田舎生まれの聖気士譚

第二十話 小さき少女の気持ち

「…私はアースガルフを降りようと思っている」


「な何で急にそんなこと言うんですか！ユーリルさんっ！？」

「おいおい…穏やかじゃねえなあ…どうしたんだユーリルの兄ちゃん！」

「兄ちゃん、急にどうしたって言うんだあ！」

「儂らがムリに酒をすすめたのがそんなにイヤだったのかあ？」

　アースガルフのみんながユーリルに駆け寄って一斉に詰め寄った。
ユーリルは氷の表情を崩さないままだったけどみんなに一斉に話しかけられて困惑している様にも見えた。

　わたしはと言うと、それはもう衝撃だった。
彼は、何かあるたびに”私は貴様と共に行くまでだ”と言ってくれた。
だから、彼はわたしと共に居てくれるんだと思っていた。
わたしは彼の言葉に安心しきっていたんだと思う。
それなのに、こんな急に、突然に、アースガルフを降りるって、
そんなこと言うなんて、

　…ウソつき！

　わたしは思わず出そうになったその言葉を必死になって飲み込んだ。
ううん、彼は、ユーリルは、女の子の気持ちは全然わからないし、
それなのに女の子を気付かったりして、
女の子の気持ちを振り回して、
それは、もう、ひどいひとだけど、
ウソは言わない、自分で言った言葉を簡単に曲げたりはしない、
とても真直（まなお）なひとなんだ。

　だからわたしは、ひと呼吸して、落ち着いて、平静になって、彼に問いかけた。

「…ユーリル、何か理由があるんだよね？そうじゃないと…あなたが急にここを出ていくなんてこと、言わないと思うんだ」

「…ファージア＝セントニア、その通りだ…私は一度アースガルフを降りて、一度自分を見つめ直し、鍛え直したいと思っている」

「つまり、一人になって修業したいってことなの？」

「その通りだ…私はアシリアの町での巨人との戦いで己の力の不足を思い知った。
あの巨人を倒したのは貴様だ、ファージア＝セントニア。
私の剣ではあの巨人に全く歯が立たなかった…この有様で、貴様の横に並び、共に歩もう、などとは…笑止千万。
だから私は一人になって己を鍛錬し直したいとずっと考えていたのだ…」

「ずっと…？ってことはユーリル、アシリアの町での戦いが終わってからずっとアースガルフを抜けることを考えていたのぉ？」

「…色々あったからつい言いそびれてしまった…これも私のふがいなさ故…どうか皆、許してほしい」

「別にそのことを謝られてもなあ。でもユーリルの兄ちゃん、その言い方だと鍛えなおしたらまたアースガルフに帰って来るんだろお？
だったら一度抜けるのもいいとワシは思うぜえ。
男たるもの、そういう自分を追い込みたい時もあるってもんだぜ！
男の意気地って奴さなあ」


「あたしは嫌です！！反対です！！」


「おいリフィル、そんなに怒ってお前らしくもねえ？どうしたんだあ？」

「あたしはお爺ちゃんのいうそんな男の意気地みたいなものはわかりません！
そんなことよりもわたしが大切なのが冒険者チーム聖気士団と冒険者ギルド・アースガルフのことなんです！
ユーリルさんがいないと聖気士団のそしてアースガルフの戦力はガタ落ちなんです！
そんなこと！聖気士団の副リーダーでアースガルフのギルドマスターであるあたしからは認められません！」

　リフィルは凄い剣幕でユーリルをまくしたてる。

「大体！
ユーリルさんは！
ファージアさんと共に行くって！いつも言ってたじゃないですか！
それなのにアースガルフを抜けるって！
あれはウソだったんですか！
やっぱり男ってそういうものですか！
やっぱり男はケダモノですか！
ファージアさんの身体だけが目当てだったんですか！
ファージアさんの身体を好きなだけ弄んで飽きたらポイ！ですか！
ファージアさんに誤ってください！
女の子の心と身体を弄んだことを謝って下さい！」

「ちょっとまってリフィルちゃあん！わたしはユーリルとそんなんじゃないよぉ！
…手も握ったことないのに…。
…えっ？わたしユーリルにポイされるの？」

「…また私は知らぬ間に貴様に心労をかけていたのか…ファージア＝セントニア、至らない私をどうか許してほしい」

「ユーリルそんなに頭下げないでぇ！…えっ？わたしユーリルに身体弄ばれてたのぉ！？い、いつの間にぃー！？」

「それに！
そんなにホイホイと！
冒険者チーム聖気士団と冒険者ギルド・アースガルフを出たり入ったり出来ると思っているんですか！
今でこそアースガルフは8人しかない少数ギルドですけど！
かつてはもっと大人数の人気のあるギルドだったんです！
あたしはアースガルフをかつての姿に戻そうと考えてます！
ファージアさんやガイル団もいます！現実的に充分可能です！
そんな将来有望なあるギルドに個人の勝手で出たり入ったりなどと！
そんな勝手が許されると思っているんですか！
一度出てまた入ろうとしたって！
そんな都合の良い席なんてありませんよ！
おめーの席ないから！という奴です！」

「でもねリフィルちゃん、わたしも同じ気士として少しはわかるんだ…ユーリルの自分を鍛えなおしたいという気持ち。
自分の力が通じない相手が居たら、力不足を感じちゃうよね。
わたしもあの巨大アーマーに放出系の大技が全く通じなかった時は、結構ショックだったんだ。
…だから、ここはユーリルを行かせてあげちゃ駄目かなぁ？」

「なっ！
ファージアさんまでそんな事言うんですか！
…この裏切り者っ！
所詮イケメンは無罪とでも言うんですかっ！このミーハー大ボケお姉さんはっ！！
あたしは反対！断固反対です！
最後の一人になってもあたしは許しませんよー！
多数の暴力になんてあたしの心は決して挫けません！！」

「…さらっと酷いこと言われている気がするよぉ。
うーん、リフィルちゃん…ここだと聞かれたくないことがあるよね？
わたしの部屋で落ち着いてお話しよっか。
みんなはここに居てね、ここは女の子同士で話し合ってみるからねぇ。
…あっユーリル、わたしたちがいない間に勝手にアースガルフ降りちゃ駄目だから！」


「…ファージア＝セントニア、了解した」

「よくわかんねえがリフィルのことは任せたぜえ、ファージアの姉ちゃん」

「ちょっ！ファージアさん！そんな強引にあたしを抱え上げないでください！
あたしは！このアースガルフのギルドマスターなんですよ！
こんな無礼はゆるしません！はなしてーはなしてくださーい！」



ファージアはじたばた暴れるリフィルを抱え上げると、移動式冒険者ギルド・アースガルフの居住区にある自分の部屋に彼女を連れて行った。

「うー、いたいけな少女を自室に拉致監禁なんて、ファージアさん酷いです…。
気士が本気になったら…あたしみたいな、か弱い美少女が敵う訳ないじゃないですか！」

「うーん、だって、あのままじゃリフィルちゃん埒が明きそうもなかったし…。
それにリフィルちゃんがユーリルに聞かれなくなかったことを彼の前では話す訳にも行かなかったからね」

「…な何を言ってるんですか！あたしがユーリルさんに聞かれたくないことなんてありませんよ！」

「…ユーリルのこと、好きなんだね。それであんなにすごい剣幕で彼が出ていくのを止めようとしたんだね」

「な、何を言ってるんですかファージアさあんっーー！！そそんなことある訳ないじゃないですかっーー！！
このアースガルフのギルドマスターのあたしが！メンバーの一人であるユーリルさんのことを！す、す…好きだなんてーー！！」

「別にそういうことは関係ないと思うけどぉ…ここにはわたし以外誰も居ないから…もう嘘はつかなくては良いんだよぉ。
でもわたしも鈍いよねぇ、今日の今まで、リフィルちゃんがユーリルのことをそう思ってるなんて全然気が付かなかったよ」

「…あたしは、冒険者ギルド・アースガルフのギルドマスターなんですよ。だから、経営者として、本心を隠すのはお手のものなんです！
だから、これからもずっと隠し続けるつもりだったんですよ。それなのに、ファージアさんみたいなお人好しの間の抜けたお姉さんに見抜かれるなんて…経営者として、ギルドマスター失格もいい所です…」

「うう…リフィルちゃん酷いよぉ…」

「あたし、ファージアさんとユーリルさんはお似合いだと思って、本気でくっつけようと思ってたんですよ！知ってましたか？
地味な栗色の髪で子供なあたしじゃ、綺麗な銀髪で大人なユーリルさんとは釣り合わないと思うし、綺麗な金髪で可愛いお姉さんのファージアさんとくっつけば諦めが付くと思ってたのに！」

「ええぇーリフィルちゃんそんなこと考えてたの？全然気が付かなかったよぉ…でもそんなことで自分の心に嘘を付いちゃ駄目だよ。
それにリフィルちゃん、栗色の髪も素敵だしとても可愛らしいと思うよぉ。それに大きくなったらわたしよりも断然美人さんになるんじゃないかなぁ？」

「…そんなに褒め上げないで下さいよ…でも嬉しいです…でもそんな事言われちゃうとあたし、調子に乗っちゃいますよー！
あたし褒めて伸びるタイプですからね！ユーリルさんにもアタックしちゃいますよー！ファージアさんからユーリルさん獲っちゃいますよー？」

「リフィルちゃん！ユーリルはわたしのものじゃないよぉー！？そもそも彼とは何でもないからぁ！」

「…でもファージアさん、ユーリルさんのこと、好きですよねー？」

「ええっ！？そんなこと無いよぉ！それはユーリルとはもっと仲良くなりたいとは思ってるけど、それは仲間としてというか、同じ気士としてというかぁ…」

「んんー？何を言い訳がましいこと言ってるんです？あたしにはユーリルさんの事好きって認めさせておいて自分は違うってそんな横暴が許されると思っているんですか！？」

「あの…リフィルちゃん、目が怖いよぉ…」

リフィルはファージアを押し倒すと、上から覆いかぶさって彼女の腰の左右を挟む様に膝立ちして、両手を彼女の頭の左右のベッドに押し付けて逃げられないようにする。

「今日ここではっきりさせたほうが良いですね…もう逃げられませんよファージアさん！
もうユーリルさんが好きだってはっきりと認めちゃってください！ネタは上がってるんですよっ！！
ここで認めちゃったらあたしがフルーツパフェおごっちゃいますから！」

「リフィルちゃん、わたし容疑者なの？自白させられるの？人情刑事ものなの？
だからぁ…わたしはユーリルのこと、ちょっとカッコイイとは思っているし、仲良くなりたいとは思っているけどぉ…好きというわけじゃあ…。
あれぇ？なんでわたしがリフィルちゃんに問い詰められるかたちになってるのかなぁ…わたし年上のお姉さんなのに…これっておかしいよぉ…」

「そんなこと言って！もしかして！ファージアさんが長い間ずっと好きな先生に操立てて！そんな言い訳がましいこと言ってるんじゃないんですか！」

「何言ってるのぉーリフィルちゃあん！そんなんじゃないよぉーー！…ってあれ？リフィルちゃん何でわたしが先生のこと好きだって知ってるの！？」

「何を今更言ってるんですかー！温泉宿のあの時にファージアさんあんなに泣きはらしたから、その先生とはただことじゃない関係だって誰もが思うじゃないですか！
アースガルフのみんなはそう思ってますよ！…異常に鈍いユーリルさんは覗いて」

「え？えっ？わたし…アースガルフのみんなに先生のことが好きなこと、知られてる…の？
ああ、あの時、わたし…ユーリルが気付かなかったから、そのことが全部頭から全部吹き飛んじゃってたけど、確かにあれだけ泣きはらしたら…普通は気付くよね…。
それって…わたし、先生が好きなのにユーリルとも仲良くしているって見られているってこと？それって…」

「清純そうな顔して二股掛けてる女と思われているんじゃないですかねー？」

「…あっ！ああっー！！違、違う、わたしそんなんじゃ…ちがうよぉおーー！！
先生とは片思いなだけだし！わたしは先生とは何もなかったし！ユーリルとは手も握ったこと無いし！なにも無いんだよ！ホントだよぉ！
でもガイルお爺さんにもガイル団のお爺さんたちにもそんな風に思われていたなんてぇえーー！恥ずかしい！恥ずかしいよぉおお！！ああっ、穴があったら入りたい！
むしろ埋めてぇ！リフィルちゃあん！この砂漠の奥深くにわたしを埋めてええええ！！！」

ファージアはベッドの上で真っ赤に染まった顔を両手で抑えてゴロゴロと高速で横回転をして悶え苦しんでいる。
リフィルはそんな彼女にぽん！と手を添えて口を開いた。

「お爺ちゃんたちは人生経験豊富だから別に気にしていませんよ、若気の至りと言うことで生暖かい目で見守ってくれたと思います」

「リフィルちゃあん！若気の至りって！？生暖かい目って！？それ全然フォローになってないよぉお！」

「だって全然フォローしてませんから！」

「酷いよぉリフィルちゃあん！」

ベッドの上でゴロゴロ高速回転しながら身悶えし続けるファージアの頭をリフィルはよしよしと撫でる。

「ふふふ、やっぱりファージアさんは実年齢よりも可愛いらしいですねー」

「リフィルちゃあん！からかわないでぇ！…むぅ、わたし怒ったから…怒ったからねぇ！年上のお姉さんを怒らせたらどうなるかぁ…その身体に教えてあげるよぉ！」

そういってファージアは自分の頭を撫でていたリフィルの手を掴むと自分のベッドの中に引き寄せた。

「きゃははー、ファージアさあんくすぐったいよおー！でもあたしだって今度は負けないからねー！それそれー！」

「あははー、リフィルちゃあんくすぐったいぃー！！こっちも反撃だあー！このこのー！」

「ひゃああん！ファージアさんそこはっ…ダメえ！ダメだよう！…でも今度はやられっぱなしじゃ済まさないよー！これならどうだー！！」

「ふああああん！リフィルちゃあん！駄目ぇ！そんなところぉ！…でもぉ！わたしは！年上のお姉さんだからぁ！負けないからぁ！！」


　少女たちはベッドの上でゴロゴロとお互いの身体を抱き合って触れあって。
そしてひと段落して。落ち着いてきて。平静さを取り戻して。
…そして口を開いた。


「あたしたち…真昼間からベッドで二人でくんずほづれつ…何やってるんでしょうね…」

「うん…リフィルちゃん…とりあえず…身だしなみ…整えようか…」

　二人の少女はいそいそとそれぞれ乱れた服装を直し、髪を整える。そしてリフィルが口を開いた。

「あたし、ユーリルさんがアースガルフを降りるのを許可しますよ」

「本当？リフィルちゃん」

「その前に、ユーリルさんとみんなに渡したいものがあります。あたし、自分の部屋に戻ってそれを取って来ますねー」




　ファージアとリフィルの二人は連れ立って移動式冒険者ギルド・アースガルフの艦橋に戻ってきた。

「おっ、二人とも戻って来やがったなあ、結構かかったなあ」

「ただいまみんなー、女の子には身だしなみとか色々あるんだよー」

「身だしなみってお前…？まさか風呂に入ったのかあ？」

「お爺ちゃん！そこまではしてないよー！」

「…そういえば二人とも心なしか晴れやかな表情をしている様も見える」

「ユーリルさんそういうところは鋭いですよね！でもそういうことはなるべく言わない方がいいですよ！」

「…良くは解らないが、善処しよう、リフィル＝アースガルフ」


「ユーリルさん！冒険者ギルド・アースガルフのギルドマスターとしてあたしリフィル＝アースガルフは、あなたが一度アースガルフを降りることを許可します！
そこであなたに渡したいものがあります！手を出してくださいね」

　ユーリルが手を差し出すと彼女は金属製のプレートを手渡した。ユーリルの名前とアースガルフのギルド名が彫られている。

「みんなの分もありますよー！受け取ってくださいねー」

リフィルは艦橋に集まっているアースガルフ一同に一人づつ手渡しでプレートを渡していく。

「これは、アースガルフ所属を示すプレートかあ？…ん？これはもしかすると手彫りかあ？もしかしてこれはリフィルが全部彫ったのかあ？」

「8人分ですからねーそれぐらいならあたしがちょっと夜なべすればあっという間です！
ユーリルさん、これを持っていればアースガルフに所属している冒険者だって証明してくれます！
何らかの理由で身分を明らかにしなければならない時に役に立つと思います！
あたしはアロード国からも正式に認められているギルドマスター、リフィル＝アースガルフです！
例え遠く離れていてもギルドのメンバーが困ったことになったら全力で助けます！」

「…なるほど…心遣い、感謝する、リフィル＝－アスガルフ」

「でもユーリルさん、修業はほどほどに切り上げて帰って来て下さいよー。
アースガルフの席は開けておきますけど、うちは将来の人気ギルドなんです！
あんまり帰りが遅いと有望な新人さんが幅を利かせてユーリルさんは肩身の狭いことになるかもしれませんよ！」

「…ああ、なるべく善処しよう」

「本当にわかってますー？ファージアさんなんてユーリルさんの帰りがあまりに遅いと寂しくて死んじゃいますよー？」

「ちょっとまってリフィルちゃん！わたしウサギじゃないからね！わたし死なないからね！」

「…私はファージア＝セントニアと共に行くと決めた身の上。その為にも修業にそう長くは時間を取らないつもりだ。
…それからリフィル＝アースガルフ、ここを出る前に貴様に一度言っておきたいことがある」

「はい？ユーリルさん何ですかー？」

「私は今迄…この様に仲間に囲まれて和やかに時を過ごしたことは無い、この様な時を過ごす機会をくれた貴様には感謝している。
そしてこの様な和やかな雰囲気のギルドを作り上げているギルドマスターとしての力量を私は尊敬している…いや違うな、好感を持っている…つまり、私は貴様を好きだという事だ」


「…きゅう」


「リフィルちゃあん！」

　顔を真っ赤に火照らせて身体がカチカチに固まってそのまま倒れそうになったリフィルを咄嗟に抱き止めるファージア。

「…どうした？リフィル＝アースガルフ？急患か？これは救急起動車を呼ぶべきだろうか？」

「ユーリル酷いよ！そうだよまたしても急患だよ！心のね！ああっ…リフィルちゃんしっかり…」

「ガハハ！リフィルの奴びっくりしてやがるぜ！まあしっかりしている様でそういうところはまだまだ子供ってことだなあ！」

　ぱくぱくと金魚のように口を開けながら何かを言っているリフィル。しかし言葉にはならなかった。


「ユーリルの兄ちゃん、まあリフィルの奴は心配ないやなあ、しっかしお前さん、リフィルのギルドマスターとしての腕をそこまで評価していたとはなあ…祖父としては感無量だぜえ！」

「私はアースガルフに来て、リフィル＝アースガルフを初めとして和やかな雰囲気を持ちながら強い信念と強さを持つ皆を尊敬し、好感を持っている…つまり、私はガイル殿もガイル団の皆も好きだという事だ」

「へええ、それは嬉しいねえ！こんなに強い気士の兄ちゃんにそう言われたら俺たちも感慨深いってもんさあ！なあ野郎ども！」

「おおおーーー！！！団長！！！」



「こ、このおおーー！！出ていけ！ユーリルさんなんて！さっさとアースガルフから出て行っちゃえええーーー！！！」

　ユーリルのガイル団に対する物言いから、自分が言われた好きという言葉に対する彼の真意を理解し、息を吹き返したリフィルは凄い剣幕で彼に向って叫んだ。


「…ああ、そうしよう。それでは皆、達者で…。
気鋼武装（きこうぶそう）！」

　ユーリルが叫ぶと同時にその身体から”気”が吹き上がった。
火柱の様になったそれは一気に収縮し彼の全身を包むように覆うと瞬く間に物質化、黒金色に染められたフルフェイス・フルプレートの全身鎧づくめの姿へと変貌した。
そして彼はその背から飛行翼を広げると気光推進口（スラスター）から気の光を噴射させてアースガルフから飛び立つと凄まじいスピードで砂漠の彼方に飛び去った。

　ガイル以下、ガイル団は大きく手を振ってユーリルを見送った。
リフィルは拳を振り上げてあっかんべーをして睨みつけながら彼を見送った。
ファージアはそんなリフィルを諫めながらユーリルに小さく手を振って見送った。


　出会いがあれば別れがある。

　そして再び出合うこともあるだろう。

　どこまでも続く灼熱の虚空と砂の大地を進む移動式冒険者ギルド・アースガルフ。

　本船はまもなくアロード国領内を抜けて隣国グレプカ王国との国境線に入ろうとしていた。