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玄関で、出かけぎわの奏芽に、弁当を渡す。
何年も続く、朝の恒例行事。
「わあ、うれしい! いつも、ありがとう。大好き!」
うぐ。
それは言わなくていい。
「今日ね、遅くなりそうだから、先に寝ててね」
「はあ? 待つし。そんくらい」
「もう、ママのこと、大好きなんだから。この子ったら」
額を、ツンと人差し指で押される。
「ちがっ! 誰が!」
「うふふ。気持ちだけ貰っておくわね。成長期なんだから、早く寝るのよ」
奏芽が笑む。
その顔に、疲れが滲んでいた。
最近、また、仕事先で、退職者が出たっつってたな。
奏芽は清掃の仕事をしてっけど、あれって体力勝負なとこ、あるからな。
「あんま、無理すんなよ。俺だって、働けんだしさ」
「ふふ。ありがと。無理はしない」
「約束だぞ」
「うん」
奏芽が小指を差し出してくる。
「なんだよ?」
「指切りげんまん」
カカカッと、体が沸騰する。
「しねえよ! …………しねえかんな」
くそう、目が、勝手に、奏芽の指を見ちまう。
しかも、肩に重みがくる。
ラビだ。
うう。
できるかよ、こんな状況で。
もたもたしてる間に、奏芽が手を下げてしまった。
ラビのせいだ。
(いや、召喚士の度量のなさのせいでしょうよ)
このウサギ野郎、直接、頭に話しかけてきやがった。
つうか、俺の頭ん中、見んじゃねえよ。
「ふふふ。それと、ゼッ君はちゃんと仕事してるのよ。ママ、いつも言ってるでしょ?」
「「学生は勉強が仕事」」
奏芽と声が重なる。
合い言葉みたいなもんだしな。
「ゼッ君は、今はまだ、自分のことだけ考えてればいいの。お金のことは心配しないで。どん、とママに任せてね」
がに股で胸元を叩く奏芽。
細っこい体で、言うんじゃねえよ。
なに言っても、引かねえから、こっちが引くけどよ。
「わかった」
「ふふ。ママ、がんばってくるね。いってきます」
「いってら」
元気よく手を振る奏芽に、ひらひらと手を振り返す。
バタン。ガチャリ。
閉じられたドアに問いかけてやる。
なんで、俺、赤ん坊の中なんかに、転送されちまったんかな?
「はあ」
髪の毛をかき乱し、リビングへと戻った。
何年も続く、朝の恒例行事。
「わあ、うれしい! いつも、ありがとう。大好き!」
うぐ。
それは言わなくていい。
「今日ね、遅くなりそうだから、先に寝ててね」
「はあ? 待つし。そんくらい」
「もう、ママのこと、大好きなんだから。この子ったら」
額を、ツンと人差し指で押される。
「ちがっ! 誰が!」
「うふふ。気持ちだけ貰っておくわね。成長期なんだから、早く寝るのよ」
奏芽が笑む。
その顔に、疲れが滲んでいた。
最近、また、仕事先で、退職者が出たっつってたな。
奏芽は清掃の仕事をしてっけど、あれって体力勝負なとこ、あるからな。
「あんま、無理すんなよ。俺だって、働けんだしさ」
「ふふ。ありがと。無理はしない」
「約束だぞ」
「うん」
奏芽が小指を差し出してくる。
「なんだよ?」
「指切りげんまん」
カカカッと、体が沸騰する。
「しねえよ! …………しねえかんな」
くそう、目が、勝手に、奏芽の指を見ちまう。
しかも、肩に重みがくる。
ラビだ。
うう。
できるかよ、こんな状況で。
もたもたしてる間に、奏芽が手を下げてしまった。
ラビのせいだ。
(いや、召喚士の度量のなさのせいでしょうよ)
このウサギ野郎、直接、頭に話しかけてきやがった。
つうか、俺の頭ん中、見んじゃねえよ。
「ふふふ。それと、ゼッ君はちゃんと仕事してるのよ。ママ、いつも言ってるでしょ?」
「「学生は勉強が仕事」」
奏芽と声が重なる。
合い言葉みたいなもんだしな。
「ゼッ君は、今はまだ、自分のことだけ考えてればいいの。お金のことは心配しないで。どん、とママに任せてね」
がに股で胸元を叩く奏芽。
細っこい体で、言うんじゃねえよ。
なに言っても、引かねえから、こっちが引くけどよ。
「わかった」
「ふふ。ママ、がんばってくるね。いってきます」
「いってら」
元気よく手を振る奏芽に、ひらひらと手を振り返す。
バタン。ガチャリ。
閉じられたドアに問いかけてやる。
なんで、俺、赤ん坊の中なんかに、転送されちまったんかな?
「はあ」
髪の毛をかき乱し、リビングへと戻った。
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