【プロトタイプ】魔皇帝の息子。無自覚に魔導と錬金を極めて平和に無双する。【旧題 魔法の国の皇子は魔導師ではなく錬金術師を目指すようです。

えぞぎんぎつね

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05 小さな竜と錬金術

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**20180818 少し改稿しました。竜の種類をファードラゴンにしました。


「羽と角が生えている犬もいるんだね。知らなかった」

 竜のことを、ラウルは珍しい犬だと思った。
 全身にモフモフな毛の生えている珍しい竜だったこともラウルを誤解させた。

 ラウルは竜を見たことが初めてだった。
 その上、両親と姉たちから竜の怖さを聞かされていた。
 だから、こんなに小さく、鶏に負けるぐらい弱い生き物が竜のはずがない。
 ラウルはそう判断した。

「あれ?」

 よく見ると竜の足には頑丈そうな罠、トラバサミが食い込んでいた。
 そのトラバサミには魔法がかかっていて、容易には外れないようになっている。
 加えてトラバサミの刃は、魔力を吸い続けているようだ。まるで呪いだ。
 魔力を吸い取られ続ければ、命にかかわる。

「痛そう……。今外してあげるね」
「キイイイイイイ!」

 トラバサミにかけられた魔法は非常に強力だ。
 だが、ラウルにとっては解除するのは難しくはない。

 罠を外すためにラウルが伸ばした手に、竜は噛みつこうとした。

「はいはい。偉い子だから暴れないでね」

 ラウルは右手で竜の口を掴むと、左手でトラバサミを魔法で破壊した。
 トラバサミはかなり深く食い込んでいたようだ。
 トラバサミが外れた個所から血がどくどくと流れている。

「痛いだろうけど我慢して。逃げないでね。すぐ治療するから」
「キキ……」
 小さな竜は助けてもらえたことが分かったのか大人しくなっている。
 それでも警戒は解かず、じっとラウルのことを見つめていた。
 
「少し待ってて。僕は見習いだけど薬師だから」

 ラウルは鞄から、金属製の錬金壺を取り出した。
 魔皇帝城の禁帯出書庫の書物を読んでラウルが自作したものだ。

 神代に失われた製法で作られた錬金壺なのだが、ラウルはそれを知らない。
 普通の錬金壺だと思っている。

 ラウルはその錬金壺を使って、その場で錬金を開始する。

「さっき採集したばかりの薬草が、さっそく役立つね」

 薬草を錬金壺へと放り込んだ。
 その後、水や触媒となる材料を色々入れて、壺の上の空中に魔法陣を描いた。
 すると錬金壺の中身が光り輝いていく。
 ラウルの魔力と材料が反応しているのだ。

 魔力を入れすぎても足りな過ぎても錬金は失敗する。緊張の一瞬だ。
 数秒後、反応が完了して輝きは止まる。

「ふう。ヒールポーションが完成! ……したはず。上手にできたと思う!」
 ラウルは、竜を怯えさせないように、優しい笑顔を浮かべて話しかける。

「少ししみるけど、我慢してね」
「キュゥ」

 ラウルはまず魔法で水を作って傷口を洗い流す。
「キュイィィィ」
「ごめんね、しみたよね。でも傷口を洗わないといけないんだ」

 傷口に土や石を取り込んだまま治癒すると、体内に残ってしまう。
 その場合、傷がふさがったとしても痛みが残る。
 それにじゅくじゅくと膿んでしまう。

 その結果、後で取り出すために、折角ふさがった傷を切開することが必要になる。

 勿論、失血死しそうなほどの重傷なら、何よりも止血が優先だ。
 全てを後回しにして、とりあえずポーションをぶっかける。

 だが、この竜は重い傷ではあるが、今すぐ失血死しそうなほどではない。
 こういう場合は傷口を洗った方がいい。

 これはラウルが書物で学んだのではなく、魔皇国の錬金術師から教えてもらったことだ。
 一般的な錬金術の薬自体の治癒効果は実はたいしたものではない。
 それゆえ、錬金術師は切開、縫合、診断を含めた医療全般の知識を蓄えている。
 あくまで錬金薬の効果は補助的なものに過ぎないのだ。

「一応、傷口をもう一度チェックさせてね」
「キュィ……」
「賢くていい子だね」

 普通の野生動物ならば、ラウルの行為を理解できない。
 治療者を痛いことをする人だと認識して噛みついてきてもおかしくない。
 だが、竜はラウルの行為を治療だと、ちゃんと理解しているようだった。

「よし、石とか傷口には入り込んでないね」
「キュ」
「でも、傷は深いね。それに傷の数も多い」
「キュィ……」
「よっぽどあの大きなにわとりにいじめられたんだね。でも大丈夫だよ」

 竜は罠の効果で魔力を失い、瀕死になっていた。
 当然魔法も使えない。そこをコカトリスに襲われたのだ。
 満足な反撃も出来なかっただろう。

「かなりしみるけど、我慢してね」
「キュィ」

 ラウルは錬金壺からヒールポーションを手ですくって傷口にかける。

「キュイイイイィィィィィ!!」
「ごめんね。あと少しだから、頑張って」

 竜の傷はみるみるうちにふさがっていく。
 あっという間に竜の体からかすり傷一つ無くなった。
 通常の錬金薬ではありえない効果である。
 だが、ラウルはその異常さに全く気付いていない。

「これでよしっと」
「きゅきゅ」

 竜の鳴き声から険が採れた。
 今までは体が深く傷ついていたせいで本能的に警戒し続けていたのだろう。

「傷口はふさがっても、魔力とか体力は回復できてないから安静にしてね」
「きゅっきゅっ!」

 竜は嬉しそうに鳴くと、ラウルの胸元に飛び込んでくる。
 そしてラウルの顔をぺろぺろ舐めた。

「ふふ、くすぐったいよ。お礼を言ってくれてるの?」
「きゅいきゅい!」

 竜はものすごくラウルに懐いていた。
 ラウルの肩に登り顔を舐めて、体をすりすりとこすりつけてくる。
 ラウルも嬉しくなって竜を優しく撫でたのだった。
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