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第1章
22話
しおりを挟む午前の診療を終えて王都へ戻る準備をした。
ここにお世話になった時はほぼ身包み剥がされた状態だったので、持ち物なんてほとんどない。代わりに、ロレーヌさんや診療所に来る人たちからのお土産で、荷物が溢れるくらいになった。
「また少し落ち着いたら、こちらに伺います。いろいろお世話になりました」
「道中気をつけてね。身包み剥がされないように」
「ふふふ、最強の護衛が付いてるので安心ですよ」
簡単な挨拶を済ませ、馬首を王都に向け、帰路についた。
******
サーラが屋敷から駆けてくる。私も馬を降りてサーラに抱きついた。迷惑かけたことを謝り、出迎えてくれた家族にも謝罪した。
団長もウチの家族に簡単な挨拶をして、正式な結婚申し込みにくる旨を話し合っていたようだ。
「さて、ニコル・テイラード嬢」
と改めて言われ、何事かと小首を傾げて団長に向かう。伝えられた内容は何とも苦笑いするようなことだった。
「君がニコラスとして勤務している時に、団長命令をひとつ無視していることを知っているか? 最終日にニコル・テイラードとして第六騎士団に出向くよう、伝えていたはずだ。明日で構わないので、命令を遂行するように」
と言い残して去って行ってしまった。
呆然と団長を見送るのが精一杯、旅の疲れもあったのだが、明日の団長の無茶振りが何になるのか、想像しただけで背筋に寒気が走って、今晩はうまく眠れそうにない。
広間に降りていくと、お母様がソファで寛いでいるのを見かける。たくさん話したかったが、それは別日にしなさい、と諭されてしまった。少し躊躇って、実はうまく眠れない、と相談してみた。
お母様はくすりと笑って、ゆっくりと私にこう言った。
「ニコル、隠していたけど、私は本当に魔法使いなの。明日はあなたにぴったりの新しい仕事が待ってるはずよ。さあ、これを飲んでぐっすり眠りなさい」
不思議な香りのするお茶を差し出され、その後すぐに眠くなった。やっぱりお母様は魔法使いなのかしら、と考えながら……
次の日の朝、頭が軽くスッキリした目覚めだった。
お母様の魔法が効いているみたい。
食堂にいくと、ニコラスは、第六騎士団の制服ではなく、近衛の制服を身につけていた。
不思議に思って問うと、私が行方不明になって少ししたら近衛に戻されたらしい。実質一週間も仕事してない、とのことだった。
イザドラ王女に関しては、団長が裏から手を回したようで、特に問題になることは起きていないらしい。
よかったね、ニコラス。あなたにはやっぱり近衛のお仕事が向いてるみたいだもんね。
さて、私は第六騎士団へ向かうとしますか。
執務室に着いてびっくりした。
汚い……せっかく私があれだけ綺麗にしてたのに。
もうっ、と膨れながら書類を片付け始めると、団長が顔を出して挨拶してくれた。
不満を漏らすと、スレイが汚したからあいつにやらせて構わない、と言われた。後で言っとこ。
「ところで、今日の要件なんだが……」
と椅子に座ると机に肘をつき、両手を顔の前で組みながら話し始める。もしかしてこれって団長が照れてる時の仕草かな? 顔がはっきり見えないのに、声だけ通るからね。
何だか可愛いとこもあるじゃん。
にこにこ笑って話しを聞いていると妙な提案をされてしまった。
「今日から第六騎士団とは別の私設団を作ろうかと思ってね。団長は相変わらず俺なんだが、団員はお前だけだ。どうだ? これだとお前も働けるだろ、永久就職になるがな?」
ああ、団長ってば、私が働けずに悔しがってたことを理解してくれてたんだ。嬉しくって、両手をギュッと握って何度も首を縦に振った。
自然とお互い笑みがこぼれる。
何てことだろう、やっぱりお母様ってば、魔法使いだわ。昨夜のうちに私の仕事当てちゃってたし。
「ああ、ひとつだけ団の規約があってな、守れるか?」
「何ですか? ひとつだけだったら絶対に平気です」
「そうか」
団長はニヤリと相変わらず腹黒そうな顔で私に微笑み、こう言い渡した。
「俺の私設団は名前呼びが鉄則だ。俺の名前は『ジェイク』言ってみろ、ニコル」
ひぃーーーーっ。
そんな最初っから名前呼びなんて無理じゃんかーっ。
ぐぬぬ……と言い渋って、何度か息継ぎを繰り返して絞り出すように言葉にした。
「ジェ……イ……クぅ……」
「んー、よく聞こえないんだが?」
「ジェイクっ!」
カタン、と椅子から立ち上がり、ジェイクが私に向かって両手を広げた。
「ようこそ、本当の『第三王子のお守り騎士団』へ。これから専属で俺のお守りをよろしくな、ニコル?」
『第三王子のお守り騎士団』 第一章 完
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