11 / 162
第1部 魔王の妃なんて、とんでもない!
第11章 アリーシャ、魔王にホッコリする
しおりを挟む
ゲームと全く同じタイミングで、勇者と王女の恋の行方を阻むように魔王襲来は始まった。
もっとも私はジェラルディンちゃんと違って恋に堕ちてなんかいないけど。
「アリーシャ……様は危ないのでココにいてください!俺は様子を見て来ます!」
レッドはデッキブラシを引っ掴んで応接間を飛び出して行く。結局「ぬののふく」に「デッキブラシ」という初期装備のまま……。
これでは魔王の手下によるフルボッコが目に見えている。
「……って言うか、こんな出入り口が1つしかない部屋の中にいたんじゃ、袋のネズミだし」
せめてもう少しマシな逃げ道を確保しておきたい。
私はおそるおそる廊下へ出た。
普段なら王女が自室のあるフロア以外をうろつくことなど許されないはずなのだが、今は城の誰もが恐慌状態に陥っていて、私の存在すら目に入っていないようだ。
……アレ?これ、ひょっとして、このままコッソリ城を抜け出してもバレなくない?でもって、そのまま町の外へ逃げたりとかもできるんじゃ……。
そんなことを思いついた矢先、廊下をバタバタ走り回る衛兵たちの会話が耳に入ってきた。
「魔王が襲って来ただって!? 何だってウチみたいな小国に……っ!?」
「何でも狙いは王女様だそうだ!王女様を魔王の妃として差し出せと要求している!」
「バカな!我らが王女を魔王に穢されるなど、あってはならないことだ!我らは死してもあの方をお守りするぞ!」
同意するように幾人もの声が上がり、彼らは決死の表情で魔王がいると思しき方向へ駆けて行く。私は何とも言えない気分で立ち尽くした。
……アレは本気で死ぬまで戦いかねない。これは逃げられない。とてもじゃないけど一人でコッソリ逃げるなんてできない。
「そう言えばジェラルディンちゃんも『魔王様に嫁ぎます。ですからこれ以上、城の皆に手出しをしないでください』とか言って、自分から囚われに行ったんだった……」
今さらながらに思い出し、青ざめる。どうしよう。もう、いろんな意味で詰んでる気がする。
「いや、でも、囚われたからって殺されるわけじゃないし。ヨメにされる寸前で勇者が助けに来ることは分かってるし……」
何とか思考をポジティブな方向に持って行こうとしながら、おっかなびっくり魔王のいそうな方向へ近づいていく。序盤の魔王は果たして "実写" だと、どんなビジュアルをしているのか……
昨日誕生日パーティーが行われたばかりの大ホールに、魔王はいた。柱の陰からこっそり様子を窺っていた私は、その姿に思わず叫んでいた。
「え……っ!?って言うか、猫じゃん!」
いや、正確に言えば猫ではなく、猫タイプの獣人……いや、半獣人(?)だ。顔や身体はほとんど人間だが、灰色に黒くメッシュの入った髪からはピョコンと2つの猫耳がのぞき、尻からはシマシマ模様のシッポが生えている。
どこかアメリカン・ショートヘアを思わせる色合いの、恐ろしいと言うよりはひたすら獣っぽくワイルドな印象の魔王だった。
……アレぇ?魔王って、こんなだったっけ?
記憶を探る私の脳裏に、かつて自分が創君と交わした会話が蘇る。
『ねぇ、序盤の魔王さー、いっそのことネコにしない?』
『は!? お前、正気か!?』
『だって猫って中国語で "マオ" でしょ?魔王じゃん。ゴッツい配下に囲まれた魔王のイスに、猫が1匹ちょこんと座ってるって良くない?』
『いや、リアルな猫はさすがにヤメロ。せめて猫タイプの獣人とか半獣人とかにしろよ……』
――あぁ、確かに。そんなこと言ってた気がする。
当時の私は何と言うか、テンプレに逆らってみたい気分だったのだ。魔王と言えば全体的に黒っぽくて頭に角を生やして……という当たり前の価値観に飽き飽きしてしまっていたのだ。
「我が名はアシュブラッド・プルガトリオ!新たなる魔王だ!この国の姫アリーシャ・シェリーローズを我が嫁としてもらい受けに来た!」
魔王は八重歯をチラつかせ、城中に響き渡りそうな声で宣言する。
……でも何て言うか、恐ろしいと言うより何より、もうネコにしか見えない。いっそあの猫耳と猫シッポをモフモフしてみたいくらいだ。
……そうか。やっぱり創君の言ってた通り、魔王は黒っぽくて角とか生えてた方がいいんだな。威厳とか緊張感とか、そういうものが魔王には必要なんだな。
だが、魔王の猫っぽさを目の当たりにしてすっかり "ほっこり" モードになってしまった私とは違い、周囲は至って普通に緊張感に包まれていた。
「誰が魔王なんぞに大事な姫様を渡せるか!」
「我らは死んでもアリーシャ様を守り抜く!」
怒号を上げながら魔王へ向かっていく衛兵たち。だが、その剣が魔王に届くことはなく、魔王の影から突如出現した魔物たちの手により、バタバタと倒されていく。
……うわ、やばい。これはホッコリしている場合じゃない。何とかしないと。
でも、今の私に戦闘力は無く、所持品と言えばメイド服と町娘の服とハンカチと壁抜けの魔法符3枚だけ……。ここはやはり、囚われることを覚悟の上で魔王の前に名乗り出るしかないのか……。
そう思った時、ふと閃いた。
そうだ。まだこの城には、魔王にさえ対抗し得るアイテムがあったじゃないか……。
もっとも私はジェラルディンちゃんと違って恋に堕ちてなんかいないけど。
「アリーシャ……様は危ないのでココにいてください!俺は様子を見て来ます!」
レッドはデッキブラシを引っ掴んで応接間を飛び出して行く。結局「ぬののふく」に「デッキブラシ」という初期装備のまま……。
これでは魔王の手下によるフルボッコが目に見えている。
「……って言うか、こんな出入り口が1つしかない部屋の中にいたんじゃ、袋のネズミだし」
せめてもう少しマシな逃げ道を確保しておきたい。
私はおそるおそる廊下へ出た。
普段なら王女が自室のあるフロア以外をうろつくことなど許されないはずなのだが、今は城の誰もが恐慌状態に陥っていて、私の存在すら目に入っていないようだ。
……アレ?これ、ひょっとして、このままコッソリ城を抜け出してもバレなくない?でもって、そのまま町の外へ逃げたりとかもできるんじゃ……。
そんなことを思いついた矢先、廊下をバタバタ走り回る衛兵たちの会話が耳に入ってきた。
「魔王が襲って来ただって!? 何だってウチみたいな小国に……っ!?」
「何でも狙いは王女様だそうだ!王女様を魔王の妃として差し出せと要求している!」
「バカな!我らが王女を魔王に穢されるなど、あってはならないことだ!我らは死してもあの方をお守りするぞ!」
同意するように幾人もの声が上がり、彼らは決死の表情で魔王がいると思しき方向へ駆けて行く。私は何とも言えない気分で立ち尽くした。
……アレは本気で死ぬまで戦いかねない。これは逃げられない。とてもじゃないけど一人でコッソリ逃げるなんてできない。
「そう言えばジェラルディンちゃんも『魔王様に嫁ぎます。ですからこれ以上、城の皆に手出しをしないでください』とか言って、自分から囚われに行ったんだった……」
今さらながらに思い出し、青ざめる。どうしよう。もう、いろんな意味で詰んでる気がする。
「いや、でも、囚われたからって殺されるわけじゃないし。ヨメにされる寸前で勇者が助けに来ることは分かってるし……」
何とか思考をポジティブな方向に持って行こうとしながら、おっかなびっくり魔王のいそうな方向へ近づいていく。序盤の魔王は果たして "実写" だと、どんなビジュアルをしているのか……
昨日誕生日パーティーが行われたばかりの大ホールに、魔王はいた。柱の陰からこっそり様子を窺っていた私は、その姿に思わず叫んでいた。
「え……っ!?って言うか、猫じゃん!」
いや、正確に言えば猫ではなく、猫タイプの獣人……いや、半獣人(?)だ。顔や身体はほとんど人間だが、灰色に黒くメッシュの入った髪からはピョコンと2つの猫耳がのぞき、尻からはシマシマ模様のシッポが生えている。
どこかアメリカン・ショートヘアを思わせる色合いの、恐ろしいと言うよりはひたすら獣っぽくワイルドな印象の魔王だった。
……アレぇ?魔王って、こんなだったっけ?
記憶を探る私の脳裏に、かつて自分が創君と交わした会話が蘇る。
『ねぇ、序盤の魔王さー、いっそのことネコにしない?』
『は!? お前、正気か!?』
『だって猫って中国語で "マオ" でしょ?魔王じゃん。ゴッツい配下に囲まれた魔王のイスに、猫が1匹ちょこんと座ってるって良くない?』
『いや、リアルな猫はさすがにヤメロ。せめて猫タイプの獣人とか半獣人とかにしろよ……』
――あぁ、確かに。そんなこと言ってた気がする。
当時の私は何と言うか、テンプレに逆らってみたい気分だったのだ。魔王と言えば全体的に黒っぽくて頭に角を生やして……という当たり前の価値観に飽き飽きしてしまっていたのだ。
「我が名はアシュブラッド・プルガトリオ!新たなる魔王だ!この国の姫アリーシャ・シェリーローズを我が嫁としてもらい受けに来た!」
魔王は八重歯をチラつかせ、城中に響き渡りそうな声で宣言する。
……でも何て言うか、恐ろしいと言うより何より、もうネコにしか見えない。いっそあの猫耳と猫シッポをモフモフしてみたいくらいだ。
……そうか。やっぱり創君の言ってた通り、魔王は黒っぽくて角とか生えてた方がいいんだな。威厳とか緊張感とか、そういうものが魔王には必要なんだな。
だが、魔王の猫っぽさを目の当たりにしてすっかり "ほっこり" モードになってしまった私とは違い、周囲は至って普通に緊張感に包まれていた。
「誰が魔王なんぞに大事な姫様を渡せるか!」
「我らは死んでもアリーシャ様を守り抜く!」
怒号を上げながら魔王へ向かっていく衛兵たち。だが、その剣が魔王に届くことはなく、魔王の影から突如出現した魔物たちの手により、バタバタと倒されていく。
……うわ、やばい。これはホッコリしている場合じゃない。何とかしないと。
でも、今の私に戦闘力は無く、所持品と言えばメイド服と町娘の服とハンカチと壁抜けの魔法符3枚だけ……。ここはやはり、囚われることを覚悟の上で魔王の前に名乗り出るしかないのか……。
そう思った時、ふと閃いた。
そうだ。まだこの城には、魔王にさえ対抗し得るアイテムがあったじゃないか……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
39
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる