秘伝賜ります

紫南

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第五章 秘伝と天使と悪魔

230 指差さない

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レスターはさすがというか、少し距離を取ってはいたが、顔を青ざめさせるくらいで済んでいた。統二が勇一と共に下がるように動いたようだ。レスターの背に手を添えているのが確認できる。

橘の者たちは、目を合わせないようになのか、膝を突いて神へと頭を下げていた。彼らの近くに居た連盟の者たちも倒れる前にと膝を突き、同じように首を垂れているようだ。ただ、数人は微動だにしないので、そのまま気を失っているのかもしれない。

はっきりと被害が出たのが分かるのは、祓魔師エクソシスト達だ。こちらも立っている者は居らず、年配の者以外は泡を吹いてひっくり返っていた。

なんとか気絶せずにいる年配の者達もかなり動転しているらしい。それでも、足をこちら側に向けるのは失礼だと、倒れた者を、いっそ乱暴に引っ張って体の向きを変えているようだった。中には、起きろと殴る勢いで叩き起こそうとしている者もいた。

「これぞカオスってやつだね」
「……」

蓮次郎は、それを口にせずにはいられなかったようだ。

《あははっ。なにこれ。なにあの子たち。散々、君に突っかかってたのにねえ》
「……見ておられたのですか……」
《うん。どこで出て行こうかなって、見てたんだ》
「そうでしたか……」

一番被害が出るこの時を狙ったとしか思えなかった。

《まあ、これで顔見せは出来たし、お願いも聞いてもらえたからね。ここのが終わったら、また会ってくれる?》
「もちろんです」
「その時には私もご一緒してもよろしいでしょうか」

蓮次郎がそう尋ねれば、神はほんの一瞬置いて、頷いた。

《いいよ。君のことも、結構気に入ってるから》
「っ、ありがとうございます」
《うん。じゃあね》

ふっとその姿が消える。本来の御神体のある場所に戻ったのだろう。

「っ、はあっ……本当に、よく高耶くんは平然としていられるよね……」

先程の様子とは打って変わって、蓮次郎は疲れたと息を吐く。

統二と勇一、レスターも肩で息をしていた。汗を拭っているのは、冷や汗だろうか。

「これは、すぐには動けないね」

蓮次郎は、改めて周りを見回す。

満足に動ける者はいなさそうだ。

「……それだと困りますから、許可もいただきましたし【瑠璃】」
《はい。高耶さん。精神安定をかければよろしい?》
「ああ、頼む」
《お任せください》

瑠璃が彼らの上に光の雨を降らせる。細かく優しい雨だ。それが、濡れることなく彼らの体に染み込んでいく。

すると、数秒としない内に徐々に全員が目を覚ます。空から降り注ぐ光の雨に呆然としながら、上体を起こした。

焦っていた年長者達も、ほっと息を吐いていた。

その光がゆっくりと消えた時。蓮次郎が手を叩いて意識を集中させる。

誰もが自然に、呆然としたまま顔をこちらに向けたのだが、高耶の後ろに、目を伏せて佇む天使の瑠璃を見て、突如覚醒する。かなり驚いたらしく、目を丸くして、パクパクと口を無意味に開閉していた。

それが蓮次郎は面白いのだろう。

「ふははっ。見て高耶くん! すごい阿保面っ」
「指差してダメですよ。落ち着いてください」
「だって、君をあんなにバカにした目で見てたのにっ。これだよっ? これっ!」

祓魔師エクソシスト達を指を差しながら爆笑する蓮次郎。日本語が分からなくても、バカにされたことは分かっているだろう。だが、誰一人として、口答えする者はいなかった。

まだ状況を正しく理解していないのは、見れば分かる。仕方ないとため息をついて、高耶は蓮次郎へ告げた。

「早く始めましょう。お待たせすることになりますから」

誰をというのは、蓮次郎もすぐに察したらしい。表情を改め、手を叩いた。

「確かに。じゃあ、始めるよー。はい。高耶くん訳して」
「『……すぐに始めてください』」
「「「っ、はい……」」」

怯える者、動揺を隠せない者が半数だが、なんとか動き出したのだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
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