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第1部 魔王の妃なんて、とんでもない!

第10章 アリーシャ、勇者と再会する

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「序盤の魔王って一応バトルモードの設定も作ってあったんだよね……。どんなんだったっけ……?」
 
 パーティー翌日。私は日記帳という名の "ゲーム制作思い出しメモ" とにらめっこしていた。
 
 魔王襲来イベント時、魔王はその場にはいるものの、戦闘は全て手下に任せて静観している。
 だがそれは、魔王の出る幕もなくレベル1の勇者が手下にボコボコにされてしまうからだ。手下が倒されれば普通に魔王も戦闘に加わる仕様になっている。
 
 だが、そもそもレベル1の勇者が魔王の手下を倒せるはずもないので、魔王の戦闘設定はかなり適当で雑に作られていたはずだ。
 おかげで私がその設定を全く思い出せないくらいなのだから……。
 
「うーん……。せめて苦手な魔法属性とか、攻撃パターンとか分かればなぁ……。今のところ分かってるのは、素早さがメチャクチャ遅いってことだけだよ……」
 
 魔王はボスキャラらしく、勇者サイドの攻撃ターンが全て終わった後に行動を起こしてくる。まずはこちらのお手並み拝見とばかりに攻撃を一通り受けきってから余裕で反撃してくる大御所感がイヤな感じだ。
 
「……とにかく、今の私にできることをやっておかないと。……って言っても、アイテム集めくらいしかできないか」
 
 私室のある2Fは端から端まで調べつくし、たぶん、ピアノの中にそっと戻したバナナくらいしかアイテムは残っていない。だが1Fは衛兵に邪魔されて行けていなかったので未調査だ。
 
「メイド服か町娘の服を装備すれば1Fへは行けるはず……。って言うか、またそのまま町へ行っちゃえば良くない?で、勇者を誘って今度こそ旅に……」
 
 囚われフラグをスルーする名案を思いつきかけたその時、またしてもバーンと扉が開き、ユースが乱入してきた。
 
「今、何か良からぬことを考えてらっしゃいませんでしたかー?ダメですよー。アリーシャ様は今からお散歩の時間なんですからー」
「は?お散歩?そんなスケジュール組まれた覚え無いんだけど?」
 
「中庭の薔薇とかたぶん見頃なんで、お姫様らしく花や蝶とたわむれてウフフアハハみたいなの、やっててくださいよ。間違っても変装して城中のタンスと壺をあさろうとか、あまつさえ町の外まで飛び出して行こうなんて考えないでくださいよ」
 
 私の行動パターンを見抜くとは……。コイツ、やっぱり創君だな。
 
「って言うか、ムリだから!何が楽しいかも分からないのに花園でキャッキャウフフできるような女子力、私には無いから!」
「いやソレ、女子力の問題なんスかね……?」
 
 ツッコミを入れながらもユースはグイグイ私の腕を引っ張り、無理矢理中庭へ連れて行く。
 
「さぁ!この中庭の範囲内なら、どこをどれだけ調べようとかまいませんよー!適当に時間をつぶしててくださーい!」
 
 その言い方に、私はひっかかりを覚える。
 
「時間をつぶすって……何の時間まで?今日ってこれから何かあるの?」
 
 その問いに、ユースがあからさまにギクッとした顔をする。
 
「いえ、べつに何もありませんよ。お気になさらず薔薇とたわむれてください」
「嘘っ!絶対何かあるよね !? って言うか、やっぱりユースって創君の時の記憶があるんじゃ……」
 
 さらに追及しようとしたその時、一人のメイドがやって来て、戸惑いがちに告げた。
 
「あの……アリーシャ様にお客様がお見えなのですが……。どう見ても城下町の平民の青年なのですが、アリーシャ様のハンカチを持っていらっしゃって……」
 
 その言葉に私はショックを受ける。ソレ、どう考えてもレッドのことだよね……。
「何で……!? 来ないでって言ったのに!」
 
 ……まぁ、そう言ったところで来てしまう気はしていたけど……。こんなに早く来るなんて。こっちはまだ何の準備もできていないのに。
 
 ふと横を見ると、ユースがやけにうれしそうにニヤニヤしていた。
 
「昨日のあの青年ですかー。それはぜひ会ってハンカチを返してもらわないとですねー。さ、アリーシャ様、参りましょう」
「いや、ハンカチなんてどうでもいいから!レッドに会ったらフラグが立っちゃう!絶対ダメーっ!」
 
「俺、この世界の人間なんでフラグとか言われても意味不明ですねー。それに、こんな城の中で平民の青年を一人放置してたらさすがに可哀想でしょう。……と言うわけで、ハイどうぞー」
 
 昨日の誕生日パーティーの時のように強引に連行され、応接間の中に放り込まれてしまう。
 部屋の中で所在なさげにウロウロしていたレッドは、豪華なドレスに身を包んだ私の姿に目を見開いた。
 
「アリーシャ……!? 君、その姿は……」
 
 ……そうか。昨日はメイド服だったから、レッドはこれで初めて私が王女だと知ることになるのか。
 
「あー……うん。その……えっとね、実は私、この国の王女なんだよねー……」
 
 このシーン、ジェラルディンちゃんは何て言ってたっけ……。
 
 たぶん、もっとしおらしく「だますつもりはなかったのですが、実は私はこの国の王女なのです」みたいな感じだった気がする。でも、そういうの、私のキャラじゃないしなー……。
 
 困ったように頭をかきながら言うと、レッドの方も困ったような顔になった。
 
「……そっか。そうだったんだな。お城のメイドさんでも俺にとっては高嶺たかねの花だったけど、王女様じゃますます、手なんか届かないか……」
 
 本人的にはひとり言だったのかも知れないが、制作者である私は、初めからバッチリその台詞セリフを知っている。
 
 知ってはいるのだが……改めて聞いてしまうと、何ともこそばゆくて、勝手に耳とほっぺがカァーッと熱くなる。
 
「ハンカチ、ありがとうございました。考えてみれば、王女殿下をお助けできたなんて、俺の身に余る栄誉ですよね……」
 
 いかにも「身分違いの恋をあきらめます」というように辛そうな顔で笑うレッドに、なけなしの乙女心がキュンとする。何か言葉をかけてあげたくなる。
 
 何を言うべきかも分からないまま唇を開きかけたその時、扉の向こうから凄まじい轟音と悲鳴が聞こえてきた。私は瞬時に事態を悟り、頭を抱え込む。
 
「そうだったー!魔王が襲って来ちゃうんだったーっ!」
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