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本編
033 お、お通りください!
王妃が謁見室に呼ばれる前。
その日の朝。王宮に先ず一台の馬車が駆け込んできた。
「なっ! なんだ!?」
「と、止まれ!! 何者っ……っ、は!? う、馬じゃない!?」
馬が居るべき場所に繋がれ、車を引いていたのは、大きな銀狼と一回り小さな二匹の白狼。先頭に銀狼、その後ろに二匹が続く。三頭で車が引かれていた。
「お、狼っ……それも銀と白っ……森のっ、御使様……っ」
銀狼は森の守り神の御使とされている。白狼達は彼女の息子達だ。
「この馬車っ……セイグラル家っ!」
家紋がようやく目に入ったらしい。そして、そこから女性が一人降りて来た。
「なんだい? 門を開けてくれないのかい?」
「「「「「っ!!」」」」」
何事かと集まってくる兵士達。しかし、出て来た女性の圧に全員が駆け寄るのをやめた。寧ろ、二歩ほど下がった。
「はははっ! なんだい? なあレイっ。ここの奴らは、こんな弱々しくて大丈夫かい? 海賊どころか、盗賊にさえ二分ともたなさそうだ」
「「「「「っ……!」」」」」
兵士達は反論をしようと口を開きかけるが、それこそ、海賊の親玉のようなリスティアに完全に怯えて、また半歩下がった。
そこに、馬車の中からビオラが声をかける。
「お母様。怯えていらっしゃるじゃない。お仕事の邪魔は良くありませんわ。内に飼っているものが腐っているだけで、この王都は平和ですもの。彼らはこれくらいで良いのですよ」
「ビオラ……お前は甘いねえ」
「まあっ。はじめて言われましたわ。ねえ、アル。わたくし、甘いのですって」
「母上。先ほどの姉上のは嫌味ですよ」
「そうなのかい?」
リスティアはほぼ領地から出ない。もちろん、領境には出て行くが、王都など来ないため、貴族特有の遠回しの嫌味など全く通じない。
元々、真っ直ぐな気質だ。おかしいと思えばはっきりと言うし、嫌いなら嫌いとはっきり伝える。
こんな母親を持つビオラ達だが、彼女達はしっかりと貴族らしい言動ができる。母であるリスティアが苦手な部分は自分たちがと幼い頃から向かい合ってきた結果だ。
もちろん、アルティナも理解できていた。ただし、少し極端ではある。
「お母様。アレです。意訳すると『所詮、実戦も知らない甘ちゃんね。程度が知れるわ。平和ボケしたここではこの程度でいいんでしょうけどね』だと思います!」
「ティナ……そんなはっきりと訳さなくていいんだよ……」
注意したのは、オリエルだ。
「え? なんで? いいじゃない。だって、王宮の奥とか、警備ガバガバだったよ?」
「ガバガバ……?」
下町言葉についていけないオリエルに、アルティナは楽しそうに説明する。
「緩いってこと。だって、宝物庫も入れたもん」
「ほ、宝物庫……宝物庫!? 城の!?」
「うん。あそこまで緩いから、王妃とかが持ち出せるんだよね~。最近はあの頭の悪い王女も持ち出ししてたよ?」
「は?」
「「え?」」
「ん? あれ? 言ってなかった?」
オリエルだけでなく、これはビオラとアルセルも反応した。そして、静かにレイノートが問いかける。
「ティナ。それは本当か?」
「うん。あ、でも大丈夫。宝物庫のリスト見つけたから、そこからどれがなくなったか、ちゃぁんと全部チェックしてる! ここ二ヶ月くらいはできてないけど。すぐに照会できるよ!」
「そうか……オリエル君」
「は、はい!」
オリエルと聞いて、兵士達がはっとする。知っている人がいる。味方が居るという期待を持って、半歩前に出た。
そんなことは気にせず、レイノートは緊張気味なオリエルに続ける。
「ティナと共に、先に宝物庫の確認を頼めるかな。邪魔する者がいれば、王からの指示だと言っていい」
「わ、わかりました! ティナ」
「うん。あ、でもこの格好……」
「ティナ。そのドレス姿はとても綺麗だから、そのままでいて欲しい。それに、ドレスでも動けるだろう?」
動けるはダンス程度のものではなく、戦闘もということだ。そうオリエルが言えば、動きづらいと不満そうだったアルティナは笑顔を浮かべた。
「動ける! ここの兵士達なんて腕一本で倒せるからね!」
「手は……俺以外の男に触れて欲しくないんだが……」
「っ、なら扇っ! 扇で!」
「それならいい」
「よかった!」
「っ、ああ……っ」
完全にイチャイチャしている。それを仕方なさそうに見るレイノート達。そして、兵士達に声をかける。
「入るがいいか?」
「は、はい!! お、お通りください!」
「おお。では、行くか。女王よ!」
《うむ。門を開けよ》
銀狼が喋ったことで、門番達は更に戸惑うが、馬車の扉を開け、そこに立ったまま、いっそ獰猛な笑みを見せるリスティアにも気圧され、体が勝手に動いて門を開けた。それも全開に。
そして、進み出した所で、思い出したとリスティアが兵士達に告げる。
「ああ、忘れていた。今日はこの後、客が沢山来るぞ。気合いを入れて務めを果たせよ!」
「え、は、はい!!」
「「「「はいぃぃぃぃっ!」」」」
「ではなっ!」
「い、行ってらっしゃいませ!!」
「「「「行ってらっしゃいませ!!」」」」
「はははっ。おう!」
「「「「「っ……かっこいい……」」」」」
男前な態度のリスティアに、兵士達は畏れを抱きながらも呆然と見送った。
こうして、セイグラル家は王宮に入った。
この後、数日前からのセイグラル家からの伝令によって、貴族達が王宮へと集まってくる。反対勢力の者達はしっかり脅して呼び出しており、残らず全ての貴族家の者達が集まるのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
その日の朝。王宮に先ず一台の馬車が駆け込んできた。
「なっ! なんだ!?」
「と、止まれ!! 何者っ……っ、は!? う、馬じゃない!?」
馬が居るべき場所に繋がれ、車を引いていたのは、大きな銀狼と一回り小さな二匹の白狼。先頭に銀狼、その後ろに二匹が続く。三頭で車が引かれていた。
「お、狼っ……それも銀と白っ……森のっ、御使様……っ」
銀狼は森の守り神の御使とされている。白狼達は彼女の息子達だ。
「この馬車っ……セイグラル家っ!」
家紋がようやく目に入ったらしい。そして、そこから女性が一人降りて来た。
「なんだい? 門を開けてくれないのかい?」
「「「「「っ!!」」」」」
何事かと集まってくる兵士達。しかし、出て来た女性の圧に全員が駆け寄るのをやめた。寧ろ、二歩ほど下がった。
「はははっ! なんだい? なあレイっ。ここの奴らは、こんな弱々しくて大丈夫かい? 海賊どころか、盗賊にさえ二分ともたなさそうだ」
「「「「「っ……!」」」」」
兵士達は反論をしようと口を開きかけるが、それこそ、海賊の親玉のようなリスティアに完全に怯えて、また半歩下がった。
そこに、馬車の中からビオラが声をかける。
「お母様。怯えていらっしゃるじゃない。お仕事の邪魔は良くありませんわ。内に飼っているものが腐っているだけで、この王都は平和ですもの。彼らはこれくらいで良いのですよ」
「ビオラ……お前は甘いねえ」
「まあっ。はじめて言われましたわ。ねえ、アル。わたくし、甘いのですって」
「母上。先ほどの姉上のは嫌味ですよ」
「そうなのかい?」
リスティアはほぼ領地から出ない。もちろん、領境には出て行くが、王都など来ないため、貴族特有の遠回しの嫌味など全く通じない。
元々、真っ直ぐな気質だ。おかしいと思えばはっきりと言うし、嫌いなら嫌いとはっきり伝える。
こんな母親を持つビオラ達だが、彼女達はしっかりと貴族らしい言動ができる。母であるリスティアが苦手な部分は自分たちがと幼い頃から向かい合ってきた結果だ。
もちろん、アルティナも理解できていた。ただし、少し極端ではある。
「お母様。アレです。意訳すると『所詮、実戦も知らない甘ちゃんね。程度が知れるわ。平和ボケしたここではこの程度でいいんでしょうけどね』だと思います!」
「ティナ……そんなはっきりと訳さなくていいんだよ……」
注意したのは、オリエルだ。
「え? なんで? いいじゃない。だって、王宮の奥とか、警備ガバガバだったよ?」
「ガバガバ……?」
下町言葉についていけないオリエルに、アルティナは楽しそうに説明する。
「緩いってこと。だって、宝物庫も入れたもん」
「ほ、宝物庫……宝物庫!? 城の!?」
「うん。あそこまで緩いから、王妃とかが持ち出せるんだよね~。最近はあの頭の悪い王女も持ち出ししてたよ?」
「は?」
「「え?」」
「ん? あれ? 言ってなかった?」
オリエルだけでなく、これはビオラとアルセルも反応した。そして、静かにレイノートが問いかける。
「ティナ。それは本当か?」
「うん。あ、でも大丈夫。宝物庫のリスト見つけたから、そこからどれがなくなったか、ちゃぁんと全部チェックしてる! ここ二ヶ月くらいはできてないけど。すぐに照会できるよ!」
「そうか……オリエル君」
「は、はい!」
オリエルと聞いて、兵士達がはっとする。知っている人がいる。味方が居るという期待を持って、半歩前に出た。
そんなことは気にせず、レイノートは緊張気味なオリエルに続ける。
「ティナと共に、先に宝物庫の確認を頼めるかな。邪魔する者がいれば、王からの指示だと言っていい」
「わ、わかりました! ティナ」
「うん。あ、でもこの格好……」
「ティナ。そのドレス姿はとても綺麗だから、そのままでいて欲しい。それに、ドレスでも動けるだろう?」
動けるはダンス程度のものではなく、戦闘もということだ。そうオリエルが言えば、動きづらいと不満そうだったアルティナは笑顔を浮かべた。
「動ける! ここの兵士達なんて腕一本で倒せるからね!」
「手は……俺以外の男に触れて欲しくないんだが……」
「っ、なら扇っ! 扇で!」
「それならいい」
「よかった!」
「っ、ああ……っ」
完全にイチャイチャしている。それを仕方なさそうに見るレイノート達。そして、兵士達に声をかける。
「入るがいいか?」
「は、はい!! お、お通りください!」
「おお。では、行くか。女王よ!」
《うむ。門を開けよ》
銀狼が喋ったことで、門番達は更に戸惑うが、馬車の扉を開け、そこに立ったまま、いっそ獰猛な笑みを見せるリスティアにも気圧され、体が勝手に動いて門を開けた。それも全開に。
そして、進み出した所で、思い出したとリスティアが兵士達に告げる。
「ああ、忘れていた。今日はこの後、客が沢山来るぞ。気合いを入れて務めを果たせよ!」
「え、は、はい!!」
「「「「はいぃぃぃぃっ!」」」」
「ではなっ!」
「い、行ってらっしゃいませ!!」
「「「「行ってらっしゃいませ!!」」」」
「はははっ。おう!」
「「「「「っ……かっこいい……」」」」」
男前な態度のリスティアに、兵士達は畏れを抱きながらも呆然と見送った。
こうして、セイグラル家は王宮に入った。
この後、数日前からのセイグラル家からの伝令によって、貴族達が王宮へと集まってくる。反対勢力の者達はしっかり脅して呼び出しており、残らず全ての貴族家の者達が集まるのだ。
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※小説家になろう様にも投稿しています※