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銀色の隣人
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門下生の中から一歩、ずい、と前に出てきた男の目には苛立ちが募っていた。
誰に向けられたものかなんて、説明するまでもない。きっと、シルバー・サムライと仲が良いと思われている俺に向けてだ。
「ネイバーくん、どうしたの?」
菜々華が首を傾げると、ネイバーって呼ばれた武井は俺と彼女の間に割って入った。知ってるか、間に挟まる男ってオタクの間じゃ嫌われるんだぞ。
「シルバー・サムライ、彼はいったい……」
「自己紹介が遅れたな。僕はこっちではシルバー・ネイバーと名乗らせてもらっている。『華神一刀流道場』の主、シルバー・サムライの守護者とでも呼んでもらおうか」
「そうだったの? 私、聞いたことないよ?」
「……貴女をいつでも守る隣人ですよ」
セミロングの髪の隙間から見える武井の目は、どこかねちっこい。
しかも他の門下生がよせ、やめておけと言ってやっても、まるで気に留めない。俺と菜々華が隣り合っているのに耐えられないと言いたいようだ。
「で、その隣人が俺に何か用か?」
俺がそう聞くと、門下生達も武井を制するのを止めた。
「RKとか言ったな。お前、何が目的でシルバー・サムライに近づいたんだ?」
「目的だと?」
「できすぎていると思わないか? シルバー・サムライが倒れたところに助けに入った男が、こうしてまた会いに来た。しかも一緒に配信をしようだなんて、おかしいだろう」
なるほど、こいつは俺を警戒してるってわけか。
さしずめ俺は、憧れの天童子菜々華に近づく不逞の輩ってわけだ。
「モンスターを操る違法なスキルを使用して、マッチポンプを図ったのかもしれないな。仮にあの実力が確かだとしても、仮面も外せない男を信用できるか?」
「こら、ネイバー。この人は私の恩人なんだよ、失礼なこと言わないで」
菜々華も武井を止めようとしたけど、彼が首を横に振った。
「シルバー・サムライ、貴女は甘すぎます。今や世界に名高いダンジョン配信者として、もう少し危機感を持ってください」
確かに、ぎろりと俺を睨む武井の言い分にも一理ある。
何かしらの手段で菜々華を陥れてからモンスターを倒して恩を売る、卑劣な手段を使うやつがいないとも限らない。
実際のところ、配信を見ている人の中にも同じ考えの視聴者がいるらしい。
“よく言った”
“絶対怪しいと思ったんだよ”
“無実ならマスクを外せ”
まったく。匿名だからって、好き勝手言ってくれるぜ。
視聴者や武井が、菜々華と一緒に俺が映ってほしくないと思ってないのなら、悪いけど俺は立ち去る。お邪魔しました、ってさっさと消えるだけでいい。
事情を知ってるこっちからすれば、武井の独占欲が透けて見えるんだよな。
だけど、今後の配信のことを考えれば、マイナスイメージは払拭しておきたい。
『黒鋼、僕に代わってくれ。金属生命体の知能で論破してやろう』
どうしたもんかって俺がマスクの下で頭を捻っていると、ライドの声が聞こえた。
「やめとく。話が余計にこじれそうだからな」
『いいから僕に任せるんだ』
俺の意見なんかさらっと流して、ライドが俺の代わりに会話の主権を握った。
「――ネイバーとか言ったな。自分はどうなんだ?」
俺と変わらない声でライドが言うと、武井の口元がゆがんだ。
「なんだと?」
「信用と言うなら、お前はシルバー・サムライの信用を手に入れるために何を――」
たった一言だけ。
ただそれだけで、武井の怒りは頂点に達したみたいだった。
「――もう我慢ならない! ごちゃごちゃと誤魔化すな!」
なるほど、無理やり話を打ち切ったのはいい判断だな。
相手も後ろめたいところがあるなら、これ以上会話をしたくなくなるだろうよ。
ただ、ライド。なんだか面倒な流れになってるぞ。
「お前のような輩は、一対一の決闘で僕が斬り伏せる! シルバー・サムライと肩を並べるにふさわしいか、見定めてやるぞ!」
道場通いをしていない俺にも分かる。門下生の驚きに満ちた声で、嫌でも理解させられる。
武井は今この瞬間、俺に決闘を挑んだんだ。
ダンジョンの中で決闘ってのは、そう珍しい話じゃない。決闘専門のチャンネルもあるくらいだし、比較的メジャーなコンテンツだ。
だとしても、俺がこいつとやり合う流れになるのは、どう考えてもおかしいだろ!
“おおおおおおお”
“とんでもない流れになってて草”
“すげえバトルになるな!”
コメントはめちゃくちゃ盛り上がってるけど、俺はその真逆だ。キャラを崩さないように仁王立ちしてるけど、マスクの内側の顔はひきつってるんだぜ。
「あ、えーと、シルバー・サムライ……?」
どうにか菜々華に仲裁してもらおうと思ったけど、彼女はにっこりと微笑んでいた。
「私なら気にしないで。後で彼とお話はするけど、キミの実力を見せてあげれば、きっと納得してくれるはずだよ」
「え、え? おかしくないか、この流れ?」
「おかしくないよ! 昔から華神一刀流は一騎打ちで物事を決めてたし、大丈夫!」
「えー……?」
何となくだけど、天童子菜々華のことが分かってきた。
天然は天然系でも、なんだか時代錯誤な点が多い気がする。名前通りのサムライというか、何か恥をかいたらその場で切腹しそうだよな。
キュート薩摩系女子、ってのがいたらこんな感じか。
でもかわいいので許す。
『よし、黒鋼。すべて作戦通りにいったな』
で、誰も止めようとしてくれない状況の中、ライドの自慢げな声だけが響いた。
「これが作戦通りなのかよ!?」
本当にこいつ、スマホを取り込んだスーパー生命体なのか。
――とにもかくにも、こうして俺は、武井と意図せずして一対一の勝負をする羽目になったのである。
誰に向けられたものかなんて、説明するまでもない。きっと、シルバー・サムライと仲が良いと思われている俺に向けてだ。
「ネイバーくん、どうしたの?」
菜々華が首を傾げると、ネイバーって呼ばれた武井は俺と彼女の間に割って入った。知ってるか、間に挟まる男ってオタクの間じゃ嫌われるんだぞ。
「シルバー・サムライ、彼はいったい……」
「自己紹介が遅れたな。僕はこっちではシルバー・ネイバーと名乗らせてもらっている。『華神一刀流道場』の主、シルバー・サムライの守護者とでも呼んでもらおうか」
「そうだったの? 私、聞いたことないよ?」
「……貴女をいつでも守る隣人ですよ」
セミロングの髪の隙間から見える武井の目は、どこかねちっこい。
しかも他の門下生がよせ、やめておけと言ってやっても、まるで気に留めない。俺と菜々華が隣り合っているのに耐えられないと言いたいようだ。
「で、その隣人が俺に何か用か?」
俺がそう聞くと、門下生達も武井を制するのを止めた。
「RKとか言ったな。お前、何が目的でシルバー・サムライに近づいたんだ?」
「目的だと?」
「できすぎていると思わないか? シルバー・サムライが倒れたところに助けに入った男が、こうしてまた会いに来た。しかも一緒に配信をしようだなんて、おかしいだろう」
なるほど、こいつは俺を警戒してるってわけか。
さしずめ俺は、憧れの天童子菜々華に近づく不逞の輩ってわけだ。
「モンスターを操る違法なスキルを使用して、マッチポンプを図ったのかもしれないな。仮にあの実力が確かだとしても、仮面も外せない男を信用できるか?」
「こら、ネイバー。この人は私の恩人なんだよ、失礼なこと言わないで」
菜々華も武井を止めようとしたけど、彼が首を横に振った。
「シルバー・サムライ、貴女は甘すぎます。今や世界に名高いダンジョン配信者として、もう少し危機感を持ってください」
確かに、ぎろりと俺を睨む武井の言い分にも一理ある。
何かしらの手段で菜々華を陥れてからモンスターを倒して恩を売る、卑劣な手段を使うやつがいないとも限らない。
実際のところ、配信を見ている人の中にも同じ考えの視聴者がいるらしい。
“よく言った”
“絶対怪しいと思ったんだよ”
“無実ならマスクを外せ”
まったく。匿名だからって、好き勝手言ってくれるぜ。
視聴者や武井が、菜々華と一緒に俺が映ってほしくないと思ってないのなら、悪いけど俺は立ち去る。お邪魔しました、ってさっさと消えるだけでいい。
事情を知ってるこっちからすれば、武井の独占欲が透けて見えるんだよな。
だけど、今後の配信のことを考えれば、マイナスイメージは払拭しておきたい。
『黒鋼、僕に代わってくれ。金属生命体の知能で論破してやろう』
どうしたもんかって俺がマスクの下で頭を捻っていると、ライドの声が聞こえた。
「やめとく。話が余計にこじれそうだからな」
『いいから僕に任せるんだ』
俺の意見なんかさらっと流して、ライドが俺の代わりに会話の主権を握った。
「――ネイバーとか言ったな。自分はどうなんだ?」
俺と変わらない声でライドが言うと、武井の口元がゆがんだ。
「なんだと?」
「信用と言うなら、お前はシルバー・サムライの信用を手に入れるために何を――」
たった一言だけ。
ただそれだけで、武井の怒りは頂点に達したみたいだった。
「――もう我慢ならない! ごちゃごちゃと誤魔化すな!」
なるほど、無理やり話を打ち切ったのはいい判断だな。
相手も後ろめたいところがあるなら、これ以上会話をしたくなくなるだろうよ。
ただ、ライド。なんだか面倒な流れになってるぞ。
「お前のような輩は、一対一の決闘で僕が斬り伏せる! シルバー・サムライと肩を並べるにふさわしいか、見定めてやるぞ!」
道場通いをしていない俺にも分かる。門下生の驚きに満ちた声で、嫌でも理解させられる。
武井は今この瞬間、俺に決闘を挑んだんだ。
ダンジョンの中で決闘ってのは、そう珍しい話じゃない。決闘専門のチャンネルもあるくらいだし、比較的メジャーなコンテンツだ。
だとしても、俺がこいつとやり合う流れになるのは、どう考えてもおかしいだろ!
“おおおおおおお”
“とんでもない流れになってて草”
“すげえバトルになるな!”
コメントはめちゃくちゃ盛り上がってるけど、俺はその真逆だ。キャラを崩さないように仁王立ちしてるけど、マスクの内側の顔はひきつってるんだぜ。
「あ、えーと、シルバー・サムライ……?」
どうにか菜々華に仲裁してもらおうと思ったけど、彼女はにっこりと微笑んでいた。
「私なら気にしないで。後で彼とお話はするけど、キミの実力を見せてあげれば、きっと納得してくれるはずだよ」
「え、え? おかしくないか、この流れ?」
「おかしくないよ! 昔から華神一刀流は一騎打ちで物事を決めてたし、大丈夫!」
「えー……?」
何となくだけど、天童子菜々華のことが分かってきた。
天然は天然系でも、なんだか時代錯誤な点が多い気がする。名前通りのサムライというか、何か恥をかいたらその場で切腹しそうだよな。
キュート薩摩系女子、ってのがいたらこんな感じか。
でもかわいいので許す。
『よし、黒鋼。すべて作戦通りにいったな』
で、誰も止めようとしてくれない状況の中、ライドの自慢げな声だけが響いた。
「これが作戦通りなのかよ!?」
本当にこいつ、スマホを取り込んだスーパー生命体なのか。
――とにもかくにも、こうして俺は、武井と意図せずして一対一の勝負をする羽目になったのである。
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