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第1部 魔王の妃なんて、とんでもない!
第9章 アリーシャ、今さらフラグを拾う
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「はぁー……っ、疲れた……っ」
動きづらいドレス姿で何十人ものダンスの相手を務め、さすがに私はヘトヘトに疲れていた。
中庭に面したテラスに出て涼んでいると、ふいに後ろから美しい声が響いた。
「タウリン1000mg!」
まるで栄養ドリンクの謳い文句のようなその掛け声の直後、明るい黄色の光がキラキラと私の周りで弾けて消えた。
「お疲れは取れましたかな?姫様」
言われて気づく。さっきまで身体を覆っていた疲労感が綺麗さっぱりなくなっていることに。
そう言えばさっきのアレは、私と創君が設定した回復魔法の呪文だった。mgの前の数字が変わることで、回復値と魔力の消費量が変わるのだ。
「ありがとう。あなたは……?」
ふり向き、私は軽く目を見開いた。
雪のように白い髪に、紫の瞳、そして人間ではあり得ない長い耳……この人、エルフだ。
「おや。しばらくお会いできないでいるうちに、じいのことを忘れてしまわれましたか。宮廷魔術師パープロイ・ルピナスでございますよ」
「『じい』だなんて……そんなに若いのに……」
「エルフは長寿ですからね。私ももう325歳。姫様からすれば充分『じい』ですよ。幼い頃はあんなに親しげに『じい、じい』と呼んでくださったのに……もうそう呼んではいただけないのですね……」
パープロイは魔術師のローブの長い袖で顔を覆い、悲しげに泣き真似をする。
「あぁあぁ……っ!ご、ごめんなさいっ!呼ぶから!今でも!えっと……じい……や、さん?」
さすがに「じい」と呼び捨てにはできずにちょっと変えてみるが、すぐにパープロイから注文が入る。
「できれば『さん』付けは無しでお願いします」
「……じいや」
「はい。貴女のじいやでございますよ、姫様」
パープロイは心底嬉しそうに笑いかけてくる。「じいや」呼びを嬉しがるなんて、どういうシュミをしているのだろう。
「改めまして、本日は15歳のお誕生日おめでとうございます。実はじいやから姫様にとっておきの贈り物がございましてな……」
パープロイはローブのポケットに手を入れ、何やらゴソゴソ探ってから2枚のお札を取り出した。
「まずはこちら。 "壁抜けの魔法符" でございます」
……あ、コレ知ってる。既に1枚持ってる。
「魔法符とは姫様もご存知の通り、魔力の有無に関係なく誰でも魔法を発動できる、1回限りの使い捨ての魔法道具。今回のコレにはじいやの特別な魔法を籠めておりましてな、どんなに厚い壁であろうとすり抜けられるという力を持っているのです」
……なるほど。そういうアイテムだったんだっけ。
「お次はコチラ! "町娘の服" でございます」
続いてパープロイが取り出したのは一着のエプロンドレスだった。
既に持っている "メイド服" と型がよく似ているが、こちらはエプロンの下のワンピースが明るい色の花柄で、布地はやや質素な気がする。
「姫様は前々から『一度で良いから町に下りてみたい』とおっしゃっておいででしたな?その "壁抜けの魔法符" を使えば、衛兵の死角から壁を抜けて城外へ出ることができましょう。それに、その "町娘の服" で変装なされば、誰にも姫様であるとは気づかれますまい」
その説明に、私は閃いた。
この "町娘の服" 、さては例の "メイド服" の下位互換アイテムだな。そしてどちらのアイテムにも、装備すれば王女と分からなくなるような "変装" 効果が付いている……。
……創君、フラグ管理失敗してるよ。
欲望のままメイド部屋にメイド服とか仕込むから、こんなことになるんだよ……。
そもそも先に変装すれば、壁抜けの魔法符使わなくても全然イケたし……。
「姫様が "籠の鳥" でいらっしゃるのを、じいやは常々憂慮しておりました。たまには城の外で羽を伸ばしてくだされ」
「あ……ありがとう。大事に使うね」
城の外へは1回出ているので "今さら感" が半端なかったが、さすがにそれは言い出せず、私はぎこちない笑顔でプレゼントを受け取った。
「あぁ、そうそう。町はお城の中とは違って、全くの安全とは言えませんから、くれぐれもお気をつけください。特に、スリには気をつけて」
これも、今さらなアドバイスだなー。……って言うかコレ完全に、町でスリに遭うってことの前フリだし……。
「あっ、そうだ!パープロイさ……じいやは、エルフなんだから魔鏡の森出身だよね?魔王について何か知らない?弱みとか弱点とかウィークポイントとか」
魔界へつながる魔鏡の森は、いくつかエリアが分かれていて、一番人間の世界に近い外側のエリアにはエルフの郷などが存在している。
パープロイは私の唐突な質問に面喰ったようにしながらも、真剣に答えてくれた。
「魔王……ですか。さて……どうも最近、魔王の代替わりがあったようでしてな。新魔王のことについては、じいやもとんと知らんのですよ」
「そっかぁ……残念」
「ですが、代が替わったということは、近々、新たな魔王妃を迎えるための "嫁探し" が始まるでしょうなぁ……。姫様はこの世界で一番の美貌を誇る御方ですから、魔族に目をつけられぬよう、注意せねばなりませんな」
パープロイは難しい顔で一人ウンウンとうなずいている。
しかし「注意せねば」と言いつつも、自らが提案した "姫様お忍び計画" は止めない。
安全じゃない城の外で魔族に目をつけられるかも知れないのに。
こういう所がご都合主義だよなー……と、自分の作ったゲームのユルさに自分でしみじみする。
そこで私はふと、何かを思い出しかけた。
……そう言えば、町の中でもうひとつ何かフラグを設定していた気がするんだけど……何だったっけ……。
動きづらいドレス姿で何十人ものダンスの相手を務め、さすがに私はヘトヘトに疲れていた。
中庭に面したテラスに出て涼んでいると、ふいに後ろから美しい声が響いた。
「タウリン1000mg!」
まるで栄養ドリンクの謳い文句のようなその掛け声の直後、明るい黄色の光がキラキラと私の周りで弾けて消えた。
「お疲れは取れましたかな?姫様」
言われて気づく。さっきまで身体を覆っていた疲労感が綺麗さっぱりなくなっていることに。
そう言えばさっきのアレは、私と創君が設定した回復魔法の呪文だった。mgの前の数字が変わることで、回復値と魔力の消費量が変わるのだ。
「ありがとう。あなたは……?」
ふり向き、私は軽く目を見開いた。
雪のように白い髪に、紫の瞳、そして人間ではあり得ない長い耳……この人、エルフだ。
「おや。しばらくお会いできないでいるうちに、じいのことを忘れてしまわれましたか。宮廷魔術師パープロイ・ルピナスでございますよ」
「『じい』だなんて……そんなに若いのに……」
「エルフは長寿ですからね。私ももう325歳。姫様からすれば充分『じい』ですよ。幼い頃はあんなに親しげに『じい、じい』と呼んでくださったのに……もうそう呼んではいただけないのですね……」
パープロイは魔術師のローブの長い袖で顔を覆い、悲しげに泣き真似をする。
「あぁあぁ……っ!ご、ごめんなさいっ!呼ぶから!今でも!えっと……じい……や、さん?」
さすがに「じい」と呼び捨てにはできずにちょっと変えてみるが、すぐにパープロイから注文が入る。
「できれば『さん』付けは無しでお願いします」
「……じいや」
「はい。貴女のじいやでございますよ、姫様」
パープロイは心底嬉しそうに笑いかけてくる。「じいや」呼びを嬉しがるなんて、どういうシュミをしているのだろう。
「改めまして、本日は15歳のお誕生日おめでとうございます。実はじいやから姫様にとっておきの贈り物がございましてな……」
パープロイはローブのポケットに手を入れ、何やらゴソゴソ探ってから2枚のお札を取り出した。
「まずはこちら。 "壁抜けの魔法符" でございます」
……あ、コレ知ってる。既に1枚持ってる。
「魔法符とは姫様もご存知の通り、魔力の有無に関係なく誰でも魔法を発動できる、1回限りの使い捨ての魔法道具。今回のコレにはじいやの特別な魔法を籠めておりましてな、どんなに厚い壁であろうとすり抜けられるという力を持っているのです」
……なるほど。そういうアイテムだったんだっけ。
「お次はコチラ! "町娘の服" でございます」
続いてパープロイが取り出したのは一着のエプロンドレスだった。
既に持っている "メイド服" と型がよく似ているが、こちらはエプロンの下のワンピースが明るい色の花柄で、布地はやや質素な気がする。
「姫様は前々から『一度で良いから町に下りてみたい』とおっしゃっておいででしたな?その "壁抜けの魔法符" を使えば、衛兵の死角から壁を抜けて城外へ出ることができましょう。それに、その "町娘の服" で変装なされば、誰にも姫様であるとは気づかれますまい」
その説明に、私は閃いた。
この "町娘の服" 、さては例の "メイド服" の下位互換アイテムだな。そしてどちらのアイテムにも、装備すれば王女と分からなくなるような "変装" 効果が付いている……。
……創君、フラグ管理失敗してるよ。
欲望のままメイド部屋にメイド服とか仕込むから、こんなことになるんだよ……。
そもそも先に変装すれば、壁抜けの魔法符使わなくても全然イケたし……。
「姫様が "籠の鳥" でいらっしゃるのを、じいやは常々憂慮しておりました。たまには城の外で羽を伸ばしてくだされ」
「あ……ありがとう。大事に使うね」
城の外へは1回出ているので "今さら感" が半端なかったが、さすがにそれは言い出せず、私はぎこちない笑顔でプレゼントを受け取った。
「あぁ、そうそう。町はお城の中とは違って、全くの安全とは言えませんから、くれぐれもお気をつけください。特に、スリには気をつけて」
これも、今さらなアドバイスだなー。……って言うかコレ完全に、町でスリに遭うってことの前フリだし……。
「あっ、そうだ!パープロイさ……じいやは、エルフなんだから魔鏡の森出身だよね?魔王について何か知らない?弱みとか弱点とかウィークポイントとか」
魔界へつながる魔鏡の森は、いくつかエリアが分かれていて、一番人間の世界に近い外側のエリアにはエルフの郷などが存在している。
パープロイは私の唐突な質問に面喰ったようにしながらも、真剣に答えてくれた。
「魔王……ですか。さて……どうも最近、魔王の代替わりがあったようでしてな。新魔王のことについては、じいやもとんと知らんのですよ」
「そっかぁ……残念」
「ですが、代が替わったということは、近々、新たな魔王妃を迎えるための "嫁探し" が始まるでしょうなぁ……。姫様はこの世界で一番の美貌を誇る御方ですから、魔族に目をつけられぬよう、注意せねばなりませんな」
パープロイは難しい顔で一人ウンウンとうなずいている。
しかし「注意せねば」と言いつつも、自らが提案した "姫様お忍び計画" は止めない。
安全じゃない城の外で魔族に目をつけられるかも知れないのに。
こういう所がご都合主義だよなー……と、自分の作ったゲームのユルさに自分でしみじみする。
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……そう言えば、町の中でもうひとつ何かフラグを設定していた気がするんだけど……何だったっけ……。
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