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序章

序4

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「そうだよな、怖かったよな。俺がもっと早く気がついてれば良かった。ごめんな」
 男は芝生に膝をつき、十羽の目線で申し訳なさそうに眉尻を下げた。優しく気遣うような低い声音が心地いい。男が十羽の頭を何度も撫でる。

「もう大丈夫だよ」
「う、うん。うえぇ」
 知らない人なのに、彼の手はなぜか不思議と安堵した。

 グズグズと泣いていると、遠くから「十羽くーん」と幼稚園の先生の声がした。若い女の先生が怪訝な顔つきで、こちらに向かって走ってくる。
 男が表情を引き締めてすっくと立ち上がった。上背があるので五歳の十羽には巨人のように大きく見える。

「俺から先生に事情を説明するよ。さっきの男については警察に連絡する。時期に捕まるはずだ。何も心配しなくていいからな」
 十羽は男を羨望の眼差しで見上げた。どこからともなく現れて自分を助けてくれた彼は、まるで絵本の中に出てくる王子様のよう。意志の強そうな黒い瞳から目が離せない。

(かっこいい!)
 小さな胸がドキドキと高鳴る。

 男と話をした先生は青ざめ、何度も頭を下げていた。十羽の体には転んだときについた擦り傷があったので、念のため病院へ行くことになった。先生に背負われて公園の出口に向かう。他の先生や園児達も騒然となっていた。

 先生が用意した車に乗り込む前に、十羽は振り返って助けてくれた男を探した。男は少し離れた場所から切なげな、そしてどこか寂しげな目で十羽を見つめていた。
 小さな手でバイバイと手を振ると、男は頷き、そっと片手を上げて応えてくれた。
「大丈夫だよ、十羽……」

 男の声が聞こえたような気がして目を瞬く。そう言えば、ありがとうと言っていない。
(また会えるかな。会いたいな)

 彼への憧れは月日が流れる中で薄れつつも、十羽の中でかすかな光として残り続けた。
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