転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね

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23 母と父

「ど、どじで? のえるだって、わがっだの?」

 嬉しいけど、混乱する。
 攫われたとき、僕はまだ生後八か月の赤ちゃんだった。

 五歳になって、大きくなったし顔も変わった。服も猫の着ぐるみを着ている。
 母様が僕だと気づくわけがないと思う。

「そりゃあ、わかるわよ。ずっとずっと、ノエルがいなくなってから毎日毎日、今ノエルはどのくらい大きくなったかなって思い続けていたんだもの」
「ぞっがー」

 とてもとても嬉しかった。僕も母様のことは毎日思っていた。

「ノエルも、よくわかったわね。八か月の赤ちゃんだったのに」
「かあさまのこと、わすれるわけない。ぜんぜんかわらないし」
「ふふ、もうお世辞をいえるようになったのね」

 そういって、母様は笑った。
 ふと気がつくと、弟妹を乗せたガルガルが近づいて来た。
 僕と母様の様子を見て安全だと判断したのだろう。

「えっとな……」

 ガルガルと弟妹たちのことを母様に紹介しようとしたのだが、
「カトリーヌ、下がって」
 もう一人の人族が母様をかばうように、ガルガルの前に立ち塞がる。その声は男のものだった。

「だいじょうぶ。あれはガルガルで、僕の弟だからな」
「弟?」
「そう。一緒に育った。ってか、お主だれ?」

 僕が尋ねると、その男は仮面を取った。

「俺はティルだ。ノエルの父上のお友達だよ」

 優しげな表情で、黒髪黒目、二十代半ばから後半に見えた。

「ノエルの探索を手伝ってもらったの」
「そうだったか。ありがとな?」

 お礼を言うと、ティルはにこりと微笑む。

「気にするな。そして、この牛はモラクス。俺の家族だ」
「もっも~『もらくす、よろしく』」
「モラクスの嗅覚でノエルを探してもらったんだよ」
「おおー、すごい。モラクス、赤ちゃんに見えるのにな?」
「実際赤ちゃんだよ」
「もうも『あかちゃん』」

 モラクスもどや顔している。

「赤ちゃんなのに、人族の言葉をはなせるのかーすごいなー」

 ガルガルやアオたちはまだ聖獣語しか話せないのに凄い。

「よろしくな? いいこいいこ」

 僕が撫でると、モラクスは尻尾をぶんぶんと振って大喜びした。

「この子は弟のガルガルでー、背中に乗ってるのが、弟のアオとクロと妹のシロ」
「ノエルの弟と妹なら、私の子も同然ね」

 そういって、母様はガルガルとアオたちを撫でる。

「ぁぅ~」
「「「ごろろごろごろ」」」

 ガルガルとアオたちは母様を全く警戒せずに、嬉しそうに撫でられている。

「む!」

 そのとき、誰かが近づいてくる気配を感じた。

ガルガル警戒ガウ!)」
「ガルル!」

 僕が聖樹の枝を構えて、ガルガルが身構えるが、その誰かはめちゃくちゃ速い。
 聖獣と人族だ。
 ものすごい勢いで向かってくるので、母様をかばうように前に出る。

「あ、とうさま?」

 魔樹の間から姿が見えた瞬間にわかった。

「ノエル!」

 父様は、母様と違って仮面を着けていなかったからだ。

「ノエル! よくぞ生きていてくれた!」

 父様に抱きあげられる。

「……えへへ。ノエル生きてた」
「よかった、よかった。五年も待たせてしまった。本当にすまない」
「いいよぉ」

 嬉しすぎて涙が出たので手で拭う。

「ノエルの誘拐も防げなくて……本当に情けなく……」
「とうさまのせいじゃないよ?」

 僕は父様の頭を撫でた。

「ノエルね。とうさまのこともずっと覚えてたよ」
「父もだよ。ノエルのことを忘れたことは一刻もなかった」

 僕が父様と話していると、ガルガルが父様と一緒に走ってきた聖獣に向かって唸り始めた。

「ガルルルルルッガウ」
「きゅーん」

 父様と一緒に走ってきた聖獣は犬だ。
 その犬はガルガルに吠えられても、気にせずに、鼻をくっつけようと試みている。

「ガルガル。とうさまと一緒にはしってきたんだから、味方だよ?」
「がる~?」

 ガルガルとしては、弟妹たちを守らなければいけないので気を張っているのだろう。
 そんなガルガルをみてティルが言う。

「警戒させてすまない。ノエル、ガルガルそれにアオたちも。この子はペロ。俺の家族だ」

 どうやらティルは聖獣たちが家族らしい。僕と同じである。

「ペロも鼻でノエルを探してくれたんだよ」

 父様が教えてくれる。
 きっとモラクスとペロで二手に分かれて探してくれたのだろう。

「ペロ、ありがとうな? よろしくね?」
「きゅーんきゅーん」

 ペロは人懐こいようで、父様に抱っこされた僕の顔を舐めてくる。

「よーしよしよし。ガルガルぐらいでかい犬だな? ガルガルと一緒でまだ赤ちゃん?」
「がう!」
「む、大人の狼なのか。犬そっくりなのにな?」

 ペロは全身が銀色で立派な犬に見えるが、狼らしい。
 体高は一メートルぐらいある。

「ノエル。ペロは子狼だよ」
 ティルがこっそり教えてくれた。

 モラクスと違って、ペロは大人ぶりたいようだ。

「そっかー、……あ、ママ」

 そのとき突然、父様に抱っこされている僕の横にママが来た。
 本当にママは気配がない。

 父様も母様も、ママが直ぐ近くに来て、やっと反応したぐらいだ。

 ママは大きいので、父様と母様が警戒しないようにすぐに紹介することにする。

「あのね、ママだよ。ノエルはママのお乳を飲んで大きくなったの」
「我が名はシルヴァ。影歩かげあるきのシルヴァ。この辺りの聖獣の守護者である。そなたたちのことは、天星てんせいのジルカから聞いておる」
「ジルカ? だれ? 聖獣の守護者ってなに?」
「聖獣の守護者は、聖獣のまとめ役だ。ジルカは別の地域の聖獣の守護者であるぞ」
「ほえー。そんなものがあるのかー。それにママは聖獣の守護者だったのかー」

 知らない事が多い。

「影歩ってかっこいいな? 天星も格好いい」
「がうがう!」

 ガルガルも格好いいと言っている。
 僕も格好いいあだ名が欲しい。光歩とか地星とか、なんでもいいけど格好いいのがいい。


 そんなことを考えていると、父様と母様は静かに頭を下げた。

「影歩のシルヴァ様。ノエルの父、フィリップ・オーレル・エルファレスと申します。我が子ノエルを保護してくださったこと感謝の言葉もございませぬ」
「ノエルの母カトリーヌと申します。ノエルを育ててくださったこと誠に感謝いたします」
「よろしく頼む。聖獣たる我に敬語は不要だ。敬語などとというものは人族同士にしか意味がないゆえな」

 父様と母様とママが挨拶した後、ティルもママに自己紹介する。

「ティル・リッシュだ。人族の国でジルカの領域の領主をしている。ティルと呼んでくれ」

 どうやら、ティルは領主らしかった。

 それぞれ自己紹介したあと、ママの案内で巣に向かうことになった。

「人族の身ではこの瘴気は辛かろう。我が巣ならば、多少ましゆえな」
「お心遣い、ありがとうございます」
「む? フィリップにカトリーヌ。……瘴気除けの手段があるのか?」
「お気づきになりましたか。これは瘴気除けの護符で――」

 父様がママに説明しているのを、僕は父様に抱っこされながら聞いた。
 どうやら、神官が作る護符があって、それを身に付けていると多少瘴気を防げるらしい。

 父様は不要だと言われたのに、敬語を使い続けている。敬語が素なのかもしれない。
 父様は男爵。下級貴族だから、普段から敬語を使い馴れているのだろう。

「護符ってべんりなんだなー? でも完全にはふせげないのかー」

 僕がぼそっと呟くと、ティルが笑顔で教えてくれる。

「護符と魔導具を組み合わせて結界を作れば完全に防げるんだが、場所を固定しないといけないんだよ」
「ほえー。ティルはくわしいな?」
「魔導具作りは得意なんだ。ノエルの母様ほどじゃないけどね」

 そういって、ティルは僕の頭を撫でてくれた。
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