40 / 56
本編
033 お、お通りください!
しおりを挟む
王妃が謁見室に呼ばれる前。
その日の朝。王宮に先ず一台の馬車が駆け込んできた。
「なっ! なんだ!?」
「と、止まれ!! 何者っ……っ、は!? う、馬じゃない!?」
馬が居るべき場所に繋がれ、車を引いていたのは、大きな銀狼と一回り小さな二匹の白狼。先頭に銀狼、その後ろに二匹が続く。三頭で車が引かれていた。
「お、狼っ……それも銀と白っ……森のっ、御使様……っ」
銀狼は森の守り神の御使とされている。白狼達は彼女の息子達だ。
「この馬車っ……セイグラル家っ!」
家紋がようやく目に入ったらしい。そして、そこから女性が一人降りて来た。
「なんだい? 門を開けてくれないのかい?」
「「「「「っ!!」」」」」
何事かと集まってくる兵士達。しかし、出て来た女性の圧に全員が駆け寄るのをやめた。寧ろ、二歩ほど下がった。
「はははっ! なんだい? なあレイっ。ここの奴らは、こんな弱々しくて大丈夫かい? 海賊どころか、盗賊にさえ二分ともたなさそうだ」
「「「「「っ……!」」」」」
兵士達は反論をしようと口を開きかけるが、それこそ、海賊の親玉のようなリスティアに完全に怯えて、また半歩下がった。
そこに、馬車の中からビオラが声をかける。
「お母様。怯えていらっしゃるじゃない。お仕事の邪魔は良くありませんわ。内に飼っているものが腐っているだけで、この王都は平和ですもの。彼らはこれくらいで良いのですよ」
「ビオラ……お前は甘いねえ」
「まあっ。はじめて言われましたわ。ねえ、アル。わたくし、甘いのですって」
「母上。先ほどの姉上のは嫌味ですよ」
「そうなのかい?」
リスティアはほぼ領地から出ない。もちろん、領境には出て行くが、王都など来ないため、貴族特有の遠回しの嫌味など全く通じない。
元々、真っ直ぐな気質だ。おかしいと思えばはっきりと言うし、嫌いなら嫌いとはっきり伝える。
こんな母親を持つビオラ達だが、彼女達はしっかりと貴族らしい言動ができる。母であるリスティアが苦手な部分は自分たちがと幼い頃から向かい合ってきた結果だ。
もちろん、アルティナも理解できていた。ただし、少し極端ではある。
「お母様。アレです。意訳すると『所詮、実戦も知らない甘ちゃんね。程度が知れるわ。平和ボケしたここではこの程度でいいんでしょうけどね』だと思います!」
「ティナ……そんなはっきりと訳さなくていいんだよ……」
注意したのは、オリエルだ。
「え? なんで? いいじゃない。だって、王宮の奥とか、警備ガバガバだったよ?」
「ガバガバ……?」
下町言葉についていけないオリエルに、アルティナは楽しそうに説明する。
「緩いってこと。だって、宝物庫も入れたもん」
「ほ、宝物庫……宝物庫!? 城の!?」
「うん。あそこまで緩いから、王妃とかが持ち出せるんだよね~。最近はあの頭の悪い王女も持ち出ししてたよ?」
「は?」
「「え?」」
「ん? あれ? 言ってなかった?」
オリエルだけでなく、これはビオラとアルセルも反応した。そして、静かにレイノートが問いかける。
「ティナ。それは本当か?」
「うん。あ、でも大丈夫。宝物庫のリスト見つけたから、そこからどれがなくなったか、ちゃぁんと全部チェックしてる! ここ二ヶ月くらいはできてないけど。すぐに照会できるよ!」
「そうか……オリエル君」
「は、はい!」
オリエルと聞いて、兵士達がはっとする。知っている人がいる。味方が居るという期待を持って、半歩前に出た。
そんなことは気にせず、レイノートは緊張気味なオリエルに続ける。
「ティナと共に、先に宝物庫の確認を頼めるかな。邪魔する者がいれば、王からの指示だと言っていい」
「わ、わかりました! ティナ」
「うん。あ、でもこの格好……」
「ティナ。そのドレス姿はとても綺麗だから、そのままでいて欲しい。それに、ドレスでも動けるだろう?」
動けるはダンス程度のものではなく、戦闘もということだ。そうオリエルが言えば、動きづらいと不満そうだったアルティナは笑顔を浮かべた。
「動ける! ここの兵士達なんて腕一本で倒せるからね!」
「手は……俺以外の男に触れて欲しくないんだが……」
「っ、なら扇っ! 扇で!」
「それならいい」
「よかった!」
「っ、ああ……っ」
完全にイチャイチャしている。それを仕方なさそうに見るレイノート達。そして、兵士達に声をかける。
「入るがいいか?」
「は、はい!! お、お通りください!」
「おお。では、行くか。女王よ!」
《うむ。門を開けよ》
銀狼が喋ったことで、門番達は更に戸惑うが、馬車の扉を開け、そこに立ったまま、いっそ獰猛な笑みを見せるリスティアにも気圧され、体が勝手に動いて門を開けた。それも全開に。
そして、進み出した所で、思い出したとリスティアが兵士達に告げる。
「ああ、忘れていた。今日はこの後、客が沢山来るぞ。気合いを入れて務めを果たせよ!」
「え、は、はい!!」
「「「「はいぃぃぃぃっ!」」」」
「ではなっ!」
「い、行ってらっしゃいませ!!」
「「「「行ってらっしゃいませ!!」」」」
「はははっ。おう!」
「「「「「っ……かっこいい……」」」」」
男前な態度のリスティアに、兵士達は畏れを抱きながらも呆然と見送った。
こうして、セイグラル家は王宮に入った。
この後、数日前からのセイグラル家からの伝令によって、貴族達が王宮へと集まってくる。反対勢力の者達はしっかり脅して呼び出しており、残らず全ての貴族家の者達が集まるのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
その日の朝。王宮に先ず一台の馬車が駆け込んできた。
「なっ! なんだ!?」
「と、止まれ!! 何者っ……っ、は!? う、馬じゃない!?」
馬が居るべき場所に繋がれ、車を引いていたのは、大きな銀狼と一回り小さな二匹の白狼。先頭に銀狼、その後ろに二匹が続く。三頭で車が引かれていた。
「お、狼っ……それも銀と白っ……森のっ、御使様……っ」
銀狼は森の守り神の御使とされている。白狼達は彼女の息子達だ。
「この馬車っ……セイグラル家っ!」
家紋がようやく目に入ったらしい。そして、そこから女性が一人降りて来た。
「なんだい? 門を開けてくれないのかい?」
「「「「「っ!!」」」」」
何事かと集まってくる兵士達。しかし、出て来た女性の圧に全員が駆け寄るのをやめた。寧ろ、二歩ほど下がった。
「はははっ! なんだい? なあレイっ。ここの奴らは、こんな弱々しくて大丈夫かい? 海賊どころか、盗賊にさえ二分ともたなさそうだ」
「「「「「っ……!」」」」」
兵士達は反論をしようと口を開きかけるが、それこそ、海賊の親玉のようなリスティアに完全に怯えて、また半歩下がった。
そこに、馬車の中からビオラが声をかける。
「お母様。怯えていらっしゃるじゃない。お仕事の邪魔は良くありませんわ。内に飼っているものが腐っているだけで、この王都は平和ですもの。彼らはこれくらいで良いのですよ」
「ビオラ……お前は甘いねえ」
「まあっ。はじめて言われましたわ。ねえ、アル。わたくし、甘いのですって」
「母上。先ほどの姉上のは嫌味ですよ」
「そうなのかい?」
リスティアはほぼ領地から出ない。もちろん、領境には出て行くが、王都など来ないため、貴族特有の遠回しの嫌味など全く通じない。
元々、真っ直ぐな気質だ。おかしいと思えばはっきりと言うし、嫌いなら嫌いとはっきり伝える。
こんな母親を持つビオラ達だが、彼女達はしっかりと貴族らしい言動ができる。母であるリスティアが苦手な部分は自分たちがと幼い頃から向かい合ってきた結果だ。
もちろん、アルティナも理解できていた。ただし、少し極端ではある。
「お母様。アレです。意訳すると『所詮、実戦も知らない甘ちゃんね。程度が知れるわ。平和ボケしたここではこの程度でいいんでしょうけどね』だと思います!」
「ティナ……そんなはっきりと訳さなくていいんだよ……」
注意したのは、オリエルだ。
「え? なんで? いいじゃない。だって、王宮の奥とか、警備ガバガバだったよ?」
「ガバガバ……?」
下町言葉についていけないオリエルに、アルティナは楽しそうに説明する。
「緩いってこと。だって、宝物庫も入れたもん」
「ほ、宝物庫……宝物庫!? 城の!?」
「うん。あそこまで緩いから、王妃とかが持ち出せるんだよね~。最近はあの頭の悪い王女も持ち出ししてたよ?」
「は?」
「「え?」」
「ん? あれ? 言ってなかった?」
オリエルだけでなく、これはビオラとアルセルも反応した。そして、静かにレイノートが問いかける。
「ティナ。それは本当か?」
「うん。あ、でも大丈夫。宝物庫のリスト見つけたから、そこからどれがなくなったか、ちゃぁんと全部チェックしてる! ここ二ヶ月くらいはできてないけど。すぐに照会できるよ!」
「そうか……オリエル君」
「は、はい!」
オリエルと聞いて、兵士達がはっとする。知っている人がいる。味方が居るという期待を持って、半歩前に出た。
そんなことは気にせず、レイノートは緊張気味なオリエルに続ける。
「ティナと共に、先に宝物庫の確認を頼めるかな。邪魔する者がいれば、王からの指示だと言っていい」
「わ、わかりました! ティナ」
「うん。あ、でもこの格好……」
「ティナ。そのドレス姿はとても綺麗だから、そのままでいて欲しい。それに、ドレスでも動けるだろう?」
動けるはダンス程度のものではなく、戦闘もということだ。そうオリエルが言えば、動きづらいと不満そうだったアルティナは笑顔を浮かべた。
「動ける! ここの兵士達なんて腕一本で倒せるからね!」
「手は……俺以外の男に触れて欲しくないんだが……」
「っ、なら扇っ! 扇で!」
「それならいい」
「よかった!」
「っ、ああ……っ」
完全にイチャイチャしている。それを仕方なさそうに見るレイノート達。そして、兵士達に声をかける。
「入るがいいか?」
「は、はい!! お、お通りください!」
「おお。では、行くか。女王よ!」
《うむ。門を開けよ》
銀狼が喋ったことで、門番達は更に戸惑うが、馬車の扉を開け、そこに立ったまま、いっそ獰猛な笑みを見せるリスティアにも気圧され、体が勝手に動いて門を開けた。それも全開に。
そして、進み出した所で、思い出したとリスティアが兵士達に告げる。
「ああ、忘れていた。今日はこの後、客が沢山来るぞ。気合いを入れて務めを果たせよ!」
「え、は、はい!!」
「「「「はいぃぃぃぃっ!」」」」
「ではなっ!」
「い、行ってらっしゃいませ!!」
「「「「行ってらっしゃいませ!!」」」」
「はははっ。おう!」
「「「「「っ……かっこいい……」」」」」
男前な態度のリスティアに、兵士達は畏れを抱きながらも呆然と見送った。
こうして、セイグラル家は王宮に入った。
この後、数日前からのセイグラル家からの伝令によって、貴族達が王宮へと集まってくる。反対勢力の者達はしっかり脅して呼び出しており、残らず全ての貴族家の者達が集まるのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
320
あなたにおすすめの小説
【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
誰でもよいのであれば、私でなくてもよろしいですよね?
miyumeri
恋愛
「まぁ、婚約者なんてそれなりの家格と財産があればだれでもよかったんだよ。」
2か月前に婚約した彼は、そう友人たちと談笑していた。
そうですか、誰でもいいんですね。だったら、私でなくてもよいですよね?
最初、この馬鹿子息を主人公に書いていたのですが
なんだか、先にこのお嬢様のお話を書いたほうが
彼の心象を表現しやすいような気がして、急遽こちらを先に
投稿いたしました。来週お馬鹿君のストーリーを投稿させていただきます。
お読みいただければ幸いです。
愛されヒロインの姉と、眼中外の妹のわたし
香月文香
恋愛
わが国の騎士団の精鋭二人が、治癒士の少女マリアンテを中心とする三角関係を作っているというのは、王宮では当然の常識だった。
治癒士、マリアンテ・リリベルは十八歳。容貌可憐な心優しい少女で、いつもにこやかな笑顔で周囲を癒す人気者。
そんな彼女を巡る男はヨシュア・カレンデュラとハル・シオニア。
二人とも騎士団の「双璧」と呼ばれる優秀な騎士で、ヨシュアは堅物、ハルは軽薄と気質は真逆だったが、女の好みは同じだった。
これは見目麗しい男女の三角関係の物語――ではなく。
そのかたわらで、誰の眼中にも入らない妹のわたしの物語だ。
※他サイトにも投稿しています
父が後妻with義姉を連れてきた
satomi
恋愛
突然に父が後妻を連れてきました。それも義姉付きで。義姉と私は血の繋がりがあるそうです。つまり、父は長年にわたり不貞を…。
最近家を出ていった母の気持がわかります。確かに『気持ち悪い』。
私はトピア=ランスルー子爵家の次女になったようです。
ワガママ放題の義姉、アピアお義姉様を家から出したかったのでしょうか?父は私とお義姉様を王立学園の淑女学科に入学させました。全寮制なので、家からお義姉様はいなくなりました。
ともあれ、家での傍若無人な人間関係とはオサラバ!
私の楽しい学園生活はここからです!
婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?
柚木ゆず
恋愛
婚約者であるアスユト子爵家の嫡男マティウス様が、わたしとの関係を解消して妹のルナと婚約をしたいと言い出しました。
わたしには、妹なんていないのに。
【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!? 今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!
黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。
そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる