鮮やかなもの

上野たすく

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 やっちゃんとは、会社が終ったあと、大型店舗のフードコートで落ち合った。
 白石は、こちらが就業後、約束があることを言う前に、定時であがると言ってきた。
 顔、険しかったな。
 真っ向、勝負しても、あいつは悩みを話してくれねぇんだろうな。
 何も買わんのも気が引けて、フードコート内の店で、買ったタピオカ入りのジュースを飲む。
 那須さんのことは、上司には言っていない。彼女への連絡も、まだだ。
 どうすっかなぁ。
「先生?」
 心配げなやっちゃんの顔。
「俺は先生じゃないので返事しません」
 名前で呼んでくれって、何回も言ったんだけどな。
「…………おくむらくん?」
 はい、これ、俺が悪者決定ね。
 第三者からしたら、恐喝してるように見えんのかな?
「なに? やっちゃん」
「あ……、ここって、どういう意味なのかなって」
 やっちゃんの参考書は古いから、テキストは俺が作ってきた。今日、やる分しか、間に合わせられなかったから、ルーズリーフ、四枚分くらいだけど。
「ここはさ、誰に所有権があるかっていうのを、考えていくんだ」
 やっちゃんが食いついてくる。
 勉強、好きなんだろうな。
 説明が終ると、やっちゃんは目を輝かせた。
「僕、少しだけ、頭がよくなった気分です」
 気分っていうのか、やっちゃんは頭いいと思う。
 説明を素直に聴けるし、吸収力も応用力もある。
「四ページじゃ、足んなかったな。ごめん」
 難しい論点を持ってきたんだけど、一時間もいらなかった。
「そんな。僕、授業受けるの久しぶりで、楽しくて。先生のペースを乱しちゃったんだと思います」
「だから、俺は先生じゃないって。先生、先生、言われてると、生徒や会社から指摘されるかもだから、助けると思ってやめてくれな」
「あ! すみません。考えが及ばなくて……すみません」
 どんどん沈んでいく、やっちゃん。
「やっ! だから、名前で呼んでくれってこと」
「わかりました。気をつけます」
「やっちゃんって、友達に敬語つかうの?」
 やっちゃんが下を向く。
「ごめんなさい。僕、友達いません」
 地雷踏んだ。
「昔はいたんですが、僕がΩだったから」
 やっちゃんが鼻を啜る。
 俺はやっちゃんの肩を叩いた。
「俺がいるだろ? 夕飯どうする? 食べてく?」
「え、あ。嬉しいんですが」
「今日は俺が奢るって」
「あの、たぶん、お弁当が」
「弁当?」
 やっちゃんが口ごもる。
「なんだ、弁当、作ってくれる人がいるんじゃん」
「やっ! でも、知らない人なんです!」
 え?
 目が点になった。
「いつも、知らない間に、玄関のドアにかけられていて。手紙が入っているんですが、名前、書いてなくて、字も……、見たことない字だから」
「やっちゃん、それ、食べてんの?」
 毒入りとか、疑うところだと思うが。
「はじめは……、怖くて捨ててしまおうかって思ったんですけど、野菜とかたくさん入っていて、すごくおいしそうで」
「食べちゃった……?」
「はい。……実際、ものすごく美味しくて。優しい味っていいますか。僕の経済力じゃ食べられないほど、美味しいんです。でも、少しずつ、お金は貯めてあります。お礼と一緒に渡そうと思って」
 ちっとも会えないんですけどね、とやっちゃんが寂しげに笑う。
「手紙は?」
 首を傾げられた。
「手紙を書いて、ドアに貼り付けておくとかさ。やってみた?」
「思いつきませんでした……。でも、なんて、書けばいいんでしょうか? 名前どころか、男性か女性かも、わかりません。失礼なことを書いて、恩を仇で返してしまったら、と思うと」
 やっちゃんは、そう言って青ざめた。
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