盲目的な献身

耽読者

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罪業深重

25. 白苑会開祖 -3

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あれから2年半の月日が流れた。
大学のインカレゼミで出会った高上たかがみ慧嗣としつぐの協力により、るいは着々と陣容を整えていた。

慧嗣としつぐの紹介により、彼の祖父が経営する製薬会社から敏腕研究員の真壁稔、そして医療ビジネスに精通した鷹宮ひさしが協力者に加わった。
彼らの手によって、るいの「血」を成分とした新薬が完成する。るいはその薬を、人々へ与える神の慈悲になぞらえ、恩寵供与おんちょうきょうよと名付けた。

大学生活の傍ら、るいは着実に人脈を広げていった。ターゲットは、孤独を抱えた資産家や、日々の重圧に摩耗した有力者たちだ。るいは持ち前の美貌と相手の心の隙間に滑り込む話術で彼らの懐へ潜り込み、理解者となる。

相手が心を開き、体調や精神的な悩みを吐露し始めた頃合いを見計らって、るいはごく自然にそれを差し出す。

「これ、僕の知り合いの専門家が作ったものなんです。きっと、今のあなたの助けになりますよ」

るいから与えられた『恩寵供与おんちょうきょうよ』は、劇的な変化をもたらす。るいの生の血に比べれば効果は数分の一にまで希釈されているが、摂取後2週間は心身が軽くなるような穏やかな多幸感が続く。不眠や倦怠感は消え、誰もが「前向きな自分になれた」と錯覚した。

しかし、3週間目に入ると世界は一変する。

薬が切れると同時に、耐え難い空虚感と、何をしていても落ち着かない強烈な禁断症状が襲うのだ。身体への毒性はタバコよりも低く抑えられており、表向きは安全な万能薬として通用する。だが、その精神的な執着は「あの薬がなければ生きていけない」という絶対的な依存へと変わっていく。

るいさん、また……あれを融通してもらえませんか」

彼らはるいを、自分の人生を好転させてくれた唯一無二の恩人として頼り切り、その活動を支援するために巨額の資金を投じるようになった。教団設立に必要な資金は、こうして感謝と依存の対価として、るいの手元へと積み上がっていった。




そして、大学3年の冬。
雪の予感に空が白く濁る夕暮れ、るいはいつものイタリアンバルにみお恒一郎こういちろうを呼び出した。

「二人とも、久しぶりにこうしてゆっくり話せて嬉しいよ」

るいは以前よりもどこか神秘的な、それでいて親しみやすい微笑みを湛えて、二人を見つめた。

「前に、進路が決まりそうって言ってたのを覚えてるかな? 実は今日、その報告に来たんだ。……僕は、宗教を開祖しようと思ってる」

「え……宗教?」

みおがフォークを止めて目を丸くする。恒一郎こういちろうも眉を寄せ、グラスを持ったまま動きを止めた。

「ああ。もちろん、胡散臭い迷信を広めるつもりはないよ。今は宗教もビジネスの一環として、人々の精神をケアするプラットフォームになっている。……みおと僕は、児童養護施設の出身だろう? 僕は、あそこにいた頃の僕たちのような、行き場を失った子供たちを助けられる場所を作りたいんだ」

るいの声は、まるで慈愛に満ちた賛美歌のように滑らかに二人の心に染み渡っていく。

「助けたいって……でもるい、宗教を作るなんて、そんなに簡単なことじゃないでしょ? お金だって、場所だって……」

「大丈夫。実は、僕の理想に共感してくれる強力なスポンサーがついたんだ。資金の目処はもう立っている。……だから、二人には安心して、僕の隣で力を貸してほしいんだ」

るいはそっと二人の手に、自分の手を重ねた。
その手はひどく温かく、拒絶を許さないほどの安心感に満ちている。

最初は戸惑いを見せていた二人だったが、るいの情熱的で筋の通った説明、そして「恵まれない子供たちのため」という大義名分を前に、次第にその表情が和らいでいった。

るいがそこまで真剣に考えてたなんて知らなかった。……私、るいの役に立ちたい。るいが作ろうとしてる場所が、誰かの救いになるなら、私、全力で手伝うよ!」

みおが力強く頷くと、恒一郎こういちろうもふっと息をつき、静かに首を振って笑った。

「……宗教か。お前らしいと言えば、お前らしいな。ただのボランティアじゃなく、組織として本気でやるなら、俺の知識も役に立つだろう」

「ありがとう。……心強いよ、二人とも」

るいは満足げに目を細めた。

「じゃあ、新しい門出に乾杯しようか」

三人のグラスが重なり、澄んだ音が店内に響く。
久世くぜるいを頂点とする教団が、ついにその産声を上げた瞬間だった。
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