盲目的な献身

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罪業深重

27. 白苑慈育院火災事件 -1 ※

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白苑会が開祖して、4年。

その勢力拡大に伴い、2年前に設立された児童養護施設 白苑慈育院はくえんじいくいんへの視察は、るいにとって重要な公務となっていた。

出発の際、るいは自分を見送る慈恩ツーエンの頭を優しく撫でた。

慈恩ツーエン、今日は慈育院に泊まってくる。遅くなるから、私の帰りを待たずに先に休んでいなさい」

慈恩ツーエンは言葉を返す代わりに、微笑み、深く頷いた。その無垢な仕草に見送られ、るいは信徒を一人連れて施設へと向かった。

白苑慈育院は、白を基調とした清潔な建物だった。施設長の渡貫わたぬきは、恭しくるいを出迎える。

「教祖様、お待ちしておりました。子供たちも、あなたが来るのを指折り数えて待っておりましたよ」

「ありがとうございます、施設長。皆の顔を見るのが楽しみです」

視察の間、るいは多くの子供たちに囲まれた。プレイルームに入れば、小さな子供たちが一斉に駆け寄ってくる。

「はじめ様! あのね、この前言ってた絵本、全部読めるようになったよ!」

「僕も! 僕、大きくなったら白苑会の導師様みたいに、みんなを助ける人になりたいんだ!」

るいはしゃがみ込み、子供たちと同じ目線で微笑んだ。

「それは素晴らしいね。君ならきっと、優しくて強い大人になれる。……さあ、その絵本、私にも聞かせてくれるかな?」

子供たちの屈託のない笑い声に包まれる時間は、るいにとって数少ない、張り詰めた神経を緩められるひとときだった。

るいは子供達としばらく遊んだ後、プレイルームを後にした。

中庭を通って宿泊棟へ移動している時、西棟の影で、一人の用務員が落ち葉を掃いていた。るいが通りすがりに軽く会釈をすると、その男は一瞬動きを止め、深く被った帽子の下で視線を泳がせた。

どこか落ち着きのない動作に、るいは微かに眉をひそめたが、施設長が「彼は少し対人恐怖がありまして」とフォローしたため、納得した。

夕食の時間も、子供たちとの会話は弾んだ。

「教祖様、このハンバーグおいしいよ!」
「こっちのお野菜も食べて!」

献身的に振る舞われる料理を口にしながら、るいは子供たちの他愛ない話に耳を傾けていた。
ただ、配膳する職員たちの顔が妙に赤らんでいるのが目に付く。熱でもあるのだろうかと疑ったが、子供たちの無邪気な問いかけに応じているうちに、波紋のように消えていった。

夜。宿泊室で眠りにつこうとしたその時、けたたましい火災報知器の音が静寂を切り裂いた。

直後、ドアを叩き壊さんばかりの音が響く。るいが扉を開けると、そこには血走った目の施設長が立っていた。

「教祖様! 西棟で火災です、早く避難を!」

るいの顔が険しくなる。西棟には、先ほどまで笑い合っていた子供たちの寝室があるのだ。

「子供たちが……すぐに確認しなくては」

避難を促す施設長に従い、るいが背を向けたその瞬間だった。

背後から、獣のような力で床に押し倒された。

「……っ、何を!?」

状況が理解できぬまま、左の肩口に鋭い痛みが走る。渡貫がなりふり構わず、るいの肉を食いちぎらんとする勢いで噛みついたのだ。

るいは痛みに呻き、必死に施設長を突き飛ばした。
肩からは鮮血が滲み、施設長はそれを恍惚とした目で見つめ、舌なめずりをしている。その異常な行動に、るいは戦慄した。この男は致死量の『恩寵供与』を口にしている。

るいは施設長から逃れるように、よろめきながら外へ飛び出した。

夜の闇を裂くように、西棟から激しい火の手が上がっている。

ちょうどそこに同じく避難してきた信者と鉢合わせる。

「教祖様!ご無事でしたか」
「ああ、だが子供たちがまだ中にいる」

信徒に声をかけ、るいは燃え盛る建物へと飛び込んだ。煙が立ち込める中、泣き叫ぶ子供たちを一人ずつ抱き抱え、外の信徒へと受け渡していく。

「あとは……まだ奥に誰かいるのか!」

「教祖様! 奥の部屋にまだ子が! 助けてください!ああっ!」

煙の向こうから職員の声が響く。るいは信徒に避難を指示し、一人で熱風渦巻く廊下を突き進んだ。
しかし、辿り着いた奥の部屋に、子供の姿はなかった。

扉が不気味な音を立てて閉ざされ、そこには六人の職員が待ち構えていた。いずれも瞳孔は開き、よだれを垂らし、飢えた獣の眼差しでるいを凝視している。

その瞬間、るいの全身に粟立つような鳥肌が立った。

生理的な嫌悪感が背筋を駆け抜け、喉の奥が引き攣れる。本能が、一刻も早くこの場から逃げろと警鐘を鳴らしていた。

るいが踵を返した瞬間、一人の男が地を這うような速さで床を滑り、るいの足首を強く掴んだ。

「――っ! 放せ!」

バランスを崩し、るいは床に叩きつけられる。

そこからは、地獄だった。
六人の男たちが一斉に群がり、るいの四肢を抑え込む。一人はるいの手首を床に縫い付け、一人は剥き出しになった太ももに顔を埋めて、熱を帯びた舌で、まるで吸い付くように執拗に肌を舐め回した。

別の一人は、るいの首筋に深く鼻を押し付け、肺の奥まで吸い込むようにその香りを貪る。

「ああ、なんて良い匂いだ……教祖様の血が、この中で、脈打っている……っ」

首筋に、腹部に、足の甲に。汚れた唇と歯が次々と押し当てられ、吸い上げられ、噛みつかれる。引き裂かれた衣服から露出した白い肌が、男たちのよだれと自身の血で汚れ、汚濁にまみれていく。

「ひ、あ、っ、やめ……っ!」

喉元を甘噛みされ、腹部を汚濁した舌で弄られるたび、るいの体は拒絶と恐怖で弓なりに跳ねた。しかし、その震えさえも彼らの嗜虐心を煽る薪に過ぎない。

るいの脳裏に、かつて佐々木大地に陵辱された記憶が鮮明にフラッシュバックした。

「やめろ……嫌だ……嫌だッ……!」

声にならない絶望が唇から零れ落ちる。圧し掛かる男たちの重圧、逃げ場のない密室、絶え間なく肌を侵食する汚らわしい感触。すべてがあの日の地獄と重なり合い、現実と過去の境界が溶けていく。るいの呼吸は浅く、激しく乱れ、やがて過呼吸の波が彼の意識を飲み込み始めた。

「ひゅ……っ、あ、あぁ……っ、は、はあッ……!」

視界が白濁し、意識が遠のきかけたその時――。
激しい音と共に天井の瓦礫が崩れ落ちた。
るいの胸元に顔を埋めていた男の頭を直撃し、男は悲鳴を上げて転げ落ちる。拘束が一瞬だけ緩んだ。

「――っ!!」

るいは死に物狂いで、自身の四肢を掴む手を振り払い、炎が迫る廊下へと飛び出した。

背後から追いかけてくる獣たちの咆哮を振り切り、奥にある礼拝堂を目指して走った。
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