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罪業深重
28. 白苑慈育院火災事件 -2
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累は、逃げ延びた安堵を噛みしめる間もなく礼拝堂の重い扉を閉ざした。
壁に立てかけられていた、儀礼用の長い真鍮製の杖を手に取り、それを取っ手の間に差し込む。
これで、あの飢えた獣たちはすぐには入ってこれないはずだ。
累は安堵した途端、その場に崩れ落ちた。
「はっ……はぁっ……、ひゅ……っ」
喉の奥からせり上がる凄まじい嘔吐感。
累は冷たい石床に膝をつき、胃の中にあるものをすべてぶちまけた。
引き裂かれた衣服、肌に残る男たちの湿った唾液の感触、そして首筋や肩に刻まれた生々しい歯型の痛み。それらが、かつて自分を陵辱した佐々木大地の残影と重なり、耐え難い自己嫌悪となって彼を襲う。
汚された体から一刻も早く目を逸らしたかった。彼は祭壇の脇に供えられていたベルベットの厚い布をひったくるように手に取ると、震える肩に羽織って、惨めな肢体を隠した。
これは、最初から仕組まれていた罠だ。
本来、依存性を抑えていたはずの『恩寵供与』の錠剤が、なぜこれほど短期間で人を獣に変える劇薬に変質したのか。職員全員が同じ症状に陥っている以上、夕食に致死量の原液、あるいはさらに強力な何者かの毒が盛られていたに違いない。
その時、扉の向こうから地響きのような音が届いた。
「教祖様! 教祖様ぁ! 血を……っ、その血を!!」
「開けてください!!開けろ!!」
扉を掻きむしる無数の爪の音。そして、パチパチと木材が爆ぜる不吉な音が廊下から忍び寄ってくる。西棟から回った火は、すでにこの礼拝堂のすぐ近くまで迫っていた。扉の隙間からは、熱風と黒煙がじりじりと這い入ってくる。
もう、外へは逃げられない。
累は、礼拝堂の中央に鎮座する女神像を見上げた。
絶望的な状況下で、唯一変わらぬ慈悲を湛えて微笑む石像。彼は吸い寄せられるように、震える足取りで壇上へと上がった。
だが、そこには先客がいた。
「……あ」
壇上の影から、一人の男が音もなく姿を現した。
昼間、中庭で会釈を交わした、あの用務員だ。
累が声を上げる間もなかった。
冷たい鉄の感触が、累の右のこめかみに押し当てられる。
引き金にかかった指が、皮膚越しに微かに震えているのが分かった。
外には血に飢えた狂信者と、すべてを焼き尽くす炎。そして目の前には、自分に銃口を突きつける男。
累は、ゆっくりと空を仰ぎ、深く、静かな息を吐き出した。
自身の死を受け入れるように、あるいはこの長く苦しい役回りから解放されることを望むように。その瞳からはすでに一切の抵抗の意志が消え、硝子細工のような虚無だけが宿っていた。
男が、ひび割れた声を絞り出した。
「……久世教祖」
壁に立てかけられていた、儀礼用の長い真鍮製の杖を手に取り、それを取っ手の間に差し込む。
これで、あの飢えた獣たちはすぐには入ってこれないはずだ。
累は安堵した途端、その場に崩れ落ちた。
「はっ……はぁっ……、ひゅ……っ」
喉の奥からせり上がる凄まじい嘔吐感。
累は冷たい石床に膝をつき、胃の中にあるものをすべてぶちまけた。
引き裂かれた衣服、肌に残る男たちの湿った唾液の感触、そして首筋や肩に刻まれた生々しい歯型の痛み。それらが、かつて自分を陵辱した佐々木大地の残影と重なり、耐え難い自己嫌悪となって彼を襲う。
汚された体から一刻も早く目を逸らしたかった。彼は祭壇の脇に供えられていたベルベットの厚い布をひったくるように手に取ると、震える肩に羽織って、惨めな肢体を隠した。
これは、最初から仕組まれていた罠だ。
本来、依存性を抑えていたはずの『恩寵供与』の錠剤が、なぜこれほど短期間で人を獣に変える劇薬に変質したのか。職員全員が同じ症状に陥っている以上、夕食に致死量の原液、あるいはさらに強力な何者かの毒が盛られていたに違いない。
その時、扉の向こうから地響きのような音が届いた。
「教祖様! 教祖様ぁ! 血を……っ、その血を!!」
「開けてください!!開けろ!!」
扉を掻きむしる無数の爪の音。そして、パチパチと木材が爆ぜる不吉な音が廊下から忍び寄ってくる。西棟から回った火は、すでにこの礼拝堂のすぐ近くまで迫っていた。扉の隙間からは、熱風と黒煙がじりじりと這い入ってくる。
もう、外へは逃げられない。
累は、礼拝堂の中央に鎮座する女神像を見上げた。
絶望的な状況下で、唯一変わらぬ慈悲を湛えて微笑む石像。彼は吸い寄せられるように、震える足取りで壇上へと上がった。
だが、そこには先客がいた。
「……あ」
壇上の影から、一人の男が音もなく姿を現した。
昼間、中庭で会釈を交わした、あの用務員だ。
累が声を上げる間もなかった。
冷たい鉄の感触が、累の右のこめかみに押し当てられる。
引き金にかかった指が、皮膚越しに微かに震えているのが分かった。
外には血に飢えた狂信者と、すべてを焼き尽くす炎。そして目の前には、自分に銃口を突きつける男。
累は、ゆっくりと空を仰ぎ、深く、静かな息を吐き出した。
自身の死を受け入れるように、あるいはこの長く苦しい役回りから解放されることを望むように。その瞳からはすでに一切の抵抗の意志が消え、硝子細工のような虚無だけが宿っていた。
男が、ひび割れた声を絞り出した。
「……久世教祖」
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