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「オーク視認!」
「右から3匹来ますよ!コタロー!」
「わふ!」
「左からゴブリン4匹!」
「オニキス、サンドラ!」
「きゅい!」
「ひん!」
ダンジョン25階層。
そこは森と平原が広がる場所だった。
先生を助けに行った時は鬱蒼と木々が生い茂る大森林だったけれど、ここはそこまで密集していない。
出てくる魔物は人型が多く、今のところはゴブリン種とオークのみだ。
「オーク肉…」
「あんな見た目で脂が甘いから憎めないですよ…ね!」
言いながら横田さんがゴブリンメイジにナイフを投げつける。
投げたナイフはゴブリンメイジの眉間に刺さり、そのまま光の粒子となり消えていく。
「コボルト視認!」
三橋さんが声を上げる。
「多くないですか?!」
「多分そこそこの数が湧いて溜まっているんでしょう…ね!」
私の疑問に剣を振り抜きオークのクビを跳ねながらユリウスさんが答える。
「フィールド型って湧きの融通がきかないから好きじゃね―んだよなぁ…」
なんて先生がぼやく。
今日の攻略メンバーは私、オニキス、ユリウスさん、サンドラ、先生、田淵さん、横田さん、コタロー、三橋さんだ。

なんとコタローが進化したらしい。
小柴だったのがシベリアンハスキーのようなイケメン犬になっていた。
体色は灰色狼のまま灰色で、でも瞳が以前よりもさらに澄んだ青で体色と相まって格好良かった。
「ダンジョンで自分が討伐した魔石は食べていいということにしていたんですよ」
どうやらテイムした魔物は魔石を好んで食べるらしく、取り込んだ魔石を自分の糧にできるらしい。
どれほどの量を食べれば進化するのかはわからないけれど、魔物は進化することが有るということが実証された瞬間だったと。
丁度その時に白尾さんも同行していたので即座にその情報はダンジョン協会に回されたらしい。
最初は弱くても魔石を食べさせることで進化して強くなる――事もあるかもしれないと。
『灰色狼(劣等種)』だったコタローも『銀狼』というまだ見たことがない魔物に進化していた。
本犬も進化できたことが嬉しかったらしく、そしてヤル気に満ちあふれている。
それを見た我が家のオニキスとサンドラもヤル気を出している。
…あなた達が進化したらヤバいことになりそうだから程々でお願いします。
因みにユリウスさんは特別枠らしく魔石は食べないらしい。
魔物から卒業しましたしね。

まぁそんなわけでヤル気な獣魔達と体を動かしたいメンバーで新たな階層に来たというわけです。

「はぁはぁはぁ、結構鍛えて体力ついたと思ったんですがね…」
田淵さんが息を上げて言う。
「あの異常湧きの再現を見ているのかと…はぁはぁ…」
三橋さんも行きが上がっている。
「マンティコアが出てこないだけマシですけどねぇ…ふぅ」
横田さんはコタローが入る分少しだけ余裕がありそうだ。
「やっぱオークとゴブリンじゃまだまだ手応えがなぁ…」
「そうですね…」
先生とユリウスさんはまだ満足できない様子。
「暇な時に2人でダンジョン潜れば良いのでは?」
先生もなんだかんだでレベルが上ってきて前世のような戦い方が出来るようになってきたようだし。
私がそういえば2人は『あ~…』と言葉を言い淀む。

「まず、こいつが他に行くと女子たちがやばい」
そうでしょうね、ユリウスさんめっちゃ美形ですし。学校でもまだ聞かれるし。
その言葉にユリウスさんは困った笑みを浮かべているだけだった。
「んで、俺たちが他で攻略をするとハイエナが寄ってくる」
「はいえな?」
なんですかそれと聞くと田淵さんが『あぁ…』と教えてくれた。
最近強い探求者の後をついて回りダンジョンの最奥についてくる者が出てきているのだとか。
時折見逃したり持てないと捨て置いたドロップ品をかすめ取る事からハイエナと呼ばれているらしい。
「探求者に何かをしているわけではないからやられた本人が注意する以外は何も出来ず、手をこまねいている状態なんですよ…」
「大変そうですね…」
そんな連中がいるからこそ先生たちの後をついて回る連中も出てくると。
「サンドラに乗って先を急ぐのは?」
「天井が高ければそれで行けるがなぁ…。それに男二人が一緒にっていうのも…な」
2人がサンドラに乗っている姿をイメージする。
サンドラにすごい負担がかかっている絵がイメージできて思わず無しで!と思ってしまう。
「鈴さん、サンドラは普通の馬ではないので男二人が乗るくらい大丈夫ですよ?」
「だめ、女の子には優しくしてあげてください」
思わずサンドラの首に抱きついてしまった。
サンドラはしっぽを揺らしながらも『大丈夫ですよ?』と言わんばかりに頬を擦り寄せてきた。

「…まぁそんな事情でここ以外に行くのはちょっとな…」
「会長さんに調査要請とか回してもらえば良いんじゃないんですか?」
未だに調査が進んでいないダンジョンがいくつもあるのだ、言えば回してくれるだろう。
そういえば先生は頬をかき、ユリウスさんは――なんか絶望したような顔をしている。
「主よ、私は用済みですか…?」
捨てられた大型犬のごとくへによりと眉根を下げるユリウスさん。
イメージはゴールデンレトリバーかな?
「え?なんでそんな話に???」
意味がわからず先生を見た。
「…一応こいつお前の従魔…者だろ?契約で結びついている奴は主からあんまり離れたがらないんだよ…」
「え…」
そんな作用があったんですか?とユリウスさんを見れば相変わらず捨てられたレトリバー状態だった。
「いや、そんな状態でユリウスさんが結婚する時とかどうするんですか…。嫌ですよ?幸せな新婚家庭に小姑のごとく一緒に居ないといけないとか…」
それこそ母や連れ子愛莉並に糞な人間になってしまう。
「主は…私が不要ですか…?」
何故か先程以上に悲壮感漂う顔で言われてしまう。
意味がわからん。
「ユリウス、眞守はまだこっちじゃ成人していないからな?」
「わかっていますよ…」
「俺の目の黒いうちは駄目だ」
「琥珀色ですね…」
どこかで見たようなやり取りがなされている。
「いやいや、どう考えてもそういうのは先生やユリウスさん達が先――」
私の言葉は三橋さんに口を塞がれる事で紡げなかった。
「それ以上はだめです」
「ふぐ?」
「えぇ。でも多分そのうち色々と収まるような気がするので気長に待ってあげてください」
「ふぐ」
口が塞がれているので上手く返事が出来すこくこくと頷いておいた。
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