異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト

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九話 【宿】

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 門の中に入るとそこは別世界が広がっていた。
 沢山の出店が左右にならび濁流の様に人が流れている。
 出店からは色々な声が上がりその声につられて
 出店の中に吸い込まれて行く人々。

 こんな人の波に呑まれてしまったら一溜りもないだろう。
 きっと一瞬でこの世から消される。
 そんな恐ろしい事を考えていたら隣にいるベアデが
 手をギュっときつく握ってくれた。

「迷子になったら駄目だよぉ」

「うん、ありがとう」

 本当に助かった。
 このまま一人で歩く羽目になってたら
 十中八九ウルエは迷子になっていただろう。
 ウルエはベアデに手を引かれ人の濁流を進んだ。
 一先ずの目的は無事宿に到着することだ。

 人混みの中を進んでいき、
 何度もぶつかりそうになるのだが、
 何故か相手の体が弾かれる様に離れていきぶつかる事は無い。
 不思議そうにその光景を観察していると、

「これは人避けの魔法だ、使ったこと無いか?」

「一応教えてもらったけど使ったことは無いよ」

 だって今まで城に籠ってたんだもの
 人避けなんて使う機会あるわけない。
 
「人避けの魔法ってこんな感じだっけ……」

 ウルエが教えてもらった人避けの魔法は
 もっと広範囲の魔法で範囲内に一切人を寄せ付けない
 という感じの魔法だったのだが…… 

「ああ、これはな魔法を弱めて発動しているんだ」

「へぇ、弱めるとこうなるんだね、勉強になった!」

 魔法の強弱の付け方は既に習っている。
 人避けの魔法をこういう風に使えば、
 危ない人を特定して近づけさせない事が可能だ。
 これは使えるぞ。

「人避けはねぇ効かない時もあるんだよぉ」

「え、何それ知らなかった……」

 そんな時があるのならば
 困らない様に是非知っておきたい。
 いざという時に効かなかったら最悪だからな。

「効かない時と言うのはねぇ、相手の魔力が自分より高い時かなぁ、
 まぁそういう時はぁその人だけを対象にしてぇ
 人避けの魔法を使えば良いだけなんだけどねぇ」

「そうなんだ、ありがとう勉強になった!」

 意外と簡単に解決できる事が分かった。
 対処法さえ分かっていれば怖い物は無い。

「着きましたよ」

 色々と教わっている間に何時の間にかに人混みを抜け
 宿の前まで来ていた。
 宿の中に入ると元気なおっちゃんがカウンターにいた。

「取りあえず一泊お願いします」

「おう、何人だ?」

「四人です」

「四人か……二人部屋なら二部屋あいてるんだが、
 二人部屋二部屋じゃだめか?」

「いえ、構いませんそれでお願いします」

 どうやら二部屋にわかれるらしい。
 部屋に案内され昨日のベッドと同じペアになり
 二部屋にわかれた。

 取り敢えず少し部屋で体を休め、
 夜にどこかに食べに行こうという約束をしてあり、
 それまでは自由なのでウルエはベッドに寝転がり体を休めることにした。

「お疲れさまぁ、疲れたでしょ」

「うん、かなり」

「そうだよねぇウルエは初めてだもの仕方がないねぇ
 今はゆっくりと休みなぁ」

「うん、そうするよ。
 少し寝ると思うから夜になったら起こしてほしいな」

「任せてぇーおやすみぃ」

・・・・

「――起きてぇー」

「んん……」

「ウルエ起きてぇー」

「んんー、」

 ぐっすりと眠っていたウルエを
 約束通りベアデが起こしてくれた。
 ウルエは目を擦りながらベアデの顔を見て、

「おはよー」

「おはよぉー、もう少しで時間だから準備してねぇ」

「うん」

 ベッドから出てまだ眠っている体を
 伸ばしたりして覚ます。
 
「ふぅ」

 目が覚めたウルエはささっと身支度を済ませる。
 身支度と言っても特に準備するものは無いので
 直ぐに身支度は終わった。

 まだ少し時間があるらしく暇になったウルエは 
 部屋の窓から外の風景を眺めることにした。
 空は薄暗くなっているが出店がある方向を見ると
 街灯の明かりで物凄く明るく、
 未だに人が沢山居るようで賑わっていた。

 ウルエはそんな風景を見て
 元気だなーと思い別の所へと目線を移動した。
 移動した先には宿の前でイチャイチャとしてる男女のカップル。
 
 何やら言い争っている様で
 二人の顔には怒りの表情が現れていた。
 ウルエはそんな二人の喧嘩をシメシメ別れろと思いながら眺めていると
 突然男の方が女の口にキスをして黙らせた。

「うわぁ……恥ずかしい」

 そんな光景を見て思わず口に出してしまった。
 見られてる何て思ってもいない二人はその後も
 暫くキスをして何処かへと消えていった。

「ウルエ行くよぉー」

「うん、分かった!」

 どうやら時間が来たらしい、
 ウルエとベアデは部屋を後にして爺ちゃんとエデルと合流して
 出店がある街の方へ向かった。
 既に爺ちゃんが良い店を見つけてくれているみたいで
 ウルエ達はその店に向かっているらしい。

 時間も良い時間帯なのでウルエのお腹はペコペコだ。
 早く何か口にしたい。
 そう思っていると例の店に着いたらしい。
 本当にあっという間だった。

 中に入ると既に食事をしていた
 客人たちが一斉に此方を見てきた。
 ウルエは一瞬ビクリとしてしまったが、
 爺ちゃんはそんな目線はお構いなしに店の中へと進んでいく。
 
 そして空いてる席に座った。
 未だに目線はウルエ達を捉えている。
 
「ご注文は?」

「お勧めを四人分お願いします」

「畏まりました」

 凄く、短い。

(こんなに短いのは初めて見たぞというかお勧めって何だろう……
 出来れば美味しいものが良いな)

「なぁ、爺」

「何でしょう」

「なんであいつ等俺達の事を睨んできてるんだ?」

(そうだ、それ。俺も気になってた)

「見ない顔だからでしょうかね。
 ああ言う輩の考えは私には分かりかねます」

「そうか……ウルエが少し怯えてるから
 少し脅した方が良いか?」

「え、え、そんな事しなくていいよ」

 此処でトラブルなんて起こされたらたまったものじゃない。
 此方をみてくるだけであって何かしてくる訳でもないから
 放っておいても問題ないだろう。

「そうか?なら良いんだが」

「お待たせしました」

 あっという間に料理が出来上がった様だ。早い。
 
「うわぁ、美味しそう」

 お勧めの料理とは特大ステーキだったらしく、
 テーブルの上には巨大なステーキが四皿。
 見てるだけで涎が止まらない。

「では、いただきましょうか」

「いただきまーす」

 肉を一口サイズに切り分けると
 切り口から肉汁がジュワリと溢れだしてきた。
 たまらず勢い良く肉を口の中に放り込む。

「んんん!美味しい!!」

 何とも言えない美味しさが
 口の中に広がり幸せな気分になる。

「そうですか、それは良かった」

 ウルエはあまりの美味しさに
 特大ステーキをあっという間に平らげた。
 他の皆も平らげたようで満足そうな顔をしていた。

「上手かったな」

「そうだねぇー」

 とても満足な食事を終えたウルエ達は
 何事も無く無事宿に戻る事が出来、
 明日に備えて早めに眠りについた。

・・・・
「……前日ぐらいゆっくりさせて欲しかったな」

 ウルエはそんな事を呟き、
 霧がかった部屋の奥の方にいる影にそう呟いた。
 相変わらず変わりは無く数年前からずっと同じだ。

「はぁ、言っても無駄だろうけ――うぇ!?」

 いつも通りウルエはその場に座って
 魔法の練習でもしようかと思い、
 腰を下ろして影の方を見てウルエは自分の目を疑った。

 影が動いているのだ。
 動いていると言っても、
 いつも通りの左右に揺れると言う動きではない。
 ゆっくりとだが此方に歩いて来ているのだ。

「え、ええ!?」

 目を何度も擦っても
 その光景は変わらない。

「動いてる……動いてる!」

 この数年間見守ってきたウルエは
 影が動いているのを見て何故か感動していた。
 そして同時に応援を始めていた。

「頑張れ、もう少しでたどり着く!」

 影はゆっくりと近づいて来ている。
 ウルエが何度も霧に呑まれた道のりを
 戸惑うことも無く真っすぐと。

 そんな影を見てウルエは疑問に思った。
 何故影が此方に来ているのか、と。

「感動したけど……少し不安」

 影が動いたのは良い。
 だが、この影が動いた事によって
 必ず何かが起きる、そんな予感がする。

 そして、影が遂にウルエの目の前までやってきた。
 影は本当に人の形をしてるだけの影。

「こんにちは……やっと会えたね……」

 どうしたら良いのか分からないウルエは
 取りあえず挨拶を交わしてみることにした。

「……」

 だが、当然ながら影が挨拶を
 返してくれる事は無かった。

「あ、あの……君は一体何なの?」

「……大きくなったな」

「う!?喋った……」

 てっきり喋れないと思っていたので
 影が喋りだしウルエはビクリと飛び上がった。
 影は音を立てずにウルエの目の前まで移動して座った。

「ずっと見ていた、元気そうで何よりだ」

「え?ずっと見ていたって――ってその声……」

 一度だけ聞いた事がある声だ。
 前に聞いたときは小さく細く今にも消えそうな声だったが、
 今では確りとしている。だが、この声色は――

「あの時の!」

「おお、覚えてくれていたのか」

 当たり前だ。
 忘れるはずもない。
 あの雨の日傷だらけの君はウルエに何だかの力を授けてくれた。
 彼女の命と引き換えの様にウルエの命は救われた。

「当たり前でしょ、次会う時は自己紹介するって約束だったよね。
 ってこれって再会したって事で良いのかな?」

 約束を果たせると、一瞬思ったが、
 今の彼女はあの時の美しい彼女ではなく、
 人の形をした影なのだ。

「今の私はまだ完全に回復していないんだ、
 これは私であっても私ではない。
 だから再会とは言えないだろうな」

「そっか……じゃあまた今度だね」

「ああ、すまないな」

 やっぱりこれは再会とは言えないらしい、
 少し残念なだがやっぱり自己紹介するなら
 あの美しい姿の方が良い。

「所でさ、どうして今まで此方に来てくれなかったの?」

 この数年間ずっと彼女は
 奥の方にいたのにも関わらず今日は此方に来てくれた。
 きっと何か理由があるのだろう。

「それは……」

 彼女はそう言って黙り込んでしまった。
 ウルエは何か不味いことを聞いてしまったのではないかと思い、
 焦り始めた。

「あ、あの、無理に答えなくてもいいよ?」

「いや、すまない。ちょっと言うのが恥ずかしかったんだ」

「え?」

「この姿で会うのは少し抵抗があってな……
 明日学園に行くのだろう?
 ならば私も進まなくては行けないと思ってな」

「そ、そうなんだ……」

 てっきりもっと深刻な理由なのだろうと
 思っていたのだが、その本当に理由を聞いて拍子抜けした。

「私はそう言った所には行ったことは無いが、
 さぞかし大変な所なのだろうな、頑張るんだぞ」

「う、うん。頑張るよ!」

「では、私はここら辺で消えるとするよ、
 また何時か会おう。
 私はずっと君の事を見ているからな」

「え、ちょっと!」

 色々と聞きたいことがあったのだが、
 彼女は消えてしまった。

「はぁ……」

 今更だけどウルエはエミにも見られてるし彼女にも見られている
 一体ウルエのプライバシーはどうなっているのだろうか。
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