの街に入り、まっすぐに領主の館に向かいました」
「神殿ではなく?」
「神殿には戦闘能力はありませんから」
戦闘能力が無いといっても、神殿に向かうのが自然に思える。
使徒として、神殿を動かすのが最も効率的だろう。
意識を取り戻したとはいっても、まだリリイは理知的には動けなかったようだ。
神託をゼベシュに報せ、不死者から民を守る。
それだけしか頭になく、直接的に行動してしまったのだろう。
「領主は?」
「私を見てとても驚き……、私が神託を伝えるともっと驚きました」
領主が驚くこと自体は、なにも不思議ではない。
人神の使徒が一人で来訪すること自体、驚きに値する。
自分の治める街が不死者に襲われると聞いても驚くだろう。
「……それで、不死者を利用して、不死者の襲撃を防ごうと言ったのは誰なんだ?」
「領主です。騎士を使えば、少なからず死者が出る。ならば不死者に協力して貰おうと」
「ふむ。それをリリイは受け入れたのか?」
「はい。死した騎士になお働いてもらうことは、心苦しかったのですが……、被害を最小に抑えるためには仕方ありません」
不死者を使って、不死者の襲撃を防ぐ。
思考力があれば、おかしいと気付ける。
だが、死亡直後で、混乱していたリリイは思考力が落ちていたのだろう。
「そういうことか」
リリイの話を聞いて、黒幕に当たりは付いた。
だが、念のために更に聞いておくことがある。
「ちなみに、リリイは神託を、領主になんて言って伝えたんだ?」
「なんて、ですか? ……そのままです。『不死者がゼベシュの人族に害をなす』です」
「リリイが神殿に寄らずに来たことを領主は知っていたの?」
俺が尋ねると、リリイは記憶を探るように、少し考えた。
「……はい。領主に聞かれましたから」
「なるほどな」
『フィル。そなたは、どうみるのじゃ?』
そういって、フレキが俺を見る。
フレキはきっと、真相に気付いている。
俺が正しく真相にたどりつけるのか、確認しているのだ。
「…………ええっと」
俺には自分の推測を言っていいものか判断が付かなかった。
俺が自分の推測を告げることで、リリイに新しい未練が生まれるかもしれないからだ。
「……リリイ。何か気になることがあるんだろう?」
「……いえ」
リリイはそういうが、もし本当に気になることがないならば、ゴンザのように天に還っているだろう。
千体の不死者を俺が倒したことで、ゼベシュの街は救われた。
そう理解しても、天に還れないのは、まだ気になることがあるからだ。
「なんでもいい。どんな小さなことでも。俺たちにもその違和感は役立つかも知れないからな」
「……十日後、不死者がゼベシュの街を襲う」
「昨日の早朝、リリイが俺に教えてくれた神託だな」
リリイは首を振る。
「違います。神託ではありません」
「じゃあ、誰が教えたんだ?」
「……領主です。十日後に襲撃が控えているというのに。対策に用意していた不死者が全滅してしまったと」
「ふむ。それで領主はリリイに何を求めた?」
「…………ゼベシュの民を救うには、民の一部を不死者にするしかないと。私にそれを手伝うようにと」
リリイが手を貸せば、民を騙すのは簡単だ。
信仰篤い者たちをリリイが集めて、毒殺して、不死者にすれば良い。
「そうしなければ、数万の人族が死んでしまう。そうなれば新たに数千人が不死者となりゼベシュ以外の都市に押し寄せるだろう……と」
「百人を殺し不死者にするのが、もっとも被害を少なくする方法ってことか」
「いえ、領主が要求したのは千人です。民は精鋭ではないからと」
「ちなみに、いつ聞いたんだ?」
「真夜中です」
死んだ直後のリリイであれば、すぐに了承していたかも知れない。
だが、死んで時間が経ち、混乱の収まったリリイには思考力が戻っていた。
だから即決せずに、神殿に戻り、神に祈ったのだろう。
「ちなみに、最初に下された人神の神託の正確な内容は?」
「『不死者がゼベシュの人族に害をなす』です。それ一度だけです」
「うん。わかった」
俺はフレキを見る。
フレキは無言で俺を見つめていた。
「リリイは内心気付いているみたいだね」
ならば、俺が教えても教えなくとも、リリイは天には還れまい。
むしろ懸念を全て明らかにし、全て解決した方が、未練は無くなる。
「フィルさまが気付いたことってなんでしょうか?」
「まず、不死神の祝福を与えられるのは、不死神の使徒だけだ」
「そう、……なのですか?」
リリイは知らなかったらしい。
先代の人神の使徒は、リリイが五歳の時に亡くなった。
そして、リリイには、俺のフレキのように、使徒の知識を教えてくれるものがいなかった。
だから、知らなかったのだろう。
「そうなんだ。そして、ゼベシュの地下の不死者たちには、不死神の祝福が与えられていた」
つまり、その不死者を用意した領主の後ろには不死神の使徒がいる。
「恐らく、リリイを殺したのは、領主の後ろにいる不死神の使徒の手のものだろう」
不死神の使徒そのものだったとしても俺は驚かない。
「それで、不死者となって最初の記憶は何だ?」
「気付いたら、不死者の襲来を教えるために、ゼベシュに向かって走っていました」
不死者となってから、しばらくの間、無意識に未練のまま走っていたのだろう。
「ゼベシュの街に入り、まっすぐに領主の館に向かいました」
「神殿ではなく?」
「神殿には戦闘能力はありませんから」
戦闘能力が無いといっても、神殿に向かうのが自然に思える。
使徒として、神殿を動かすのが最も効率的だろう。
意識を取り戻したとはいっても、まだリリイは理知的には動けなかったようだ。
神託をゼベシュに報せ、不死者から民を守る。
それだけしか頭になく、直接的に行動してしまったのだろう。
「領主は?」
「私を見てとても驚き……、私が神託を伝えるともっと驚きました」
領主が驚くこと自体は、なにも不思議ではない。
人神の使徒が一人で来訪すること自体、驚きに値する。
自分の治める街が不死者に襲われると聞いても驚くだろう。
「……それで、不死者を利用して、不死者の襲撃を防ごうと言ったのは誰なんだ?」
「領主です。騎士を使えば、少なからず死者が出る。ならば不死者に協力して貰おうと」
「ふむ。それをリリイは受け入れたのか?」
「はい。死した騎士になお働いてもらうことは、心苦しかったのですが……、被害を最小に抑えるためには仕方ありません」
不死者を使って、不死者の襲撃を防ぐ。
思考力があれば、おかしいと気付ける。
だが、死亡直後で、混乱していたリリイは思考力が落ちていたのだろう。
「そういうことか」
リリイの話を聞いて、黒幕に当たりは付いた。
だが、念のために更に聞いておくことがある。
「ちなみに、リリイは神託を、領主になんて言って伝えたんだ?」
「なんて、ですか? ……そのままです。『不死者がゼベシュの人族に害をなす』です」
「リリイが神殿に寄らずに来たことを領主は知っていたの?」
俺が尋ねると、リリイは記憶を探るように、少し考えた。
「……はい。領主に聞かれましたから」
「なるほどな」
『フィル。そなたは、どうみるのじゃ?』
そういって、フレキが俺を見る。
フレキはきっと、真相に気付いている。
俺が正しく真相にたどりつけるのか、確認しているのだ。
「…………ええっと」
俺には自分の推測を言っていいものか判断が付かなかった。
俺が自分の推測を告げることで、リリイに新しい未練が生まれるかもしれないからだ。
「……リリイ。何か気になることがあるんだろう?」
「……いえ」
リリイはそういうが、もし本当に気になることがないならば、ゴンザのように天に還っているだろう。
千体の不死者を俺が倒したことで、ゼベシュの街は救われた。
そう理解しても、天に還れないのは、まだ気になることがあるからだ。
「なんでもいい。どんな小さなことでも。俺たちにもその違和感は役立つかも知れないからな」
「……十日後、不死者がゼベシュの街を襲う」
「昨日の早朝、リリイが俺に教えてくれた神託だな」
リリイは首を振る。
「違います。神託ではありません」
「じゃあ、誰が教えたんだ?」
「……領主です。十日後に襲撃が控えているというのに。対策に用意していた不死者が全滅してしまったと」
「ふむ。それで領主はリリイに何を求めた?」
「…………ゼベシュの民を救うには、民の一部を不死者にするしかないと。私にそれを手伝うようにと」
リリイが手を貸せば、民を騙すのは簡単だ。
信仰篤い者たちをリリイが集めて、毒殺して、不死者にすれば良い。
「そうしなければ、数万の人族が死んでしまう。そうなれば新たに数千人が不死者となりゼベシュ以外の都市に押し寄せるだろう……と」
「百人を殺し不死者にするのが、もっとも被害を少なくする方法ってことか」
「いえ、領主が要求したのは千人です。民は精鋭ではないからと」
「ちなみに、いつ聞いたんだ?」
「真夜中です」
死んだ直後のリリイであれば、すぐに了承していたかも知れない。
だが、死んで時間が経ち、混乱の収まったリリイには思考力が戻っていた。
だから即決せずに、神殿に戻り、神に祈ったのだろう。
「ちなみに、最初に下された人神の神託の正確な内容は?」
「『不死者がゼベシュの人族に害をなす』です。それ一度だけです」
「うん。わかった」
俺はフレキを見る。
フレキは無言で俺を見つめていた。
「リリイは内心気付いているみたいだね」
ならば、俺が教えても教えなくとも、リリイは天には還れまい。
むしろ懸念を全て明らかにし、全て解決した方が、未練は無くなる。
「フィルさまが気付いたことってなんでしょうか?」
「まず、不死神の祝福を与えられるのは、不死神の使徒だけだ」
「そう、……なのですか?」
リリイは知らなかったらしい。
先代の人神の使徒は、リリイが五歳の時に亡くなった。
そして、リリイには、俺のフレキのように、使徒の知識を教えてくれるものがいなかった。
だから、知らなかったのだろう。
「そうなんだ。そして、ゼベシュの地下の不死者たちには、不死神の祝福が与えられていた」
つまり、その不死者を用意した領主の後ろには不死神の使徒がいる。
「恐らく、リリイを殺したのは、領主の後ろにいる不死神の使徒の手のものだろう」
不死神の使徒そのものだったとしても俺は驚かない。
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