秘伝賜ります

紫南

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第三章 秘伝の弟子

098 きっと後ろ暗いところがあるんですね

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源龍の叔父だという男は、背を向けて歩き出した高耶達へ制止の声をかける。

「待て! 榊家の当主である源龍を騙すなど、許されることではないぞ!」

やっぱりこうなるのかと高耶はため息をつく。

「だいたい、何にをしに来たのだっ」

源龍はどうやら、この場所へなぜ来たのかという目的は教えていないようだ。こんな叔父には、あの鬼渡の源龍に瓜二つの薫のことも話してはいないのだろうと予想できる。

身内であるとはいえ、どう考えても関わり合いになりたくない人種だ。彼に聞くのは最終手段ということにしているのだろう。

「目的はなんだっ。我が家の資料かっ。お前のようなガキが扱えるようなものなどないわ!」

一人でどんどん盛り上がっていく。暑苦しいので近付いて来ないでほしい。

今にも掴みかかろうとしてくる男と高耶の間に源龍が入り込む。振り向けば、高耶より頭半分ほど背の高いスラリとした背中が一歩半離れた所にあった。

「これ以上、彼への暴言は止めていただきたい。紛れもなく彼は秘伝家の現当主であり、首領の一人でもあるのです」
「なっ、お、お前は騙されているのだっ。現に、私が会った秘伝家の当主は私とそう変わらない年齢の者だったぞっ」

それはきっと本家の秀一だ。高耶が前面に出てこないことをいいことに、自信満々に当主と名乗っていたのだろう。

呆れて空を思わず仰いでしまう。

「そいつを見ろっ。嘘がバレたという顔をしているぞっ」

勘違いされてしまった。

チラリと振り返った源龍が苦笑を見せた。

「これはあなたに呆れているのです。あなたが会ったという方は、秘伝家の直系でしょう」
「そうだろうっ。ならばそいつは偽物だっ」
「いいえ……秘伝家は素質と神となられたご先祖が選定するそうです。ですから、血の濃さは関係ないのですよ」

別にこれは秘匿ひとくされたことではない。だが、知っている者は少ないだろう。特に言いふらすことでもない。だいたい、直系以外が継いだことは秘伝の中でもまれなのだから。

「っ……そんなことは聞いたことがないっ」
「普通、吹聴ふいちょうするようなことではありませんからね。何より、直系筋は話さないでしょう。矜持があるでしょうから」
「っ……」

直系の者がわざわざ『いやあ、今回は分家に持っていかれたのですよ』なんて呑気に言ったりしないだろう。

否、実は昔のまだちょっと脳筋気味の武術バカでしかなかった頃は普通に直系もそう話していたらしい。首領達が秘伝の当主について知っていたのは、その頃の話を伝え聞いていたからだ。

「今回は、私が生まれた日にあった光景を見てもらうために来てもらったのです。これは、首領会で決められたことなので、あなたには止める権利もない。むしろ、妨害ぼうがいされるのならば捕縛ほばくすることも許されます」
「なっ、そ、そんなことがっ……」

なんとか黙らせることに成功したらしい。

そのまま源龍は振り返り、高耶を奥へ促す。

「行きましょう」
「はい」

そうして、少しばかり奥へと歩くこと数分。小さな離れのお屋敷の前にやってきた。

「ここだよ。場所は少しズレているはずだけど」
「わかりました。では……っ」

高耶が術に集中しようとしたその時だった。何かを感じて反射的に式を呼んだ。

「【常盤】!」
「なっ!?」

高耶の背後に顕現した常盤が一つ手を横薙ぎにして、飛んできた炎を払い落とす。

「っ、高耶君っ」

何が起きたのか分からなかった源龍は、混乱しながらも、炎が向かってきたらしい方へ目を向ける。

「叔父上っ……」

そこでは、肩を怒らせて札を手に持つ男がいた。手を払うだけで炎を消した常盤に驚いたのは一瞬。その目は狂気きょうきはらんでいるように見えた。

「ならんぞっ、この家をっ、他家の者が踏み荒すなど許せるものかっ!」

その鬼気迫ききせまる様子に、周りの者達も驚いているようだ。誰もが咄嗟とっさに動けずに周りを囲んでいる。男は更に術を発動させようとしていたのだ。

一方、高耶は常盤に全幅の信頼を置いており、三流以下でしかない男のことなど眼中にない。何があっても常盤がなんとかする。

それよりもと過去をかさのぼっていた。そして、くだんの情景を見て、なるほどと思った。

「そういうことか……」

小さな呟きは、ようやく動き出した周りの者達が男を取り押さえようとする雑音で誰にも聴こえていなかった。

源龍もいつの間にかその中に混じっている。

なので、高耶は振り向いて声を大きくして伝えた。

「源龍さん。一緒に見てください。その人が抵抗する理由がわかりました」
「え?」

そうして、源龍の返事も聞かずに高耶は改めて周りの者たちにも見えるように術を展開する。範囲が広いが、なんとかなるだろう。

常盤が直接男を拘束しているので安心して任せておく。

見えた情景の中には、今よりも少し若い拘束されている男がなにやら儀式をしようとしていた。

「っ、やめろっ! わ、私はしらないっ。私ではないっ!! それはまやかしだっ!!」

誰も聞いていなかった。

皆、音声のないその映像を食い入るように見つめている。

布に包まれた生まれた二人の子を乱暴に取り上げるのが、今常盤達が降り抑えている男だろう。その男とよく似た男性が取り返そうと揉めている。彼が源龍の父かもしれない。隣の部屋では寝かされている女性。おそらく、彼女は源龍の母なのだろう。出産後の疲れでぐったりとしていた。

その女性の指示により、隣の部屋で争う二人の男の元から、世話役の女が何とか二人のうち一人の赤子を奪い取り、抱えて廊下へ飛び出していく。

しばらくして父親の方は蹴り倒され、ふすまを倒して寝込んでいる女性の方へ転がった。そして、男は小さな生まれたばかりの残されていた子どもを儀式場の中心に置いた。

次の瞬間、怪しげな術が発動したのが分かった。そこから黒い炎が上がる。しかし、数秒後、天井から金白色の炎が落ちてきて屋敷を覆った。慌てて部屋から飛び出す男。

しかし、動けないらしい源龍の母と子を助けようと手を伸ばす父はそのまま黒と金白色の炎に巻かれていく。そこで映像を消した。

「……捕縛し、連盟へ連れていけ」

その静かで冷たい声に、我に返ったらしい周りの者たちが常盤から男を引き取っていく。

「……源龍さん……」
「……」

見せるべきではなかったのだろうか。当然だ。両親が死ぬところなど、見るものではない。

映像が消えた後もその場所を見つめ続ける源龍。どう声をかけるべきか迷っていると、幾分か落ち着いた声が届いた。

「……高耶君、見せてくれてありがとう……」
「……」

ゆっくりとこちらを見た源龍の目は少しだけ赤くなっていた。口元は普段と同じように優しい笑みが浮かんでいる。

困惑する高耶に、申し訳なさそうな表情を浮かべて、改めて源龍が口を開く。

「ありがとう。知れて良かったよ。ずっと……両親のこと……知りたいと思っていたんだ……」

目を伏せる源龍。なんと言えばいいのだろう。

その時、常盤が静かに屋敷のあった場所へ歩み寄り告げた。

《この場で消滅した魂はありません》
「っ、そう……良かった……っ」

魂が地に囚われているかどうかは、高耶や源龍にもわかる。あとは、消滅したかどうか。だが、それもないということは、二人の魂はちゃんとあの世へ行けたということだ。

源龍はそれを聞いて、静かに一筋の涙を流したのだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
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