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死而不亡
0. 殉死
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遠くで、無数の叫び声が渦を巻いていた。
壁の向こうではすでに火が回り、焦げた木材と布の臭いが、礼拝堂へと忍び込んでくる。
熱は石壁を伝い、空気を歪ませ、正面に鎮座する女神像の輪郭さえも、陽炎のように揺らしていた。
人影のない礼拝堂、その壇上。
久世はじめのこめかみに、冷たい銃口が押し当てられている。引き金にかかった指の、かすかな震えが、皮膚越しにはっきりと伝わった。
「……久世教祖」
背後の男は、縋るようでいて、ひび割れた声を絞り出す。
「どうか、お許しください。私は、あの人に命じられていて……貴方を殺さなければなりません。
もし失敗すれば、妻と子供が殺される。……それだけではない。故郷ごと、火の海にすると」
言葉はそこで途切れ、荒い呼吸音だけが残った。
「教祖様……どうか。どうか、衆生をお救いください」
久世はじめは、目を閉じ、沈黙を選んだ。
思考の底で、男を冷ややかに見下ろす自分がいる。
彼が編纂した教典に、仏など存在しない。衆生済度という語句も、最初から一文字も記されてはいなかった。
ましてや、教祖が誰かを救う義理など、どこにも存在しない。
だが、こめかみに銃を突きつけられている以上、先がないことだけは事実だった。
銃口の冷たさを受け入れながら、久世はじめは、自身の人生を走馬灯のように辿る。
抗いはした。だが結果は、呆れるほどに救いようのない、欺瞞に満ちた二十八年だった。
沈黙に耐えきれなくなったのだろう。
男はしばらくしてから、弱々しく問いかけた。
「……何か、言い残す言葉はありますか?」
恐れる必要はない。
最期まで、久世はじめという役を演じきると、すでに決めていた。
彼はわずかに口角を上げ、静かに首を横に振る。
ゆっくりと手を持ち上げ、天を仰いだ。その指先の延長線上に、女神像が立っている。何も知らぬまま、慈悲深い微笑みを湛えて。
瞳を細めた、その瞬間。
――乾いた銃声が、礼拝堂を引き裂いた。
衝撃が貫き、視界が白く弾ける。
身体は前のめりに崩れ、壇上から石床へと落ちた。
床の冷たさは、意識の混濁とともに、次第に遠のいていく。
燃え盛る炎の音。遠ざかる悲鳴。
こうして、白苑会の主、久世教祖の物語は、幕を閉じた。
壁の向こうではすでに火が回り、焦げた木材と布の臭いが、礼拝堂へと忍び込んでくる。
熱は石壁を伝い、空気を歪ませ、正面に鎮座する女神像の輪郭さえも、陽炎のように揺らしていた。
人影のない礼拝堂、その壇上。
久世はじめのこめかみに、冷たい銃口が押し当てられている。引き金にかかった指の、かすかな震えが、皮膚越しにはっきりと伝わった。
「……久世教祖」
背後の男は、縋るようでいて、ひび割れた声を絞り出す。
「どうか、お許しください。私は、あの人に命じられていて……貴方を殺さなければなりません。
もし失敗すれば、妻と子供が殺される。……それだけではない。故郷ごと、火の海にすると」
言葉はそこで途切れ、荒い呼吸音だけが残った。
「教祖様……どうか。どうか、衆生をお救いください」
久世はじめは、目を閉じ、沈黙を選んだ。
思考の底で、男を冷ややかに見下ろす自分がいる。
彼が編纂した教典に、仏など存在しない。衆生済度という語句も、最初から一文字も記されてはいなかった。
ましてや、教祖が誰かを救う義理など、どこにも存在しない。
だが、こめかみに銃を突きつけられている以上、先がないことだけは事実だった。
銃口の冷たさを受け入れながら、久世はじめは、自身の人生を走馬灯のように辿る。
抗いはした。だが結果は、呆れるほどに救いようのない、欺瞞に満ちた二十八年だった。
沈黙に耐えきれなくなったのだろう。
男はしばらくしてから、弱々しく問いかけた。
「……何か、言い残す言葉はありますか?」
恐れる必要はない。
最期まで、久世はじめという役を演じきると、すでに決めていた。
彼はわずかに口角を上げ、静かに首を横に振る。
ゆっくりと手を持ち上げ、天を仰いだ。その指先の延長線上に、女神像が立っている。何も知らぬまま、慈悲深い微笑みを湛えて。
瞳を細めた、その瞬間。
――乾いた銃声が、礼拝堂を引き裂いた。
衝撃が貫き、視界が白く弾ける。
身体は前のめりに崩れ、壇上から石床へと落ちた。
床の冷たさは、意識の混濁とともに、次第に遠のいていく。
燃え盛る炎の音。遠ざかる悲鳴。
こうして、白苑会の主、久世教祖の物語は、幕を閉じた。
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