秘伝賜ります

紫南

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第五章 秘伝と天使と悪魔

217 思わぬ提案

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勇一は、ここで罪の告白をと懺悔するように続けた。会場は賑やかで、このテーブル付近に居る者たちにしか聞こえてはいないだろう。

「先代……祖父や父達がやったことだと知っていながら、お、私も含めた本家の者は口を閉ざした……本家としての誇りを守るためだと、信じて疑わなかった……」
「……」

まさか、その話をされるとは思わなかった高耶は目を丸くして、俯く勇一を見る。その後ろに控えていた統二も、信じられない様子で勇一の背中を見つめていた。

統二はその頃はまだ幼かった。当然、知らなかったのだろう。そこまでするとも思っていなかったのかもしれない。徐々に青くなり、次いで怒りに赤く染まっていった。

驚きに言葉を失くしていた高耶と統二とは別に、これに声を挟んだのは蓮次郎だった。統二の様子も気になったのだろう。勇一が折角、告白してくれるのだ。話が出来なくなっては困ると思ってのことだと察せられる。

「確か、高耶君の実の父親は、仕事中の事故と処理されていたはずだけど? 違うのかな」
「っ……はい……蔦枝将也まさやが陰陽術がほとんど使えないことは、一族でも有名で……ですが、武術においては一族の者も認めていました……」

高耶の父、将也まさやは、武術の才能だけならば歴代当主に迫るほどの実力を持っていた。体は小柄で、見た目もどこかおっとりとしていたため、武術が出来るとは思われ難かったが、結果として多くの実績は持っていたのだ。

少し付き合えば分かるほど、体を動かすのが好きで、修行が好きな人だった。それは、本家に生まれて、霊力を持っていたならば、間違いなく当主になっただろうと噂されるほどで、だから本家から目を付けられていた。

そこに高耶が当主に指名されたのもいけなかった。能力的に足りないと分かっていながら、高耶と将也に妖退治に向かわせたのだ。当主ならば出来るだろうと。

なんとか充雪の助けで退けはしたが、高耶は大怪我を負い、将也は命を落とすことになった。

「秘伝の当主は、血で決まらない……それを、何より本家の者は怖がっていたのだと思います……」

それが他の家とは違うのだと誇りに思うと同時に、本家以外にそれが出たらと怖くなるのだ。それは、本家の血筋と能力を否定されるようなものなのだから。

「セッちゃんが決めるんだもんねえ。神になったとはいえ、こちら側の都合に関係なく指名するんだから、不満も持つかな」

個人の評価によって決められることに、反発するのは人ならばよくあること。多数決で決めても納得しないのだから仕方がない。不満があるということは、ある意味公平な証だろうか。

「っ、いえ……そ、そんなこと……っ」
「だって、散々君たち、直系じゃないからって高耶くんに文句言ってたでしょ? それって、セッちゃんにも失礼だよね?」
「っ……」

勇一は弾かれたように顔を上げる。その顔が白くなっていくのがわかった。元々血色の良い人が真っ青になると大変分かりやすい。そんなどうでも良いことを高耶は考えていた。

今この場は、蓮次郎の独断場だった。充雪をセッちゃん呼びということも気になるが気にしない。

「だって、そうでしょう? 唯一トップに立つセッちゃんの選んだ高耶くんに文句付けてたんだから。ご先祖を敬ってる? 敬ってないでしょ。視えないことを理由にしてたのは君たちだよね?」
「っ、っ……っ」

充雪が視えることが当主の前提条件。なのに、それを高耶には嘘だと決めつけ、否定しようとしていた。

「嫉妬するのは仕方ないだろうね。でも、その時点でもう、才能があることを認めてるんだよ? 見苦しいよね。見えてるものを見えてないだろうって疑う……それ、僕らの業界じゃ蔑視されることだけど。理解できてる?」
「っ、それはっ……っ」

視えることを否定すれば、仕事は出来ない。本来見えない者たちの存在を認められることは、人側にとっても妖や怨霊側にとっても必要なこと。それを認めなくては、この業界の存在意義もない。

そして、視える者が視えないと偽ることは、自分を偽ること。言霊の力も強い影響を受けるため、本当に必要な時に視えなくなる場合もあり、冗談ではなく病んでいく可能性があるので、やってはならないと言われていた。

一方、勇一たちがやったのは『視えると嘘を吐いているだろう』と疑うこと。それは、この業界では禁句だ。誰だって、仕事で一度や二度、依頼人から『嘘だ』という言葉を投げつけられ、トラブルになったことがある。だから、お互いにはやらないのだ。

信じてもらえない辛さを分かっているから。

蓮次郎は頬杖を突いて、面白くなさそうに続ける。

「前から思ってたんだよね~。秘伝の本家の子達って、術以外の手を持っているって驕り? っていうの? あと、瑶姫の血が入ってることとか、ちょっと鼻に掛けてる所があるよね~。実際に実力があるなら、それも良いんだけど、最近は本家筋の人でも、仕事を任せられないのがあるんだけど?」
「……それは、すみません」

これは高耶が謝る。

「ああ、高耶くんは悪くないよ。誰よりも仕事してるしね。実力も確か。神ともなんの用意もなく、普通に語り合える能力者なんだから」

隣で蒼翔が苦笑しながら頷いていた。

「君たちが高耶くんに教えを乞うならば良かったんだけどねえ……当主以外を連盟から外す考えもあるんだよ」
「っ、え……」

勇一が絶句する。高耶は知っていた。とはいえ、そんなはっきりとしたものではなく『高耶くんの邪魔になるなら、外してもいいよね』という軽い感じだった。

「な~んか、他の子達が当主への態度がどうのって指摘もしてたみたいだけど、僕から言わせてもそうだね。若いとはいえ、当主は当主だよ。家の顔だ。その当主に尻拭いをさせたり、任せっぱなしにしたりとか、あり得ないよ」
「っ、はい……っ」

大分凹んでいるなと勇一を見る。

「ってことでさあ、高耶くん。秘伝の子達を奉公に出さない?」
「奉公……ですか?」

突然の提案だった。

「うん。まあ、奉公って言い方はアレだけど、それがしっかりくるっていうか、当主や実力者に対しての態度とか教え込みながら、仕事を手伝ってもらおうかなって。ほら、言ってたでしょ? 時代も変わったし、閉鎖的にしてて良いことなんてないよ。だからね? 交換留学みたいな? 派遣? とか、どうかな。その初めの一歩を秘伝の子達に担ってもらうの」
「……悪くはないと思います……血による特別な能力や術はどのみち真似なんて出来ません。なら、ある程度の知識の共有は構わないのではないかと。他の家の知識が加われば、新しい発見もあるかもしれませんし……」

能力自体も、弱くなっている家もある。だが、もしかしたら、他の家で行っていることで、それを補えるかもしれない。必要としている知識が別の家にあるかもしれない。囲い込むことが、必ずしも良いことだとは言えないはずだ。

「でしょ! うんうん。さすが高耶くん。で、どう? 秘伝の子達、使っていい?」

そういえば、焔泉が本家の者を何人か捕まえて調べていると言っていたなと、ここで思い出す。清掃部隊に清掃許可を出していたのは知っている。捕縛部隊の手伝いもする清掃部隊だ。きちんとやっただろう。

今どこに、どれだけの人間が捕まっているか知らない。高耶も、当主としてこれはダメだなと反省する。本家は今どうなっているのかなと思いながら了承していた。

「……どうぞ……」
「ありがとう! 任せて。今、秘伝の……多分彼の父親とか、その辺の子は連盟で躾けてる最中なんだ。そのまま使うね♪」

やはり連盟に居た。

「……お手数お掛けします……」
「構わないよ! あ、今回の話も白状させるね。ウチで人殺しは罪が重いよ」
「はい……」

どこか楽しそうな蓮次郎を止められる者などいなかった。そして、蓮次郎は勇一言い渡した。

「君、しばらく高耶くんに指導してもらいな。さすがに本家嫡男がコレでは困るからね」
「っ、え、え?」
「……」
「え~………」

これまでで一番の動揺を示す勇一と、そうなるかと肩を落とす高耶。そして統二は、心底迷惑だ嫌だと目を細めるのだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
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