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出発

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澪はお店に着くと野宿に必要な物を一通り選んでレジに向かった。

「お嬢ちゃん、こんなものかってどうすんだ?お父さんとお母さんは?」
「私冒険者ですけど。」
「え?あ、あー冒険者ごっこか?遊ぶのはいいけどほどほどにしとけよー」

そんなに幼く見えるだろうか?と不満に思いつつ、澪は微笑みながら冒険者プレートを見せた。

「ね?」

おじさんは目を見開いてから、申し訳なさそうに謝った。

「こ、こりゃすまんかった。でもお嬢さん一人で冒険者やってんのか?大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。こう見えて一応鍛えてるんです。」
「そうか。でも女の子一人で野宿は危険だから気をつけろよ。おら、おまけしといてやる。」
「ありがとうございます」

このおじさんはどうやら心配性で世話焼きなひとらしい。さっき地図を書いてくれた人もそうだが、この街は優しい人が多いみたいだ。そう思いながら、澪は嬉しそうに微笑んで店を出た。


外に出ると、空は既に赤みを帯び始め、辺りは各家庭から漂い始めている夕食の匂いに包まれていた。
うぅーん。お腹が空いたなぁ。今日は買いものだけで終わっちゃったよ。まあもともとその予定だったからいいのだが。
澪は可愛らしいお腹の音を鳴らしながら宿に向かった。

「お帰りなさいませ、澪様。夕食の準備はできてますよ。」
「わかりました。」

宿に着くと受付のお兄さんが笑顔で迎えてくれた。お帰りなさいなんて始めて言われた。と感動しながら、澪は食堂に向かった。

「はい、おまたせ。今日はクリームシチューだよ」
「わぁ、おいしそう。」

席に着くと、澪は黙々と食べ始めた。

交通手段、ちょっといい事考えちゃったかも。旅について考えながら食べていると、ふと思いついた。
一度食べる手を止めて少し考え込んでから、何度かうなづくと、にこにこしながら食べるのを再開した。

「ごちそうさまでした」

食堂のおばさんにお礼を言いながら食器を返し、部屋に向かった。


部屋に戻り、お風呂に入って、早速今日買ったパジャマを着てみた。ふわっとしていてとてもかわいい。少し寒いか?とも思ったが、布団に入ってしまえば大丈夫そうだ。もぞもぞと布団に入り込み、歩きまわったせいか、そのまま気絶するように眠りに着いた。



今日も澪の寝起きは悪い。今日は出発するから早く起きなくてはいけないのは分かっているが、眠いものは眠い。だが、昨日みたいに昼過ぎまで寝ることはない。子どもの頃から厳しい訓練を受けてきたのだ、決めた時間に起きることくらいたやすい。だが、このように眠い中無理やり起きた時の機嫌は最悪だ。表には出さないが、不機嫌度マックスだ。

服を着替え、食堂に行き、ご飯を食べて宿を出る。

そのまま門に向かい、街を出ようとすると、門番の男に止められた。実はこの前も止められたのだが、違う人とはいえ今回も止められるとは。止められた理由は私が幼い子供に見えて、遊びで外に出ようとしたとでも思ったのだろう。さっと冒険者カードを見せ、にこやかに微笑み、そのまま出発した。いつもなら少しくらい会話をするのだが、挨拶もしない。こういう所に不機嫌さがにじみ出ている。
元の世界では不機嫌な時でも、こういう些細な事でさえ表に出さないように気をつけていた。父と母の評判を落とさない為だ。だが、今はそんなこと気にする必要はない。本人は意識していないが、家族のことを気にしなくても良くなり、気が抜けたのだろう。なので不機嫌さが表に出てしまっている。仲のいい人にしか分からない程度なので支障はないが。


さて、秘密兵器登場させちゃいますか。

『生成≪マジックカーペット≫』

神様にもらった自分の好きな魔法を作れる魔法。私はそれで、旅の移動手段として空飛ぶじゅうたんを作ることにした。
マジックカーペットはちょっとそのまんま過ぎるかなーって思ったんだけど、分かりやすいからいいよね!
ね!・・・・・。
わ、私の考えたマジックカーペットはただの空飛ぶじゅうたんじゃないんだから!!!ふわふわで一切疲れない、絶対にじゅうたんから落ちない、雨風もしのげるが楽しむためにそよ風程度は風を感じる、そして周りからは見えない!!!!・・・・盛り過ぎ???ま、まあ快適なのはいいことだから。
カーペットに座り、魔力を流す。するとふわりと浮き上がり、だいぶ高い所まで上がるとそのまま進みだした。
快適だ。快適過ぎて眠ってしまいそうだ。地図を見るとまだまだかかりそうだし、少し暇だ。昨日本でも買っておけばよかった。本売ってるのかな?もし売ってたとしても庶民には買えないようなすごい値段だったらあきらめるしかないな。トランペットならあるかな?あ、魔法で作れるんだった。でも今日はもう『生成』の魔法は使えないし。あーーー。暇だ。

うだうだとしているうちに時間が過ぎ、空は茜色に染まり始めた。下に降りると、テントを立て、火をおこし、夕飯の準備を開始した。今日は肉を塩コショウで炒めたものと、野菜スープ、パンだ。お米はなかった。すごいへこんだ。

夕飯の準備をおわらせ、『チェンジ』と脳内でつぶやく。すると澪が一瞬で男の人になった。この世界によくいる金髪と碧眼だ。

うん。成功。
昨日寝る前に作っておいた自分の姿を変える魔法だ。女の子の一人旅は危ないから、というのは建前で、私男に生まれたかったんだよねー。女は色々面倒だから。
髪の長さは肩くらいだ。これは完璧に私の趣味。男の人が肩くらいまである髪を後でひとつに結わえてるの、最高!!!
そう考えてニマニマしながら、髪を予備の髪ゴムでひとつに結ぶ。

よし、それじゃあご飯を頂きましょう!
ニコニコしながら食べ始めようとした時、なにかの気配を感じた。魔物かと思い、剣をかまえる。ガサッと茂みから何か出てきたと思ったら、その何かから声が聞こえた。

「待って待って待って待ってーーーーー!!僕は悪い魔物じゃないよーーー!!!君があまりにも僕好みの顔だったから思わず出てきちゃっただけなんだよーーー!!!!ごめんなさーーーーい!」

「は?」

こいつ・・・・かわいいな。ふわふわのまん丸。頭一つ分くらいの大きさで、真ん中に小さい目が二つ。かわ・・・。てか私の顔が好みだったから出てきたのか。え?なんで喋れるの??

「ねえお兄さん。僕を仲間にしてよ。僕を枕にすれば安眠間違いなしだよ」

「えっと..。きみは、魔物なのかい?」

「うん、多分!!なんの魔物なのかはよくわかんない!!そんな事より、ね?ダメ?」

「ん?あぁ、いいよ。きみ名前はあるのかな?」

「やった!!名前?ないよ!!きみがつけていいよ!!」

「んー。じゃあシロでいいかな?きみ真っ白だし。」

「・・・。君さぁ、ネーミングセンス無いってよく言われない?まあいいけど」

「んーー?言われたことないな。あ、私の名前は・・・・。あ!名前考えてなかった・・。」

「??どういうこと?君も名前ないの?僕が考えてあげようか?」

あー、澪でいっか。冒険者プレートに書いてあるからすぐバレちゃうし。

「いや、澪だよ。月雪澪。よろしく、シ
ロ。」

「?うん!!よろしくね、澪」


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