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本編
034 バカなんだな
城に入った所で、レイノート達と分かれたアルティナとオリエルは、宝物庫に向かっていた。
「オリー。こっちから」
「え? 方向が違わないか?」
オリエルが知っている宝物庫への道とは違うため、アルティナに確認する。
しかし、アルティナは当たり前のようにとんでもないことを伝えて来た。
「こっち、警備が手薄なの。というかほぼ居ないの」
「は?」
「言ったでしょ? ガバガバなの」
「……」
行くよと手を引かれて進む通路は、本当に警備が居なかった。
「……いくらなんでも……緩すぎる……っ」
「大丈夫だよ。うちのを何人か裏につけてるから」
「いや……だが……」
警備が手薄というのは問題だ。
アルティナは更に思い出したことを口にする。少し小声ではあるが、緊張感もない。
「王宮の警備なんて、それこそ第一が関わっているもの。都合良く配置も変えられているのは当たり前じゃない」
「っ、それは……」
「予想できたでしょ?」
「……できた……」
オリエルがものすごく嫌そうに顔を顰めたのを見て、アルティナはクスリと笑う。
「ちょっと考えれば分かるよね。自分達の周りは安全確保のために固めて、でも自由に動きたい時は下げる。それで、内緒で行きたい所の警備は薄くする。第一を取り込んだのはそのためでしょ」
「っ……勝手過ぎるっ……第一は仕事をなんだと思っているんだっ」
同じ騎士という立場上、オリエルには許せないのだろう。アルティナは苛立ちで立ち止まりそうになるオリエルの腕を引っ張りながら進む。
「何年か前から、防衛費や軍費がかなり削られたのは知ってる?」
「……やはり、削られていたのか……」
「うん。かなり? 第三なんて半分くらい減ってるとか聞いたよ?」
「え……」
また立ち止まりそうになるオリエル。それでも引っ張って進む。
「なんで……」
「あの王妃……」
「……」
声を更に落とすアルティナ。オリエルは少し身を屈めて耳を寄せる。
「隣国と繋がってるんだよ。王女はその隣国の奴との子ども。侯爵家もいくらかその国と取引してるのは確認したでしょ?」
「ああ……あの密航者な……」
オリエルもアルティナと共に密航者を捕まえている。侯爵家との繋がりもアルセルとの尋問で証言をとれていた。
「そう。お金とか鉱石とか結構やり取りしてるみたい」
「そこに金が……」
自分たちの使うべきものが持っていかれているのかと思えば苛立つのは当たり前だ。
「半分くらい? いや、三分の一くらいかな。あとは王妃が使ってる」
「くっ……やはりあの女っ……」
「王女を飾り立てるのにも使ってるね」
「ちっ」
侯爵がと聞くよりも、あの王女に使われていると聞く方が腹立たしいらしい。王女に今出会ったら、刺しそうな顔をしていた。
しかし、アルティナは更に苛立つだろう事を伝えようとしていた。
「王妃はさあ、さすがに王に見限られたことが王子を産んだ後には分かったらしくてね。それなら自分好みの人を夫に……王にって考えたみたい。そこで目を付けたのが、隣国の……王女の父親」
既に第二王子も王の血を引いてはいない存在なのだ。二度も三度も同じと考えたのだろう。王が第二王子を認めたのもいけなかった。
「は? 女王にでもなったつもりなのか? バカなのか?」
「バカではあるね。あの女、王妃の立場に執着してるんだよ。なんか、令嬢時代の夢? 野望? が、自由にお金を使えて、誰にも文句を言われない人になりたいってやつだったみたいで」
「……やはりバカだ……」
「さっきからそれは否定してない」
「……バカなんだな。間違いようのない」
「そういうこと」
「……」
王妃がそんなもので良いはずがない。そして、バカバカしいほどの思考回路だ。
「多分、騎士とかの力を削って隣国に攻めやすいようにして、王に自分の言うことを聞く第二王子を王位につけるように脅したり、毒の解毒剤で王に取引しようとしたんだろうね。既に破綻したけど」
「攻めやすいって……隣国と取引が出来ると?」
王との取引のためのポーズということなら、王妃は隣国が攻めようとするのを止められるという確信があるはずだ。
「出来るわけないよ。寧ろ、あちらが王妃の動きを利用してる。あんなバカ女、相手にされる訳がない。顔も性格も容姿も平均以下だし。本人はそうは思ってないみたいだけど」
「確かに。顔も性格も容姿も、ティナの方が何百倍も上だ」
「ありがとう?」
「っ、あ、ああ」
素でアルティナを褒め称えたオリエルは、それに気付いて照れる。アルティナは冷静だが、オリエルはついつい溢れてしまう愛情にまだ慣れないようだ。
「えっと。それでね? 王妃は、王女の父親……隣国の王族には愛されていると思ってるみたいだね。それで、自分にお金を使うことも忘れないの」
「相手は……王族なのか……」
それはまた面倒だとオリエルは難しい顔をするが、アルティナは真実をぶっ込んだ。
「王族関係者だってあっちが名乗っただけで、実際は王弟の侍従だけどね」
「………………は?」
「王弟だと思ってるだろうけど、ただの侍従。それも元伯爵家の三男。あ、結婚はしてないみたい。王弟も結婚してないから、そこはなんかあるんだろうね」
「……紛れもなくバカ……いや、マヌケか」
「夢見てるお姫様のままなんだもん。仕方ないよ。大丈夫。真実を知ったら発狂するから」
「だろうな……」
怒りや恥ずかしさなんて通り越して、壊れること間違いなしだ。
「だから、その前にお金を回収しないと」
「ああ。持ち出されたものも回収しなければな」
宝物庫が見えた。そこに、確認のために用意された文官達の姿もあった。彼らの顔色が悪いのは、宝物庫の物が無くなっているということを知ったからだろう。リストを持つ手が震えていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「オリー。こっちから」
「え? 方向が違わないか?」
オリエルが知っている宝物庫への道とは違うため、アルティナに確認する。
しかし、アルティナは当たり前のようにとんでもないことを伝えて来た。
「こっち、警備が手薄なの。というかほぼ居ないの」
「は?」
「言ったでしょ? ガバガバなの」
「……」
行くよと手を引かれて進む通路は、本当に警備が居なかった。
「……いくらなんでも……緩すぎる……っ」
「大丈夫だよ。うちのを何人か裏につけてるから」
「いや……だが……」
警備が手薄というのは問題だ。
アルティナは更に思い出したことを口にする。少し小声ではあるが、緊張感もない。
「王宮の警備なんて、それこそ第一が関わっているもの。都合良く配置も変えられているのは当たり前じゃない」
「っ、それは……」
「予想できたでしょ?」
「……できた……」
オリエルがものすごく嫌そうに顔を顰めたのを見て、アルティナはクスリと笑う。
「ちょっと考えれば分かるよね。自分達の周りは安全確保のために固めて、でも自由に動きたい時は下げる。それで、内緒で行きたい所の警備は薄くする。第一を取り込んだのはそのためでしょ」
「っ……勝手過ぎるっ……第一は仕事をなんだと思っているんだっ」
同じ騎士という立場上、オリエルには許せないのだろう。アルティナは苛立ちで立ち止まりそうになるオリエルの腕を引っ張りながら進む。
「何年か前から、防衛費や軍費がかなり削られたのは知ってる?」
「……やはり、削られていたのか……」
「うん。かなり? 第三なんて半分くらい減ってるとか聞いたよ?」
「え……」
また立ち止まりそうになるオリエル。それでも引っ張って進む。
「なんで……」
「あの王妃……」
「……」
声を更に落とすアルティナ。オリエルは少し身を屈めて耳を寄せる。
「隣国と繋がってるんだよ。王女はその隣国の奴との子ども。侯爵家もいくらかその国と取引してるのは確認したでしょ?」
「ああ……あの密航者な……」
オリエルもアルティナと共に密航者を捕まえている。侯爵家との繋がりもアルセルとの尋問で証言をとれていた。
「そう。お金とか鉱石とか結構やり取りしてるみたい」
「そこに金が……」
自分たちの使うべきものが持っていかれているのかと思えば苛立つのは当たり前だ。
「半分くらい? いや、三分の一くらいかな。あとは王妃が使ってる」
「くっ……やはりあの女っ……」
「王女を飾り立てるのにも使ってるね」
「ちっ」
侯爵がと聞くよりも、あの王女に使われていると聞く方が腹立たしいらしい。王女に今出会ったら、刺しそうな顔をしていた。
しかし、アルティナは更に苛立つだろう事を伝えようとしていた。
「王妃はさあ、さすがに王に見限られたことが王子を産んだ後には分かったらしくてね。それなら自分好みの人を夫に……王にって考えたみたい。そこで目を付けたのが、隣国の……王女の父親」
既に第二王子も王の血を引いてはいない存在なのだ。二度も三度も同じと考えたのだろう。王が第二王子を認めたのもいけなかった。
「は? 女王にでもなったつもりなのか? バカなのか?」
「バカではあるね。あの女、王妃の立場に執着してるんだよ。なんか、令嬢時代の夢? 野望? が、自由にお金を使えて、誰にも文句を言われない人になりたいってやつだったみたいで」
「……やはりバカだ……」
「さっきからそれは否定してない」
「……バカなんだな。間違いようのない」
「そういうこと」
「……」
王妃がそんなもので良いはずがない。そして、バカバカしいほどの思考回路だ。
「多分、騎士とかの力を削って隣国に攻めやすいようにして、王に自分の言うことを聞く第二王子を王位につけるように脅したり、毒の解毒剤で王に取引しようとしたんだろうね。既に破綻したけど」
「攻めやすいって……隣国と取引が出来ると?」
王との取引のためのポーズということなら、王妃は隣国が攻めようとするのを止められるという確信があるはずだ。
「出来るわけないよ。寧ろ、あちらが王妃の動きを利用してる。あんなバカ女、相手にされる訳がない。顔も性格も容姿も平均以下だし。本人はそうは思ってないみたいだけど」
「確かに。顔も性格も容姿も、ティナの方が何百倍も上だ」
「ありがとう?」
「っ、あ、ああ」
素でアルティナを褒め称えたオリエルは、それに気付いて照れる。アルティナは冷静だが、オリエルはついつい溢れてしまう愛情にまだ慣れないようだ。
「えっと。それでね? 王妃は、王女の父親……隣国の王族には愛されていると思ってるみたいだね。それで、自分にお金を使うことも忘れないの」
「相手は……王族なのか……」
それはまた面倒だとオリエルは難しい顔をするが、アルティナは真実をぶっ込んだ。
「王族関係者だってあっちが名乗っただけで、実際は王弟の侍従だけどね」
「………………は?」
「王弟だと思ってるだろうけど、ただの侍従。それも元伯爵家の三男。あ、結婚はしてないみたい。王弟も結婚してないから、そこはなんかあるんだろうね」
「……紛れもなくバカ……いや、マヌケか」
「夢見てるお姫様のままなんだもん。仕方ないよ。大丈夫。真実を知ったら発狂するから」
「だろうな……」
怒りや恥ずかしさなんて通り越して、壊れること間違いなしだ。
「だから、その前にお金を回収しないと」
「ああ。持ち出されたものも回収しなければな」
宝物庫が見えた。そこに、確認のために用意された文官達の姿もあった。彼らの顔色が悪いのは、宝物庫の物が無くなっているということを知ったからだろう。リストを持つ手が震えていた。
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2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。