追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~

いちまる

文字の大きさ
120 / 133
探索者ライフ①フレイヤの酒騒動!

『猿太鼓』

しおりを挟む
 さて、神聖武器倉庫には、永遠に続くような廊下を走る影が二つ。
 カムナ達と別れて遭難者の探索をする、クリスとリゼットだ。

「神聖武器倉庫、代わり映えしない光景で迷ってしまいそうですわ!」
「ダンジョン専用のコンパスがあるから、ひとまず孤立はしなさそうだ!」

 クリスが手にしているのは、最近帝都で開発されたコンパスだ。これは方角を確かめるアイテムではなく、所有しているもう一方のコンパスのありかを示すものだ。
 もう片方を持っているのはもちろんカムナで、針の揺れが細かくなるほど距離が近づいている証拠になる。つまり、正常に動いている限り合流はそう難しくない。
 問題は、遭難者の状態だ。動けないとなると、話は変わってくる。

「だけど装備がないと……いた!」

 そうなっている場合にはどうしたものかとクリスは悩んでいたが、その必要はない。
 なぜなら、前方にぐったりと倒れ込んでいる男を見つけたからだ。

「大丈夫ですか、返事をしてください!」
「……う、うう……」

 だっと駆け寄ったクリスが彼を起こすと、男は苦しそうな顔で返事をした。
 ひとまず、生きていると思ってよさそうだ。

「おかしいですわ、ダンジョンに取り残されたのに怪我がないなんて?」
「ラッキーと思っておこう!」

 男をリゼットに委ねて、クリスはポーチから小さな箱状のアイテムを取り出した。
 これもつい最近、帝都で開発に成功した、ダンジョンで使える通信機だ。範囲は限られているが、狭いダンジョンの同じ階層内ならある程度会話ができる。

「カムナ、マガツ! 取り残された探索者を見つけたよ、今からそっちに合流する!」

 ところが、通話口からは何の音も聞こえなかった。

「……カムナ? カムナ!」

 何度かボタンを押して会話を試みるが、何も返ってこない。
 クリスの表情に、次第に焦りの色が浮かび出す。

「ど、どうなってますの? 通信機が故障していまして?」

 顔を覗き込んだリゼットの問いに答えたのは、クリスではなかった。

「……あ、あいつだ……あいつの宴に……誘われたんだ……!」

 よろよろと起き上がったショットガンズのメンバーの男が、迫真の形相でクリスにもたれかかり、彼らにとんでもない危険を教えようとしていたのだ。

「あいつ?」
「『猿太鼓さるだいこ』って魔獣メタリオだ……あいつ、俺の酒を飲んでから他の魔獣と一緒に酒盛りを始めやがった……それに連れ込まれたら、俺みたいに動けなくされちまう……!」

 やはり、前に突入した救助班からの連絡通り、魔獣が酒を生成している可能性は高い。
 いくら依存症で酒を持ち込んだと言っても、数日間酒盛りをしてもなくならない量の酒を持ち運ぶのは不可能だろう。

「だったら君は、どうして脱出できたんだい?」
「飽きられたんだ……あんた達が見つけてくれなきゃ、動けずにダンジョンで飢えて死んでたよ……他の人間も連れてこられてたし、あんたの仲間もきっと……!」

 もしかすると、もう片方のグループも同じ目に遭っているかもしれない。

「だったら、行くしかない。酔わない二人がやられたなら、別の何かがあるはずだ!」
「お供しますわ、クリス様!」

 リゼットが彼に追随して立ち上がったが、クリスが待ったをかけた。

「いいや、リゼットは彼を連れてダンジョンの安全地帯まで避難してくれ。何よりもまずは遭難者の命を無事に連れ戻さないといけないからね」
「ですが……」
「俺なら何とかするよ。彼の無事を確認してから、助けに来てくれると嬉しいな」

 ここでリゼットがクリスと一緒に魔獣に挑み、予想外の手段でやられたなら、せっかく助かったかもしれない遭難者も助けられなくなる。
 そこまで彼が考えていると察せないほど、リゼットは間抜けではなかった。

「クリス様……分かりましたわ! そこな殿方、しっかり掴まっていてくださいまし!」

 彼女は深く頷くと、遭難した男をよっこいせと担ぎ、白い髪とドレスを靡かせる。
 そうしてクリスが何度かまばたきする間に、彼女の体はすっかり消え去った。

(リゼットの透過能力なら、きっとダンジョンの外に彼を連れて行ってくれる! だったら俺は、リゼットが戻ってくるまでに皆を見つけ出さないと!)

 通信を諦めたクリスは、コンパスを頼りにカムナを探すことに決めた。
 いつまでも同じ風景にしか見えない神聖武器倉庫は、魔獣が強いことで有名だが、先ほどから一匹も遭遇しない。イザベラの時と同じで、嫌な予感がクリスの脳裏をよぎる。
 しかも今回は、マスクにへばりつくような酒気まで感じられるのだ。

(酒気が濃くなってきた……きっと、これが濃ければ濃いほど、敵に近づいてる……)

 コンパスの針の振れ幅が小さくなり、とうとう一つの道を示した時、クリスの視界がぱっと開けた。武器が並ぶ廊下を抜け、四角形の広場に躍り出たのだ。
 辺りを見回して立ち止まったクリスの視線の先に、転がる影がいくつかある。

「――カムナ! マガツ!」

 カムナ達とショットガンズ、そして救助班だ。
 そのうち人間だけは、ひどい顔色で倒れ込んでいる。マスクは剥がされたのか、もしくは自分で外したのか、どちらにしても転がり落ちて防御策の意味をなしていない。
 こんな有様に誰がしたのかは、明白だ。

(救助班の皆が、あの男と同じ症状に……ということは、あの魔獣が!)

 カムナ達のすぐ後ろで狂ったように騒いでいる類人猿――『猿太鼓』だ。
 赤茶色の毛並みとでっぷりと肥えた体躯。背丈はゆうに三メートルを超え、手足は人間二人を並べたよりもずっと太い。こいつにひどい目に遭わされた探索者は数知れず。
 ただ、今回はまた区別の理由で、この魔獣に一同は悩まされていたようだ。

『ギャホッ! ギャア、ウギィーッ!』

 猿太鼓はぎゃあぎゃあと喚きながら、口から淡い紫色の液体を吐き出した。
 そしてそれを手で救うと、ごくりと飲んでみせた。

「な……!?」

 マスクを舐めまわすような空気の濃さと、黒髪にべたつく感覚。

「こいつ、やっぱり……自分の体で酒を醸造してるんだ!」

 クリスは確信した。
 この猿太鼓こそが、神聖武器倉庫を酒で支配しているのだと。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。