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第4部 鬼姫の着せ替え人形なんて、まっぴら!
第16章 アリーシャ、ヤングじいやに相談する
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「いや、そりゃ無理だと思うんだぜ」
パープロイに事情を話すと、あっさりそう切り捨てられてしまった。
「えー……。もっと真剣に悩んでよ!このままじゃ、じいやだって呪われたままなんだよ!」
「いや、オレ、今べつに困ってないからな。むしろ鬼族の郷が珍しくて楽しんでるんだぜ」
そう言うパープロイは、いつの間にか颯爽とした着流し姿に着替え、いかにも郷を満喫している風だ。
「って言うか、私が黄泉ちゃんのオモチャにされてる間、どこで何してたわけ!? あの後も私、何っ回も着替えさせられて、ぐったりだったんだからね!」
「いや、その場にオレがいても、どうにもできねーだろ。オレは、屋敷の中なら自由にしてていいって言われたから、あちこち見物……じゃなくて、情報収集してたんだぜ」
……今、確実に "見物" って言ったよね。ただ遊び歩いてただけじゃん。
「屋敷で働いてる鬼のオネーサンたちとおしゃべりしてたんだけどさ……びっくりなんだぜ。オネーサンたち、誰一人、鬼姫のこと悪く言わないんだぜ。むしろ『屋敷に召し上げてもらえたおかげで、意に沿わない結婚をしなくて済んで良かった』とか言ってるんだぜ」
……なるほど。鬼姫の美女ハーレムは、密かにそんなセーフティネット的役割も果たしていたのか……。
ムキムキな男たちは冷遇しても、女子には優しいんだな、黄泉ちゃん……。
それとも、自分と似た境遇の女の子を放っておけないだけかな……。
「しかし、オネーサンたちの話を聞いてても、鬼族の筋肉カーストはえげつなさそうだぜ。あの桃幻って奴が、一族の長姫のムコとして認められるとは、とても思えないんだぜ」
「そこを何とか、桃幻さんの医者としての価値とか、心の強さとかで、郷の皆の目を覚まさせられないかなー?」
「いや、だから、それがそもそも無理だと思うぜ。周囲から隔絶した狭い地域の中の、昔ながらの価値観ってヤツは、相当に根深くて厄介だからな……」
パープロイの口調が、ふいに重くなる。
そこで私はハッとした。
……そうか。パープロイも、エルフの郷では "異端" だったんだっけ……。
「あの桃幻ってヤツ、ちょっと興味が湧いてきたな。周りから軽く見られ、冷たく当たられても気にしない、か……。オレにはムリだったからな……」
私は知っている。
今でさえ "変わり者" 扱いされる "火属性のエルフ" は、かつてはもっと酷い扱われ方をしていた。
まるで "呪われた子" のように、ある者は忌み嫌い、ある者は無闇に恐れて近寄らず、ある者はハレモノのように扱った。
家族でさえ、世間の目を気にしてその子を遠ざける。
火属性のエルフは、同時代に1人か2人ほどしか存在しない "同じ属性の仲間" だけを頼りに、郷の隅で細々と暮らすのが常だった。
パープロイの師アルマディーンは、彼に『己の力を忌むことなく、前向きに生きるように』と教え育てた。
彼女自身の、己の力を忌み嫌い、後ろ向きに生きてきた経験から、弟子には同じ道を歩ませたくなかったのだろう。
……だが、その教えは、パープロイを思わぬ方向にひねくれさせてしまう。
彼は、火属性の魔法を認めない郷のエルフたちをギャフンと言わせるべく "誰もが認めざるを得ない超強力な火炎魔法" の開発に没頭しだしたのだ。
だが、それは彼を、より孤独にした。より他のエルフたちの恐怖を煽った。
そしてついには、己の力を郷のエルフに見せつけようとしたパープロイが、魔力を暴走させてしまった。
他のエルフでも難無く追い払える雑魚モンスターに、超強力な火炎魔法を放った挙句、その火を森の木々や郷の家にまで延焼させ、同胞にケガを負わせてしまったのだ。
当時の族長は『反省して態度を改めるなら許す』と告げた。
しかし、パープロイはそれを受け入れられず、郷を飛び出した。
自分のやってしまったことに対して罪悪感は抱いていても……自分やその師に対する郷の態度を、許すことができなかったからだ。
自分たちを受け入れない郷のことを、自分の方こそ受け入れられない――むしろ、そんな郷こそが、全ての元凶なのだと、パープロイは思っていた。
「……しかし、アリーシャ。あんたもちょっと心配だぜ。秘密の恋を打ち明けられたからって、鬼姫に簡単に気を許し過ぎじゃないか?」
そう言って、パープロイは声をひそめる。
「鬼族は本当に恐ろしいんだぜ。特に、その長の周囲には、常に不審な死の影がある。長に逆らう者、害をなす者、機嫌を損ねた者は、密かに闇に葬られてきたって言うぜ」
……そんな話、前にも聞いたな。鬼族の呪いの力がどうとか。
「実際、あの鬼姫は "鬼道" とか言う、得体の知れない術を使う。その力があるから、あんなナリでも一族の長を務めていられるんだぜ。あんたは、もっと用心すべきなんだ」
「そっか……。でも、用心って、何をどうすればいいんだろう?」
正直に疑問を言うと、パープロイに呆れた顔をされた。
「……まったく、あんたは、いちいち心配で目が離せないんだぜ。だがまぁ、オレのそばにいる間は、オレがあんたを守ってやるぜ。郷を出る時、師匠にもキツく言われたからな。『あんたのその力は、見栄でも破壊のためでもなく、何かを守るために使え』ってな」
パープロイに事情を話すと、あっさりそう切り捨てられてしまった。
「えー……。もっと真剣に悩んでよ!このままじゃ、じいやだって呪われたままなんだよ!」
「いや、オレ、今べつに困ってないからな。むしろ鬼族の郷が珍しくて楽しんでるんだぜ」
そう言うパープロイは、いつの間にか颯爽とした着流し姿に着替え、いかにも郷を満喫している風だ。
「って言うか、私が黄泉ちゃんのオモチャにされてる間、どこで何してたわけ!? あの後も私、何っ回も着替えさせられて、ぐったりだったんだからね!」
「いや、その場にオレがいても、どうにもできねーだろ。オレは、屋敷の中なら自由にしてていいって言われたから、あちこち見物……じゃなくて、情報収集してたんだぜ」
……今、確実に "見物" って言ったよね。ただ遊び歩いてただけじゃん。
「屋敷で働いてる鬼のオネーサンたちとおしゃべりしてたんだけどさ……びっくりなんだぜ。オネーサンたち、誰一人、鬼姫のこと悪く言わないんだぜ。むしろ『屋敷に召し上げてもらえたおかげで、意に沿わない結婚をしなくて済んで良かった』とか言ってるんだぜ」
……なるほど。鬼姫の美女ハーレムは、密かにそんなセーフティネット的役割も果たしていたのか……。
ムキムキな男たちは冷遇しても、女子には優しいんだな、黄泉ちゃん……。
それとも、自分と似た境遇の女の子を放っておけないだけかな……。
「しかし、オネーサンたちの話を聞いてても、鬼族の筋肉カーストはえげつなさそうだぜ。あの桃幻って奴が、一族の長姫のムコとして認められるとは、とても思えないんだぜ」
「そこを何とか、桃幻さんの医者としての価値とか、心の強さとかで、郷の皆の目を覚まさせられないかなー?」
「いや、だから、それがそもそも無理だと思うぜ。周囲から隔絶した狭い地域の中の、昔ながらの価値観ってヤツは、相当に根深くて厄介だからな……」
パープロイの口調が、ふいに重くなる。
そこで私はハッとした。
……そうか。パープロイも、エルフの郷では "異端" だったんだっけ……。
「あの桃幻ってヤツ、ちょっと興味が湧いてきたな。周りから軽く見られ、冷たく当たられても気にしない、か……。オレにはムリだったからな……」
私は知っている。
今でさえ "変わり者" 扱いされる "火属性のエルフ" は、かつてはもっと酷い扱われ方をしていた。
まるで "呪われた子" のように、ある者は忌み嫌い、ある者は無闇に恐れて近寄らず、ある者はハレモノのように扱った。
家族でさえ、世間の目を気にしてその子を遠ざける。
火属性のエルフは、同時代に1人か2人ほどしか存在しない "同じ属性の仲間" だけを頼りに、郷の隅で細々と暮らすのが常だった。
パープロイの師アルマディーンは、彼に『己の力を忌むことなく、前向きに生きるように』と教え育てた。
彼女自身の、己の力を忌み嫌い、後ろ向きに生きてきた経験から、弟子には同じ道を歩ませたくなかったのだろう。
……だが、その教えは、パープロイを思わぬ方向にひねくれさせてしまう。
彼は、火属性の魔法を認めない郷のエルフたちをギャフンと言わせるべく "誰もが認めざるを得ない超強力な火炎魔法" の開発に没頭しだしたのだ。
だが、それは彼を、より孤独にした。より他のエルフたちの恐怖を煽った。
そしてついには、己の力を郷のエルフに見せつけようとしたパープロイが、魔力を暴走させてしまった。
他のエルフでも難無く追い払える雑魚モンスターに、超強力な火炎魔法を放った挙句、その火を森の木々や郷の家にまで延焼させ、同胞にケガを負わせてしまったのだ。
当時の族長は『反省して態度を改めるなら許す』と告げた。
しかし、パープロイはそれを受け入れられず、郷を飛び出した。
自分のやってしまったことに対して罪悪感は抱いていても……自分やその師に対する郷の態度を、許すことができなかったからだ。
自分たちを受け入れない郷のことを、自分の方こそ受け入れられない――むしろ、そんな郷こそが、全ての元凶なのだと、パープロイは思っていた。
「……しかし、アリーシャ。あんたもちょっと心配だぜ。秘密の恋を打ち明けられたからって、鬼姫に簡単に気を許し過ぎじゃないか?」
そう言って、パープロイは声をひそめる。
「鬼族は本当に恐ろしいんだぜ。特に、その長の周囲には、常に不審な死の影がある。長に逆らう者、害をなす者、機嫌を損ねた者は、密かに闇に葬られてきたって言うぜ」
……そんな話、前にも聞いたな。鬼族の呪いの力がどうとか。
「実際、あの鬼姫は "鬼道" とか言う、得体の知れない術を使う。その力があるから、あんなナリでも一族の長を務めていられるんだぜ。あんたは、もっと用心すべきなんだ」
「そっか……。でも、用心って、何をどうすればいいんだろう?」
正直に疑問を言うと、パープロイに呆れた顔をされた。
「……まったく、あんたは、いちいち心配で目が離せないんだぜ。だがまぁ、オレのそばにいる間は、オレがあんたを守ってやるぜ。郷を出る時、師匠にもキツく言われたからな。『あんたのその力は、見栄でも破壊のためでもなく、何かを守るために使え』ってな」
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