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金属生命体、ライド
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返ってきたのは、電子音のような抑揚の声だ。
「金属……え、なんて?」
『金属生命体だ、以上でも以下でもない。何をしたかといえば、機械に寄生して性能をグレードアップし、ダンジョン探索に必要な能力を付与した。疑うようなら、あとで実力を見せよう』
不穏な発言が聞こえたけど、今は聞き流そう。
『禁則事項で話せないが、ある企業が僕を生み出したが、失敗作として僕を廃棄処分にした。エネルギーが補給できずに機能停止しかけていたところ、偶然君が通りかかり、僕はジャケットに付着して生き永らえた。今に至るまでの説明は、これでいいか?』
「ジャケットって……まさか、あのどろどろしたのがお前なのかよ!?」
『どろどろとは失礼だな。寄生していなければ、あの姿しか取れないんだ』
まさかと思って部屋の奥に脱ぎ捨てていたジャケットを拾い上げると、どろどろは綺麗になくなってた。どうやら本当に、あれが俺のスマホにくっついたようだ。
「で、俺に寄生してどうするんだよ?」
素朴な疑問をぶつけると、スマホ――ライドは画面に動画を映し出した。さっきまで俺が見ていたダンジョン配信の、切り抜き動画だ。
というかこいつ、俺のスマホを自在に操れるのか。何してもいいけど、ウェブの閲覧履歴を晒すのだけは勘弁してくれ。
『爆乳 動画』とかで検索したのが世に広まったら心が死んじゃいます。
『僕は僕を捨てた開発者や研究者に、存在価値を証明したい。彼らは僕が使えないと評価したが、ダンジョン内で独自の進化を遂げた今ならそうは言わせない』
「だからそれと、俺についてきたのとどう関係してるんだ?」
『単刀直入に言おう。僕と一緒に、動画配信をしないか』
「……え?」
俺は自分の耳を疑った。
謎の金属生命体がスマホにくっついて、動画配信をしたいと言い出したんだから。
いくら下手なやつが書いたライトノベルだって、こんな急展開に至るわけがない。これならいっそ、俺のスマホを乗っ取って世界征服を始めるとか、スマホが美少女に変身するとかの方が現実味がある――いや、ないか。
「あのさ、ライドだっけ? お前の言う存在証明と配信、何の関係があるんだ?」
俺が聞くと、ライドは画面に勝手にスマホで調べた情報を表示した。
それらは全部、人気ダンジョン探索配信者の登録者数とか最大同接数、スパチャの金額とかスポンサーの数だ。要するに、どれだけ有名かって指標だな。
『今しがたスマートフォンからインターネットを通じて検索させてもらったが、現代においてダンジョン探索以上に、自分をアピールするチャンスはない。僕が君の体を借りてモンスターを華麗に討伐すれば、連中も僕を見直すだろうよ』
なるほど、このスマホは承認欲求がすごいんだな。
俺の体を借りてまでダンジョン配信でバズりたいだなんて――。
「……いやいやいやいや、待て待て待て! 体を借りるって何だよ!? お前が討伐するんじゃないのか!?」
『電子機器に寄生しないと生きられない僕に、単身でモンスター討伐ができると?』
さも当然のように言うけど、俺はこれから体を乗っ取られるのか!?
そもそも寄生って、どうやるんだ!?
『仕方ない。少し乱暴だが、やる気になってもらおうか』
「へ?」
そんな疑問を解消するかのように、ライドが言った。
次の瞬間、スマホが内側からぱっくりと開いた。
「え、ええ、えええっ!?」
驚愕する俺の前で、パタパタとスマホが変形する。最近実写化した超ロボット生命体の変形シーンのように、スマホがたちまち別のものへと変貌した。
それは――仮面だった。
一対の角と牙がついた、鬼の面。般若のようでもあるけど、ロボットアニメに出てくる主人公の搭乗機みたいでも、変身ヒーローのマスクのようでもある。
「おいおい、俺のスマホをどうしたんだよ!?」
『安心したまえ。機能はすべて残してある』
ライドの言う通り、仮面の内側からピロリン、と通知音が聞こえてきた。いつも遊んでいるソーシャルアプリ・ゲームのゲーム内スタミナが完全回復したお知らせだと分かったのは、手に取ったマスクの内側に、モニターとして表示されてたからだ。
どうなってんだって気になった俺が顔を近づけたのが、まずかった。
「わぶっ!?」
なんとマスクの方から、俺の顔に装着されたんだ。
半ばパニックになって剥がそうとするけど、うんともすんとも言わない。視界が内側にフルスクリーンで表示されてるとか、電子的に様々な情報がポップアップされてるとか、それどころじゃない。
『この状態なら、その気になれば金属を注入して君を操作できる。スキルも付与するし、戦闘能力は保証するよ。君を危険な目にも遭わせないと約束する』
また恐ろしいことを言ってる。金属を注入とか、冗談じゃない。
こんな脅迫に屈するほど、俺は弱い人間でもないんだぞ。
「言ってる場合かよ! すぐに剥がれてくれ、探索にも行かないぞ!」
『君のネットの検索履歴を全世界に実名付きで公表することもできる』
「ごめんなさい、ごめんなさい! 明日行くから、絶対行くから勘弁してくれ!」
人間は未知の生命体には勝てません。降伏しましょうね。
『ありがとう、尾神黒鋼。いや、黒鋼。これからよろしく頼むよ』
いつ紫苑が上ってくるか分からない緊張感と戦いながら、俺は仮面をどうにかはぎ取った。パタパタとスマホの姿に戻ったライドは、画面の中でにこりと笑ってる。
日常ってこんな簡単に崩れるのかと、俺は心底げんなりするほかなかった。
こうして俺は、次の日もダンジョンに行く羽目になったんだ。
突拍子もなくスマホに寄生した、承認欲求マシマシな金属生命体とともに。
「金属……え、なんて?」
『金属生命体だ、以上でも以下でもない。何をしたかといえば、機械に寄生して性能をグレードアップし、ダンジョン探索に必要な能力を付与した。疑うようなら、あとで実力を見せよう』
不穏な発言が聞こえたけど、今は聞き流そう。
『禁則事項で話せないが、ある企業が僕を生み出したが、失敗作として僕を廃棄処分にした。エネルギーが補給できずに機能停止しかけていたところ、偶然君が通りかかり、僕はジャケットに付着して生き永らえた。今に至るまでの説明は、これでいいか?』
「ジャケットって……まさか、あのどろどろしたのがお前なのかよ!?」
『どろどろとは失礼だな。寄生していなければ、あの姿しか取れないんだ』
まさかと思って部屋の奥に脱ぎ捨てていたジャケットを拾い上げると、どろどろは綺麗になくなってた。どうやら本当に、あれが俺のスマホにくっついたようだ。
「で、俺に寄生してどうするんだよ?」
素朴な疑問をぶつけると、スマホ――ライドは画面に動画を映し出した。さっきまで俺が見ていたダンジョン配信の、切り抜き動画だ。
というかこいつ、俺のスマホを自在に操れるのか。何してもいいけど、ウェブの閲覧履歴を晒すのだけは勘弁してくれ。
『爆乳 動画』とかで検索したのが世に広まったら心が死んじゃいます。
『僕は僕を捨てた開発者や研究者に、存在価値を証明したい。彼らは僕が使えないと評価したが、ダンジョン内で独自の進化を遂げた今ならそうは言わせない』
「だからそれと、俺についてきたのとどう関係してるんだ?」
『単刀直入に言おう。僕と一緒に、動画配信をしないか』
「……え?」
俺は自分の耳を疑った。
謎の金属生命体がスマホにくっついて、動画配信をしたいと言い出したんだから。
いくら下手なやつが書いたライトノベルだって、こんな急展開に至るわけがない。これならいっそ、俺のスマホを乗っ取って世界征服を始めるとか、スマホが美少女に変身するとかの方が現実味がある――いや、ないか。
「あのさ、ライドだっけ? お前の言う存在証明と配信、何の関係があるんだ?」
俺が聞くと、ライドは画面に勝手にスマホで調べた情報を表示した。
それらは全部、人気ダンジョン探索配信者の登録者数とか最大同接数、スパチャの金額とかスポンサーの数だ。要するに、どれだけ有名かって指標だな。
『今しがたスマートフォンからインターネットを通じて検索させてもらったが、現代においてダンジョン探索以上に、自分をアピールするチャンスはない。僕が君の体を借りてモンスターを華麗に討伐すれば、連中も僕を見直すだろうよ』
なるほど、このスマホは承認欲求がすごいんだな。
俺の体を借りてまでダンジョン配信でバズりたいだなんて――。
「……いやいやいやいや、待て待て待て! 体を借りるって何だよ!? お前が討伐するんじゃないのか!?」
『電子機器に寄生しないと生きられない僕に、単身でモンスター討伐ができると?』
さも当然のように言うけど、俺はこれから体を乗っ取られるのか!?
そもそも寄生って、どうやるんだ!?
『仕方ない。少し乱暴だが、やる気になってもらおうか』
「へ?」
そんな疑問を解消するかのように、ライドが言った。
次の瞬間、スマホが内側からぱっくりと開いた。
「え、ええ、えええっ!?」
驚愕する俺の前で、パタパタとスマホが変形する。最近実写化した超ロボット生命体の変形シーンのように、スマホがたちまち別のものへと変貌した。
それは――仮面だった。
一対の角と牙がついた、鬼の面。般若のようでもあるけど、ロボットアニメに出てくる主人公の搭乗機みたいでも、変身ヒーローのマスクのようでもある。
「おいおい、俺のスマホをどうしたんだよ!?」
『安心したまえ。機能はすべて残してある』
ライドの言う通り、仮面の内側からピロリン、と通知音が聞こえてきた。いつも遊んでいるソーシャルアプリ・ゲームのゲーム内スタミナが完全回復したお知らせだと分かったのは、手に取ったマスクの内側に、モニターとして表示されてたからだ。
どうなってんだって気になった俺が顔を近づけたのが、まずかった。
「わぶっ!?」
なんとマスクの方から、俺の顔に装着されたんだ。
半ばパニックになって剥がそうとするけど、うんともすんとも言わない。視界が内側にフルスクリーンで表示されてるとか、電子的に様々な情報がポップアップされてるとか、それどころじゃない。
『この状態なら、その気になれば金属を注入して君を操作できる。スキルも付与するし、戦闘能力は保証するよ。君を危険な目にも遭わせないと約束する』
また恐ろしいことを言ってる。金属を注入とか、冗談じゃない。
こんな脅迫に屈するほど、俺は弱い人間でもないんだぞ。
「言ってる場合かよ! すぐに剥がれてくれ、探索にも行かないぞ!」
『君のネットの検索履歴を全世界に実名付きで公表することもできる』
「ごめんなさい、ごめんなさい! 明日行くから、絶対行くから勘弁してくれ!」
人間は未知の生命体には勝てません。降伏しましょうね。
『ありがとう、尾神黒鋼。いや、黒鋼。これからよろしく頼むよ』
いつ紫苑が上ってくるか分からない緊張感と戦いながら、俺は仮面をどうにかはぎ取った。パタパタとスマホの姿に戻ったライドは、画面の中でにこりと笑ってる。
日常ってこんな簡単に崩れるのかと、俺は心底げんなりするほかなかった。
こうして俺は、次の日もダンジョンに行く羽目になったんだ。
突拍子もなくスマホに寄生した、承認欲求マシマシな金属生命体とともに。
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