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第五章:それぞれの思い
邪神①
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忙しなく、あるいはのんびりと道を行く人々に威勢のいい声がひっきりなしにかけられ、言葉巧みに店先に並ぶ商品を売り込んでいる。
いかにも食欲をそそる肉の串焼きの香ばしい匂いが、先を急ぐ足すら引き止めた。
そんなオプジティの大通りを、ようやくヤンダルムの脅威から解放されたエディたち一行が、胸を撫で下ろしながら歩いていた。
「何だか、目が回りそうなにぎやかさですのね」
フロアールが並ぶ露店をキョロキョロと見渡しため息をつく。彼女と手をつないでいるルゥナは、言葉もないようだ。こくこくと頷いて、目を丸くしている。
「オプジティは港もありますから、シュリータとエデストルを繋ぐ海路の中継点にもなっているんですよ。その上、ヤンダルムも手を出してきませんからね」
久しぶりに眉間の皺を浅くしたスクートが、少女二人にそう説明した。
オプジティは自治を許された村だ。
港を有していているというだけでも栄える要素は十二分にあるが、何より、ヤンダルムからも一目置かれているという事が、何よりの強みだろう。
オプジティは広がりのない村だ。人が十人ほど並んで歩けそうなほどの幅がある本通りの両傍に、まるで壁を作るかのように建物が築かれている。
店、道、店。
一刻もあれば端から端まで歩き切ってしまいそうなほどの大通りと、店。
それだけで構成されている村だった。
並ぶ建物は殆どが旅人の為の宿ばかりで、『店』も三日もすれば入れ替わる露店ばかりだ。定住する者は多くなく、村としての規模は大きくないのだが、活気という点からいえば首都並みにある。
道が広くても人の数も多いから、ともすれば、ルゥナやフロアールはどこかに押しやられてしまいそうになった。
「ちゃんとついてこいよ?」
スクートの長衣にしがみ付いているフロアールはまだいいが、ピシカを両腕で抱えているルゥナは、危なっかしいことこの上ない。
今もそうやってエディが声をかけるまで、じわじわと一行から距離ができ始めていたのだ。
「あ、あ、ごめんなさい」
そう言いながらよろよろと駆け寄ってこようとしているルゥナに、エディは手を伸ばしてやりたくなった。が、彼がそうするより先に、サビエがサッと彼女の肩に手をまわしてしまう。
人並みから庇うようにグッとサビエに引き寄せられて、ルゥナははにかんだ笑みで彼を見上げていた。
「ありがとう」
「どういたしまして……あれぇ、エディ様? 何かお気に召しませんか?」
何となく面白くない気持ちで二人の様子を横目で眺めていたエディに、サビエがにんまりと笑った。その笑顔が、これまた妙に気に障る。
「はあ? 別に?」
ぶすりとそう答えて、エディは視線を正面に戻した。不愉快だったが、何がそんなに不愉快なのか、判らぬままに。
前を向いたエディの耳にククッと小さな忍び笑いが届いたが、歯を食いしばってそちらを睨み付けたくなるのを我慢した。反応したら、余計にサビエがいい気になるのは判りきっていることなのだから。
「さて、宿はどこにしようか」
主従の間のそんなやり取りに気付いているのかいないのか、道の両脇に並ぶ高低様々な建物を見渡し、トールが首をかしげる。
「この人数だと何軒かに別れないとかな」
「そうだな……できれば同じ宿屋がいいけどな」
絶えず誰かと接触せずにはいられない人の多さに辟易しながら、エディも頷いた。
宿はたくさんあるが、それ以上に、それを求める人の数の方が多そうだ。二部屋も三部屋も空いていそうになかった。
否定的な主二人に対して、バニークが前向きな意見を口にする。
「もっと大所帯の隊商もいるでしょうから、いくらでも部屋はあるでしょう」
現実的だが無粋な彼に、トールはかぶりを振る。
「そういうのは、大きな部屋にひとまとめでごろ寝だろう? 女の子にそんなことはさせられないよ」
呆れた声でそう言ったトルベスタの王子に、今度はフロアールが声を上げた。
「あら、わたくしたちなら、構いませんことよ? 今までだって、野宿では皆一緒でしたもの」
ねえ? と彼女は隣の少女にも目で同意を求める。それに応えてルゥナも頷いた。
「野宿では選択肢がないから仕方がないけど、宿に泊まるならそういうわけにはいかないよ」
渋い顔のトールにフロアールが更に言い募ろうとするのへ、サビエが割って入る。
「まあまあ、オレとスクートで手分けしていくつか当たってきますよ。最低、野郎どもとお嬢様方を分けられればいいんですよね?」
自分の馬の手綱をバニークに手渡し、腕の中のルゥナをエディに押し出しながら、サビエがスクートに振り返った。
「行こうぜ、兄貴」
「ああ」
頷き合った双子は、二手に分かれて人混みの中に消えていった。
いかにも食欲をそそる肉の串焼きの香ばしい匂いが、先を急ぐ足すら引き止めた。
そんなオプジティの大通りを、ようやくヤンダルムの脅威から解放されたエディたち一行が、胸を撫で下ろしながら歩いていた。
「何だか、目が回りそうなにぎやかさですのね」
フロアールが並ぶ露店をキョロキョロと見渡しため息をつく。彼女と手をつないでいるルゥナは、言葉もないようだ。こくこくと頷いて、目を丸くしている。
「オプジティは港もありますから、シュリータとエデストルを繋ぐ海路の中継点にもなっているんですよ。その上、ヤンダルムも手を出してきませんからね」
久しぶりに眉間の皺を浅くしたスクートが、少女二人にそう説明した。
オプジティは自治を許された村だ。
港を有していているというだけでも栄える要素は十二分にあるが、何より、ヤンダルムからも一目置かれているという事が、何よりの強みだろう。
オプジティは広がりのない村だ。人が十人ほど並んで歩けそうなほどの幅がある本通りの両傍に、まるで壁を作るかのように建物が築かれている。
店、道、店。
一刻もあれば端から端まで歩き切ってしまいそうなほどの大通りと、店。
それだけで構成されている村だった。
並ぶ建物は殆どが旅人の為の宿ばかりで、『店』も三日もすれば入れ替わる露店ばかりだ。定住する者は多くなく、村としての規模は大きくないのだが、活気という点からいえば首都並みにある。
道が広くても人の数も多いから、ともすれば、ルゥナやフロアールはどこかに押しやられてしまいそうになった。
「ちゃんとついてこいよ?」
スクートの長衣にしがみ付いているフロアールはまだいいが、ピシカを両腕で抱えているルゥナは、危なっかしいことこの上ない。
今もそうやってエディが声をかけるまで、じわじわと一行から距離ができ始めていたのだ。
「あ、あ、ごめんなさい」
そう言いながらよろよろと駆け寄ってこようとしているルゥナに、エディは手を伸ばしてやりたくなった。が、彼がそうするより先に、サビエがサッと彼女の肩に手をまわしてしまう。
人並みから庇うようにグッとサビエに引き寄せられて、ルゥナははにかんだ笑みで彼を見上げていた。
「ありがとう」
「どういたしまして……あれぇ、エディ様? 何かお気に召しませんか?」
何となく面白くない気持ちで二人の様子を横目で眺めていたエディに、サビエがにんまりと笑った。その笑顔が、これまた妙に気に障る。
「はあ? 別に?」
ぶすりとそう答えて、エディは視線を正面に戻した。不愉快だったが、何がそんなに不愉快なのか、判らぬままに。
前を向いたエディの耳にククッと小さな忍び笑いが届いたが、歯を食いしばってそちらを睨み付けたくなるのを我慢した。反応したら、余計にサビエがいい気になるのは判りきっていることなのだから。
「さて、宿はどこにしようか」
主従の間のそんなやり取りに気付いているのかいないのか、道の両脇に並ぶ高低様々な建物を見渡し、トールが首をかしげる。
「この人数だと何軒かに別れないとかな」
「そうだな……できれば同じ宿屋がいいけどな」
絶えず誰かと接触せずにはいられない人の多さに辟易しながら、エディも頷いた。
宿はたくさんあるが、それ以上に、それを求める人の数の方が多そうだ。二部屋も三部屋も空いていそうになかった。
否定的な主二人に対して、バニークが前向きな意見を口にする。
「もっと大所帯の隊商もいるでしょうから、いくらでも部屋はあるでしょう」
現実的だが無粋な彼に、トールはかぶりを振る。
「そういうのは、大きな部屋にひとまとめでごろ寝だろう? 女の子にそんなことはさせられないよ」
呆れた声でそう言ったトルベスタの王子に、今度はフロアールが声を上げた。
「あら、わたくしたちなら、構いませんことよ? 今までだって、野宿では皆一緒でしたもの」
ねえ? と彼女は隣の少女にも目で同意を求める。それに応えてルゥナも頷いた。
「野宿では選択肢がないから仕方がないけど、宿に泊まるならそういうわけにはいかないよ」
渋い顔のトールにフロアールが更に言い募ろうとするのへ、サビエが割って入る。
「まあまあ、オレとスクートで手分けしていくつか当たってきますよ。最低、野郎どもとお嬢様方を分けられればいいんですよね?」
自分の馬の手綱をバニークに手渡し、腕の中のルゥナをエディに押し出しながら、サビエがスクートに振り返った。
「行こうぜ、兄貴」
「ああ」
頷き合った双子は、二手に分かれて人混みの中に消えていった。
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