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第2章
ダンジョンはやっぱり絡まれるよね~見た目より強かった錬金術師と魔女たち~
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次の朝、まだタブレットの更新は終わらず沈黙したままだった。
リコマ山の朝は爽やかだった。木々が風で揺れ鳥のさえずりも聞こえた。
「どうする今日も屋台村に行くか?」
「マリオさん、午前中はダンジョンに潜るのはどうでしょう」
「僕たち、まだダンジョンに潜っていないのです」
「そうか、それなら普通の武器が必要だぞ」
マリオは世界辞書の知識から、解体用ナイフに似せた刃渡り30センチの短剣型魔導銃を具現化した。
「これなら弱い冒険者に見えるはずだ。ヒカル、持った感じはどうだ?」
「はい、とても軽いのでいいのですが、確かに笑われそうですね」
「ヒカル、引き金を引けば雷魔法が出るようになってる」
四人はログハウスの外に出てヒカルが岩に向かって剣を振った。ビッ、ビッ、ビッ 雷魔法が短くパルスのように発射された。
「マリオさん、この武器って、凄いですね」
「そうだろう。引き金を引くだけだから誰でも使える。それにダイヤル式で電撃の強さを変更できるようにしておいた。ゴブリン程度なら1で充分だ」
「ダイヤル0は護身用だよ」
マリオは対人用に気絶させるだけの微弱モードを付けていた。通常は1~3で使うが、対大型魔物用に4はメガサンダーボルト、5は上級魔法のタケミカズチを付けたのだった。
リカコとミチルのスタッフも水晶玉から雷魔法が出るように具現化した。
「マリオさん、僕たちの衣装はどうするのですか?」
「衣装は俺とヒカルが錬金術師の格好、リカコとミチルは魔女の服装だ」
「マリオさん、暁のトレジャーの衣装を参考にしたのね」
「リカコ、そうだよ。衣装は立派だけど、装備は駆け出しの錬金術師と魔女って感じさ」
「それって、私たちが馬鹿にされるのを狙っているの?」
「そんなとこだ」
マリオがリカコたちのスタッフの調整をしている横で、ヒカルは有るアイテムを考えていた。
「マリオさん…対人用に、防御魔法の指輪をはめておきましょう」
そう言って、ヒカルは世界辞書を指先でなぞりながら、小さな銀の指輪を具現化した。 指輪には淡い青の魔法紋が刻まれていて、触れるとふわりと魔力の膜が広がる。
「ヒカル、それって、防御魔法の指輪か?」
「そうです。初撃だけ防げるようにしてみました。地味ですけど、効くと思います」
「うん、採用だ」
4人は転移門で借家に転移し、冒険者ギルドの食堂で朝食をとってから、オポタ川のスタシモスダンジョンに歩いてきた。
堤防の道を歩いていると大急ぎで走ってくる男たちが見えた。
「ヒカル、ミチル、道の端に避けるんだ」
ガン、ガン、ガン、マリオが声を発する前に男たちは障壁によって飛ばされ尻もちをついた。
「兄貴、こいつら駆け出し冒険者ですぜ」
「構えわね~、お前ら男だけ叩き切って川に投げ込め」
「女は連れて行こうぜ」
ビッ、ビッ、ビッ、
上段から大きく振りかぶったので、マリオは弱めの電撃を入れたが、案の定、白目をむいて泡を吹いていた。ご愁傷さま。
「彼奴等、お尋ね者のディックとケリー、ヤンソンを一撃だぜ」
「弱そうに見えるけど、初心者パーティじゃなかったのか?」
「いや、凄腕の魔術師と魔女のパーティだ」
ギャラリーがガヤガヤ言っているので、マリオたちは知らんぷりしてダンジョン入口までこっそり転移した。その後、ディック、ケリー、ヤンソンの三人は騎士団にお縄になり犯罪奴隷として鉱山送りなったようだ。
「マリオさん、やっぱり絡まれたじゃない」
「リカコ、これでいいんだよ。彼らは死んでいないし、気絶しただけ。それに他の冒険者たちは俺たちに絡んでこないと思うよ」
実際にその通りで、入るのに並んでいたが、マリオたちの前後が3メートルほど開いていた。
「リカコ、俺たちも腕慣らしをしようか?」
「そうね、ヒカルたちと別れましょう」
「ヒカル、ミチル、俺たちは先に2階まで降りていくよ。何かあれば念話で連絡してくれ」
「了解です」
ヒカルは、マリオたちが転移して消えたあと、少し緊張した面持ちでミチルに目を向けた。
「ミチルさん、僕たちだけで動くのは初めてですね」
「うん。でも、マリオさんが言ってたでしょ。“雷魔法は引き金を引くだけ”って」
ミチルはスタッフを軽く握り直し、足元の石を見つめた。
「それに、私だって…魔女だもん」
ヒカルは笑った。ミチルの言葉には、少しだけ勇気が混じっていた。
ビッ、ビッ、ビッ、「ヒカルさん、あっけなく倒していくね」
「スライムはそんなもんだよ」
「マリオさんとリカコさんが1階を飛ばした訳が分かったわ。私たちも2階に急ぎましょう」
「ミチル、手をつなぐよ。ブースト」
ヒカルは魔法障壁を展開してホーンラビットを魔法障壁で弾き飛ばしていった。
「おい、あつら、暴走馬車のようだな」
「ガキに取られる前に、素材だけ拾っておこうぜ」
駆け出し冒険者のリックとテリーは素材を拾い集めていた。スライムの魔石は1個銅貨1枚、ホーンラビットの角は1本が銅貨3枚で買い取られていた。
ダンジョン1階は孤児たちが素材集めをするのは黙認されていて、ベテランになるほど魔物を倒しても素材はそのまま放置していくのがダンジョンでの暗黙のルールだった。
ダンジョン2階……ヒカルとミチルは階段で休憩をしていた。
「ミチル、行こうか?」
「ええ、大丈夫よ」
ヒカルとミチルが階段を降りて早々にゴブリン2体が威嚇してきた。
ビッ、ビッ、ヒカルの雷魔法はゴブリンに効果てきめんだった
「ミチル瞬殺だね」
「ヒカル、ここからは素材を拾っていきましょうよ」
「そうだったね」
「我求む 大いなる紅蓮の炎、ファイアーボール」
ドゴーン、ゴブリンは炭化して消し炭になっていた。
通路の隅でへたり込んでいる冒険者はファイアーボールでゴブリンを倒したのははいいが、魔力切れで全く動けないようだ。
ミチルはその様子をちらりと見て、スタッフを軽く振った。
「マナヒール」
淡い光が冒険者の背中にふわりと触れ、魔力がじんわりと戻っていく。 冒険者は気づかず、ただ「…あれ?ちょっと楽になった?」と呟く。
ミチルは何も言わず、ヒカルの後ろにそっと戻る。
「ミチルさん、今なにかした」
「ううん、何でもないよ。早く素材拾おうよ」
◇ ◇ ◇ ◇
その頃── マリオとリカコは、2階の奥でゴブリンメイジによる襲撃に遭い、重症を負った冒険者たちを救っていた。
「エリアハイヒール」
リカコの上級回復魔法は重症だった冒険者の傷を直ぐに回復させていった。
「助けてくれたのか、俺たちは“アケガラス”ってパーティだ。感謝する」
「いいですよ、困った時はお互い様です」
「俺はマリオ、こちらは妻のリカコです」
「それより、何故、ゴブリンメイジがこの階にいるのですか?」
「どうやら、10階の主だったゴブリンメイジが2階の主にチェンジしたらしい」
「あいつは異常に強いウンドカッターで俺たちを刻んだのさ」
マリオは、ゴブリンメイジは突然変異だろうと考えた。アケガラスは冒険者ギルドに報告すると言って別れた。
(ヒカル、ミチル、聞こえるか?)
(はい、どうかしましたか?)
(2階の奥で異常が発生している。すぐに来れるか?)
(了解です。すぐ行きます)
ヒカルとミチルは念話を終り、マリオから聞いた、ポイントに転移してきた。
「マリオさん、ここです!」
ヒカルとミチルが転移してきた瞬間、彼らの目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
そこは広い空間になっており、中央には禍々しい魔力を纏った一体のゴブリンメイジが浮かんでいた。その周囲の壁や床には、鋭い風の刃によって刻まれた無数の傷跡が残されている。そしてその近くに、マリオとリカコが倒れていた。
「リカコ!」
「マリオさん!」
二人は血まみれだった。
リカコの紫の魔女の衣装は鮮血に染まり、マリオの黒の錬金術師の服も深く裂けている。二人は全身に無数の切り傷を負い、浅い息を繰り返している。ゴブリンメイジの超高速の風魔法(ウンドカッター)が、二人の肉体を細かく刻んだのだ。
「ぐっ…ヒカル、来るな…こいつ、異常に…速い…」
マリオが呻きながら、弱々しい声で警告した。
「マリオさん…リカコさん……!」
ヒカルの顔は真っ青になり、短剣型魔導銃を構える手が震えた。しかし、その時、ゴブリンメイジが再び詠唱を始めた。
「グルル…シャアアア!」
風が唸りを上げ、空間が歪む。次の瞬間、無数の透明な刃が四人に目掛けて一斉に放たれた。
「ミチル!危ない!」
ヒカルは反射的に防御魔法の指輪に魔力を集中させ、小さな魔法障壁を展開した。ガン、ガン、ガン。障壁は初撃を防いだが、ゴブリンメイジの攻撃の勢いは収まらない。
ミチルはマリオとリカコの姿から目を離せなかった。全身を刻まれた二人の姿を見て、涙が溢れてくる。
(嫌だ…こんなところで…マリオさん、リカコさん、死なないで!)
ふと、頭の中で声が響いた。それは、二人が転移した夜に聞いた、女神アリアドネの声だった。
「ミチルには“創薬”の力──癒しと命を繋ぐ知識が宿っておる。これは病と呪いに苦しむ者たちを救う力となる」
「そうだ、私は、アギオスになるんだ!」
ミチルは、スタッフを力強く握りしめた。彼女の体が淡い金色の光を放ち、それは純粋な聖魔法の輝きだった。
「届いて…!私に宿る…全ての光よ!」
ミチルは涙を流しながら叫んだ。
「エリア・グランド・ヒール!!」
溢れ出る膨大な魔力が光の波となって広がり、ゴブリンメイジの攻撃をかき消しながら、マリオとリカコの体へ流れ込んだ。深く刻まれた傷が、まるで時を巻き戻したかのように塞がっていく。彼らの顔色が一気に生気を取り戻した。
「ミチル、ありがとう。助かったよ」マリオは驚きと安堵の表情を見せた。
リカコも意識を取り戻し、ミチルの光に満ちた横顔を見て、そっと微笑んだ。
「ヒカル、今だ!」
マリオの言葉に、ヒカルは我に返った。ミチルの聖魔法がゴブリンメイジの注意を一瞬逸らした隙を逃さない。
「くたばれ…!タケミカズチ!!」
ヒカルは魔導銃のダイヤルを「5」にセットし、引き金を引いた。
ビー、バリバリッ、ピシャーン! ドゴオオオオオオン!!
上級魔法タケミカズチが凄まじい雷鳴と共にゴブリンメイジに直撃し、その体は一瞬で塵と化して消し炭になった。空間に漂っていた魔力が霧散し、静寂が訪れた。
へたり込んだミチルに、リカコは駆け寄り抱きしめた。
「ミチル、ありがとう。あなたは、立派なアギオスよ」
ミチルは泣きながら首を振った。
「私、何もできないって思ってた。でも……」
「ううん、できたわ。あなたが私たちを救ってくれたのよ」
ミチルは、自分の内に秘められた聖魔法の力、そしてその真価を、初めて確信したのだった。
こうして、無事に助かったマリオとリカコはヒカルとミチルと一緒に転移門でログハウスに帰った。
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リコマ山の朝は爽やかだった。木々が風で揺れ鳥のさえずりも聞こえた。
「どうする今日も屋台村に行くか?」
「マリオさん、午前中はダンジョンに潜るのはどうでしょう」
「僕たち、まだダンジョンに潜っていないのです」
「そうか、それなら普通の武器が必要だぞ」
マリオは世界辞書の知識から、解体用ナイフに似せた刃渡り30センチの短剣型魔導銃を具現化した。
「これなら弱い冒険者に見えるはずだ。ヒカル、持った感じはどうだ?」
「はい、とても軽いのでいいのですが、確かに笑われそうですね」
「ヒカル、引き金を引けば雷魔法が出るようになってる」
四人はログハウスの外に出てヒカルが岩に向かって剣を振った。ビッ、ビッ、ビッ 雷魔法が短くパルスのように発射された。
「マリオさん、この武器って、凄いですね」
「そうだろう。引き金を引くだけだから誰でも使える。それにダイヤル式で電撃の強さを変更できるようにしておいた。ゴブリン程度なら1で充分だ」
「ダイヤル0は護身用だよ」
マリオは対人用に気絶させるだけの微弱モードを付けていた。通常は1~3で使うが、対大型魔物用に4はメガサンダーボルト、5は上級魔法のタケミカズチを付けたのだった。
リカコとミチルのスタッフも水晶玉から雷魔法が出るように具現化した。
「マリオさん、僕たちの衣装はどうするのですか?」
「衣装は俺とヒカルが錬金術師の格好、リカコとミチルは魔女の服装だ」
「マリオさん、暁のトレジャーの衣装を参考にしたのね」
「リカコ、そうだよ。衣装は立派だけど、装備は駆け出しの錬金術師と魔女って感じさ」
「それって、私たちが馬鹿にされるのを狙っているの?」
「そんなとこだ」
マリオがリカコたちのスタッフの調整をしている横で、ヒカルは有るアイテムを考えていた。
「マリオさん…対人用に、防御魔法の指輪をはめておきましょう」
そう言って、ヒカルは世界辞書を指先でなぞりながら、小さな銀の指輪を具現化した。 指輪には淡い青の魔法紋が刻まれていて、触れるとふわりと魔力の膜が広がる。
「ヒカル、それって、防御魔法の指輪か?」
「そうです。初撃だけ防げるようにしてみました。地味ですけど、効くと思います」
「うん、採用だ」
4人は転移門で借家に転移し、冒険者ギルドの食堂で朝食をとってから、オポタ川のスタシモスダンジョンに歩いてきた。
堤防の道を歩いていると大急ぎで走ってくる男たちが見えた。
「ヒカル、ミチル、道の端に避けるんだ」
ガン、ガン、ガン、マリオが声を発する前に男たちは障壁によって飛ばされ尻もちをついた。
「兄貴、こいつら駆け出し冒険者ですぜ」
「構えわね~、お前ら男だけ叩き切って川に投げ込め」
「女は連れて行こうぜ」
ビッ、ビッ、ビッ、
上段から大きく振りかぶったので、マリオは弱めの電撃を入れたが、案の定、白目をむいて泡を吹いていた。ご愁傷さま。
「彼奴等、お尋ね者のディックとケリー、ヤンソンを一撃だぜ」
「弱そうに見えるけど、初心者パーティじゃなかったのか?」
「いや、凄腕の魔術師と魔女のパーティだ」
ギャラリーがガヤガヤ言っているので、マリオたちは知らんぷりしてダンジョン入口までこっそり転移した。その後、ディック、ケリー、ヤンソンの三人は騎士団にお縄になり犯罪奴隷として鉱山送りなったようだ。
「マリオさん、やっぱり絡まれたじゃない」
「リカコ、これでいいんだよ。彼らは死んでいないし、気絶しただけ。それに他の冒険者たちは俺たちに絡んでこないと思うよ」
実際にその通りで、入るのに並んでいたが、マリオたちの前後が3メートルほど開いていた。
「リカコ、俺たちも腕慣らしをしようか?」
「そうね、ヒカルたちと別れましょう」
「ヒカル、ミチル、俺たちは先に2階まで降りていくよ。何かあれば念話で連絡してくれ」
「了解です」
ヒカルは、マリオたちが転移して消えたあと、少し緊張した面持ちでミチルに目を向けた。
「ミチルさん、僕たちだけで動くのは初めてですね」
「うん。でも、マリオさんが言ってたでしょ。“雷魔法は引き金を引くだけ”って」
ミチルはスタッフを軽く握り直し、足元の石を見つめた。
「それに、私だって…魔女だもん」
ヒカルは笑った。ミチルの言葉には、少しだけ勇気が混じっていた。
ビッ、ビッ、ビッ、「ヒカルさん、あっけなく倒していくね」
「スライムはそんなもんだよ」
「マリオさんとリカコさんが1階を飛ばした訳が分かったわ。私たちも2階に急ぎましょう」
「ミチル、手をつなぐよ。ブースト」
ヒカルは魔法障壁を展開してホーンラビットを魔法障壁で弾き飛ばしていった。
「おい、あつら、暴走馬車のようだな」
「ガキに取られる前に、素材だけ拾っておこうぜ」
駆け出し冒険者のリックとテリーは素材を拾い集めていた。スライムの魔石は1個銅貨1枚、ホーンラビットの角は1本が銅貨3枚で買い取られていた。
ダンジョン1階は孤児たちが素材集めをするのは黙認されていて、ベテランになるほど魔物を倒しても素材はそのまま放置していくのがダンジョンでの暗黙のルールだった。
ダンジョン2階……ヒカルとミチルは階段で休憩をしていた。
「ミチル、行こうか?」
「ええ、大丈夫よ」
ヒカルとミチルが階段を降りて早々にゴブリン2体が威嚇してきた。
ビッ、ビッ、ヒカルの雷魔法はゴブリンに効果てきめんだった
「ミチル瞬殺だね」
「ヒカル、ここからは素材を拾っていきましょうよ」
「そうだったね」
「我求む 大いなる紅蓮の炎、ファイアーボール」
ドゴーン、ゴブリンは炭化して消し炭になっていた。
通路の隅でへたり込んでいる冒険者はファイアーボールでゴブリンを倒したのははいいが、魔力切れで全く動けないようだ。
ミチルはその様子をちらりと見て、スタッフを軽く振った。
「マナヒール」
淡い光が冒険者の背中にふわりと触れ、魔力がじんわりと戻っていく。 冒険者は気づかず、ただ「…あれ?ちょっと楽になった?」と呟く。
ミチルは何も言わず、ヒカルの後ろにそっと戻る。
「ミチルさん、今なにかした」
「ううん、何でもないよ。早く素材拾おうよ」
◇ ◇ ◇ ◇
その頃── マリオとリカコは、2階の奥でゴブリンメイジによる襲撃に遭い、重症を負った冒険者たちを救っていた。
「エリアハイヒール」
リカコの上級回復魔法は重症だった冒険者の傷を直ぐに回復させていった。
「助けてくれたのか、俺たちは“アケガラス”ってパーティだ。感謝する」
「いいですよ、困った時はお互い様です」
「俺はマリオ、こちらは妻のリカコです」
「それより、何故、ゴブリンメイジがこの階にいるのですか?」
「どうやら、10階の主だったゴブリンメイジが2階の主にチェンジしたらしい」
「あいつは異常に強いウンドカッターで俺たちを刻んだのさ」
マリオは、ゴブリンメイジは突然変異だろうと考えた。アケガラスは冒険者ギルドに報告すると言って別れた。
(ヒカル、ミチル、聞こえるか?)
(はい、どうかしましたか?)
(2階の奥で異常が発生している。すぐに来れるか?)
(了解です。すぐ行きます)
ヒカルとミチルは念話を終り、マリオから聞いた、ポイントに転移してきた。
「マリオさん、ここです!」
ヒカルとミチルが転移してきた瞬間、彼らの目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
そこは広い空間になっており、中央には禍々しい魔力を纏った一体のゴブリンメイジが浮かんでいた。その周囲の壁や床には、鋭い風の刃によって刻まれた無数の傷跡が残されている。そしてその近くに、マリオとリカコが倒れていた。
「リカコ!」
「マリオさん!」
二人は血まみれだった。
リカコの紫の魔女の衣装は鮮血に染まり、マリオの黒の錬金術師の服も深く裂けている。二人は全身に無数の切り傷を負い、浅い息を繰り返している。ゴブリンメイジの超高速の風魔法(ウンドカッター)が、二人の肉体を細かく刻んだのだ。
「ぐっ…ヒカル、来るな…こいつ、異常に…速い…」
マリオが呻きながら、弱々しい声で警告した。
「マリオさん…リカコさん……!」
ヒカルの顔は真っ青になり、短剣型魔導銃を構える手が震えた。しかし、その時、ゴブリンメイジが再び詠唱を始めた。
「グルル…シャアアア!」
風が唸りを上げ、空間が歪む。次の瞬間、無数の透明な刃が四人に目掛けて一斉に放たれた。
「ミチル!危ない!」
ヒカルは反射的に防御魔法の指輪に魔力を集中させ、小さな魔法障壁を展開した。ガン、ガン、ガン。障壁は初撃を防いだが、ゴブリンメイジの攻撃の勢いは収まらない。
ミチルはマリオとリカコの姿から目を離せなかった。全身を刻まれた二人の姿を見て、涙が溢れてくる。
(嫌だ…こんなところで…マリオさん、リカコさん、死なないで!)
ふと、頭の中で声が響いた。それは、二人が転移した夜に聞いた、女神アリアドネの声だった。
「ミチルには“創薬”の力──癒しと命を繋ぐ知識が宿っておる。これは病と呪いに苦しむ者たちを救う力となる」
「そうだ、私は、アギオスになるんだ!」
ミチルは、スタッフを力強く握りしめた。彼女の体が淡い金色の光を放ち、それは純粋な聖魔法の輝きだった。
「届いて…!私に宿る…全ての光よ!」
ミチルは涙を流しながら叫んだ。
「エリア・グランド・ヒール!!」
溢れ出る膨大な魔力が光の波となって広がり、ゴブリンメイジの攻撃をかき消しながら、マリオとリカコの体へ流れ込んだ。深く刻まれた傷が、まるで時を巻き戻したかのように塞がっていく。彼らの顔色が一気に生気を取り戻した。
「ミチル、ありがとう。助かったよ」マリオは驚きと安堵の表情を見せた。
リカコも意識を取り戻し、ミチルの光に満ちた横顔を見て、そっと微笑んだ。
「ヒカル、今だ!」
マリオの言葉に、ヒカルは我に返った。ミチルの聖魔法がゴブリンメイジの注意を一瞬逸らした隙を逃さない。
「くたばれ…!タケミカズチ!!」
ヒカルは魔導銃のダイヤルを「5」にセットし、引き金を引いた。
ビー、バリバリッ、ピシャーン! ドゴオオオオオオン!!
上級魔法タケミカズチが凄まじい雷鳴と共にゴブリンメイジに直撃し、その体は一瞬で塵と化して消し炭になった。空間に漂っていた魔力が霧散し、静寂が訪れた。
へたり込んだミチルに、リカコは駆け寄り抱きしめた。
「ミチル、ありがとう。あなたは、立派なアギオスよ」
ミチルは泣きながら首を振った。
「私、何もできないって思ってた。でも……」
「ううん、できたわ。あなたが私たちを救ってくれたのよ」
ミチルは、自分の内に秘められた聖魔法の力、そしてその真価を、初めて確信したのだった。
こうして、無事に助かったマリオとリカコはヒカルとミチルと一緒に転移門でログハウスに帰った。
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