囚われの姫は嫌なので、ちょっと暴走させてもらいます!~自作RPG転生~

津籠睦月

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第1部 魔王の妃なんて、とんでもない!

第8章 アリーシャ(Lv1)はワルツを踊れない

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 で、出た。クリスティアーノ、略してクリア。
 透明クリアの名に全くふさわしくない二重人格ヤンデレ皇子。
 
 レッド、ブルー、グリーンと来て次が透明クリアなことにツッコんではいけない。
 イエローやピンクは難易度が高過ぎたのだ。いたしかたない選択なのだ。
 
「お噂はかねがね伺っておりましたが、まさかこれほどお美しい方だとは……。お誕生日、おめでとうございます。ぜひともこれを機に、個人的に親しくしていただきたいのですが……」
 
 銀髪にアイスブルーの瞳という、一見すると冷たく見える容貌を、柔和な笑みで見事にカバーし、穏やかで優しげな印象を造り上げているが……私は知っている。
 この男が王女を幽閉した挙句「私の妃となるか、ここから一生出られずに過ごすか、どちらか選びなさい」などと上から目線に二者択一を迫ってくる、心の闇の深い皇子だということを……。
 
「オホホホホ。おたわむれを。我が国は中立国。ひとつの国とだけ特別親しく交わることなどいたしませんわ」
 取って付けたようなお姫様言葉でやんわりと拒絶する。
 心情的に「ヤンデレ男などお断り」というのもあるが、そもそも中立国の姫が大国のひとつに嫁いだりなどすれば、危うい均衡の上に成り立っていたこの世界のパワーバランスが崩れるのだ。
 
「……私は国と国とのお話をしているのではなく、あくまで個人的なおつき合いのことを申し上げているのですが……。まぁ、良いでしょう。初めてお会いしたばかりの姫君に、しつこく迫るのも無粋ぶすいというもの。今宵はダンスをお相手いただけるだけで満足いたしましょう」
 そう言ってクリアが優雅に手を差し出したその時、宮廷楽団が音楽を奏で始めた。
 
 クラシック風の典雅なアレンジになっているが、これは間違いなく例のオクラホマ・ミキサーの曲『藁の中の七面鳥ターキー・イン・ザ・ストロー』だ。
 気づけば私はクリアのリードでいつの間にかオクラホマ・ミキサーの体勢をとらされていた。招待客たちも次々周りに集まり出し、フォークダンス用の大きな輪を作っていく。
 
「珍しい趣向ですね。ワルツではなく伝統的な輪舞とは。しかし、これならば誰にでも貴女と踊る機会チャンスが与えられる。世界一の美姫と名高い貴女をめぐる争奪戦を防ぐ、良い手段なのかも知れません」
 クリアは勝手に深い考察をして一人うなずいている。
 ……いや、単に私の踊りのレパートリーが少ないっていうだけの話なんだけど……。
 
 曲が一巡りしてパートナーが交替する。次の相手はブルーだった。
「……コレ、あんたの選曲なんだってな。珍しいな。王侯貴族は、庶民も好むフォークダンスなんて、小馬鹿にして踊らないと思ってたのに」
 既に敬語がなくなっている。さすがはヤンキー気質のヤンチャ王子だ。
 
「ヘ……ヘンですよね、やっぱり。でも私、ワルツとか苦手で……」
 苦手どころか全く踊れないのだが、そこは伏せておく。ブルーは軽く目を見開いた。
「奇遇だな。オレもだ。ワルツは肩がってな……。こういう踊りの方が気楽に楽しめていい」
 
 そう言ってニカッと笑った顔は少年のようだった。
 普段は恐そうな男が時折見せる少年のような笑顔……ギャップ萌えまで仕込んでくるとは、創君も意外とやるな。
 
 ブルーの次のお相手は……
「あっ、創君。創君と踊るなんて初めてだよね?学年違うから、いつも創君にたどり着く前に曲終わっちゃうし……」
「……いい加減、その創君っていうの、やめてもらえますかね。私にはユース・イジュオーサって名前があるんですから」
 
 そっか。創君には現実世界での記憶が無いんだっけ。
 それで "創君呼び" だと、ずっと他人の名前で呼ばれ続けているようなものだよね。
 
「分かった。じゃあこっちの世界にいる時の創君はユース君って呼ぶね」
「いえ、私はアリーシャ様より下の身分なんで。君付けはいらないんですが」
「え……?じゃあ、ユース……って、いきなり呼び捨て?や、やだっ。私たち幼馴染だけど、そういう関係じゃないじゃん……っ」
 
 私が戸惑って顔を真っ赤にしているのに、創君ユースはしらけた顔で言い放つ。
「いや、レッドのことは普通に呼び捨ててましたよね?こんなことで照れられても、こっちが困ってしまうんですが」
 
 そうだった。創君はこういう奴だった。
 物心つく前から一緒にいた隣の家の幼馴染と言えど、思春期になれば、相手を意識してドギマギすることのひとつやふたつ、あっても良いと思うのに……創君ときたら私に対する態度がまるで "妹を下僕のようにコキ使う横暴な兄" でしかないのだ。
 
「もうっ、ユース・・・ってば、乙女心の機微が理解できないようじゃ、いつまで経ってもモテないんだからねっ」
 すさまじい違和感と抵抗感を覚えながらも、何とかユースを呼び捨てる。
 照れたら負けだ。照れたら、またあの冷めた目で「何照れてんですか。意識してるんですか」とツッコまれる。
 
「ダンスは照れないのに呼び捨ては意識するとか、そもそもそのビミョウな差が理解不能なんですが……」
 
 だって、ダンスは今回踊らないわけにはいかないものだし。
 だけど名前呼び捨ては……ゲームの中のキャラ相手なら普通にできても、現実世界で知っている相手だと、どうしても照れる。
 だって、いつか名前を呼び捨てる相手は、私にとっての "特別な人" と、ひそかに夢見ていたのだ。
 
「……当たり前ですけど、これだけ踊っても大丈夫になったんですね」
 
 パートナーを交替する間際、ユースがひとり言のようにつぶやいた。「え?」と思って訊き返したかったが、次のパートナーが話しかけてきて、それどころではなくなってしまった。
 
 音楽はまだまだ続く。
 私が踊りから解放されるまでには、まだしばらく時間がかかりそうだった。
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