クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる

文字の大きさ
28 / 41

【sideカノン】憎悪のカタチ

しおりを挟む
 大好き、と言ってくれた子はカノンを殴った。
 優しいね、って褒めてくれた子はカノンの服を破り捨てた。
 ずっと友達だよ、と言った子はスキルでカノンの背中を焼いた。
 坂崎と子分は、カノンにフラれたらしのように、うずくまっても泣いても、悲鳴を上げても、殴ったり蹴ったりするのをやめなかった。

『……うん、その辺にしとこうか』

 皆が手を止めたのは、皆が崇拝してる小御門がそう言ったから。
 頭を抱えて、裸で震えるだけのカノンのすぐそばで、彼の声が聞こえた。

『そういえば、ここに来る途中に奴隷商人と仲良くなったんだ』
『……!』
『本当は、僕らがこのイグリス大王国を転覆した後の労働力を集めるために利用するつもりだったんだけど、ちょうどいい。君を売って、気晴らしにしようか』『…………』
『チッ、壊れたか。君達、友達を地下に閉じ込めといてくれ』

 小御門が去っていくと、クラスの友達が両腕を掴んで、屋敷の奥にカノンを投げ入れる。

『天羽みたいなやつを探して奴隷になるとか、マジで真面目すぎて笑えるよね!』
『こんなバカと友達なんて、やってらんねえつーの!』
『………‥』

 反論も反撃もできないまま、カノンは奴隷になった。
 ぼろぼろになったカノンを、奴隷商人のマッコイは心底嬉しそうに買い取った――クラスメートの皆は、カノンが売られるさまをにやにやと眺めてた。

 もう気づいてた。
 カノンが信じてたことなんて、くだらない夢物語だって。

 マッコイは「富豪に売る」とか「もっと痛めつけてやる」とか言ってたけど、あの時のカノンの心は壊れてて、反応する気になんてなれなかった。
 食事を抜かれて、顔が腫れるくらい殴られても、頭に思い浮かぶのはひとつだけ。
 どうでもいい。
 カノンのやってきたことに意味がないなら、生きてても死んでてもどうでもいい。
 そんな気持ちだけを抱いてたカノンは、馬車に詰め込まれて、王都ロンディニアに住んでるらしい、奴隷を虐めて殺すのが趣味の富豪に売られることになった。

 でも、マッコイは途中でカンタヴェールって田舎町に寄った。
 本当にたまたま、偶然、マッコイが立ち寄っただけだったの。

『銀城さん、分かるか? 俺だ、天羽イオリだ』

 ――カノンは、運命と出会ったの。
 ――今までのカノンの人生すべてをゴミにしちゃうような、信じられない出会いと。

 格好も雰囲気も変わってたけど、死んだと思ってたイオリ君がマッコイ達をやっつけて、カノンを助けてくれたんだ。
 陽の光を後ろから受けるイオリ君の顔は、心配そうで、だけど格好良くて。

『うわああああぁぁん……!』

 カノン、泣いちゃった。
 イオリ君に馬車から出してもらってからも、カンタヴェールに住んでる人達にいろんなお世話をされてる間も、ずっと泣いちゃったの。
 目が腫れるほど泣いちゃって、声が枯れるくらい泣いちゃって。
 丘の上の診療所に運び込まれてから、やっと落ち着いた。

 それからしばらくは、ケガを治したり、足りない栄養を補ったりとか、とにかく体をちゃんと健康にする日々が続いた。
 途中で何度か怖い思い出が蘇って、暴れることもあった。
 でも、その度にイオリ君が病室に入ってきて、カノンに大丈夫だよ、って言ってくれるの。
 そうじゃない時も病室にいてくれて、パンを一緒に食べたりしたし、カンタヴェールに住んでる人の話もしてくれた。

 この町の皆がカノンを助けてくれたのが、とっても嬉しい。
 だけどそれ以上に――イオリ君がカノンを助けてくれたのが、何より嬉しい!

『カノン、痛むところはあるか? いつでもポンチョ先生を呼ぶからな』

 イオリ君はカノンを本当に心配してくれる――小御門や近江とは違う。

『このカレーパン、うまいだろ? 俺も好きなんだ、これ!』

 イオリ君にやましい気持ちなんてない――坂崎達のような乱暴者とは違う。

『体が良くなったら、町を散歩してみてくれ。安心しろよ、皆いい人だからな!』

 イオリ君はカノンを心から信じてくれる――あの最低最悪の人もどき共とは違う。

 気づけばイオリ君を目で追ってて、いつでも彼のことを考えてて、会えないって思うだけで自分を傷つけたくなるくらい苦しくなったの。
 きっと、これが人を好きになるってことなんだ。
 だったらすぐに、気持ちを知ってもらわなくちゃ。
 ベッドから出られるようになってすぐ、カノンはイオリ君に想いを伝えたんだけど、ちょっとだけ邪魔が入っちゃった。

『カノンさんとお兄さんは距離が近すぎます! なので、私が監視します!』

 キャロルちゃん。
 ちょっぴり気が弱いけど、すっごく真面目でいい子だって、イオリ君は言ってた。
 少し話しただけでそれが分かったし、カノンのことを心配してくれて、助けてくれたんだって聞いて、カノンも好きになった。
 でも、それはそれ、これはこれ。
 イオリ君を独占させるつもりはないし、恋人の座を渡すつもりもない。
 そんな風に思ってたら、散歩から帰ってきたカノンに、キャロルちゃんから言ってきたの。

「あの、カノンさんって、お兄さんが好きなんですよね?」

 イオリ君がいない時に、病室でそう言われたから、ちょっと驚いちゃった。
 弱気そうなキャロルちゃんが、はっきりと聞いてきたんだもん。

「うん、そうだよ?」
「……わ、私も好きです。お兄さんが、好きなんです」
「やっぱり! カノンとイオリ君にやきもちやいてたもんねー♪」
「だ、だって、好きでも過剰なスキンシップはダメです! そういうのは、け、け、結婚とか、ちゃんと手順を踏んでから……」

 顔を赤くしてあたふたするキャロルちゃんは、なんだかかわいい。

「と、とにかく! 私は正々堂々お兄さんに振り向いてもらえるように頑張ります! だからですね、ええと……その、えっと、恨みっこなし、ですよ!」

 でも、その奥に秘めてる気持ちが誰よりも強いのは、カノンにも分かるよ。
 なんだかカノン、キャロルちゃんと友達になりたいかも。

「うんうん、オッケー♪ カノン、負けないよ♪」
「じゃ、じゃあ……よろしくお願いします、カノンさん!」

 照れくさそうに手を出したキャロルちゃんと、シェイクハンド。
 言葉にしなくたって分かってる――ふたりは今から友達で、恋のライバル。
 どっちが勝ってもおめでとう。
 ただし、カノンは負けてあげるつもりはないけど♪

 互いににっこり笑って、キャロルちゃんが病室を出て行くと、部屋の中にはカノンだけ。
 ベッドの中にもぞもぞと潜って目をつむると、嫌な思い出が顔を覗かせる。

「……ふふっ♪」

 もう怖くないよ、すぐにイオリ君との思い出に変わるから。

 明日もイオリ君に会える。
 明後日もイオリ君に会える。
 明々後日もイオリ君に会える。
 イオリ君。
 イオリ君。
 イオリ君。
 イオリ君。
 イオリ君、イオリ君、イオリ君、イオリ君。

 ――イオリ君、ずっとカノンのそばにいてね。
 ――絶対に裏切らないのは、君だけだから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

処理中です...