囚われの姫は嫌なので、ちょっと暴走させてもらいます!~自作RPG転生~

津籠睦月

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第1部 魔王の妃なんて、とんでもない!

第4章 アリーシャ、スられる

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 下の階へつながる階段の前には、いつものように衛兵が待ちかまえていた。
 私は顔を隠すようにうつむいて、ダッシュでその脇をすり抜ける。
 
「おい、ちょっと待て、そこのメイド」
 声をかけられるが、無視して階段を駆け下りる。
 
「廊下を走るんじゃないぞー!」
 ……良かった。バレてはいないようだ。
 ホッと胸をなで下ろす。だが、ピンチはまたすぐにやって来た。
 
「お……おぉおぉっ!? そこのメイド……ちょっと待て」
「やば……っ、ジェラルド王子……っ!?」
 
 私は逃げようとした。だが、回り込まれてしまい逃げられない。
 ジェラルド王子は逃すまいとするようにギュッと手を握ってきた。
 
「お前……っ、アリーシャによく似ている・・・・・・ではないか!こんな娘がこの城で働いていたとは……。お前、私と結婚を前提に交際しないか?」
 
 ……いや、何でバレないんだろう。
 そして妹と同じ顔の女に交際を迫る兄王子というのはどうなんだろう……。
 
「お断りします!セクハラで訴えますよ!」
「そ……それは困る!昨今、王族と言えど国民の目とコンプライアンスは厳しいのだ……!」
 王子がひるんだスキに手を振りほどき、私は再び走り出す。
 
 その後も廊下ですれ違う人々に「あのメイド、王女様に似てないか?」と言われるものの、不思議と誰も、私が王女本人だとは思っていないようだった。
 考えていたよりもアッサリと、私は城の外へ出ることに成功した。
 
 初めて外から眺めるシェリーロワール城は……あの廊下以上にカオスだった。
「ちょ……っ、アレ、2階が宙に浮いてるけど、いいの!? 崩れて来ないの!?」
 
 見た目こそ白壁に赤い屋根でメルヘンだが、全体のバランスがおかしい。
 明らかに2階部分が1階より大きく、はみ出した部分が思いきり宙に浮いている。
 
「お嬢さん、何をそんなに驚いてるんだ?2階の方が1階より広いんだから、宙に浮くのは当たり前じゃないか」
 お城の庭師が「何をそんなに驚いてるんだ?」という顔で通り過ぎていく。
 
 ……確かに、建築上の常識や整合性なんて全く考えずに設定したから、シェリーロワール城は1階より2階の方が面積が広い。
 それがこんな形で実体化するなんて……。
 
「……そっか。この世界ではウチらの世界の物理法則は通用しないんだ。こんなのも "当たり前" なんだ。……って言うか、シェリーロワール城でコレだったら、大帝国のクリスパレスとか機巧帝国の例の塔とか、どんなことになってるんだろう……」
 先行きにそこはかとない不安を感じながら私は坂を下っていく。
 
 シェリーロワール城は白い岩でできた山の頂上にあるのだが、その山の中腹からふもとにかけて広がっているのが城下町である「シェリーロワールの町」だ。
 ふもとに下りて見上げると、シェリーロワール城はまるでイチゴの載ったデコレーションケーキのように美味しそうに……いや、「可愛らしく」見えた。
 
「えっと……まずは武器屋さんからかな……」
 勇者の家は町の外れにある。
 先にメインストリートで買い物を済ませてから向かった方が二度手間にならなくて良いだろう。
 
「すみませーん、このお店で一番高い剣ください」
「まいどあり!だが、お嬢さんはこの剣を装備できないようだが、いいのかい?」
「いいんです。プレゼント用なんで。……って言うか素朴な疑問なんですけど、何でお客を見ただけで装備できるかどうか分かるんですか?」
 長年の疑問をついでにぶつけてみると、武器屋の店主はフッとニヒルに笑った。
「長年の修業のたまものさ。ソレが分からんと武器屋の主人は務まらないんでね。おっと、修業方法は企業秘密だぜ」
 ……なるほど。ゲームシステムの謎な部分はヒミツだの何だのとウヤムヤにされて結局は分からない仕組みになっているのか。
 
 私は買った剣をポケットに入れて・・・・・・・・次の目的地である防具屋へ向かう。
 ……そう。この世界のアイテムは、何であろうと、何個あろうと無限にポケットにしまえてしまうのだ。
 しかも、服を着替えても、なぜか前の服でポケットに入れたものがちゃんと出て来る。
「…… "どうぐぶくろ" も無いのに、大量のアイテムをどこに持ってるのかって、疑問ではあったんだよねー……。まさかポケットとは……」
 剣と同様、防具屋で買った鎧と盾もメイド服のポケットにしまい込む。まるで某国民的アニメの猫型ロボットにでもなった気分だ。
 
「さて、と。あとはどうにかこの武器防具を勇者に押しつけ……渡すだけか。見知らぬ女の子から急に武器防具をプレゼントされて、受け取ってもらえるかなぁ?」
 
 勇者の家へ向かいながら、頭の中で作戦をシミュレートしていると、道の途中に可愛らしい猫を発見した。
 灰色の躯に黒いシマ模様……現実世界で言うところのアメリカン・ショートヘアのような猫だ。どこかの飼い猫なのか、毛並が良く、首には黒革の首輪をしている。
 
「ニャーン?ナーオ?ミャアァァ?」
 私は現実世界でもそうしていたように、猫語によるコミュニケーションを試みる。
 大概の猫は相手にしてくれないのだが、この猫はなんと返事をしてくれた。
「マオー」
「な……なんというカワイコにゃん……!そっかーぁ。君はニャーンでもミャアでもなくてマオーなんだね」
 
 猫の鳴き声も、よく聞けばいろいろ個性があるのだ。「ヴュニャー」と鳴くコもいれば「メォー」と鳴くコもいるし「オカェリー」とか「マグロウマイナー」と鳴くコもいるのだ。
 すっかり道端の猫にメロメロとなった私は、迫り来る危機に気づくことができなかった。
 
「……ッ、ぷぎゅっ!?」
 向こうから走って来た男に急にぶつかられ、私は思わず悲鳴を上げた。
「痛……っ、何……!?」
 だが男は私を振り返りもせずに駆け去っていく。私の悲鳴に驚いたのか、いつの間にか猫もいなくなっていた。
 
「ちょ……っ、謝りもしないなんて、サイテー!」
 ぷりぷり怒りながら再び勇者の家へと歩き出した私に、通りすがりのおじさんが心配そうに声をかけてくる。
「お嬢さん、大丈夫かい?さっきの男、スリなんじゃないかい?」
 
「え?スリ!? あ、でも今、所持金なんてちょっとしか……」
 勇者用の武器防具にほとんど使ってしまったので、お金など駄菓子が1、2コ買えるくらいしか残っていなかったはず……。
 そう思いながらポケットを探り……私は思わず絶叫していた。
 
「な、無いっ!? 買ったばっかりの武器防具が……なくなってる!」
 それどころか城内で見つけた薬草も残りわずかなお金も無い。ポケットの中もサイフの中身もすっからかんになっている。
 
「どうやって盗ったっての!? スリってレベルじゃないんだけど!?」
 ゲームシステムに文句を言っても仕方ないだろうが、私はそう叫ばずにはいられなかった。
 
 だが、叫びながらふと気づく。
 所持品を全て盗まれて途方に暮れる少女――そんなシチュエーションに、私はものすごく心当たりがある。
 
 その時、音声だけでも清涼感が伝わってくるような爽やかな声が背後から聞こえてきた。
「君、どうしたんだ?何か困ってるのか?」
 振り向いた先にいたのは見知らぬ青年だった。だが、私は確信する。
 
 彼は、勇者だ。
 そしてこれは、私が創君にプログラミングさせた "勇者と王女の出逢い" のシーンなのだ。
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