最強魔導師は不毛の大地でスローライフを送る ~凶悪な魔物が跋扈し瘴気漂う腐界でも、魔法があれば快適です~

えぞぎんぎつね

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49 ノエルの今後

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 案内されたシルヴァの巣は岩山に空いた洞窟だった。
 洞窟の周りには神々しさを感じる若木が十数本生えており、瘴気も薄く感じられる。

 巣の中に入ると、藁をまとめた物を出してくれたので、その上に座った。

 皆が落ち着くと、カトリーヌに抱っこされたノエルが、攫われてからのことを話していった。

「えっとね、さらわれたあと、ママにたすけてもらってー」
「そうだったのね」
「あ、おまもりもってるよ! こわれちゃったけど」

 そういって、ノエルが壊れた魔導具を見せる。
 距離が二メートルほどあるので正確にはわからないが、結界を展開する小型魔導具にみえた。

 その魔導具を見てカトリーヌが涙ぐむ。

「かあさま?」
「いえ、持っていてくれたのね。ありがとう。ノエル」
「それはカトリーヌがノエルを守るために作ったんだよ」

 フィロが優しい顔でそう呟いた。

「あのね、僕、さみしいときはこのお守りをぎゅっとしてたの」
「そうだったのね」

 カトリーヌにぎゅっとされて、ノエルは幸せそうに微笑んだ。

「それでね! ガルガルが――」

 どうやら、ノエルはガルガルと一緒にシルヴァに育てられたようだ。
 最近では、シルヴァが子猫を産んだので、ノエルとガルガルも面倒を見ているらしい。

「のえる、魔物もたおすのとくい。ちいさいころはガルガルといっしょにやってたけどな?」

 最近ではノエル単独でも魔物を余裕で倒せるようになったと自慢げに言う。
 末恐ろしい五歳児である。

 ノエルが語る間、ガルガルとペロは楽しそうに取っ組みあって、じゃれついて遊んでいた。

「それでなー。アオとクロとシロが大きくなるまで、ノエルは面倒みようと思ってるの」
「ノエルは母様と一緒にくらしたくない?」

 少しさみしそうにカトリーヌが言う。

「くらしたいけど……でも、ノエルがいないとな。アオたち大変だし……」

 ノエルにとってはシルヴァやガルガル、アオたちも大切な家族なのだ。

「ノエルは……いつかは人のところにいくんだとおもうけど……」

 幼いアオたちを守りながら、縄張りを維持するのはシルヴァでも難しい。
 そうノエルは考えているようだ。

 ノエルは死の山において聖獣側の有力な戦力だと自分のことを認識しているのだ。
 そして、その認識は恐らく正しい。

「あのな、この辺りって魔物がすっごく強いからな。アオたちはまだたたかえないの」
「そうだね、子猫だものね」
「ガルガルも強いけど……ガルガルだけだと大変だし。ママにも仕事があるし……」
「ノエル。気持ちは嬉しいが、我は強いから大丈夫だぞ?」
「ママが強いことは知ってるけど、ノエルがしたいからな?」

 大丈夫だというシルヴァに対して、ノエルは笑顔で言う。

「それにいるみんのむすめたちも……そだてないとだし…………」
「いるみんってなんだい?」

 フィロが笑顔で尋ねる。

「えっとな、いるみんはイルミンスールっていって聖樹なんだけど、ノエルしか育てられないの」
「それはすごいね」
「うん。聖樹がはえていると、瘴気がうすくなってー。魔物もうまれにくくなるの」
「そんな凄い聖樹を育てられるのかい? ノエルはすごいね」
「えへへー」

 聖樹とは伝承上の存在だ。
 その伝承では、聖樹は瘴気を晴らし、魔物の発生を抑える為に神が遣わしたとされている。

「…………」

 俺は親子の会話を邪魔しないよう、無言で外を見る。

(あれが聖樹なのか)

 巣の外にあった神々しさを感じる若木が聖樹なのだろう。
 確かに特別な力を感じる。

「だからね、ノエルはまだやることがあるからね? 腐界に残ろうと思うの」
「そう、ノエルはそう思うのね」
「…………うん。ごめんね? ノエルもとうさまとかあさまといっしょに暮らしたいけど……」
「うん」
「…………やっぱり、まだやることがあると…………おもうの」

 強くてもノエルは五歳。
 カトリーヌに優しく抱きしめられて、うとうとし始めた。

「そう。そうなのね。しっかり考えられて偉いわ」
「……えへへ……うん……ガルガルも……まだノエルがいないとだし…………」

 ノエルは幼子らしく眠ってしまった。

 眠ったノエルをカトリーヌは優しく揺らして撫でている。
 ペロとガルガル。それにモラクスと遊んでいたアオたちも眠り始めた。

 ノエルたちも聖獣たちも、皆子供なのでお昼寝が必要なのだろう。


 子供たちが眠ると、シルヴァが言う。

「来客をもてなしたいが、あいにくと何もないところだ。これでも食べるが良い」

 聖樹の実を俺とフィロ、カトリーヌの前に置く。

「ありがとうございます。見たことのない木の実ですね」

 フィロは剣士で、魔力の質に敏感ではないので神々しさに気づかなかったのだろう。

「ノエルが言っていた聖樹の実だ。ノエルが種から育てたのだぞ。食べてやってほしい」
「これが、ノエルの育てた……ありがとうございます」
「……なんと。ノエル頑張ったわね」

 フィロとカトリーヌは我が子の育てた聖樹の実を見て感動している。
 一方、シルヴァはカトリーヌに抱っこされて眠っているノエルの匂いを優しく嗅いだ。

「改めて自己紹介しよう。我はこの辺りを担当する聖獣の守護者である」

 親子の再会を優先したため、俺たちは簡易的にしか自己紹介を済ませていない。

「聖獣の守護者とは一体? 先ほどまとめ役とおっしゃっていましたが……」

 そう尋ねたのはカトリーヌだ。

「わかりやすいよう人族の世界の役職に当てはめるならば、領主のようなものだ。まあ、違いも多くあるし、別物だが、領主と考えれば理解しやすかろう。……もっとも、この辺りの聖獣たちは我らを残して全滅してしまったのだがな」
「魔王種か?」

 極めて強いシルヴァがいるのに聖獣が全滅する事態は魔王種ぐらいに思える。
 それも、俺がこの前倒した魔王種より強力な魔王種だろう。

「おお、ティルは魔王種まで知っているのか。その通りだ。魔王種というのは――」

 シルヴァは驚いた後、フィロとカトリーヌに向けて魔王種について解説してくれた。

「ガルガルの父母も、我の家族も犠牲になった。そうしなければ倒せなかったのだ」

 極めて強力な魔王種で、厳しくて激しい戦いだったのだろう。

「残ったのは赤子だったガルガルだけだ。そんなある日、空からノエルが落ちてきたのだ」

 攫われたノエルはテイムされたワイバーンで運ばれていたが、魔物に襲われて墜落した。
 高所から落ちて死ななかったのは、カトリーヌの作った防護結界の魔導具のおかげだろう。

 ノエルを見つけたシルヴァは、魔物を倒しノエルを保護した。

「それからは本当に楽しい日々だった。ノエルは物覚えが良くてな……」

 シルヴァは本当に楽しそうに思い出を語る。
 語り終えたあと、シルヴァは俺たちにも改めての自己紹介を促した。

 フィロとカトリーヌも、丁寧に詳細に自己紹介する。
 フィロは本名と辺境伯家の嫡子であることだけでなく、辺境伯家とは何かまで語る。
 剣聖として、魔物を倒したことも語り、ノエルが攫われた経緯とその後の振る舞いも説明した。

 カトリーヌもノエルが攫われたあと、どのようなことをしていたのかを細かく語る。

 フィロとカトリーヌの自己紹介が終わると、俺の番だ。

「俺はフィリップの戦友で、カトリーヌの兄弟子だ。妹弟子がいたことは知らなかったが」
「ティルは領主と言っていたな? 人族はいつから腐界の領有を主張するようになったのか?」

 シルヴァは首をかしげる。

「本気で領有しようとはおもってないさ。なにせ人族は腐界には住めないからな」
「ならばなぜ領主に?」
「昇進にみせかけた左遷だよ。俺は平民ながら魔物討伐で無視できない功績を挙げたんだが――」


 俺も腐界の領主に任じられた経緯を、それなりに細かく語る。

「そうか。……人族も大変なのだな」

 シルヴァはそう呟いて、ノエルを優しく見る。
 きっと、これから人族の間で暮らしていくノエルを案じているのだろう。

「まあ、俺は腐界をなんとかしたいと思っていたから渡りに船だったよ」

 そう言った後、俺はシルヴァの心配を少しでも軽くするために、笑顔で言う。
「ま、人族の世界もそう悪くないよ。心配してくれた友や師もいるしね」
「……そうか」

 シルヴァはノエルの顔にそっと鼻を付けた。

「……ノエルは人族ゆえ人と暮らすべきだ。そう赤子の頃より言い聞かせていたというに」

 どこか嬉しそうにシルヴァは言う。

「ノエルが残ると言ってくれた。それだけで、我は充分幸せだよ」

 シルヴァは、じっとフィリップとカトリーヌを見る。

「ノエルは人族で、幼子だ。愛してくれる親の元で人里で暮らすべきなのだ」

 俺もそう思う。だが、ノエルの心配もわかる。
 五歳児とはいえ異常に強いノエル抜きで、この地を抑えることができるのだろうか。

 その問いは、我が子が一番大切な、フィロとカトリーヌには発することはできないだろう。

「……ここは奥地だけあって魔物の強さも並ではないはずだ。ノエル抜きで大丈夫なのか?」
「幼子一人いなくなったところで――」
「建前はいい。子供は寝ているからな。本音で話そう」

 ノエルが起きているときならば、強がらなければならないだろう。
 五歳の幼子に心配させるわけにはいかないからだ。

「ノエルは強い。急に背後に現れて杖を突きつけられたとき死を覚悟したほどだ」

 完全に気配がなかったのに、突然強力な魔力反応が背後に出現したのだ。
 一瞬だが、死ぬかと思ったのは本当だ。

「大人でもノエルほど強い魔導師はそういない。俺でもあまり油断できないよ」
「……だがな。我も育ての親として、子に難しいとは言えないのだ。わかるだろう?」

 シルヴァは声を潜めて、フィロとカトリーヌを見ながら言う。

「わかります」
「ええ」

 フィロとカトリーヌも同意する。
 ノエルの両親と、育ての親のシルヴァは共にノエルの幸せを第一に考えているのだ。

 俺は少し考える。
 フィロもカトリーヌもノエルも、シルヴァと人族全体が幸せになれる方法はないだろうか。

(あ、いいこと思いついた)

 俺は考えたことを提案する前に聖樹の実を口にした。
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