私の運命は高嶺の花【完結】

小夜時雨

文字の大きさ
53 / 59
終章・女神

王族の一員になり、幸せな新婚生活を送り……、

しおりを挟む
 王族ならではの国民の皆様に手を振る、という今まで縁がなかった悩ましいイベントをやり遂げ、無事に私は王家の一員となった。新聞紙面もかなり好意的にみてくれていて、私を驚異の剛運姫だともてはやされている。たまに剛腕とも揶揄されるが、そこまで私には腕力も知恵もない。やっかみはあるが「あの王子の隣に2本の足で立っていられるだけで凄い人」扱いされているのは解せない。私の見ていない隙にヴィクリス様はアレコレとしていなさるらしいが、私には決してその姿は見せないので、まあいいかと楽観的に捉えている。どちらにせよ私は彼と歩むことを定めたのである。あとからグダグダ言われても、彼だって困るだろう。アネモネス国は脆弱国とかつては馬鹿にされていたが、その長い歴史を飄々と生きてきたのだ、ただの貧弱とは言えまい。

(そう、そのまさか、がこれから起きるとは私も思わなかったし)
考えもしなかった。
 ただ、これから毎日起こりうるヴィクリス様の、この……。

「……起きた?」

沈むだけ沈む寝台に慣れてきた、朝。
目を覚ませばいつもの夫がいた。
朝日が眩しく、瞬きながら目を擦っていると、

「ほら、あんまり擦るとお目目に良くないよ」

と、まるで母親のようなことを言いながら、指先で優しく目元を撫でられ……、じっくりとそこに口づけをされる。そう、じっくり。ようやく離れたのは十数秒後。輝いてるのは朝日のみならず、優れた容貌の夫から放たれる充足感たっぷりの微笑みもだ……。
(……)
あまりにも甘い、甘すぎる。
すら、と肩からかけ布が落ち、影を生み出す首筋と、立派な胸板がお目見えする。
昨日も今日も、夫婦の営みというとんでもない行為を好意込みで行ってきたと言うのに、私はいつまでたっても夫のこの振る舞いに慣れなかった。隠れようとすると、すぐに取っ払われるし。
(うう……)
それでもと両手両腕で顔を交差させて隠すが、私の恥ずかしがりはバレバレなので、あちこちにキスの雨を降らせてくる。腕や手、頭や耳、首には赤い花を咲かせて……。

「んっ」
「可愛い声」

抵抗しなかったわけではない。理想の夫婦像を遥かに超えた甘々に徹底抗戦したことはあったが(それこそヴィクリス様より早起きしたり、執事や侍女たちを部屋に招いてさっさと着替えたり)すると、予想以上の激甘がたちまちに帰ってくる。それらの過程を経て理解したことは、されるがままが一番気力も体力も保つことができるということ。触れ合いは拒絶すると倍にして反撃される。必ず。当日ではなく後日にも。ヴィクリス様は執拗で、執念深かった。
両腕を解放され、しっかりと恋人繋ぎでシーツに力強く縫い止められての上からの集中的な深い口づけ。
あまりにも激しい愛の交歓に、私は涙を幾筋か流しながら受け止めた……。

 未だに慣れないのは夫の激愛だけじゃない。
王族の一員として奮闘しているのだが、私が触れるもの全てが一級品を超えたものばかりなのだ。下手したら数十年前のティーカップとか出てくる。しかも隣国から当時の王妃への友好の証として贈られた品とか。今、私の前にある花瓶だって何百年も前に滅んだどこかにあった国のもの。美しい色合いが歴史を経てさらなる気品を際立たせているが、壊してはいけない気持ちが強くてなかなか今も気軽に使えない。侍女たちが自由にあちこち飾ってるけれど。
 そう、こうして上の立場として人を使わねばならないのも気を遣う。
が、彼らも心得たもので、使われやすいように接してくれるので、まだ壊したらヤバそうな王族由来のものよりは、侍女たちと気軽に喋っているほうが楽だ。女官もいる。女官たちは私がもっとどうすれば活躍できるかと、王家の教育係とともに日夜あーだこーだと相談しているらしい。というのも、侍女たちがあけすけなく教えてくれるからだ。そうすることにより、私の心を軽くしてくれているのだろう。ありがたい。
 何もかもが、至れり尽くせり。
色気すら操作するヴィクリス様に毎日朝から晩まで愛された健康体である私が、そうしてストレスを軽減させてくれて、上にも下にも置かない扱いをされて心尽くされると、どうなるかといえば、そう、子供ができました。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

優しすぎる王太子に妃は現れない

七宮叶歌
恋愛
『優しすぎる王太子』リュシアンは国民から慕われる一方、貴族からは優柔不断と見られていた。 没落しかけた伯爵家の令嬢エレナは、家を救うため王太子妃選定会に挑み、彼の心を射止めようと決意する。 だが、選定会の裏には思わぬ陰謀が渦巻いていた。翻弄されながらも、エレナは自分の想いを貫けるのか。 国が繁栄する時、青い鳥が現れる――そんな伝承のあるフェラデル国で、優しすぎる王太子と没落令嬢の行く末を、青い鳥は見守っている。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

処理中です...