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本編
035 ウチだけの常識
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この王城で、素のアルティナを知っている者はいない。先導していたアルティナが、オリエルの半歩後ろに下がったことで、オリエルはそれを察する。今はまだアルティナの本性を知られるのは混乱の元だ。無駄な時間はとりたくない。
少し目を伏せて優雅な足取りになったアルティナを見て、オリエルは瞬時に頭を切り替えた。
「待たせたな」
「い、いえ……っ、そ、それで……か、確認した所……っ、明らかに数がおかしいと分かりました……っ」
「ああ。それでだが……っ、ティナ?」
アルティナがオリエルの腕を少し引っ張るので、目を向ける。アイコンタクトで任せろと言われた気がして、瞬時に口を閉じる。
一歩進み出たアルティナはどこからともなく出した紙の束を文官の方へと差し出す。
「こちら、無くなったと思われる品物のリストですわ。その……知り合いの宝石店の方や、美術商の方から、盗品ではないかと相談されまして……お姉様達がお調べに……」
実際はアルティナが調べたことなのだが、ここはそうしたことをする印象のあるビオラを出しておく。文官の彼らも評判は知っていたようだ。
「っ、あ、せ、セイグラルのっ。そうでしたか。は、拝見いたします!」
「はい……」
受け取ったリストと素早く照会していく文官達。彼らが全て目を通し、はあと重く息を吐いた所で、アルティナは更に声をかける。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ。確認いたしました……」
「良かった……その……お姉様達の話だと……王妃様が怪しいとか……そこで、お部屋を確認してはどうでしょう」
「お、王妃様が……いや、しかし……部屋は……」
相手は王妃だ。疑いがあるからと部屋の捜索ができるものではない。
戸惑う文官達。そんな彼らに、アルティナは畳まれた手紙を更に差し出す。
「これ……王妃様の侍女からの告発の手紙です」
「告発……っ、は、拝見いたします!」
少し怖がりながらも、文官達がそれを読んでいく。
その間、オリエルはアルティナに小声で問いかけた。
「アレは?」
「本物。王妃と王女に一人ずつ、うちのを入れてる」
「っ、そんな危険なっ」
つい大きくなった声に、文官達は顔を上げる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ。問題ありません」
「そうですか……」
なんでもないと首を横に振り、真面目な顔を見せて取り繕うと、また文官達は手紙と、更に宝物庫にある品物のリストを確認していく。宝物庫の品物はそれなりの量があるので、大変そうだった。
因みに、手紙の方は最初に渡した書類のようにまとめるはずだったここ二ヶ月ほどの調査結果だ。アルティナがわざわざ確認しなくても任せてしまえと結論を出した。
焦り気味な文官達の様子を確認してから、オリエルは再びアルティナに声を落として話しかける。
「正体がバレたらどうするんだ……っ」
「簡単にやられるようなのがウチに居ると思う?」
「うっ……確かに……」
数日の滞在ではあったが、セイグラルの領兵も、もちろんガディーラ所属の者達も、オリエルでさえ何とか付いていけるくらいの実力者揃いだと知った。領兵には珍しく女性もおり、その女性達にさえ、五分の勝負となったのは驚くべき所だった。
「寧ろ、潜入に特化された奴らは、活気盛んなのが多くて……定期連絡の度に、殺すなよって注意する必要があるくらいなんだよ」
「……それ、暗殺者じゃ……」
「まあ、バレるような手の出し方はしないだろうね」
「……暗殺者だろ……」
「ただの諜報員」
「諜報員に普通、ただのは付かない」
「……ならウチだけの常識」
「ああ、なるほど……」
納得できてしまうのは、セイグラルの異常さを知ったからかもしれない。
今この時も、領主一家が領を出ているため、多くの者達が隣国との国境をガッチリ守っている。それなら安心だと思えるほど、セイグラルの者達は強者の集まりだった。
「か、確認できました……オリエル殿。第三か第二騎士団を動かせますでしょうか」
「任せてくれ。ティナは……」
「一緒に行く」
「だが……」
「ついでに可能な限り第一の奴らを動けなくしたいの。王妃達が頼れるものをなるべく排除しておきたい」
アルティナははっきりと伝える。それにオリエルは真意を問うた。
「本音は?」
「逃げられるなんて思えないように、完全に心を折るには最善。あと、単純に第一の奴らが気に入らない。何度かイヤらしい目で見られたり触られたから」
そう言って寒気を覚えたように腕を擦るアルティナ。これにオリエルは一気に感情を爆発させる。
「ッ!! ど、どこのどいつだ!?」
「顔なんて覚えてないよ。制服で判断してたし」
「……全員ぶちのめせば問題ないな」
「うん」
「ならそうしよう」
第一騎士団が潰されるのは決定した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
少し目を伏せて優雅な足取りになったアルティナを見て、オリエルは瞬時に頭を切り替えた。
「待たせたな」
「い、いえ……っ、そ、それで……か、確認した所……っ、明らかに数がおかしいと分かりました……っ」
「ああ。それでだが……っ、ティナ?」
アルティナがオリエルの腕を少し引っ張るので、目を向ける。アイコンタクトで任せろと言われた気がして、瞬時に口を閉じる。
一歩進み出たアルティナはどこからともなく出した紙の束を文官の方へと差し出す。
「こちら、無くなったと思われる品物のリストですわ。その……知り合いの宝石店の方や、美術商の方から、盗品ではないかと相談されまして……お姉様達がお調べに……」
実際はアルティナが調べたことなのだが、ここはそうしたことをする印象のあるビオラを出しておく。文官の彼らも評判は知っていたようだ。
「っ、あ、せ、セイグラルのっ。そうでしたか。は、拝見いたします!」
「はい……」
受け取ったリストと素早く照会していく文官達。彼らが全て目を通し、はあと重く息を吐いた所で、アルティナは更に声をかける。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ。確認いたしました……」
「良かった……その……お姉様達の話だと……王妃様が怪しいとか……そこで、お部屋を確認してはどうでしょう」
「お、王妃様が……いや、しかし……部屋は……」
相手は王妃だ。疑いがあるからと部屋の捜索ができるものではない。
戸惑う文官達。そんな彼らに、アルティナは畳まれた手紙を更に差し出す。
「これ……王妃様の侍女からの告発の手紙です」
「告発……っ、は、拝見いたします!」
少し怖がりながらも、文官達がそれを読んでいく。
その間、オリエルはアルティナに小声で問いかけた。
「アレは?」
「本物。王妃と王女に一人ずつ、うちのを入れてる」
「っ、そんな危険なっ」
つい大きくなった声に、文官達は顔を上げる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ。問題ありません」
「そうですか……」
なんでもないと首を横に振り、真面目な顔を見せて取り繕うと、また文官達は手紙と、更に宝物庫にある品物のリストを確認していく。宝物庫の品物はそれなりの量があるので、大変そうだった。
因みに、手紙の方は最初に渡した書類のようにまとめるはずだったここ二ヶ月ほどの調査結果だ。アルティナがわざわざ確認しなくても任せてしまえと結論を出した。
焦り気味な文官達の様子を確認してから、オリエルは再びアルティナに声を落として話しかける。
「正体がバレたらどうするんだ……っ」
「簡単にやられるようなのがウチに居ると思う?」
「うっ……確かに……」
数日の滞在ではあったが、セイグラルの領兵も、もちろんガディーラ所属の者達も、オリエルでさえ何とか付いていけるくらいの実力者揃いだと知った。領兵には珍しく女性もおり、その女性達にさえ、五分の勝負となったのは驚くべき所だった。
「寧ろ、潜入に特化された奴らは、活気盛んなのが多くて……定期連絡の度に、殺すなよって注意する必要があるくらいなんだよ」
「……それ、暗殺者じゃ……」
「まあ、バレるような手の出し方はしないだろうね」
「……暗殺者だろ……」
「ただの諜報員」
「諜報員に普通、ただのは付かない」
「……ならウチだけの常識」
「ああ、なるほど……」
納得できてしまうのは、セイグラルの異常さを知ったからかもしれない。
今この時も、領主一家が領を出ているため、多くの者達が隣国との国境をガッチリ守っている。それなら安心だと思えるほど、セイグラルの者達は強者の集まりだった。
「か、確認できました……オリエル殿。第三か第二騎士団を動かせますでしょうか」
「任せてくれ。ティナは……」
「一緒に行く」
「だが……」
「ついでに可能な限り第一の奴らを動けなくしたいの。王妃達が頼れるものをなるべく排除しておきたい」
アルティナははっきりと伝える。それにオリエルは真意を問うた。
「本音は?」
「逃げられるなんて思えないように、完全に心を折るには最善。あと、単純に第一の奴らが気に入らない。何度かイヤらしい目で見られたり触られたから」
そう言って寒気を覚えたように腕を擦るアルティナ。これにオリエルは一気に感情を爆発させる。
「ッ!! ど、どこのどいつだ!?」
「顔なんて覚えてないよ。制服で判断してたし」
「……全員ぶちのめせば問題ないな」
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