1 / 2
case 1. ペットを探せ(依頼編)
しおりを挟む
「あのうすみません……、ここって魔法科学研究所で合ってますか……?」
コンコン、と戸を叩く音とともに遠慮がちな女性の声が室内に響く。ついさっきお昼休憩が終わったところなので、なんともベストなタイミングの来客だ。僕ははーいと返事をしつつ所狭しと並ぶよく分からない器具や荷物たちを回避しながら白衣を羽織り鏡の前を通過、最低限の身だしなみのチェックを済ませてドアノブを回す。
「ようこそ魔法科学研究所へ!」
「……では、本日はどのようなご用件で?」
研究所の中では比較的きれいな部類に入る、こじんまりとした応接室の中。僕はひとまず目の前のソファに座る女性にお茶を出しながらそう切り出した。室内には魔法を動力に動く楽器が演奏する陽気な音楽流れているが、女性の顔は思いつめたように暗く恐らくこの曲も耳に届いていまい。女性はしばらくじっとテーブルに置かれたカップから立ち上る湯気を見つめていたが、不意に一口唇を湿らせるかのように呷ると僕の顔をまっすぐ見つめた。
「実は、うちで飼っているペットが突然いなくなっちゃったんです……!」
「ペットの迷子ですか。姿が見当たらなくなったのはいつ頃です?」
不安感を抱かせないようにできるだけ柔和に喋ることを心掛けつつ、僕はテーブルにあるノートと羽ペンをとって情報を書き込み始めた。
研究所へ相談に来た女性改め、クレアさんが答えた内容をまとめると、まずいなくなったのは自宅で飼っているペットの小型犬、ポチ。昼食を終えて買い物に出かけようと家を出た時に庭を見るとすでにポチの姿は犬小屋あら消えていたそうだ。クレアさんはポチがいなくなったと分かるや近隣住民に見ていないか聞いて回ったそうだが、残念なことにお昼時ということもあって誰もその姿を見かけなかったらしい。そして愛犬を探して街を走り回るうちにうちの研究所の看板が見え、藁にも縋る思いで駆けこんだということなのだ。
「なるほど……。なんとなくですが分かりました。大丈夫です、きっとポチちゃんを見つけて見せますよ」
ペンを置いてノートを見返しそう言ってのけると、ようやくクレアさんの顔に少しだけ生気が戻った。目を涙で潤ませて勢いよく立ち上がると僕に向かって深く頭を下げる。
「どうか、どうかポチをよろしくお願いします……」
「お任せください! では見つかり次第、魔導通信でお知らせしますのでご自宅でお待ちください」
ここは王都から離れたかなりのどかな町ではあるものの、魔法の国とも呼ばれるだけあって”魔導通信”という非常に高速な連絡手段も普及しており、そのおかげで僕たちの研究所も相談者と円滑な連絡を行うことができるのだ。お世話になっておりますと胸中で通信網を開拓してくれた誰かに手を合わせつつ、僕はクレアさんを外まで送り出した。太陽はまだ空高くに位置し、春らしい爽やかな陽気を町中に振りまいている。
さて、ここからは件の依頼解決だ。若干ガタが来ている扉をばたんと閉めると、僕はガラクタたちを避けて今度は応接室とは反対側の部屋に向かう。扉に打ち付けられた「研究室」というプレートをちらりと見つめて僕は一旦深呼吸。ドアをノックし失礼しますと声をかけると僕は思いドアを開いた。
まず目に飛び込んでくるのは物、物、物。玄関入ってすぐの事務室も物だらけだが、ここ研究室と比べれば圧倒的に整頓されていると言えるだろう。数台のテーブルの上には実験に使うビーカーやら試験管やら三脚やら坩堝やらの器具が散乱し、板張りの床は床で何かよく分からない物体が押し込められた木箱や、明らかに重要そうなのに開封された形跡のない小包などが山積みになっている。
足の踏み場もない地面から猫の額ほどのフリースペースを得つつ前進し、僕の入室にも気づかない様子で何やら作業をする背中に声をかけた。
「博士、依頼が入ってますよ!」
コンコン、と戸を叩く音とともに遠慮がちな女性の声が室内に響く。ついさっきお昼休憩が終わったところなので、なんともベストなタイミングの来客だ。僕ははーいと返事をしつつ所狭しと並ぶよく分からない器具や荷物たちを回避しながら白衣を羽織り鏡の前を通過、最低限の身だしなみのチェックを済ませてドアノブを回す。
「ようこそ魔法科学研究所へ!」
「……では、本日はどのようなご用件で?」
研究所の中では比較的きれいな部類に入る、こじんまりとした応接室の中。僕はひとまず目の前のソファに座る女性にお茶を出しながらそう切り出した。室内には魔法を動力に動く楽器が演奏する陽気な音楽流れているが、女性の顔は思いつめたように暗く恐らくこの曲も耳に届いていまい。女性はしばらくじっとテーブルに置かれたカップから立ち上る湯気を見つめていたが、不意に一口唇を湿らせるかのように呷ると僕の顔をまっすぐ見つめた。
「実は、うちで飼っているペットが突然いなくなっちゃったんです……!」
「ペットの迷子ですか。姿が見当たらなくなったのはいつ頃です?」
不安感を抱かせないようにできるだけ柔和に喋ることを心掛けつつ、僕はテーブルにあるノートと羽ペンをとって情報を書き込み始めた。
研究所へ相談に来た女性改め、クレアさんが答えた内容をまとめると、まずいなくなったのは自宅で飼っているペットの小型犬、ポチ。昼食を終えて買い物に出かけようと家を出た時に庭を見るとすでにポチの姿は犬小屋あら消えていたそうだ。クレアさんはポチがいなくなったと分かるや近隣住民に見ていないか聞いて回ったそうだが、残念なことにお昼時ということもあって誰もその姿を見かけなかったらしい。そして愛犬を探して街を走り回るうちにうちの研究所の看板が見え、藁にも縋る思いで駆けこんだということなのだ。
「なるほど……。なんとなくですが分かりました。大丈夫です、きっとポチちゃんを見つけて見せますよ」
ペンを置いてノートを見返しそう言ってのけると、ようやくクレアさんの顔に少しだけ生気が戻った。目を涙で潤ませて勢いよく立ち上がると僕に向かって深く頭を下げる。
「どうか、どうかポチをよろしくお願いします……」
「お任せください! では見つかり次第、魔導通信でお知らせしますのでご自宅でお待ちください」
ここは王都から離れたかなりのどかな町ではあるものの、魔法の国とも呼ばれるだけあって”魔導通信”という非常に高速な連絡手段も普及しており、そのおかげで僕たちの研究所も相談者と円滑な連絡を行うことができるのだ。お世話になっておりますと胸中で通信網を開拓してくれた誰かに手を合わせつつ、僕はクレアさんを外まで送り出した。太陽はまだ空高くに位置し、春らしい爽やかな陽気を町中に振りまいている。
さて、ここからは件の依頼解決だ。若干ガタが来ている扉をばたんと閉めると、僕はガラクタたちを避けて今度は応接室とは反対側の部屋に向かう。扉に打ち付けられた「研究室」というプレートをちらりと見つめて僕は一旦深呼吸。ドアをノックし失礼しますと声をかけると僕は思いドアを開いた。
まず目に飛び込んでくるのは物、物、物。玄関入ってすぐの事務室も物だらけだが、ここ研究室と比べれば圧倒的に整頓されていると言えるだろう。数台のテーブルの上には実験に使うビーカーやら試験管やら三脚やら坩堝やらの器具が散乱し、板張りの床は床で何かよく分からない物体が押し込められた木箱や、明らかに重要そうなのに開封された形跡のない小包などが山積みになっている。
足の踏み場もない地面から猫の額ほどのフリースペースを得つつ前進し、僕の入室にも気づかない様子で何やら作業をする背中に声をかけた。
「博士、依頼が入ってますよ!」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる