追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~

いちまる

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探索者ライフ①フレイヤの酒騒動!

神聖武器倉庫

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 そうして二日後、クリス達は最速でとあるダンジョンに来ていた。
 いつものクリスと仲間達だけでなく、ショットガンズの面々に加え、ギルド本部から派遣された救助班の大所帯で入っていくのは、今は立ち入り禁止の区域。
 階段をずっと降りた先の重厚な扉をがちゃり、とカムナが開いた先には、凄まじい光景が広がっていた。

「武器倉庫、っていうだけあるわね……これ全部、武器なわけ?」

 延々と続く無機質な壁と、鋼のみで構築された床。
 その壁に異様なほど並べられた、尖っていたり、刃のように見えたりする何か。
 これこそがCランクダンジョン――『神聖武器倉庫』である。

「正確に言うと、武器に見えるオブジェってところかな。天然にできたものにしてはあまりにも整然と並んでるから、誰かが作ったんじゃないかって言われてるよ」

 壁に立ち並ぶこれらは、ダンジョンの外に運んで調査したところで、今のところ何の成果も得られていない。
 それでも見た目から、人々はこれが武器ではないか、と推測しているのだ。

「誰かって、だぁれ?」
「それは研究中だね。少なくとも、俺達よりずっと知能の高い何かじゃないかな」
「随分詳しいのね、クリス」

 カムナがからかうように言うと、クリスは笑顔で返した。

「ここに来たのは初めてじゃないよ。前に来たのは……『高貴なる剣』と一緒にさ」

 ただ、彼の何気ない返事は、カムナの表情をさっと変えてしまった。

「あっ……」
「ちょっと、おバカムナ!」

 クリスにとって、イザベラとの日々など思い出したくもないだろう。
 気遣いができないらしいカムナの頭をリゼットが叩くと、クリスが首を横に振った。

「気にしなくていいよ、もう昔の話だ。俺こそ、急に名前を出してごめんね」

 どうやら彼は、軽く話題にできる程度には過去を割り切ったようだ。
 ついでに言うなら、今の彼の関心は過去ではなく、ダンジョンの方にあった。

「それにしても、なんだか妙な雰囲気だな。俺が前に来た時とはずっと違う、空気そのものが重苦しくて、頭に響くみたいだ」

 かつて一度だけ来たことのある記憶のダンジョンと、今は違う。
 頭の奥にずしん、と響く感覚に加えて、おかしな匂いが常に漂っている。それはクリスだけでなく、他の探索者や救助班のしかめっ面からも察せた。

魔獣メタリオも見かけませんわ……マガツ、何か感じまして?」
「魔獣はいるよ。奥から声が聞こえてくるの、うきうきしてる声」
「うきうき? 魔獣がはしゃいでるの?」

 魔獣がうきうきしているなど、どちらにせよろくな理由ではない。

「『ショットガンズ』のメンバーがいるかもしれない、撤退してからもう数日は経ってるし、早めに向かうとしよう!」

 ひたすらまっすぐな道を一同が駆け出し、次の階層へと続く階段を下りていく。
 神聖武器倉庫は、ダンジョンとしては非常に狭い。代わりに魔獣の質が高く、戦闘における難度でCランクに認定されているのだ。

「魔獣に遭遇したら、俺達が押し返します。救助班の皆さんは、その間に捜索を!」
「分かりました! よろしくお願いします、『クリス・オーダー』!」

 頷き合いながらどかどかと階段を降り、次の階層に続く扉を、今度はクリスが開けた。
 その途端、クリスは脳みそを何かに殴られたのかと錯覚した。

「……!? この階層だけ、すごく空気が重い……!?」

 物理的な攻撃を受けたのではない。脳を揺らすほどの空気に混じった何かが、彼の精神の均衡を失わせたのだ。
 ショットガンズのメンバーや救助班が同じように倒れ込みそうになったものの、カムナやマガツ、リゼットはなんのダメージもない。

「あたし達は大丈夫だけど、人間はヤバいわよ! クリスと救助班の連中は、さっさとマスクをつけてちょうだい!」

 カムナに指示されるのとほぼ同時に、クリス達人間は一斉に、腰に提げていたマスクを装着した。
 クリス特製の顔をすべて覆う形のマスクは、魔獣の素材をふんだんに使った特注品だ。
 毒を使う魔獣の素材を用いたので、毒気などをシャットダウンできる。もちろん、空気に混じっているもの――酒気も同様にガードできるのだ。

「クリス様の予想通りでしたわね。前に赴いた救助班が動けなくなったのは、酒気を帯びた空気を吸い込んでしまったからですわ」

 マスクをつけたおかげで自由に動けるのを、ショットガンズ達は喜んだ。

「魔獣の素材を使って、空気を浄化するマスクを作るなんて……すごいな!」
「だけど、思った以上に酒気が濃い……マスクの耐久値を越えてしまわないうちに、探索者と救助班を見つけて早めに撤退しよう!」

 製作者の言う通り、マスクには耐久度に上限がある。あまりにも濃い酒気や瘴気が蔓延した階層では、少しずつろ過しきれなくなり体を蝕んでしまうだろう。
 そうなる前に、一同は仲間と置いて行かれた救助班の面々を救出するべきだ。

「カムナとマガツは救助班の援護を! 俺とリゼットで東側を探索するよ!」
「「了解(オッケー)!」」

 こうして連合パーティーは、二手に分かれて階層の調査を始めた。
 目指すは全員無事、無傷での帰還だ。





 一方その頃、エクスペディション・ギルドにとある来客があった。

「……あら、貴女は……!」

 彼女の顔を見るなり、ローズマリーはまたも山ほどの薔薇の手入れを止めた。
 今度は困惑からではなく、彼女の帰還を心待ちにしていた喜びからだ。

「その顔を見るに、だいぶひどい目に遭ったみたいねぇ。けど、すっかり苦難の道を乗り越えてきたと思っていいのかしらぁ?」

 ローズマリーの問いに、彼女は頷く。
 もう、彼女を苦しめていた悩みはすっかり消え去ったようだ。
 あるいは、彼女に強い耐性すらつけさせたのかもしれない。

「クリスちゃん達なら、さっき『神聖武器倉庫』に向かったわ。行ってあげて」

 彼女は頷いてギルド本部を後にした。
 その背に、身の丈ほどの巨大な十字架を携えて。
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