最強魔導師は不毛の大地でスローライフを送る ~凶悪な魔物が跋扈し瘴気漂う腐界でも、魔法があれば快適です~

えぞぎんぎつね

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48 母と子

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 ノエルは泣きじゃくりながら、カトリーヌに抱きついている。

「ど、どじで? のえるだって、わがっだの?」

 その姿を見ると普通の五歳児に見える。だが先ほどの魔力は異常だった。

(本気でやったら俺が勝つだろうけど、……魔王種より強いかもな? いや戦闘技術次第か?)

 実戦は、魔力が多くて技術が高い方が勝つというほど単純なものではない。
 それでも天才なのは間違いない。修練を積めば、世界最強になり得るだろう。

 そんなことを冷静に考えながら、泣きじゃくる母子を静かに見つめる。

「そりゃあ、わかるわよ。ずっとずっと、ノエルがいなくなってから毎日毎日、今ノエルはどのくらい大きくなったかなって思い続けていたんだもの」
「ぞっがー」

 なにやら、ノエルは五年前、赤子の時のことを覚えているらしい。
 そして、自分は親に忘れられていると思っていたようだ。

「ノエルも、よくわかったわね。八か月の赤ちゃんだったのに」
「かあさまのこと、わすれるわけない。ぜんぜんかわらないし」
「ふふ、もうお世辞をいえるようになったのね」

 カトリーヌは嬉しそうに泣きながら笑う。

 しばらく前から、ゆっくりと近づいてくる聖獣の気配があった。
 その聖獣はペロぐらい大きな犬で、背中に聖獣の子猫を三匹乗せている。

「えっとな……」

 ノエルが何か言おうとしたが、その前に俺はカトリーヌと犬の間に体を入れる。

「カトリーヌ、下がって」

 聖獣だから大丈夫だろう。だが、戦友の大切な妻と子だ。万一に備えなければならない。

「だいじょうぶ。あれはガルガルで、僕の弟だからな」

 ノエルが優しい声で言う。

「弟?」
「そう。一緒に育った。ってか、お主だれ?」

 ノエルに尋ねられたので良い機会だ。仮面を取って自己紹介する。

「俺はティルだ。ノエルの父上のお友達だよ」
「ノエルの探索を手伝ってもらったの」
「そうだったか。ありがとな?」

 ノエルはお礼を言って微笑んだ。とてもかわいらしい男の子だ。

「気にするな。そして、この牛はモラクス。俺の家族だ」
「もっも~『もらくす、よろしく』」
「モラクスの嗅覚でノエルを探してもらったんだよ」
「おおー、すごい。モラクス、赤ちゃんに見えるのにな?」
「実際赤ちゃんだよ」
「もうも『あかちゃん』」

 どや顔しながらモラクスが尻尾を振る。

「赤ちゃんなのに、人族の言葉をはなせるのかーすごいなー」

 なにやらノエルはモラクスの言葉がわかるらしい。聖獣と一緒に育ったからだろうか。

「よろしくな? いいこいいこ」

 体を押しつけるモラクスの頭を、ノエルは優しく撫でる。

「この子は弟のガルガルでー、背中に乗ってるのが、弟のアオとクロと妹のシロ」
「ノエルの弟と妹なら、私の子も同然ね」

 カトリーヌはガルガルとアオたち子猫を撫でる。
 ガルガルもアオたちも可愛い。俺も撫でたい。

「ぁぅ~」
「「「ごろろごろごろ」」」

 ガルガルとアオたちは人なつこいようで、全く警戒せずに、嬉しそうに撫でられている。

「む!」

 そのとき、ノエルが身構える。

「ガウ」
「ガルル!」

 ノエルが木の枝を構えて犬のように吠えると、ガルガルが身構える。

(あの木の枝……尋常ではないな。神話級の杖か?)

 しかも、ノエルは聖獣の言葉を理解できるだけでなく、自分でも話せるようだ。
 俺はモラクスたちの言葉がわかるが、それはモラクスが人の言葉を話してくれているからだ。

 ペロが「ガウガウ」言っても、人の言葉として理解しているわけではない。
 何となく言いたいことがわかるだけだ。

 もちろん、俺は聖獣の言葉を話すことなどできない。

(聖獣と育ったからか。すごいな)

 俺が感心していると、木々の間からフィロとペロが走ってくるのが見た。
 フィロは仮面を付けていない。

「あ、とうさま?」

 ノエルはフィロを見た瞬間、父だとわかったらしい。

「ノエル! ノエル! よくぞ生きていてくれた!」

 フィロはノエルを抱きあげる。

「……えへへ。ノエル生きてた」
「よかった、よかった。五年も待たせてしまった。本当にすまない」
「いいよぉ」

 ノエルもフィロも嬉しそうに涙を流している。

「ノエルの誘拐も防げなくて……本当に情けなく……」
「とうさまのせいじゃないよ?」

 ノエルは優しくフィロの頭を撫でている。

「ノエルね。とうさまのこともずっと覚えてたよ」
「父もだよ。ノエルのことを忘れたことは一刻もなかった」

 父子が再会を喜んでいると、

「ガルルルルルガウ」
「きゅーん」

 ガルガルがペロに向かって唸り始めた。
 ペロは唸られても、気にせずに、鼻をくっつけようと試みている。

「ガルガル。とうさまと一緒にはしってきたんだから、味方だよ?」
「がる~?」

 ノエルに言われて、ガルガルは首をかしげる。
 きっとガルガルはノエルと、子猫たちを守らないといけないと気を張っていたのだ。

「警戒させてすまない。ノエル、ガルガルそれにアオたちも。この子はペロ。俺の家族だ」
「ペロは、鼻でノエルを探してくれたんだよ」

 フィロがノエルにそう教えると、
「ペロ、ありがとうな? よろしくね?」
 ノエルはペロにもお礼を言う。

「きゅーんきゅーん」
 人懐こいペロは大喜びで、フィロに抱っこされたノエルの顔を舐めている。

「よーしよしよし。ガルガルぐらいでかい犬だな? ガルガルと一緒でまだ赤ちゃん?」
「がう!」
「む、大人の狼なのか。犬そっくりなのにな?」

 やはりノエルはペロの言葉もわかるらしい
 俺も何となくわかるので、聖獣と共に育ったノエルなら当然わかるのだろう。

「ノエル。ペロは子狼だよ」

 ペロが成狼だと見栄をはっていたので、こっそり教えておく。
 モラクスと違って、ペロは大人ぶりたいようだ。

「そっかー、……あ、ママ」

 そのとき突然、ノエルの横に大きな猫が現れた。ノエル以上に気配を感じなかった。

「あのね、ママだよ。ノエルはママのお乳を飲んで大きくなったの」
「我が名はシルヴァ。影歩かげあるきのシルヴァ。この辺りの聖獣の守護者である。そなたたちのことは、天星てんせいのジルカから聞いておる」

 魔物が最も強いと言われる死の山の聖獣の守護者は、伊達ではないらしい。
 魔法を使って、人族の言葉を音として発声している。それは極めて高度な魔法だ。

(ジルカよりも強いな。ノエルより気配を隠すのもうまいし……)

 つまり魔力制御や身体制御が、ノエルやジルカより抜群にうまいのだ。

「ジルカ? だれ? 聖獣の守護者ってなに?」

 尋ねるノエルに、シルヴァは優しく答える。

「聖獣の守護者は、聖獣のまとめ役だ。ジルカは別の地域の聖獣の守護者であるぞ」
「ほえー。そんなものがあるのかー。それにママは聖獣の守護者だったのかー」

 ノエルも知らなかったらしい。

「影歩ってかっこいいな? 天星も格好いい」
「がうがう!」

 ノエルとガルガルがはしゃいでいると、フィロとカトリーヌが丁寧に頭を下げる。

「影歩のシルヴァ様。ノエルの父、フィリップ・オーレル・エルファレスと申します。我が子ノエルを保護してくださったこと感謝の言葉もございませぬ」
「ノエルの母カトリーヌと申します。ノエルを育ててくださったこと誠に感謝いたします」
「よろしく頼む。聖獣たる我に敬語は不要だ。敬語などとというものは人族同士にしか意味がないゆえな」

 ついでに俺も自己紹介をしておく。

「ティル・リッシュだ。人族の国でジルカの領域の領主をしている。ティルと呼んでくれ」
「よろしく頼む。ティル」

 軽く自己紹介を済ませると、シルヴァの巣に向かうことになった。

「人族の身ではこの瘴気は辛かろう。我が巣ならば、多少ましゆえな」
「お心遣い、ありがとうございます」

 フィロが頭を下げると、シルヴァは少し驚いた様子を見せた。

「む? フィリップにカトリーヌ。……瘴気除けの手段があるのか?」
「お気づきになりましたか。これは瘴気除けの護符で――」

 フィロはノエルを大切に抱っこしながら、シルヴァに丁寧に説明する。

 不要だと言われた敬語を使い、敬意を示し続けていた。
 ノエルを保護してくれたシルヴァに対する感謝を示すためだろう。

「護符ってべんりなんだなー? でもかんぜんにはふせげないのかー」

 フィロに抱っこされたノエルがぼそっと呟いたので、
「護符と魔導具を組み合わせて結界を作れば、完全に防げるんだが、固定しないといけないんだよ」
「ほえー。ティルはくわしいな?」
「魔導具作りは得意なんだ。ノエルの母様ほどじゃないけどね」

 目を輝かしているノエルが可愛いいので、俺は思わず頭を撫でた。
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