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「しかぁし、ニラウンド目は自力も自力、他力なんか考えてはいけませんよ! さあ、次の種目は大食いだあ! その名も『どれくらい真っ青になれば気が済むの?!』。食べていただくのは、チョコミントアイス! 制限時間は四十分!」

 小豆と菜箸が、学ランを着た生徒によって片付けられ、代わりに、土鍋一杯のアイスが置かれていく。
 覚えていやがったか、あいつら。

「では、スプーンを持って、始め!」

 ピーと、また笛が鳴る。
 横に視線を向けると、向井は顔を染めてアイスを見つめていた。
 こいつ、さっきも人形焼を女みたいな菓子だとか抜かしながら、全部食べていたしな。
 男は甘いものを食べてはいけない、と思っているのか? 
 屈折した甘党か?
 向井がスプーン山盛りに、緑色のアイスを掬い、口へと運ぶ。
 ハートとお花が見えるよ、向井君。
 そんなに、チョコミントがお好きかね。

「くっそお」

 ミントとチョコってどうよ。
 自然界にないだろ、こんな味。
 カカオってのは本来、苦いんだぜ。

「食べないのか?」

 向井が二口目を口にする。

「食べますよ~」

 食べますとも。
 この緑色の地獄を、制覇してやりますとも。
 でも、一口目は、ちょっとだけ。
 慣らすために、ベロで舐るだけ。
 スプーンの先でアイスを掻き、舌を伸ばしてみる。
 つんと触れた瞬間、冷たさとともに、ミントとチョコの、甘ったるいのに、スキッとする味が、鼻を通り抜けた。

「ぐおっ」

 この世の食い物とは思えない。
 開発者は誰だ?

「はい~。林君、どうしたのかなあ? 具合でも悪くなっちゃいましたかあ?」

 脇田が感情を逆撫でしてくる。

「いやあ、思い出しますねえ。俺と西山、そして林と一緒に、アイス屋へ出かけたあの日を」

 ちょっと待て。
 お前、まさか、俺の恥をこんな大勢の前で、言うんじゃねえだろうな。

「三人揃って頼んだのが、その店で人気ナンバーワンだったチョコミントなのですが、そこにいる阿呆は一口食べた途端に漏らしちゃってねえ」

 脇田あああああああああああああ。

「大変だったんですよ。店員さんに謝らなきゃいけないわ。泣き出した林を介抱しなくちゃいけないわ」

 笑い声と「うっそお」っていう声が、心臓と鼓膜にジャブを食らわしてくる。

「チョコミント、駄目なんだな。美味いのに」

 向井がジュースでも飲むように、土鍋からチョコミントを飲んでいく。

「化け物か、お前は!」
「林~、今日は安心して食え。オムツも替えのブリーフも、用意してやったかんな!」

 脇田がオムツとブリーフをひらつかせる。
 俺はトランクス派だ!

「幼馴染を敵に回すと怖いってこと、よくよく覚えておけよ、こんちくしょう」

 笑顔で言う台詞じゃねえよ。
 ああ、向井がどんどん平らげてくよ。
 六分経過で、三杯目って超人だろ。
 でも、俺だってな、こんなところで立ち止まっていられねえんだ。
 土鍋を持ち上げ、喉に流し込む。

「おお~」

 と感嘆の声が上がるが、直後。

「えれえええええええええええええええええ」

 俺は床に四つん這いになって吐いた。
 あかん。
 股間をノックアウトされる前に、胃が受け入れるのを拒否した。
 
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