改訂版 愛のエキスと聖女さま

にしのみつてる

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第2章

胸が小さいって言われるのはちょっと癪だけどね

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 ピピピ、ピピピ、ピピピ……

 翌朝、ラファエルはご丁寧にもアラームでヒロシたち4人を起こしたのだった。

「ヒロシさん、ミサエさん、おはようございます」  
「今日はタイバン島に渡りましょう。朝食の後でログハウスは片付けて下さい」

「ラファエル、わかったよ」

「ヒロシさん、ダリナとサブローはどうするの?」  
「もうすぐ起きて来ると思うよ」

「ヒロシさん、ミサエさん、おはようございます」

 ミサエさんはオウランバータの肉屋で買ったベーコンと卵でベーコンエッグを作り、ソタイン村で購入した田舎パンのシンプルな朝食を用意してくれた。

「ミサエさん、田舎パンはソタイン村を思い出す味だね」  
「そうね、今頃おかみさんたちはどうしてるかしら?」  
「さぁ、どうだろうね」

「うまっ、ダリナさん、このベーコンエッグ美味しいですね」  
「サブロー、朝ごはんを食べたらタイバン島に買い物に行くわよ」  
「は~い」

 サブローは収納からキャンピングカーを出した。ヒロシはログハウスを収納したので、みんなはキャンピングカーに乗り込んだ。

「それでは出発します」  
「は~い」

「絶対防御3重展開」  
「魔導ジェットエンジン異常なし」  
「与圧システム異常なし」  
「計器類オールグリーン」  
「フライトチェック、完了」

「テイクオフ」  
 サブローが青いボタンを押すと、キャンピングカーは10mほど浮上して海の上を水平飛行していた。

「ラファエル、今朝は高く上がらないのか?」  
「皆さん、買い物の後でトノス釣りをしてみませんか?」

「ヒロシさん、船釣りは絶対に駄目よ」  
「だって、ヒロシさんは前から船に乗った途端に気持ち悪くなって吐いていたでしょ」

「あっ、忘れてた」  
「俺は船に乗れないのだった」

「ヒロシさん、大丈夫ですよ、そのための低空飛行の練習なのです」  
「バギーで海の上を飛べば魚釣りは出来るのです」

「なるほど~、その手があったか」  
「はい、既にATVの改造はできています」

 ポーン、ポーン、  
「まもなく、キールン港です。倉庫の裏に着陸します」

 キールン港はガオシュン港と共にタイバン国の国際港だった。港にはキーナ国のバービから入港した三本マストのジャンク船が停泊しており、多くの観光客が降りていた。

「観光客の後ろについていこうよ」  
「そうね」

 入国審査は身分証明書のカードを見せるだけで、入国税の銀貨1枚を払えば犯罪者でない限り誰でも入国可能だった。人の流れに沿って歩いていくと9番街に出た。9番街とは通りの名称で、1番から10番まである大きな通りのことだった。

「ミサエさん、ダリナ、サブロー、念のためにペンダントを確認して」  
「「「大丈夫で~す」」」

「サブロー、タピオカドリンクよ」  
「ダリナさん、勝手に走って行くと迷子になりますよ」

「おばさん、タピオカドリンク4つ」  
「4つで鉄貨8枚だよ」

「ミサエさん、美味しいですね」  
「本当ね、元の世界のタピオカと同じ味だわ」

「ミサエさん、大きなカステラ屋さんです」  
「本当ね、今から切るようよ」

「カステラ4つください」  
「4個で鉄貨8枚だよ」

「ミサエさん、さっきのタピオカもそうだけど値段が安いよね」  
「そうね、地産地消の効果もあると思うわ」

「ダリナさん、お腹いっぱいになりました」  
「サブロー、おやつにカステラを2つ買おうよ」

「ダリナさん、まだカステラを買うのですか?」  
「だって、美味しいもの」  
「そうですね」

 ダリナは収納にカステラを大事にしまった。

「二人とも行くよ」  
「は~い」


 通りは色々な店がごちゃごちゃ並んでいて、美味しい食べ物で溢れかえっていた。  
 ダリナとミサエさんは普段着用のドレスを扱う店に入って行った。

「ミサエさん、華やかなドレスですね」  
「ベリーダンスの衣装に似ているわね」

「お嬢様、こちらはトルキアの踊り子のドレスでございます」  
「1着金貨3枚です」

「ミサエさん、緑のドレスが素敵です。それと青のドレスもいいです」  
「こちらは普段着として着ていただけるドレスです。1着金貨1枚になります」

「両方とも2着ずついただくわ」  
 ミサエさんは店員に金貨4枚を払った。

「奥の部屋で試着して下さい」  
「ありがとう、着替えさせていただくわ」

(ヒロシさん、そっちはどう?)  
(俺たちも順調だよ)

 ミサエさんたちがドレスに着替えている頃、ヒロシとサブローは魔道具店で品定めをしていた。

「ヒロシさん、これは火縄銃のピストルですね」  
「そうだな、火薬はどうするかな?」

「兄さんたち、これに気付くとは目が高いね。これはポルトギア製の新型銃で金貨300枚だ」

(ラファエル、構造解析をしてくれ)  
(了解しました)

「サブロー、アダマンタイトだ」  
「本当ですね」

「こちらでは、アダマンタイトの買い取りもしていただけるのですか?」  
「お客様、アダマンタイトをお持ちでしたら見せていただけますか」

 サブローはマジックバックからアダマンタイトを1つ取り出した。

「お客様、これはモンゴリヤ国のサンドワームから出てきた大粒のアダマンタイトですが、どちらで手に入れられたのですか?」

「俺たちがモンゴリヤ国の砂漠で倒してきたからです」  
「それは凄いですな」

「冒険者カードを拝見してもよろしいでしょうか?」  
「構わないよ」  
 ヒロシとサブローはAランクカードを店員に見せた。

「ロキシア国のAランク冒険者様でしたか。私は服装からコリレオ国かキーナ国の旅行者だと思っていましたので、これは大変失礼をいたしました」

「いいえ、気にしていませんので」

「では、買い取りは1つ金貨1000枚になります」

(ヒロシさん、オオコウモリの声帯があります)

「ご主人、このオオコウモリの声帯は幾らですか?」  
「こちらはフィリピネ産のオオコウモリの声帯で一つが金貨50枚です」

「では、オオコウモリの声帯を10個いただけますか」  
「かしこまりました」

(ヒロシさん、お釣りの分は赤魔粉を購入しましょう)

「ご主人、その赤魔粉は幾らですか?」  
「こちらはトルキア産の赤魔粉で1瓶が金貨500枚です」

「では、1つ下さい」  
 ヒロシたちはこの他に魔鉄鉱石1樽を購入し、代金としてアダマンタイトを4つと物々交換をした。

(ヒロシさん、私たちも着替えが終わったわ)  
(了解)

「ご主人、ありがとう」  
「また、ご贔屓に」

 ヒロシとサブローはミサエさんとダリナがいる洋品店に急いだ。

「ヒロシさん、錬金術師の服ですね」  
「そうだな、ミサエさんとダリナのドレスに合わせて緑と青にしようか」  
「そうですね」

「この緑の錬金術師の服と青の錬金術師の服を下さい」  
「かしこまりました、合わせて金貨4枚です」

 ヒロシは店員に金貨4枚を支払い、サブローと一緒に奥の部屋で着替えた。腰には短剣型魔導銃を帯剣したのだった。

「毎度ありがとうございました」  
「ありがとう」

 キールンの通りは相変わらず人びとで混雑していたが、幸いに悪意を持った人に絡まれることもなかった。

「ヒロシさん、オオコウモリの声帯は買えたの?」  
「ミサエさん、5つ買えたよ。それと、お釣りで赤魔粉も手に入れた」

「そう、良かったね」

「ミサエさんとダリナもお気に入りのドレスを買えたようだね」  
「そうよ、普段着用のドレスよ」

「サブロー、忍者の武器だよ」  
「ダリナさん、護身用に買っていきましょう」

 ダリナとサブローは露店で忍者が使うクナイとマキビシを購入し、銀貨4枚を払った。

「ミサエさん、緑と青の魔女ローブが売っています」  
「ダリナ、買っていきましょう」

「いらっしゃいませ」  
「緑と青の魔女ローブを下さい」

「2着で金貨2枚です」  
 ミサエさんは店員に金貨2枚を払った。

「毎度ありがとうございました」  
「ありがとう」

 ミサエさんとダリナは緑と青の魔女ローブをドレスの上から羽織った。

 通りを歩いていると、近くの冒険者風の男たちがこちらを見てひそひそと話していた。

「おい、緑の魔女と青の魔女だぜ」  
「それに二人とも目立つな……」

「馬鹿、女に指差すのはよせ。連れの男たちも錬金術師っぽいぞ」  
「彼奴ら、弱そうに見えてもむやみに絡むのだけはやめておけ」  
「そうだな、鉱山送りになるのは嫌だからな」

(ミサエさん、ダリナ、あの男たちがジロジロ見てるよ)  
(そうね、さっきから視線が気になるわ)

(ミサエさん、ダリナさん、男二人に向かって『オブリビオン』と唱えて下さい。見たことを忘れる魔法です)

「オブリビオン」

「ダリナ、男たちの視線が消えたわ」  
「ミサエさん、目がうつろになっています」

(仕上げに『ココラリホー』を唱えて下さい)

「ココラリホー」

「うわぁ~助けてくれー、幻影が出た!」  
 男たちは幻覚に混乱し、足元をふらつかせながら通りの奥へと逃げていった。

「ダリナ、これからは『オブリビオン』と『ココラリホー』ね」  
「そうですね。ちょっと効きすぎるのが難点ですね」

(ラファエル、ミサエさんとダリナが目立たないようにする魔法はない?)  
(ヒロシさん、ありますよ。『エンチャント・インハベーション』です)

「ミサエさん、ダリナ、そこの路地裏でペンダントに魔法付与しよう」  
「サブロー、周囲を警戒してくれ」  
「了解です」

「エンチャント・インハベーション」  
 4つのペンダントが光って認識阻害魔法が付与された。

 通りに戻ると、先ほどの男たちが再びすれ違ったが、今度はまるで別人を見るような反応だった。

「おい、あの魔女見てみろよ。なんだか地味だな」  
「それに二人とも目立たないし、あの男たちも普通の旅人に見えるな」  
「そうだな、あまり関わる必要もなさそうだ」

(ミサエさん、ダリナ、認識阻害は成功だね)  
(そうね、ちょっと地味に見えるのは癪だけどね)

(私は気にしませんよ)  
(僕も、目立たない方が安心です)

「ヒロシさん、認識阻害は要研究ね」  
「ハイ、善処します」

 その後、4人は通りを抜けて港の裏手へと向かい、次の目的地へと歩みを進めていった。  
 魔法と信頼、そして絆が少しずつ形になっていく旅路だった。

 終り──
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